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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第14部・古きを越えて新しき世界へ

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イェソドから・その6・戦闘職として出来る事

 テーブルの上にあるマチュアの作った一振りのナイフ。


 自重どころか普通に制限なくやってしまったので、これがどんな効果になっているのか確認するのがやや怖い所である。

 テルメアは自分の作ったナイフを見たり撫でたり構えたりと忙しそうであり、近くの冒険者はそれを羨ましそうに見つめているのが判る。

 

「はぁ‥‥鑑定眼‥‥ってうわぁ、やっちまったか」


 目の前のナイフを手に取り構える。

 そしてそっと魔力を注ぐと、突然透き通った魔力の刀身が形成された。

 ナイフにしてはどうも柄と刃の部分のバランスがおかしいと思っていたが、こういうことかと思わず納得である。

 いわば魔力によるライトセーバー、この世界ではあってはいけない代物である事が理解出来た。


「ま、マチュアさん、そのナイフは何だったのですか?」


「魔力刄形成‥‥」


 そう呟いた時、テルメアはほっと納得したのだが、その後に続いたマチュアの言葉で、顔が真っ青になる。周囲の者達もどうしていいか判らない顔をしたりそれを手に入れたい欲求に支配されつつあるようだ。


「聖剣術+5、剣術+5、受け+5、体術+5、魔力強化+5、オールスレイヤー、自動治癒+3‥‥」

「ちょ、ちょっと待ってくださいねそれはどこの聖剣ですか!! イスフィリア帝国の国宝のブルトガングードを軽く超える代物ですよ」

「そうだね。だからこれは封印だ、人が持っていてはいけない」

「「「「「え、あ‥‥ああ‥‥」」」」」


 そう呟いてすぐさま空間収納(チェスト)に放り込む。

 外野の悲痛な声が聞こえていたが、それは知った事ではない。

 そして先日のロシアンとの腕相撲を見ていた者達は、マチュアに手を出してはいけないと理解しているらしく遠くから物欲しそうに見ているだけであった。


「でも、マチュアさんの作ったダガーと私の作ったダガーでどうしてこれほど違うのでしょうか」

「それは込める魔力量の違いとレベル。私は万能魔術レベル10でテルメアは一般魔術レベル1、その違いだね。どんどん魔法を使ってレベルを上げるといいよ、第一聖典しか使えないという事は基礎だけだから、後は追々自分で研究するといいさ。頭の中で魔術について考えると色々と出て来るでしょ?」


 そう説明されてテルメアは頭の中で魔術について考える。すると今まで知らなかった知識が頭の中に溢れてきた。

 これがスキルの習得というものだろうとマチュアはテルメアを見てのんびりと紅茶を飲んでいる。

 しばらくそうして楽しんでいたが、ライナスがやつれた顔でマチュアたちの元にやって来た。


「はぁはぁはぁはぁ。どうにか依頼を受けてきたぞ。大樹の活性化に伴い城塞に向かって移動してくる魔物の討伐、ターゲットは問わない、数は最低5体、討伐部位の提出で依頼完了だってさ」

「おやまあ、それじゃあ頑張ってね」

「はい。せっかくなので覚えたての魔術を使ってみますね」


 そうにっこりとほほ笑むテルメアと、いまいち会話の内容を理解していないライナス。


「な、何だか秘密の会話?」

「乙女の秘密です。ね、マチュアさん」

「そういう事。男は前衛でキリキリと働け」

「うわ、ひでぇ‥‥と、そうだマチュアさん、城塞外で例の体術について講習してくれませんか?」


 あ、そういえば約束していたわ。

 別に構わないかなとマチュアはウンウンと頷いてみる。


「スキルのスロットはまだあるんだよね? いいよ、体術教えてあげるよ」

「なっ‥‥体技でなく体術とは‥‥ありがとうございます!!」

「はぁ‥‥体技と体術って、どう違うんだよ‥‥」


 そう考えていた時期が、マチュアにもありました。

 まさかあんな事になるとは、マチュアも思っていなかったという‥‥。


‥‥‥

‥‥


 城塞外、エルドフィル大森林手前


 もっとも魔物が集まって来る北門外ではなく、やや安全な西門外にマチュア達はやって来ていた。

 この辺の森林地帯はそれ程凶悪なモンスターは徘徊していないらしく、まだレベルの低い冒険者達が集まって狩りをしている所であった。

 その近く、丁度城塞と森林の中間に当たる草原地域で、マチュアとライナスは体術修行を始めていた。

 テルメアは少し離れた所で第一聖典の魔術修行を開始、マチュアが作ってくれた手作りの魔導書を見ながら詠唱練習を行っている。


「さて。そんじゃライナスには体術ね。まずは体の隅々まで心力を通してみて」

「心力? それってなんですか?」

「あれ? コンバットアーツ使えるよね? なんで知らないの?」

「えええ? コンバットアーツって、一度使うと何十秒か使えない奴ですよね?」


 そう力説するライナスに、マチュアは手を上げて一度ライナスの動きを制する。

 

「待て待て待て、それって本当にコンバットアーツなのかい? ちょっと待っててね」


 すぐさま自分の額に人差し指を当てて、この世界のコンバットアーツについて検証してみる。

 すると思ったよりも簡単で、コンバットアーツというのは使える回数が決まっていると皆は思っているらい。  

 そして一度使うと次の発動までにディレイタイムが発生すると信じているようだがそれは大間違いで、消費した心力が回復するまで使えないという事実を誤認している事が理解出来た。


「あーあ、成程ね。そんじゃライナスの使えるコンバットアーツを使ってみてくれないかな?」

「は、はい、それじゃあ‥‥シールドバッシュ!!」


──ドゴォォォッ

 シールドを両手で構えての力強い一撃。それでライナスの心力が45から25まで減った。

 一撃で消費する心力は20、一秒に1ずつ回復するので次に使えるまでには20秒というところだろう。

 しかも、本来は心力は技を使うときに闘気オーラに変換されるのだが、それが全くなされていない。うまく変換できれば心力1は闘気オーラとして何倍にも増幅される筈なのであるが。

 

「はいもう一撃」

「行きます!!」


──ドゴォォォォッ

 二撃使って消費は40、残り心力は5から毎秒回復していく。


「はい次!!」

「とりゃぁぁぁ、出ません」

「まあそうだよなぁ。あと10‥‥9‥‥8‥‥そろそろ構えて」

「でも、二撃使ったら一分は使えませんよ」

「あ、もう使えるから打ち込んで!!」

「え? どりゃぁぁぁぁ」


──ドッゴォォォォッ

 一分待たずに三撃目が出る。これにはライナスも驚いていた。

 

「な、何でこんなに早く出るんですか!!!」

「そりゃあ心力が回復しているから。ちゃんと闘気オーラに変換していれば、もっと打ち込む事が出来るからね。っていうか闘気オーラって判る? 心力操作が出来ていると心力は増幅された闘気オーラに変わるんだけれど」

「い、いえ、闘気オーラがそもそも判らないです。俺達は心力という肉体に宿る力を制御する技がコンバットアーツだって教えられていましたから」

「へぇ、そういうのってどこで習うの?」

「冒険者ギルドですよ。そこにいるベテラン冒険者にお金を払って教えてもらうのが定番です。ギルドにはそういう講習専用の冒険者も登録している筈ですから」


 そう説明するライナスに、マチュアはハァ、とため息をついてしまう。

 闘気オーラの存在が一般的でないことに加えて、心力についても教えた方にも問題がある。一番最初にこの技を身に着けたやつは、おそらくはここまでコストの悪い技とは思っていなかったのだろう。

 逆に闘気オーラコントロールと心力操作をしっかりと身に着けていれば、ここまで酷い一撃にはならない。


「そんじゃ、私の攻撃を見ていてね」


 そう説明してマチュアも楯を身に着ける。

 暗黒騎士は基本楯を使わないが、ベースが戦士からの転職なので戦士のスキルも一応使える。まあストームほどの威力はないのだが。


「それいくよ、一っ、二っ、三っ四っ、五っ六っ七っと」


──ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドコ  

 一気にシールドバッシュの七連撃を披露する。これにはライナスも、そして近くで狩りをしていた冒険者たちも呆然としてしまう。


「な、何でそんなに連発出来るのですか。あ、心力が高いのですよね?」

「それもあるけれど、そもそもこれって心力1しか使わないし、それを闘気オーラ20まで変換しているからね。つまりライナスがちゃんと闘気を学んでいれば、ライナスなら45連撃まで行けるはずだし、その途中で別の技も出せるはずだよ」

「別の技? 一つのスキルに対してコンバットアーツは一つしか覚える事が出来ないのではないですか? そもそもシールドバッシュ以外にどんな技があるというのです?」

「何‥‥だと? それじゃあこれは?」


 そう呟いて、マチュアは森の中からこちらの様子をうかがっているゴブリンを見つける。

 すぐさまゴブリンに楯を向けると、闘気を楯に集中する。


挑発プロボケーションっ」


 そうマチュアが叫ぶと、ゴブリンは突然シールドを構えているマチュアに向かって襲い掛かって行く。


楯防御シールドパリー


 そして次々と繰り出してくる攻撃の全てを楯一つで全て受け止めているのである。


「これが挑発と楯防御な。挑発は楯に闘気を注いで敵を引き付ける技、楯防御はおなじく楯の強度を上げるのと同時に重量を軽減し、片手で敵の攻撃を受けて弾く技な。どっちも消費心力は1、闘気計算10とお手軽でございますが‥‥これって使えないの?」

「そ、それは楯術ですよ。楯自身に心力を注いで強化したりする技ですよ?」

「その違いを説明してくれ。楯技と楯術の違いを」


 そう呟きつつも、マチュアはのんびりとゴブリンの攻撃を自動で受け止めている。


「楯技のコンバットアーツは自分の体に使うもので、楯術は武器に使うものです」

「あ、成程おっけ。だから力業のシールドバッシュしかないのか」

「俺は楯術は使ったことがないんです。楯技しか覚えられなかったから」


 マチュアにしてみればどちらも同じ技。つまり二つに分かれている理由など皆無であり、おそらくはこの世界の法則性では二つが一つになったスキルもあると理解した。

 ならば実践あるのみ。


「よし、そんじゃライナス、楯に闘気を注いでみて。楯も自分の腕の延長と思って」

「えええ? それは無理ですよ。俺の楯は楯技用で楯術用ではないんですから」

「え? そこからもう別々なの?」


 取り敢えず目の前のゴブリンを掴んで森の向こうに向かって力いっぱい投げてから、マチュアはライナスの持っている盾を借りて鑑定してみる。


『ピッ‥‥ノーマルシールド、心力を通さない粗鉄製の防具、重量配分のやや崩れている量産品』


「あ‥‥終わったわ。この世界って、スキルがないと装備も買えない?」

「買えますが、高くなるんですよ‥‥っていうか、スキル持ちが格安になるんですけれどね。それで俺の盾が何がおかしいですか?」

「そりゃあおかしいわ、ちょいと待っていて‥‥深淵の書庫アーカイブ起動、アニメイトもついでに‥‥この楯のデータを解析し、闘気型に強化。素材はミスリルを組み込んで‥‥変異バリエーションもついでに発動‥‥よし3分、我ながらいい仕事しているわ」


──ブゥゥゥゥゥン

 マチュアの目の前でアニメイトの魔法陣が展開する。そしてライナスの盾がゆっくりと溶けてミスリルと混じり合い、更に変異バリエーションによって組成変異を開始する。

 これによってカナンなどで一般的に売られている標準の盾に戻す・・事が出来た。


「あ、あれ、俺の盾が変わって、溶けて‥‥戻っていく、何があったのですか?」

「いいから使ってみて。心力も通せる筈だからさ」

「そ、そうなのですか‥‥ってうわぁぁぁぁぁ」


 ライナスが盾に心力を通そうと意識する。すると盾が腕の延長のようにゆっくりと心力が流れて行く。

 シールド表面がゆっくりと淡く輝き、綺麗な心力膜を張り巡らせているのが判る。


「その状態をまず覚える。ええっと、心力は体内を巡り丹田にて闘気へと練り上げる。出来るかなぁ……」

「練り上げる……あ、心力が臍のあたりでぐるぐると回っています」

「そのままゆっくりと回していて。そうすれば心力は練り上げられて闘気に変わるから」


 ライナスはマチュアの言う通りに心力を練り上げていく。だが、一朝一夕で早々出来る筈もなく、体内を循環している心力を留める事が出来ず、やがて体外に排出されていく。


「はぁはぁはぁはぁ……ま、マチュアさん、もう疲労が限界です……指一つ動かない……」


 そう呟きつつ、ライナスは地面に倒れて行く。

 それをヨイショと抱き抱えて横に寝かせると、離れた場所で魔術の訓練をしているテルメアを呼び寄せた。


「はい、何かありましたかって、ライナスどうしたの?」

「闘気の鍛錬法らしいけど、どうも上手く行かなくて……」

「と言う事。テルメアもそろそろ魔力が枯渇して頭が痛くなり始める頃よ」

「もうさっきからズキズキして吐き気もしますわ。これって何ですか?」


 はい魔障酔い来ました。

 初めての魔術で今まで平気だったのは大したものであるが、もうテルメアも限界らしい。

 なのでマチュアはテルメアもそこに横になるように告げる。


「まあ、一、二時間休んでいたら体も動くようになるから、それで一度町に戻りましょうね」

「で、でも、今日の依頼がまだ終わっていないので……」

「あっそ。確かなんでもいいんだよね?」


 そう告げると、マチュアは魔力探査て手近の魔物を探し出す。すると都合のいいことにゴブリンの群れが近くを警戒しつつ動いていたので、そっちに向かって範囲型の挑発を仕掛けることにした。


「そんじゃ、ちょいと5匹ほど討伐するので見ててね……挑発っと」


 そうマチュアか告げると、遠くからゴブリンたちが駆け寄ってくるのが見えてきた。

 その数ざっと20匹。

 これにはライナスもテルメアも逃げ腰になるが、如何せん体が全く動かない。


「ま、マチュアさん、ゴブリンの群れが」

「駄目、体が動かないわ……助けて」


「はいはい。そんじゃ聖域範囲セイグリット炎の矢フレアアロー自動追尾イタノサーカスと……」


──シュシュシュシュンッ

 マチュアの周囲に炎の矢が次々と浮かび上がる。そしてマチュアが右手をゴブリンに向けて差し出すと、それは一斉に飛んで行き、一撃でゴブリン達の息の根を仕留めていった。


 これにはライナスやテルメアだけでなく、近くで狩りをしていた冒険者達も呆然と立ち尽くしている。


「さて、討伐部位は体が動くようになったら勝手に取りなさいな。私は面倒臭いからやらない、後はよろしく」

「は、はいっ、喜んで」

「かしこまりましたぁ」


 あんたらはどこの居酒屋の店員だよ。

 そんな事を考えつつも、マチュアは二人が回復するまでのんびりと身体を休める事にした。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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