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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その15・聖女とスキルと

 朝。


 昨日のドラゴンステーキとシーサーペントの香草焼きの香りが、店内にまだ残っている。

 酔いつぶれてテーブルで眠っている客もまだちらほらと見える中、マチュアはのんびりと朝食を取る。

既にライナスとテルメアは近くの森まで採取依頼を受けて出発したので、今日も一人でのんびりと……。


「まあ、そうなるよなぁ」


 宿から外に出ると、辺り一面活性化した木々が伸び始めていた。昨晩で大樹もさらに大きくなり、枝葉も街の外まで伸びている。光魔力ソーマが周囲に降り注ぎ、小さな妖精たちがあちこちに飛び回っている姿も見えた。


「さて、じっちゃんはどこまで活性化したかなぁ。ちょいと最後の一発かましてくるか」


 空間収納チェストからゴーレムロバを取り出し、のんびりと大樹まで向かうのだが、何故か街の中を歩くだけで人々がマチュアに軽く頭を下げているのが見える。

 その原因は一つ。

 昨日の蘇生魔術による奇跡が噂として広まっているのであろう。

 そんなことは予測済みなので、マチュアも笑いつつ大樹に向かうと、すぐさま大樹に触れる。


「シャダイのじっちゃん元気か?」

『ウム。ココノ大樹ト隣ノ大樹ガ繋ガッタ。ヨリ一層、意識ガシッカリトシテキタゾ』

「そりゃ良かった。また次の街でも活性化するから、しばし辛抱だな。そんで、取り敢えずこの国の全てを活性化したら、当面は大丈夫そうかな?」

『マダ判ラヌナァ。マズハコノ国ガ終ワッテカラダ』

「あっそ。なら良いわ。それと、今の時点で私、やり過ぎた?なんか色々とやらかしているような自覚があるんだけれど」


 そう問いかけると、大樹の枝が軽く揺れる。

 そして暫くして。


『全然問題ナイナ。ムシロ、コノ程度デヤリ過ギトハ、マダマダ甘イデスナァ』

「何……だと?自重していたけど、そんな必要なかったの?」

『ウム。錬金術ニシロ魔術ニシロ、マダ人ニ伝エルレベルニ達シテイナイデハナイカ。一人二人程度デハ、マダマダデスナァ』

「あ、そういう事ね。それは段階踏んでいくから良いでしょ? 魔法薬のレシピの件は? できればパンナコッタさんには大樹の葉を分け与えて欲しいのよ?」

『ソウデアッタ、アレハ成功例デスナァ。パンナコッタトヤラノ件ハ了解シタ、アノヨウニコノ世界ニナイモノヲ広メテクレルナラ、本望デアルナァ』

「よしよし。それなら良いや、今後ものんびりと行くからね。まだこの街で大樹の活性は必要?」

『三日後ニ一度。ソレデコノ都市ハ問題ナイ。アリガトウ』


 それでシャダイの意思は途切れた。

 後はもう少し人々に知識と技術を分け与えないとならない。


「ま、それは何とかなるか。そんじゃ散歩でもして帰りますか」


 本日の仕事はこれでおしまい。後は趣味の拡張空間の整理整頓をしなくてはならない。

 なので商店街を回って買い物をして帰ろうと思ったのだが、まだまだこの街の闇は深いようで。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ゴーレムロバに跨りのんびりと歩いていると、突然豪華絢爛きらびやかな馬車が5台も走ってくる。

 それはマチュアの近くに止まると、中から豪華なローブを着た司祭たちが次々と降りてくるのが見える。そして最後に、もっとも豪華な馬車から出てくる偉そうな司祭。

 マチュアに軽く頭を下げると、ゆっくりと話を始める。


「これはこれは聖女さま。私はこの都市の聖大樹教会の最高司祭を務めているシェイク・ランスと申します。ささ、このような市井を歩いていては聖女さまのご威光が汚れてしまいます、まずは我が教会へお越しください」


 あ、権力に傘を着たダメ司祭だ。

 信仰を求める市民に対して汚れたなどという言葉を使う奴らには碌な奴がいない。

 なので返事は一つだけ。


「断る。なんで私が、富と権力にどっぷりと浸かって肥え太った教会まで行かないとならないのですか? 私のご威光が街を歩くだけで汚れるですと? ならあなた達は私に何を求めているのですか?」

「それは一つ。迷える民に施しを。病を癒し、傷を塞ぎ、死せるものを蘇生して欲しいのです」

「あ、それなら勝手にやるので。では失礼します」


 あっさりと切り捨てる。

 その施しの代償であんたらが肥え太るのなら、私が手を貸すわけはないでしょうが。

 そんな事は子供でも理解出来るわ。

 だが、相手は富と権力という妄執に囚われているので、マチュアの言葉に耳を貸すことはない。


「それは困ります。聖女の奇跡は選ばれた者に施すもの、それは私達が選別して差し上げます。そうでなければ、いくら聖女様でも、奇跡の使い過ぎで疲れきってしまうのではないですか?」

「そう心配するなって。私の魔力なら、この都市全てが全滅しても全員一度に蘇生することも出来るし、一晩経てば魔力なんて全快になるからな。つまり私は奇跡をダダ漏れさせても疲れないの?いい?」

「い、いや、しかしですな。昔から大樹の奇跡は選ばれたものにと言う前提条件がありますので」


 引かないなぁ。

 そろそろうんざりしてきたよ。

 だったら。


「へぇ。そのルールは誰が決めたの?」

「それは大樹様です。我々司祭は大樹様からの加護を受けて、その意思を顕現してきたのですぞ」

「なら、本当に貴方達が大樹に選ばれているのか確認させてください。司祭ならば、人の怪我を癒す奇跡程度は大樹様より授かっているでしょう? 当然使えるのでしょう? 大樹の加護ある司祭ならば、その程度の奇跡は使えて当然です。私は大樹からそう教えられていますが?」

「それはもう。では、その奇跡をご覧に入れて差し上げますので、一度教会へ‥‥」


──ザシュッ

 そこで最高司祭の言葉は止まった。

 マチュアは自らの腕にナイフを突き立て、切り裂いたのである。

 ボタボタと零れ落ちる血。

 それを見て司祭達は顔をしかめてしまう。


「では、この傷を癒してみてください。大樹の加護ある正しき司祭なら、この程度の傷は癒せる筈です。さぁ!」


 迫力スキルを有効化アクティベートしての説教。

 これには司祭達も一歩下がってしまう。

 さらに最高司祭もどうして良いのが動揺し、辺りを見回す始末である。


「まぁ、その程度の信仰で司祭を名乗るとは片腹痛いですわ。それにもう一つ。大樹の正しい名前を貴方はご存知ですか? 大樹と心通わせているならば、それを貴方はご存知のはず。告げてみなさい、大樹を授けた神の名を!!」


 覇気スキルを有効化アクティベート

 これで司祭たちはその場にへたり込み、手を組んで祈りを捧げ始めた。

 なのでマチュアも傷ついた腕を天に伸ばし、無詠唱で腕の傷を癒していく。

 その光景を見て、司祭たちは二つの反応を示している。


 純粋に感動して、祈りを捧げているもの

 そしてもう一つ、目の前の奇跡を見て怪しい笑みを浮かべるもの。


 前者はまだ救いがあるが、後者は全く救いようがない。そして最高司祭とその側近達は後者にあたる。


「これが貴方達の望んでいた奇跡です。私は私の好き勝手に奇跡を執行させてもらいます。当然教会の命令や願いなんて知った事かです。わかったら帰って祈りでも捧げてください。貴方達に神の加護がありますように。エイメン」


 そこでマチュアはゴーレムロバに跨ると、のんびりと商店街の探索を続ける事にした。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 のんびりと商店街を散策していると、ふと大勢の人が出入りしている商店が目につく。

 大きさは冒険者ギルドよりも少し小さい程度、出入りしているのは老若男女冒険者の姿もあれば普通の市民の姿もある。


「あれはなんじゃらほい?」


気になったのなら確認してみよう。ということでゴーレムロバを商店の前まで進めると、マチュアはそこでゴーレムロバを待機させて店内に入っていく。


「いらっしゃいませーーって、聖女様?」

「いや、それはいいから。ここは何を売っているのですか?」


 そう問いかけてみると、店長らしい男性が一言。


「うちは由緒正しきスキル屋ですぜ。販売も買取も行っていますし、専用の鑑定珠もご用意しています。安心確実、ローリスクでハイリターン。何か欲しいスキルはございますか?」

「あ、特に今のところはないので、中を見せていただいていいですか?」

「どうぞどうぞ。商品については掲示板に全て張り出してありますので、その張り紙をはがしてカウンターにいらしていただければ、別室で売買させていただきますよ」


 ふむふむ。

 それならばと掲示板を見てみるが、販売商品よりも買取商品の方が人気が高い。

 自分のスキルでいらないものを売り飛ばしたいのだろうが、その中に珍しいものが張り付けられているのが見えた。


『求)魔術スキル、レベル1につき大金貨100枚』

『求)錬金術スキル、レベル1につき大金貨5枚』 


 おおう。

 マチュアのスキルを見て、欲しい人が大勢いるのだろう。

 しかしおいそれと販売することもできないし、そもそもスキルなんてどうやって売ればいいのかと考えて‥‥。


「あ、知識のオーブか」


 イエス。

 スキルを一つの知識としてオーブ化すれば、マチュアの場合は簡単に他人に『譲渡』することができる。

 ただし譲渡したスキルは世界法則によりレべル1となり、そこからは血の滲むような努力が必要となってくる。

 そもそも、魔術系スキルの場合、魔術回路を開くところから始めなくてはならないのと、聖典のランク別に販売しなくてはならない。もしくは別冊で魔導書を作る必要があるので、おいそれと簡単に販売するのは難しいかと思われる。


「しっかし、そんなに簡単にスキルを売買できるとは、思ってもみなかったねぇ」

「そりゃそうさ。そもそもスキルっていうのは、生まれた時にはもう三つ、神様から授かっているんだからなぁ。それ以外に固有スキルがあるだろう? でも、スキルっていうのはある意味では運命みたいなもので、何が当たるかわからないのさ」

「それで、自分のいらないスキルを販売してお金に換えたり、欲しているスキルを購入したりしているらしいよ。特に新しいスキルが発見された時は、こうやって大勢の客が押し寄せて来るんだ」

「成程、参考になったわぁ、ありがとうね」


 近くで解説してくれたモブ顔のお兄さんにありがとうと告げると、マチュアも売っているスキルを確認して‥‥。


「いらないなぁ。というかどれも持っているし、固有スキルは売買出来ないから、そっちの方が重要だよなぁ‥‥」

「固有スキルについてはどうしても売買できない理由があるのですよ」


 マチュアの独り言が聞こえたのか、店長がマチュアを手招きして話してくる。


「へぇ。どういう理由なの?」

「それは固有スキルのランクが関係しているのです」

「ランク?」

「はい。というのもですね。例えば聖女様は空間収納(チェスト)スキルを持っていますよね? それのランクはわかりますか?」


 当然存在しないのでわからない。


「判らないなぁ」

「ですよね? でも、うちの鑑定珠は隠されたランクも見ることができます。そのランクによって同じ固有スキルでも効果がまちまちでして、大抵の固有スキルのランクはC、劣化しているものは最低値のEといわれています。そして最大級はSSS、まあ、それは伝承のみで実際に見たことも聞いたこともありません」


 ほうほう、説明をありがとう。

 試しに調べてみようと思ったが、どうせ時間停止+無限収納であるマチュアの空間収納(チェスト)はSSS間違いなしであろう。

 なら変に騒がせない方がいい。


「それで聖女様は、何かいらないスキルってありますか?うちで買い取りますよ?」


──ザワッ

 店長の言葉に、店内にひしめいていた客が一斉にカウンターを向く。

 確かになにか便利なスキルを売ってみるのもいいかなとマチュアは考えた。


「一つ聞いていい? スキルってここで買う以外に手に入れる方法あるの?」

「スキル修得者ホルダーから学ぶのが早いですよ。そうすれば、うちなんかで買わなくても特訓したり勉強すればレベル0っていうのを得る事が出来ます。後は日々の研鑽ですなぁ」


 あ、つまりベースを誰かが覚えていればいいのか。なら、試しに一つ。


──ブゥン

 両手を合わせて知識のスフィアを作り出す。

 その光景には、その場の全員が絶句してしまう。


「ま、まさか、鑑定珠を使わずに、自らの意思でスキルオーブを作り出すとは‥‥」

「あ、これそういうの? 私たちはこれを『知識のスフィア』と呼んでいるわ。まあ取り込み方はお任せするけど、ちゃんと心力ベースで吸収できるようにはしてあるので」

「うわぁ、聖女様の言葉の半分も理解出来ないですわ‥‥」


そう告げる店長に一つのスキルを形成して手渡す。

カリス・マレス式のスキル習得技術である知識のスフィア。これを使えばマチュアは自分のスキルを失うことなく相手にも伝えることができる。

店長は受け取ったスキルを、早速鑑定珠にセットする。


『ピッ……重量運搬スキル、レベル1』


「おお?これはまた珍しいですね。生産者には喉から手が出る程の逸品ですね。査定額は……え?」


そこで店長の言葉が詰まった。


「どしたの?高い?」

「はい。正直に申し上げますと、査定額は大金貨80枚です。本来の重量運搬スキルの査定はレベル1なら金貨20枚程度なのですか……その、聖女様のスキルはそもそも効果がおかしいのです」

「へぇ?そうなの?」


そう問いかけると、確かにおかしい。

こっちの世界の重量運搬スキルは、レベルごとに持てる重さが+50kgであるのに対して、マチュアのスキルはレベルごとに一桁増える。

体力80の人がスキルを持つと、セフィロトのスキルなら+50kgでトータル130kgとすると、カリス・マレススキルなら800kgになるのである。


「あ……そりゃあ凄いわ。それで買い取る?」

「はい。それはもう喜んで。ただ、金額が金額ですので、二日程お待ちいただいて構いませんか?」

「なら、その時にお渡ししますね?」


そう告げてスキルオーブを両手で挟んで取り込む。

その行動自体がもうチート過ぎるらしく、他のスキルはないのですか、とか、もっとスキルを見せて欲しいとか、色々な声が掛けられた。


「ま、まあ、色々あるけどまず大前提で一つ。聖女様はやめて、マチュアさんって呼んでくれた方が嬉しいので」

「は、はい」

「この件は、街のみんなにも伝えてね。私は聖女でもなんでもない、大樹の意思の代行者ですから」

((((((それは聖女です))))))


と言う全員の心のツッコミを敢えて躱しつつ、マチュアはのんびりとスキルについて色々と学ぶ事にした。



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