表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第13部 日常どうでしょう・リターンズ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

520/701

日々の戯れ・その17・そして世界は巡り続ける

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ウィル大陸南方。

 最南端にあるワグナリア共和国のお隣にある小さな国。

 大きさは日本の四国と同じ大きさで人口は35万人。

 人口数に比例して土地が広いが、そのほとんどが竜骨山脈の双尾山脈に埋め尽くされており、人間の住まう地域は半分以下もない。

 そんな小国家ゆえ、そして周囲を雄大な山脈に囲まれているが故、この王国は幾多の困難を乗り越えてきた。


 最初に異変が起こったのは、飢饉により大勢の人々が死に始めた時。

 その女性は王国の入口に姿を現すと、何もない空間から大量の食糧を取り出して民に分け与え始めた。

 その聖なる施しにより、王国は滅びの道を進むことなく、ゆっくりとだが繁栄の道を進み始めた。

 

 次に異変が起きたのは、竜族によるウィル大陸侵攻時にもたらされた疫病。

 だが、それもかつて王国を飢えから救った少女‥‥聖女による癒しの奇跡によって、国全体を病から救い出した。


 そしてその日から、聖女は教会に引き籠った。

 それと入れ違いに先代国王が崩御、直系血統であるフランシスカ・ラナ・レディオンが即位し、ハルモニア王国は再び栄華の日々を取り戻し始めた。

 聖女が籠ったのと入れ違いにフランシスカ女王は神託を得た事を宣言、それにより今までは八大神全てを祀っていた聖教会は聖神シャザニア一神教となる。

 フランシスカの手には神より授けられた神器『聖王の錫杖』が握られており、誰もフランシスカの言葉を疑う事などなかったという。

 そしてその日から、フランシスカの命令により、周辺国家および近隣諸国に対して『人類至上主義』を宣言、亜人殲滅の法令を宣言すると、近隣の土地から全ての亜人を追い出し、執拗なまでに土地にしがみついていたものは全て老若男女問わずその命を刈り取っていった‥‥。


‥‥‥

‥‥


「‥‥うわ、ドン引きだわ。こんな酷い事がまかり通っているとはねぇ‥‥」


 カナン王城、謁見の間後ろにある第二執務室。

 マチュアは朝から登城して執務室に入っていくと、そこで深淵の書庫アーカイブを起動、自身の記憶にあるデータと神界のデータベースをリンクし、ハルモニア王国についてのデータをまとめ上げていた。

 見れば見るほど身勝手な宣言、そして病か呪いか定かではないが聖女が教会にお籠りになったという事実、そして入れ違いに即位した女王による亜人殲滅。

 疑えばきりのない所ではあるが、まだ確定事項でもなく他国が迂闊に踏み込む事も出来ない。

 それをいいことに、ハルモニア王国は半ば内政干渉ともいえる『亜人殲滅』を他国にも強要し、あまつさえ他国の領内に『聖神シャザニア』の教会の設立強要を行っているらしい。


「はぁ。何か大変な国ですね」

「イングリッドもそう思うでしょ? うちなんて亜人の比率が他国よりも多いから目を付けられる事間違いなしそして今もっとも狙われているのはというと」

「南方ブラウヴァルト森林王国、そしてドワーフの聖地エル・カネックですね。ですがエル・カネックは伝承にしか存在しない地、今それらしい国家はフェルゼンハント森林王国ではないかと思いますが」

「そうだよなぁ。フェルゼンハントはドワーフとエルフの比率も多い国だし、なによりブラウヴァルトにはエル・カネックに繋がる回廊がある。この二つは絶対にハルモニアの提案なんて受け入れる筈ないからなぁ‥‥」

「ふふふっ。陛下はまるでエル・カネックに行った事があるような口調ですね」

「いや、行った事もあるし道順も知っているし。だから尚更心配なんだよ‥‥亜人隷属術式を使う人間の国家。そんなもの存在していいのかどうか判らんよなぁ‥‥」


 やや他人事のように呟くマチュア。だが、それが他人事ではないのはイングリッドも理解している。

 現在謁見の間ではクイーンが周辺諸侯との懇親会を行っており、マチュアは裏方で執務をしていた所である。

 逆にいえば、カナンはハイエルフとゴーレムによる統治国家であり、そのような存在をハルモニアは許す筈がない。


「ええ。実際に我がカナンにもハイエルフの女王は退位し人間の国王を立てろという苦情が届いております。さらに亜人種を魔導連邦からはじき出し、聖神シャザニアを国教とせよと。それに従わぬなら神罰が下るであろうという宣言もなされていたそうですが」

「はっはっはっ。神罰ってなんじゃい。下せるものなら下してみろ、カウンターでハルモニアに神罰くれてやるわるって公式回答して」

「また煽るスタイルですか。クイーンの正式回答は無視ですが」

「無視って、何も返していないの?」

「いえ。『無視』って返答しろと」

「‥‥それって十分煽っているよ。ある意味ではわたしより厳しいけど」


 そう告げられてイングリッドも苦笑するしかない。

 現在のラグナ・マリア帝国でもっとも軍事力が高いのはライオネルのラマダ王国領で続いてブリュンヒルデのヘインゼル王領、八大教会の加護により繁栄しているのがパルテノのプラトーン王領。

 肥沃な土地に恵まれているのはミストのクフィール王領で次点がアルスコットのケルビム王領となっている。

 そして一番強いのがシルヴィーのベルナー双王国領でもっとも危険なのがマチュアのカナン魔導連邦という立ち位置にあるらしい。

 その説明を受けて、マチュアもパンパンと手を叩いている。


「あっはっは。なんでうちが一番危険なんだよ」

「魔導兵器の開発能力、自国生産可能な魔法薬ポーション、そして大陸最強の魔力を持つマチュア様率いるカナン魔導騎士団。そして異世界との国交を結ぶ転移門ゲートの所有。まあ危険極まりありませんね」

「はあ、否定できないなぁ。私は平和が好きなんだよ?」

「それは承知しています。ですが、この世界の進化は全て戦争によるものが多いのも事実。すべての人類が手を取り合って生きていく世界というのは競争も争いもなく、やがてゆっくりと滅びの道を進み始めます‥‥」


 欲が世界を進化させる。

 イングリッドの言葉はマチュアも理解出来る。

 それゆえに譲るべき道と譲れない道があるというのなら、ハルモニアの大虐殺は譲ってはいけない道である‥‥。


「ハルモニアの件は隣国で対処してもらい、ラグナ・マリア帝国に危害が及ぶ時は出撃する。ただ‥‥そんな事がないように諸国には頑張ってもらうしかないんだよなぁ‥‥しかし、異世界から来た聖女か。そっちも含めてあっちも私が動かんとならんとはなぁ‥‥」


 そう呟いてから、マチュアは深淵の書庫アーカイブを解除すると、イングリッドの肩をトン、と叩く。


「しばらく留守にするから、また頼むわ‥‥」

「了解しました。クイーンにもそう伝えておきます」

「ああ。という事でシスターズに通達。各自、自分のやるべき事をやりなさい。何か困った事があったらストームに相談、いいね?」

『ツヴァイ、了解しました』

『ドライ‥‥了解だけど、同行しなくていいのか?』

『ファィズ了解っす』

『ゼクス拝命しました』

『アハツェン了承です。以後すべてのシスターズのメンテナンスを引き受ける事にします』

「あ、ついでにツヴァイは三笠さんにも伝えておいて‥‥地球フェルドアースは任せたって」

『かしこまりましたるワタシハ三笠さんで全てを補ってみせます』


 そこまでいうと、マチュアはストームのいるサムソン王城に転移した。


‥‥‥

‥‥


「へいストーム。ちょいと留守にするからウィル大陸何とかしてくれ」

「いきなりだなぁ。今度は何処に行くんだ?」


 そう問いかけるストームにマチュアはニイッと笑いつつスフィアを生み出す。

 それをポイッとストームに投げて一言。


「ザ・ワンズの後始末さ。失われていた旧世界をどうにかしないと、こっちの世界も滅ぶってね‥‥」

「なら、俺の仕事でもないのか?」

「いや、ザ・ワンズが言っていただろう? 私とお前、どちらかが生きていれば何とかなるって。という事でお前は保険でこっちに残ってくれればいいよ‥‥シルヴィーとカレンを守ってくれれば、二人の住んでいる世界を守ってくれればいいさ。後はシスターズに全て任せて来たからな」


 それだけを告げてマチュアは振り返る。

 そこにはシルヴィーとカレンの二人が立っていた。


「やれやれ、またどっか行くのかや?」

「本当に落ち着きのない女王でいらっしゃいますねぇ」

「はっはっはっ。ちょっと出掛けて来るわ。幻影騎士団は何とかなるっしょ?」


 そう笑いつつ告げるマチュアに、シルヴィーもカレンも笑顔で一言だけ。


「1年ぢゃ。それで帰ってこい」

「そうですわね。マチュアさんにはぜひともお願いがありますから‥‥」


 そう告げると同時に、二人は自分のお腹を軽くさすっている。

 マチュアもそれで全てを理解した。


「ふぅ。名付け親になるのは初めてなんだぞ? ということで1年というか10か月がタイムリミットか。何ともならなくてもそれぐらいには一度戻って来るよ。そんじゃあな」


 そう告げてシルヴィーとカレンの近くまで歩いて行くと、マチュアはポンポン、と二人の頭を軽く叩く。


「必ず帰ってくるのぢゃ。これは幻影騎士団統括としての命令ぢゃ」

「アルバート商会としても、マチュアさんが戻って来ないと新商品が発売出来ないのですからね」

「あっはっはー。そりゃあちゃんと帰って来ないとダメか‥‥じゃ、またね?」


 そう告げつつ手をひらひらと振る。

 そしてゆっくりと歩きつつ、マチュアは静かに転移して行った。



 〇 〇 〇 〇 〇

 


 自律飛行型補給船ラピュータ中央動力部

 マチュアの目の前には、静かに輝いている一つの世界がある。

 かつて創造神によって封じられた一つの世界、セフィロトと呼ばれる始原の世界。

 それがダイソン球殻によりつ包まれ、一つのエネルギー媒体として脈動している。


「はぁ‥‥何でこんな事になったんだろうねぇ」

「私達が知る由はありませんが、何か出来る事はありますか?」

「いつでも何でも命じてくれれば動くぞ」


 メルヴィラー女史とストレイの二人がマチュアに問いかける。

 なのでマチュアとしても出来る事は一つだけ。


「10か月。今日からちょうど10か月後に祈って。それでいい。私を呼んでくれればいいから‥‥。じゃあ行ってくる」


 ゆっくりとダイソン球殻に触れる。

 それと同時に首筋にあるハート形の痣に指を添えると、静かに神威を開放していく‥‥。


「神威開放‥‥創造神モード5。転移開始、目標座標軸‥‥ダイソン球殻内、セフィロト‥‥」


 静かにマチュアは消えて行く。

 そして日常は再び動いていく。

 何もなかったかのように、ゆっくりとゆっくりと‥‥。


 

~第13部 日常どうでしょう・リターンズ fin

 これで第13部は完了となります。

 ここまで焼く2年ちょいの長いお付き合い、まことにありがとうございました。

 ‥‥って、まだ終わりませんからね、シルヴィーとカレンとの約束がありますからね。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 2シリーズ絶賛発売中 ▼▼▼  
表紙絵 表紙絵
  ▲▲▲ 2シリーズ絶賛発売中 ▲▲▲  
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ