日々の戯れ・その16・神様ヘルプ!!
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
何だかんだで開港祭も無事に終わり、翌日には各国の代表団も帰国の途についていた。
だが、ソラリス連邦の魔導船は南下して帰国することなくそのまま北上、カナン辺境国の港までやって来るとそのまま許可を取って河川を遡上し、カナン魔導連邦との国境沿いの中継都市までやって来た。
そこからは陸路、予め積んで来ていたらしい馬車を下ろすと、そこからカナン魔導連邦へとやって来た。
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「ミナセ女王にはご機嫌麗しく。先日の我が国の魔導船に対しての無頼漢の襲撃についても事なきを得られました事を改めて感謝いたします」
王城謁見の間での、ロリエンタール第一皇太子の感謝の礼が告げられている。
予め連絡を受けていたので、今日はマチュア本人が女王勤務、クイーンはアハツェンの元でデータのバックアップとゴーレムボディのメンテナンスを行っている。
「礼はすでに受け取っていますから頭を上げてください。皇太子殿の来訪を心より歓迎します。今宵は晩餐会の準備も行っておりますので、それまではごゆるりとお寛ぎください。さて‥‥」
マチュアはそう告げたのち、ロリエンタールの背後で立っているハイエルフの女王をちらりと見る。
その場にいるコキリコは、正面からじっとマチュアを見据えており、見方によっては一触即発状態にも感じられる。
当然ながら頭を下げるような事はなく、しかも外交に直接女王が乗り込んで来るとはどういう了見だと目を疑いたくなってしまう。
もっとも、それを言うとマチュアやストームなどしょっちゅう彼方此方で歩いているので、自分の事を棚に上げるなとカナン家臣団からの激しい突っ込みが入るのは確定なので素知らぬふりをするのだが。
「初めてお目にかかります。ブラウヴァルト森林王国代表のコキリコと申します。噂のミナセ陛下とは一度お会いしたかったのです」
「それはどうも。あなたの事は魔神ルナティクスから聞いているわよ、どうぞゆっくりとしていらしてくださいな」
「ええ。それはもう。それでお願いがあるのですが」
「世界樹を返せというのならあげないわよ」
「いえ、その世界樹を一目見たいのです。かつて魔族によって失われてしまったという世界樹、それを失ってから既に2000年の時が立ってしまいました。もしも現存するのでしたら。一目だけでもと思いまして馳せ参じました」
そう告げられると、マチュアも困ってしまう。
別にコキリコについてはもう思うところは特にないし、そもそも魔神ルナティクスの件で世界樹についての返還要請なども行われなくなっている。
ならば見る程度なら問題はないだろうという事で、マチュアは一言。
「後日改めてというのなら構わないわよ。ただ、それがある場所はかなり遠くてね、馬車での長距離移動になってしまうのですけれど」
「そうですか。では、改めて日程などを調整した後に連絡いたしますので、その時はよろしくお願いします。世界樹を見れる日が来るのを、楽しみに待っていますわ」
そう告げて一歩下がる。
それで謁見はおしまい、この後は市街にある貴族専用宿舎へと向かい、ロリエンタールとコキリコはそこでゆっくりと体を休める事にした。
‥‥‥
‥‥
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何よ何よ、マチュア女王って亜神じゃないのよ。
精霊王アウレオースの認めたハイエルフっていうから、どんな奴なのかなってわざわざ見に来たのに、その正体が亜神なんてとんでもないじゃないのよ‥‥。
無理無理、あんなのに喧嘩を売るなんて無謀以外の何物でもないわ。それならいっその事あの女の元に身を寄せるか、いえ、カナンと交易について色々と話し合ってみるのもいいかもしれないわ。魔法薬と魔導具についてはこの国に追従するものはないかも知れないけれど、我が国にだって古代遺跡の残した遺産がまだまだあるわよ。
それを使って交渉を持ち込めばいいわ、それに噂では‥‥マチュアって、ストーム様の親友という話ではないですか。
ああストーム様。
そうよ、あの方との接点を求めるのなら、マチュア様にも助力してもらえばいいのよ。
将を射んとすればまず馬を射よ。確か和国の剣豪のありがたい言葉だって聞いているわ、ならそれに倣う事にしましょう。
さて、明日からはこの国を色々と見させてもらう事にするわ、まずは学ぶ事。
我がブラウヴァルトが2000年以上も生き延びて来られたのは全て『学び、力とする』事を基盤として繁栄して来たから。
明日からが楽しみよね‥‥。
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翌日のカナン・馴染み亭。
「はあ。あの女王がここに来ているのかよ」
朝定食をベランダ席でのんびりと食べているストーム。
シルヴィーやカレンを伴って、何だか知らないけれど毎日朝食は馴染み亭で食べている。
「そ、そいつはまさかあのハイエルフの女王ではないのか?」
「マチュアさん、どうしてそんな危険分子をカナンに招き入れたのですか‥‥」
シルヴィーとカレンがマチュアに問いかけるが、マチュアとしても頭を捻るだけである。
「何でって、別にうちにちょっかいかけて来ないっていうし、色々と国の在り方などを勉強したいっていうんだからいんでない? そもそもコキリコ女王の出入り禁止はベルナー双王国であってカナン関係ないじゃない」
「あうあうああううう‥‥正論ぢゃ」
「ま、まあ、マチュアさんがそういうのでしたら構いませんが‥‥」
「ま、いんでないか? それで、結局サムソンまでやってきて海鮮丼作るって言っていたのに、海鮮丼は無理なのかよ」
朝食は塩締めして干したサロモンの塩焼きとみそ汁、ワイルドボアのベーコンエッグ、野菜サラダとご飯という日本の朝食スタンダード。なぜか観光でやって来た日本人には好評であり、最近は近所の宿や酒場でもこれを定番としている所が多いらしい。
「サムソンどころかカナンでも無理だったわぁ。風習として生魚を食べるというのがないばかりか、事故で死者まで出ているんだわ、そりゃあうちの所でも生魚は食べないわなぁ‥‥サムソンも無理でしょ、いくら王の勅令でも人の生活までしみ込んだ風習は変える事が出来ないでしょ?」
「そうか。せっかく山わさびと本わさびの栽培が始まるのだが‥‥じゃあ、和国まで食べに行くしかないのか。面倒臭いなぁ」
「それか日本行け日本。銀富士いって刺身定食食べてこい」
「それしかないか。まあ、今回の海鮮丼はあきらめるとしよう。それでシーサーペントはどうなった?」
「ん? 西京漬けにした」
あんたなぁ。
伝説級のシーサーペントを何で西京漬けにするかなぁ。
柚庵漬けという手もあっただろうが。
「そっか。それも朝食のメニューか?」
「そういう事。後は夜のメニューだね‥‥っと、どうやら始まったみたいだね、ソラリスとブラウヴァルトの視察が」
マチュアがそう告げて街道を見る。すると丁度目の前をカナン国章をつけた大型馬車がガラガラと走っていく。
その窓からは楽しそうなクィーンと軽く手を振っているコキリコの姿も見えていたのだが、マチュアの後ろにいるストームを見て目がハートマークになり、それに気づいたシルヴィーとカレンがそっとストームに持たれかかっているのを見て血涙を流しそうな眼をしていた。
その奥ではロリエンタール第一皇太子の姿もあり、どうやらこれからサウスカナンへと向かうようである。
「はっはっはっ。完全勝利ぢゃ」
「ええ。これで女狐退治は終わりましたわね」
「はいはい、勝手にやっとれ。それよりもマチュア、あのハルモニア王国はどうするんだ?」
「さぁ? 亜人種殲滅主義というか人類至上主義というか、うちより先にソラリスがあるのであっちとドンパチしそうだよね。まあ、うちは関係ないけれど、ちょいと後で情報集めて来るよ」
「そっか。それじゃあ御馳走様、また暇な時に顔出すわ」
そう告げて立ち上がるストーム達。
「暇な時って、明日は飯食いに来ないのか?」
「コキリコガイルンダロ、カエルマデハコナイ‥‥アノオンナハキケンスギル」
何で片言なのストーム。
そして何で目がきらきらと輝いているのシルヴィーとカレン。
まあ、そんな所に突っ込む余裕はないので、マチュアは手をひらひらと振りつつ三人を見送った。
〇 〇 〇 〇 〇
エーリュシオン・八大神神殿・創造神の間
ストームたちを見送ってから、マチュアはのんびりとエーリュシオンにやって来る。
そして創造神の間にある『無限の書庫』から、ハルモニア王国についての資料を探す事にしたのだが、それらしい書物がない事に気が付いた。
「あ、そっか、まだ新しすぎて情報がここまで届いていないのか」
「‥‥いや、司書官の元に行けばあると思うが、それよりも今日は何をしているんだ? 扉も閉めずに」
白い翼に輝く衣を纏った魔神・エクリプスが開ききった入口から覗き込んでいる。
「何って、あ、丁度いいわ、エクリプスってハルモニア王国の事知っている?」
「まあ、あの辺りの亜人が次々と虐殺されていて、俺の元には毎日クレームというか祈りは届いているがなぁ。亜人の管轄はミスティとクルーラーなので、俺の元に届くのは隠れ魔族たちからの陳情だな」
どうやら祈りは届いているらしい。
それでも神々が直接動くことはないので、だまって様子を見ているか眷属に仕事を代行させる程度しかないらしい。
「ふぅん。それで聖神シャザニアって誰?」
「あ、それか。そんな神はいない‥‥といいたい所なんだが、いるんだよなぁ」
「マジで?」
「おう。地球の神々ともたまに会議があるのでその単語は知っているぞ、マジだ」
そう告げると、エクリプスは空間収納から一冊の書物を取り出して捲り始める。
「それはなに?」
「この世界の亜神の目録な。聖神シャザニアはセフィロトの10大世界からやって来た流れの亜神で、今は現人神としてハルモニアの聖女を務めている。まあ、うまく操られて乗せられて幽閉されて力を奪われてと何だか残念な亜神でなぁ‥‥」
「あ、駄女神系か。そんな亜神が何でそんな遠い世界から?」
マチュアの言うのもごもっとも。
創造神の許可なくしてこのザ・ワンズの世界にやって来る事は原則不可能である。
もしやってくる方法があるとすれば一つだけ。
「次元潮流に乗って流れてきた場合は、天狼や創造神様でも確認不可能というのは知っているか?」
「へ?」
「へ? じゃないだろ。創造神講習会の時に天狼が説明していただろうが」
「‥‥あ、あーあーあー、忘れていたわ。ということは、そのシャザニアって他世界からの方か。どちらの方? シンGさん? LA軍さんな方? それとも四季様かしら?」
「そんな他の世界の神をなんで知っているのかは突っ込まないぞ。シャザニアはさっき話した10大世界、つまりこのザ・ワンズの世界の神だよ」
?????????
この一言にマチュアも頭を捻る。
そもそもこの世界にそんなものはない。
というかマチュアは知らない。
となると、ザ・ワンズの古い記憶にあるのか?
そう考えて深く思考を潜らせていく。
やがてザ・ワンズの記憶の中でも封じられた歴史という所に辿り着いた。
「あ、これか‥‥」
そのままゆっくりと記憶を紐解いでいくと、マチュアはとんでもない事実に気が付いた。
このザ・ワンズの8つの世界は『新世界』と呼ばれる位置に存在する。
創造神が作った8つ、破壊神が作った8つ、そして二人で作った8つの合計24の世界が『新世界』。もっとも新世界の24のうち、いくつかは滅んでいるので現在は8つ。
だが、それより昔には『旧世界』というものが存在している。
それはザ・ワンズとナイアールの二人によって作られた10の世界であるが、全て失敗作として旧世界ごと一つの結界球に封じられ、すべての創造神世界の終着点である『幻夢境カダス』に訪印されたらしい。
やがてそれはとある浮遊大陸に取り込まれ、その中で浮遊大陸のエネルギー源として吸収されてしまった。
その浮遊大陸の名前は『自律飛行型補給船ラピュータ』。
そしてエネルギー源の名前は『ダイソン球殻』、正式名称は『生命の樹』。
つまり、マチュアの見たラピュータの水晶が、シャザニアの住んでいた世界であった。
そしてその世界から逃れて神々に復讐を誓ったのがノア。
これらの先が一つに繋がったのである。
──ガクッ
その真実にたどり着いたマチュアは、その場で膝から崩れていった。
結局、この件は創造神代行のマチュアの案件でもあるという事に気が付いたのである。
「はぁ‥‥私休みたいんだけどねぇ」
「それは構わないけれど、そのセフィロト世界の魂のバランスが著しく飽和しかかっていて危険なのは理解出来るかしら?」
フラリと姿を表した冥府の女王プルートゥが、マチュアににっこりと告げたのである。
「あ、そ、そうなの?」
「こちらの世界の4つが滅んで魂が足りなくなったのは理解できるわよね? でもそれは残った4つの世界に生み出される順番を待っているのでさほど問題ではないわ。けれど、セフィロト世界は唯一私の力の及ばない世界で、あの世界独自の魂の転換が起きているの、それで結論から言うと、あの世界では死んだにもかかわらず、転生出来ずに消滅した魂がかなり存在するの。魂を取り込んで力をつけた何かがね。それが封印の外殻を破壊して全ての世界を一つにしようと画策しているみたいなのよ」
「それって、一つになるとどうなるの?」
「創造神の神威によって作られたあの球殻が破裂して全ての世界がこちらの世界に吹き出すわね。それが混ざって溶けて、やがて白い光になって消滅するわ。創造神様はそうなる事まで予期せずに封じてしまってね‥‥」
「はぁ。それってどうすればいいのよ?」
「知らない」
きっぱりと告げるプルートゥ。そしてエクリプスも頭を左右に振るだけである。
流石の八大神や死を司る亜神でも、創造神のやらかした事については判らないらしい。
元々24あった世界が現在は8つしかないのなら、後から8つ追加してもさほど問題がないようにも思えるのだが、下準備が足りないという理由があるらしい。
「そうなの。それで、その世界を管理している神は?」
「いるにはいるけれど、あの世界自体が滅びかかっていて、いつ神が消滅するかわからないのよ……魂が昇華した亜神が代行神として存在してくれれば良いんだけれど、あそこは複雑でね」
「なので、マチュアには出来ればその世界の視察をお願いしたいのだが‥‥ちっょと問題があってだな」
「‥‥嫌な予感しかしないわ」
そうマチュアがボソッと呟くと、プルートゥとエクリプスもまあまあとマチュアを宥める。
そしてその問題点について聞き出した後、マチュアは聞いた事について後悔する事になってしまった。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






