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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その11・欲をかくもの、欲張らないもの

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ガラガラガラガラ

 

 高速で街道を走り抜ける貴族の馬車。

 それを横目に見つつ、マチュアたちは人混みの中をのんびりと商人ギルドにやって来た。


「あ、あら、甘い方」

「は?」

「いえ、マチュアさま、本日はどのようなご用件でしょうか‥‥」

「ギルドマスターに用事がありましたので、取り次いでいただけますか?」

「かしこまりました、少々お待ちください」


 そう丁寧に告げて受付嬢のマリンダがパンナコッタを呼びに向かう。するとすぐにパンナコッタが姿を現すと、マチュア達を応接間に案内した。


「後程お茶を持って行きますね」

「あ、それは必要ないので、しばらくは私には誰も取り次がないように」


 また甘い菓子をみんなで食べるのですね‥‥。

 かーなーりがっかりした表情で、マリンダは受付へと戻って行った。


‥‥‥

‥‥


「さて、本日はどのようなご用件ですか?」

「昨日の話の続きですよ。これをどうぞ」


 そう告げてマチュアは先日作った三本の魔法薬(ポーション)をテーブルに並べる。

 それを一つ一つ手に取ってしっかりと鑑定すると、パンナコッタはニマニマと笑みを浮かべている。


「まさか効果まで遜色ないものを作れるとは。しかも、この材料は一部を除いてこの地で手に入れられるものばかりではないですか。ですが問題はこの魔法水、これはどのように作り出すのですか?」

「作れるのは私とテルメアだけだけれど、必要なら魔法水を生み出す魔導具を作ってあげる事も出来るよ。でも、それだけじゃ無理だね」


 そう告げてから、マチュアは空間収納(チェスト)から大樹の葉を取り出してみせる。


「これは大樹の葉‥‥え? 光魔力(ソーマ)を含んでいる? そんな馬鹿な?」

「そう思うでしょ」

「ええ。大樹に光魔力(ソーマ)が流れているのは知っています。けれど葉は枝から離れた時点で光魔力(ソーマ)を放出し一切残らなくなります。それは枝から千切っても同じ。どうやってこのように上質な葉を手に入れる事が出来るのですか?」


 そう問いかけると、マチュアはふと考えて空間収納(チェスト)から純魔石を一つ取り出す。

 それに水生成の術式を神威で刻むと、それを机の上にコン、と置いた。


「これが魔法水を生成する純魔石だよ。水瓶にでも入れておけば、ただの水が魔法水に変質するという優れものです。それと大樹の葉は、大樹に触れて頼んで分けてもらったのよ。けど、誰も彼もが手に入れられるとは思わないほうがいいわよ。大樹は人の心を理解しているし、悪しき精神には応えてはくれないだろうからね。そんでもって今の情報をいくらで買う? ハウマッチ?」


 それだけを告げて、マチュアは昨日に続きティーセットを用意する。

 テルメアが紅茶を注いでマチュアがケーキを皿に取る。

 勝手にティーパーティーを始めるマチュアたちと、今の情報に対してどのような価値をつけるか考えているパンナコッタ。


「かなり思案しましたが、私どもからの提案はAランク商人への昇格というのではどうでしょうか? 必要なら商会登録も行いますし、Aランク商人ならば王都でも自由に商売ができます。それと、竜の素材を持っていてもゴーレムホースを持っていても誰も咎める者はないと思われますが」

「あ、そんなにくれるの? よかったわぁ‥‥私は商会登録したかったので紹介状を書いてほしかったのよ」

「いえいえ。これぐらいはサービスさせていただきますよ‥‥」


 これはマチュアの本音。

 Aランク商人などと欲張ることはなく、ただライナスとテルメアを商会登録冒険者にしたかっただけであった。その為の相談にやって来たのであるが、あっさりと話はついてしまった模様。


「それではそれでお願いします。商会登録はここで?」

「ええ。すぐに担当の者を呼びますので」


 そう告げてパンナコッタはパンパンと手をたたく。

 すると部屋の外でドタドタと激しい音が響き渡り、やがて息を切らせたマリンダが入って来る。

 

「失礼します‥‥お呼びでしょうか」

「ええ。こちらのマチュアさんの商人ギルドランクをAランクに上げてください。そして商会登録もお願いします。名前はどうしますか?」


 それはとっくに決まっている。

 どの世界でも、マチュアの商会はこれ一つ。


「カナン商会でお願いします。取扱品目は魔法薬(ポーション)と魔導具、食品、その他雑貨などでお願いします」

「ふむ。それでは薬品については王都の薬剤ギルドに申請‥‥いえ、直接王城審査をお願いしたほうがいいので紹介状を書いて差し上げますね。ではそのようにお願いします」


 そう説明するのだが、マリンダの視線はテーブルの上に並んでいるケーキセットに釘付けである。


「マリンダさん、今の話は聞いていましたか?」

「はい。Aランク登録と商会登録、登録名はカナン商会で、王城執務官あてに薬剤取り扱い審査の推薦状を用意すること、カナン商会の取扱品目はケーキと魔法薬(ポーション)と魔導具、食品、甘味、その他雑貨でよろしいのですね?」


 惜しい。

 本人の欲望がてんこ盛りになっている。

 だが、マチュアはケラケラと笑いつつ一言。


「それでいいわ。じゃあお願いね」

「かしこかしこまりましたぁぁぁぁ」


 どこのお笑い芸人だよと突っ込みたいところだが、マリンダはそのままクルクルと回りつつ退室していく。

 それを見て、パンナコッタもハァ‥‥と頭を抱えてため息一つ。


「凄いしっかりした子ですね。ちゃんと説明全て網羅したあげくに自分の欲望をしっかりと盛り込んでいるなんて」

「そこが難点なんですけれどね」

「だったら、あの子はカナン商会担当にしていただけるかしら。あれだけ面白い‥‥いや、頼もしい子なら、色々と無茶‥‥いや、話がスムーズに進みそうですから」

「マチュアさん、本音がただ漏れですが‥‥それで話は戻しますが、こちらの商品は買い取りさせていただいてよろしいのですか?」


 そう告げつつ三本の魔法薬(ポーション)と魔法水生成魔石を指さす。


「申し訳ないけれど、魔石はそれ一つだけなのでパンナコッタさんが管理して。魔法薬(ポーション)は‥‥それぞれ大樽一つなので220リットル。2200本分だね? それで買い取っていただけますかな?」

「ここまで見せられていいえと答える商人はいませんよ。査定額は簡易魔法薬(ポーション)は銀貨10枚、万能薬は金貨5枚、上級魔法薬(ポーション)は金貨10枚でどうでしようか」

「おっけ。大体私の予定通りの金額だね。ではその金額で2200本分、分割で構わないから振り込んでおいてくださいね」

「かしこまりました。それと、今朝方ですがディーノ男爵がやって参りまして、マチュアさんの商人ギルトカードの凍結を命じていました。当然そのような事は出来ませんからご安心ください」


 そう苦笑するパンナコッタに、マチュアもニイッと笑ってしまう。

 

「後はパンナコッタさんが大樹に認められるかどうかだね。ま、それは私の管轄ではないので頑張って頂戴。はい、これは契約成立のお祝いで、みんなで食べるとしましょう」


 空間収納チェストから次々とケーキを取り出して並べていく。

 その数実に100個近く。

 最初に受付のマリンダ嬢に『甘い方』といわれて、そしてさっきの視線でマチュアは納得したのである。

 あの子は、ここでマチュア達が美味しいものを食べている事を知っていた。

 それにしても甘い方とはなんてあだ名だと笑ってしまうので、どうせならみんなにもおすそ分けという事でいっぱい出しただけであるが。


「こ、こんなに私は食べきれませんが‥‥まあ私も空間収納チェストを持っていますので」

「いやいや、職員に配ってきてよ」

「え?」

「え、じゃないわ、まさかパンナコッタさん、これ一人占めしようとか考えていたんじゃないでしようね? この食いしん坊が」

「そそそそそんな事ないないないですわよ」


 あ、バレバレでした。

 そのマチュアとパンナコッタのやり取りにプッと笑いつつ、テルメアとライナスはケーキをトレーに載せて応接間を後にした。

  

「あ、ああ‥‥さっきのあれはまだ食べていない味なのに‥‥マチュアさん、あの甘味をこのリンシャンの町で広めてみませんか? せっかく取扱品目にも書いてあるのですから。もしくはレシピを買います、ぜひ当商会で取り扱わせてください‥‥」

「うわぁ、欲望が全力で顔出しているわ。パンナコッタさん、魔法薬ポーションの交渉よりも必死ですよ?」

「それはそうでしょう。魔法薬ポーションは主に冒険者程度しか使いませんが、あの甘味は町の女性全てが欲していいものです。どうか是非!!」

「あれ、食べすぎると太るよ‥‥」


──ドキッ

 その一言がパンナコッタの心をクリティカルヒット。


「それは本当ですか?」

「まずはお腹の周りにお肉が付きます。次に二の腕と首回り、そして太ももがぷにぷにになって顎がなくなります‥‥」

「マチュアさん、ぜひともハイエルフの叡智を以て太らない甘味を開発してください!!」

「そんなものあるかぁぁぁぁ。太ってしまうかもという背徳感込みでケーキは美味しいんだ。そんなノーペナルティなケーキなんぞ作りたくないわ」

「作りたくないという事は‥‥あるのですね?」


──キュピーン

 パンナコッタの瞳が輝く。

 それはもう、獲物を捕らえた鷹のごとく。

 だが、パンナコッタの目の前の獲物は鷹どころか古代竜よりも性質の悪い存在でしたとさ。



 〇 〇 〇 〇 〇

 

 

 そんなこんなで、どうにかパンナコッタの追求を躱して商人ギルドを後にするマチュア一行。

 

「しかし、受付で職員全員がケーキを食べている光景には笑ってしまったわ。それを見ていた商人達の物欲しそうな顔といったらもうね‥‥」

「マチュアさんも意地が悪い。折角なので商人達にも分けてあげるとかすればよかったのに」

「そうですわ。かなりうらやましそうに見ていらしたわよ?」

「でも、そうなるとテルメアの分が少なくなるよ?」

「あんな欲深な商人はケーキを食べられなくて正解ですわ」


 くるりと手のひらを返すテルメア、高島なみにぶれない性格でいらっしゃる。

 そんな馬鹿話をしつつ、今日はもう急いでやる事が何もなくなったので、無事に商会登録冒険者となったライナスとテルメアの書類を冒険者ギルドに持っていく事にした。

 ちなみに二人の給料は月に60万ギルダで契約は成立。 

 商会登録冒険者の給料は基本的にはレベル×1万ギルダなので二人にとっては少し多めの給料となっている。

 しかも食事については基本マチュアが用意する、護衛ではあるが暇なときは短期で冒険に出でも構わないという大盤振る舞いである。

 それらの条件が記された書類を提出して控えを貰ってきて、冒険者ギルドカードを更新するだけで登録は完了となる。

 そしてやって来ました冒険者ギルド、マチュアはやはり空いている席でのんびりとしていて、二人が手続きを終えるまでのんびりとお茶を飲んでいる。


「おや、こんなところに可愛い子ちゃんがいるではないか。うちらのリーダーにお酌してもらおうか?」

「ついでに一晩相手してくれねぇか? うちのリーダー女運が悪くていまだにチェリーボーフベシッ」


──スパァァァン

 久しぶりに抜いた伝家の宝刀・ミスリルハリセン。

 それを顔面に力いっぱい受けて吹き飛ぶがハリセンの痛みはない。


「出直してこいやぁぁぁ。私は商人で冒険者ではない。ここの冒険者は一般市民にも絡むのか?」


 そう周りに聞こえるように告げると、カウンターの方ではライナスとテルメアがまたか、という顔をしていた。


「なっ、なんだとこの野郎。そんな変な武器を使って、俺たちを誰だと思っていやがる!!」

「その名乗り口上を使っていいのはグレン団だけだ!! 覚えておけ。そして私みたいなか弱い乙女に吹き飛ばされるなんて大した冒険者ではありませんなぁ」


 でた、意味のない煽り。

 

「何だとこの野郎。だまって聞いていればいい気になりやがって、うちのリーダーを一体誰だと思っていやがる」


 お、どうやらチンピラの流儀にのっとってリーダーを紹介してくれるらしい。

 目の前のチンピラ冒険者一号の背後にいる、なんとなく目立ちにくい金髪男がリーダーなのだろう。

 服装といい髪型といい、そして表情といい、特に悪い所はないんだけれど、これといって目立つ事もない‥‥つまりモブ顔である。


「俺たちのリーダーのタクロー・ドライブイン様はなぁ。この国の辺境領主の6男で家督を継げないからって10歳で家を飛び出し、実力があると信じて冒険者の門をくぐったものの戦闘系スキルを一つも持っておらず、気配りと気前がいいだけでなんとかBランク冒険者までのし上がってきた男だ。告白した女性冒険者は星の数ほどあり、それの倍以上振られてきた。結局は童貞を商売女で散らそうとして小さいと笑われてから勃たなくなって、今でも立派なチェリボーイだ。どうだ!!」


 男の背後であんたらのリーダーがテーブルにつっぶして泣いていますが。

 しかも近くの女性冒険者からも憐みの目で見られていますが。

 あんた本当に彼の仲間なのかよ。


「い、いや、なんだかすまない。けど私の好みでもなんでもない‥‥ごめんね」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 あ、リーダーが泣きながら走って飛び出していった。

 何だろ、オウンゴールというよりもフレンドリーファイアーでトドメ刺されていたよ。


「お待たせしましたっ‥‥て、何かあったのですか?」

「何だか周りの女性冒険者が少し残念そうな顔をしていますが」

「あ、気にしなくていいわ。アオハルよ、青春よ。冒険者稼業にどっぷりと足を踏み込んだ男の末路を見ただけよ。それじゃあ登録は終わったのね?」

「「はい」」

「それならおっけ。では宿に戻ってのんびりしましょ。と、これは今月分の給金先払い分ね。多いからギルドカウンターで預けてくるといいわ」

「了解しましたって重いっっ」

「え、私のは軽いわよ」

「大丈夫、中身は一緒だから」


 ライナスのは全て銀貨、テルメアのは金貨。

 いやあ、あちこち買い物していて気が付くと銀貨が多くなっていたのでここで使わないとね。

 そうこうしているうちに二人共カウンターでお金を殆ど預けている。

 冒険者ギルドや商人ギルドは銀行業務も兼ねているというのはカリス・マレス世界にはないシステムだなぁと、マチュアは感心してしまっていた。

 ギルドカードがキャッシュカードを兼用しているので、失くすと大変なのだが、再発行も出来るし他人のカードでは引き出す事が出来ないので結構安心して預けられるらしい。


 ちなみにマチュアは全て現金で受け取って空間収納チェストに放り込んでいる。

 パンナコッタのところで行った契約分だけは常時、商人ギルドカードに振り込まれるようになっているので万が一の時も安心である。

 そしてマチュアたちはのんびりと冒険者ギルドを後にする。

 この後は長旅になるし、二人の荷物も買い足さないとならないので、それはある程度必要経費としてマチュアが支払うことにした。

 取り敢えず金貨2枚ずつ、合計4枚を持たせて二人には買い物に行ってもらい、マチュアは宿の前に止めっぱなしの馬車の中に入り込むと、内部空間の拡張を開始する事にした。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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