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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その24・そんなこんなでバスカービル

──ガラガラガラガラ

 馬車がのんびりと山道を走る。

 その後ろを、ロープによって繋がれたリジンら三人の盗賊が必死に歩いている。

 最初のうちは文句たらたらであったが、やがて疲れてきたのか今は一言もしゃべる事なく黙々と歩き続けている。


「‥‥この度は、盗賊から助けていただいて誠にありがとうございました。このお礼は後日、王都にて改めて行いますゆえ、今はこのとおり‥‥」

「マチュアさま達には何度も助けていただいて。もう感謝の念が尽きませんわ」


 馬車の中で丁寧に頭を下げるマカフィとフローラ。 その前では何故かアメショーとテルメアが照れている。

 マチュアは御者台でゴーレムホースの制御ををしているので、今は二人に任せていた。

 緊張がほぐれるようにケーキセットと紅茶のポットなどは預けてあったのですぐに馬車の中ではティータイムが始まっていた。


「それにしても、ロシアンさまのあのスキルは何なのでしょうか。大樹の加護と言われていましたけれど、それが何であるのか、私達には全く見当も付きません」

「フローラさまの意見で全てです。あのスキルについてはマチュアさんしか真実を知っている方はいませんわ」

「私達も、マチュアさんに習っていにしえのスキルを数々習得させていただきましたので、ロシアンのもその一端であると告げる事しか出来ません」


 淡々と告げるテルメアとアメショーだが、マカフィはずっと腕を組んで考えていた。


「しかし、それほどの上級スキル所持者となると、是非とも我が国に仕えていただきたい。いや、あのスキルの秘密が他国に行かれると非常に困ってしまいますなぁ。どうですか、みなさん纏めて王城に仕えてみませんか?」

「そうですよ。そうすれば毎日、あの美味しいケーキが食べられます。マチュア姉さまにはきっちりと断られてしまいましたけれど、皆さんでマチュアさんを説得していただければ」

「フローラ、それ以上言うとあなたのケーキは没収するわよ?」


 外からマチュアが笑いつつ告げるので、フローラは慌てて自分の前にあったケーキ皿をしっかりと抱えててしまった。


「ま、マチュア姉さま、多分空耳ですわ、ね、爺や」

「ほっほっほっ。そうですな。皆さんに王城勤務していただくと助かるのは事実ですが、マチュア様には先日しっかりと断られてしまったので、マチュア様については諦めていますが‥‥」

「私達については諦めていないという事ですね?」

「是非お願いします。ま、最悪は裏技もありますが」

「マカフィさん、いきなりフローラ王女の病を癒した事と盗賊から救出した勲功で叙爵とかいったら私はすぐに隣の大陸に行くからね」


 とどめの一撃に、マカフィはビクッと体を震わせていた。

 そしてフローラもそーっとそっぽを向いてしまう所を見ると、やはりその辺りで妥協点を探していたのだろう。

 

「「そ、そんな事はありませんよ」」

「どうだかねぇ。ま、王都に着いても私は王城には行かないので。代わりにロシアン達に登城してもらうから」

「俺かよ‥‥ま、判った。代理で行ってくるが、マチュアの貰える報奨は全て拒否して来るんだな」

「そういう事。みんなは貰ってきてもいいし。私の分をみんなで分けてくれてもいいし‥‥」


 そんな話をしつつも、どんどん山道を登って行く。

 やがて峠を越えた辺りで風景は大きく変化し、眼下には山の麓に広がる都市がいくつも見え始めていた。


「この尾根が領境になる。ようこそバスカービル領へ‥‥って、まあ、俺の領地ではないがな」

「いやいや、しばらくはお世話になりますよ」

「え? マチュアさん達は真っすぐ王都に来るのではないのですか?」


 まさかのバスカービル領滞在の話を聞いて、フローラは大慌て状態だが。

 マカフィとジャネット、はウンウンと頷くだけである。


「ね、ねぇじいや、私たちも暫くはここに滞在して」

「それはなりませんな‥‥バスカービル領に到着次第、早馬で王都まで護衛の追加を頼まなくてはなりません。それが到着次第、すぐに王都に戻りますが、大体7日程は滞在するでしょうなぁ」


 その説明を受けてフローラはアメショーたちを見るが、テルメアが頭をひねりつつ一言。


「恐らくですが、マチュアさんの用事が終わるまでは私たちはここを動きませんわ。私とライナスはカナン商会の職員扱いですし、ロシアンさんたちも一度冒険者ギルドに依頼完了報告書を提出しなくてはなりませんから」


 その説明にがっくりと肩を落とすフローラ。

 頑張れフローラ、負けるなフローラ。

 そのうちいい事あるでしょう。



 〇 〇 〇 〇 〇



 そんなこんなで山道も下って整備された街道に到着、その後も何もなくバスカービル領領都のアルバータに到着する。

 正門での身分チェックも終わり入領税も支払うと、やって来ました三つ目の都市、アルバータ。


「はっはっは。ここの大樹も今までと同じでかなり干からびていますなぁ」

「うるせぇ。ここの聖大樹教会は、リンシャン市の教会よりはましだが‥‥うちの腐れ親父が大司教を務めているからなぁ‥‥」


 面倒くさそうに告げるロシアンに、アメショーもマンチカーンもウンウンと頷いている。

 そこまで面倒な司教かよと心の中で突っ込みつつ、三人とは冒険者ギルドの前で一度別れる。

 そしてフローラ達も一旦騎士団詰め所で降りてもらい、マチュアたちはのんびりと宿を探す。幸いな事に主街道沿いには彼方此方あちこちに宿があるので、マチュアは一番美味しそうな匂いのする宿に向かって行き、馬車を止めた。


「鉄の歯車亭‥‥ん?」


 看板を見て首を捻るのは何でだろう。


「いらっしゃいま‥‥え?」

「三人だけど全て個室で部屋あるかい? 朝晩食事付きで大体10日泊まりたいんだけれど」

「は、はいっ。ございます。今手続きをしますのでちょっとお待ちください」


 店員の子が大慌てで奥に走っていく。そして少しして、クマのような大柄な男がやってきて。


「お、おう。一人食事二食付きで一泊銀貨6枚だが」

「んじゃ三人10日で銀貨180枚ね。大金貨二枚でおつりで夜に酒をつけてくれればいいや」

「かしこまりましたが‥‥あの、その耳は本物ですか?」


 そう問われてピクピクと耳を動しながら支払いを終える。

 すると店長も大喜びで、マチュアたちに鍵を手渡してくれた。


「二階の3、4、5号室をお使いください。食事は朝晩でしたらいつでも声を掛けてくれればいいので。後、馬はお持ちですか? あれば飼葉代が掛かりますが」

「あ、うちの馬は飼葉いらないわ。馬車に繋いでいるのと、連れの馬が一頭だけなので、馬車と一緒に置いておきたいんだけれど‥‥まあ、詳しくは見てくれると助かるわ」


 マチュアの説明に要領を得ないので、店主は外に出てマチュアの馬車を見て‥‥そのまま無言で戻って来た。


「あ、あれは暴れませんよね?」

「鳴きもしないし、私達が乗らない限りは動かないよ」

「それではあの場所で構いませんので‥‥」


 これで話はクリア。

 マチュアたちは一度荷物を置きに戻って行くと、ライナスとテルメアは冒険者ギルドへ、マチュアはのんびりと大樹の元に向かって行った。


‥‥‥

‥‥


 魔法の箒に乗って堂々と移動する。

 時折マチュアを見て驚いている人々もいるが、それ以外は努めて騒がずに見ている。好奇心の目に晒されつつ大樹に到着する。

 そして箒片手に大樹に近寄りそっと振れる。

 流れるマナが今までのものよりも大きく歪み、彼方此方あちこちが欠けているかのようにも感じ取れる。


「おっやぁ? こりゃまたとんでもなく弱っているねぇ‥‥」


 そう笑いつつ告げると、ゆっくりと神威を注いでいく。

 今までだとこの一回だけではシャダイのじっちゃんは反応を示さず、ここから三日かけて大樹が活性化する筈なのだが、どうも欠けている場所から神威が外に漏れているように感じられる。


「‥‥何だこれ? どこで抜けているのかなぁ‥‥根の先、こっちか‥‥」


 箒にまたがって、大樹の根を流れていくマナをずっと追って移動する。

 街道に出て商店街を抜けて、領主の館らしき大きな建物の横にある、これまた巨大な教会の中で神威が零れ落ちているのが確認できた。


「へ? 教会? なんでここで?」


 そのまま箒を空間収納(チェスト)に放り込み、マチュアは教会の建物を見上げる。

 今まで見てきたどの協会よりも大きく、それでいてどこよりも大勢の人が出入りしている。


「はてさて、敬虔な信者の皆さんがいるのに、何でここでこんな事になっているのかなぁ‥‥」


 そんなことを呟きつつ教会の中に入っていく。

 ちょうど司教の一人が円台の前で話をしているのだが、目的地はその後ろにある広い空間。

 中庭に位置する場所の中心にある古そうな井戸、そこからマチュアの神威を感じ取る事が出来たので、そっちに向かって行こうとして‥‥シスターに止められた。


「あ、そこから先は関係者以外は立ち入り禁止ですよ?」

「あ、そうですか。いえ、そこの井戸から大樹のエキスのようなものが滲みだしていて危険なので、それを止めたいのですが」

「それは大変ありがたいことですわ。大樹様が我が協会に加護を与えてくださっている証拠ではないですか?」


 まずは軽いジャブのような話だったのだが、シスターはそれを紙一重で軽く躱していく。

 それでもマチュアはめげない子である。


「それは自然ではありませんよ? 大樹の加護はエキスのようなものではありません。大樹の枝葉から溢れる光魔力(ソーマ)こそが加護なのですよ? これは自然ではありません」

「成程。他の教会ではそうなのかもしれませんが。このシュトロハイム領の大樹は全て等しく我々に『大樹の雫』を与えてくれています。これも大樹様の導きのおかげてすわ」

「あ、もういいです‥‥では失礼します」


 マチュア諦める。

 そのまま教会を出てもう一度大樹の元に向かうと、静かに神威を練り上げていく。

 ゆっくりとマチュアの全身が輝き、そして大樹に当てた手から光が大樹の中に染み込んでいく。

 周囲にいた人々は、突然のマチュアの行動に驚き、そしてここでも膝を折って祈りを始める。 


「注ぐんじゃないわ、大樹の傷を癒してあげるわね‥‥完全治療パーフェクトヒールっと‥‥どや?」


 マチュアの癒しの神威がゆっくりと大樹の中を巡回する。

 すると先程までは教会の井戸の辺りで溢れていた神威が、溢れる事なく循環を開始した。


「よっしよし。これで溢れる原因は知らんが治療は出来た。なので、ここからは私のターン。もいっちょ神威を注いで循環させてと。それじゃあまた三日後にね?」


 そう呟いて、周囲の人達に軽く手を振ってマチュアは箒で一気に逃走を開始した。  



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ライナスとテルメアは、冒険者ギルドで依頼完了報告を提出したロシアン達と合流した。

 

「ロシアンさん、依頼の提出は終わったのですか?」

「ああ。ついでに盗賊の討伐依頼も出ていたらしいが、それもあいつを突き出したので完了になった。これはお前たちの取り分になるから、そっちで分けるとするか」


 金貨が大量に入っている袋を手に近くのテーブルに移動する一行。そしてとりあえず金貨を6等分してそれぞれが財布にしまうと、マチュアの分だけがテーブルの上に置いてある。


「さて。ここまでの日数が十日なので、後、護衛期間は二十日か。ライナス達は商会登録冒険者なんだよな?」


ロシアンが腕を組んで考えていると、ライナスとテルメアはコクコクと頷いている。


「はい。月の給金が金貨6枚です」

「日給で銀貨20枚か。カナン商会の仕事を考えるといい稼ぎだが。冒険に出られないのも問題があるなぁ」

「あ、それについては、街に着いたらフリーなので、予め伝えておけば普通に依頼を受けても問題ないですよ」

「私達はそう言う契約なのですわ。リンシャン市では街滞在期間は全て修行していましたし」


その説明を聞いて、アメショーは驚きを隠せない。

通常の商会登録冒険者は、街の商会で待機しているのが通例。護衛や暴漢などの排除、隣接都市への移動の警護などが大半であり、時には素材採集の為に派遣される事もある。

だが、カナン商会は商会主以外は何もしていないに等しい。今回のように移動の護衛は分かるが、街の中でもそのような仕事となると。


「何それ。そもそもカナン商会の登録都市は何処なの?」

「あの馬車がカナン商会だそうですわ。横の扉の中に店舗があったのを覚えていますか?」


そう言われると確かにそう。

マチュアの馬車がおかしいのは理解していたが、まさか商会ごと移動しているとは思っていなかった。

あれは移動式露店であり、何処かに本店があると思っていた。


「はぁ。あれが本店でしたか」

「それと、後ろの扉はこの鍵を使うと中が屋敷になってますよ?俺とテルメアの部屋もありますし、まだまだ部屋が余っていましたから。職員寮らしいですけど、あまり使ってないですね」

「はっはっはっ。やはりあの御仁は、我々の想像の斜め上のようですなぁ」

「それを言うと俺達もだろうが。今改めてステータスを見て驚いたぞ?」


ギルドカードを右手で弄ぶロシアン。

そのカードのスキル欄がおかしい事になっているのに気が付いたので、アメショー達にもカードを見せた。



スペシャルアビリティ:大樹の加護


固有スキル:剛撃(常時威力2倍)

第一スキル:八極拳/レベル4/初伝/ロック

第二スキル:祈り/レベル3

第三スキル:気功術/レベル3/ロック

第四スキル:戦闘体術/レベル2/ロック

第五スキル:神聖魔術/第一聖典/レベル2/ロック



「……何これ?ロシアン人間辞めたの?」

「気功法ではなく気功術とは、また知らないスキルですなぁ。それに戦闘体術というのも興味深い」

「戦闘スキルと回復魔術が同居しているというのも凄いですわ」

「俺も戦闘体術が欲しいなぁ。ロシアンさん、教えてくださいよ」


そうは言われても、ロシアンはそもそも戦闘体術が何なのか理解していない。そんなものを教えろと言われても、はいわかりましたといける筈がない。

そんな話をしていると、奥のテーブルの冒険者がロシアンの元にやって来る。


「よおロシアン。最近はどうだ?儲かっているか?」

「誰かと思ったらバスキニーかよ。そこそこには儲けているが、何かあったのか?」

「ああ。ちょいと汚れ仕事で手が足りない。手伝ってもらえるか?」


冒険者の符丁の一つ『汚れ仕事』。法に触れるか触れないかのギリギリの仕事であり、大抵は荒事が多い。

中には犯罪まがいではなく犯罪そのものもあるので、まっとうな冒険者は汚れ仕事には手を出さない。


「悪いが、まだ護衛任務中でな。他を当たってくれないか?」

「そりゃあ悪かったな。じゃあ、また美味い話があったら持ってくるぜ」


笑いながら別のテーブルに向かうバスキニーを、一同は困った顔で見送る事にした。


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