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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第13部 日常どうでしょう・リターンズ

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日々の戯れ・その15・食祭の結果と面白い国家

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 リボルトを伴って、マチュアとストームは再び酒場に戻って来た。

 丁度朝食もやって来たので頭を下げているリボルトを励ましつつ食事を終えると、マチュアとストームは普通に開港祭を楽しんでいた‥‥訂正、普通ではなかった。


「妾たちも一緒ぢゃが」

「ええ。本日は公務です、領地の視察としてやって参ったのですよ」


 おっと、シルヴィーとカレンの二大王妃も到着したようですか、いやストームと同行でしたかそうですか。両手に花というやつだが、ストーム自身はそんな事を気にしない。普通に二人に接している、実に自然な光景である。


「ヘイストーム‥‥あれは何処の帆船だ? 外洋型にしてはかなり大きいぞ。ラグナ・マリアでは見かけたこともないぞ」

「和国にもあんな大型はなかったよなぁ‥‥確か南方のどこだかの王国だったような気がするが。十年戦争であちこちの国が滅んで、生き残った人々によって新しく国が興ったりしているから、一度南方の国家とも話をした方がいいのだろうなぁ」


 目の前の波止場に泊まっている巨大帆船を前に、マチュアはホヘーッと驚いている。

 先ほどのストームの言葉を今一度噛み締めると、たしかに南方は新しく興った小王国が群雄割拠している。

 現在のウィル大陸の国は大体こんな感じらしい。


・ラグナ・マリア帝国

 ウィル大陸中央部から北方地域全てを掌握、肥沃な大地に恵まれた帝国である。


・プラウヴァルト森林王国

 ラマダ王国南西部プラウヴァルト森林地域を治めるハイエルフの王国。魔導具と魔法薬(ポーション)については他国の追従を許していな‥‥かったのだがなぁ。


・ソラリス連邦

 ウィル大陸中央部から南東地域に掛けて統治。連邦内にはベネリの乱によって滅ぼされてしまった旧マカルハマ藩国、フェルゼンハント森林王国なども含まれている。


・ワグナルド共和国

 ウィル大陸最南端の小国。南方貿易の要の国家であり、西方大陸との交易で栄えている。


・ウィル南西小国群

 かつての小王国群、今現在十年戦争前から存在していた国家は現存せず、全て新興国。ウィル大陸中南部より南方に広がっており、一時的にであるがソラリス連邦に加入していた時期もあった。


・ハルモニア王国

 ウィル大陸中西部、左脚山脈五爪連山内に位置する新興国家。



 かつての南方諸国は崩壊して新しい国が興っている。

 中でも問題なのはハルモニア王国、周辺諸国とは一切の国交を行っていない国であり、聖神シャザニアを崇めている人類至上主義を唱えている国家である。

 とくに問題視されているのは亜人撲滅を唱え、近隣諸国に対して強引なまでの政策を行っている所であろう。隣国にドワーフの王国があったが既にハルモニアによって滅ぼされており、ソラリス連邦も危険視している国である。


「しかし、サムソンの小領地の祭りにも関わらず、随分と南方国家の客人が多いのう。何か出し物があるのかや?」


 ストームの隣の席でシルヴィーが問いかけていた時、港に巨大な船がやって来た。

 帆船ではない巨大な木造船、全長は133m、全幅22mの船が動力も何もなくゆっくりと港に入って来たのである。


「ま、マチュアよ、あれが噂の船か?」

「らしいわねぇ。ソラリス連邦が発掘した魔導船『リヴァイアサン』。船体を発掘したのはソラリス連邦で、動力部はプラウヴァルトの提供だってさ。カナン魔導連邦とベルナー双王国に対抗するために作り出した最新鋭魔導船だっていう話だけれど、あれはあれで中々のものだねぇ」


 開港祭に合わせて、ソラリス連邦が他国にお披露目をするためにわざわざストームとマチュアの国を選んだらしい。ストームも快く受け入れ、マチュアは内部機関に興味津々であった。

 これでソラリス連邦の実力を市井に広め、ウィル大陸にはラグナ・マリア以外にも強大な国家がある事をアピールしたいらしい。

 やがて船が港に係留されると、ソラリス連邦第一皇太子ロリエンタールが護衛を伴って参上、そのままストーム達のいる簡易王座までやってくると膝をつけて頭を下げた。


「ソラリス連邦最新鋭魔導船の港受け入れありがとうございます」

「頭を上げてくれ。今日この日は無礼講、存分に楽しんで欲しい」

「陛下のお言葉、ありがたく頂戴します。では、ベルナーを堪能させていただきます」


 そのまま下がると、祭りは再び再開。

 楽団の演奏が始まると大広場ではダンスパーティーが始まった。


‥‥‥

‥‥


「それで、何故に妾が船内で待機していなくてはならないのだ?」


 リヴァイアサン一等客室で、プラウヴァルト森林王国女王のコキリコが執務官と同行している宮廷魔導士の二人に問いかけていた。

 リヴァイアサンの動力炉は彼女の国が提供した為、今回のお披露目にも強権発動して強引に参加した‥‥までは良かった。

 だが、船から出る事はロリエンタール皇太子によって禁じられてしまった為、半ば軟禁状態である。


「ですから、コキリコ女王はベルナー双王国に出入り禁止なのを忘れたのですか?先日のあの事件でキッパリと断られたではないですか」

「う、うむ。しかしなぁ。私も一国の女王、しかもそんじょそこらの王などと比較にもならない高貴なる魂を持っているのですよ。そんな私がなぜ、ロリエンタール如きの命令でこんな所にいなくてはならないのですか」


 そうブツブツと呟きつつ窓から外をちらっと見る。

 ちょうど斜め前の大広場では縁日やダンスなどが楽しまれており、ストームがそこに参加して楽しそうに踊っている姿もあった。


「ふっ‥‥こんなところにいる場合ではありませんわ。ストーム様がいるのですわよ? このチャンスを逃す事など私には考えられませんわ‥‥」


 スッと立ち上がって部屋から出ていこうとするコキリコだが、扉に手を掛けた瞬間に弾き飛ばされてしまった。


「神威を封じる古代の結界とは‥‥ロリエンタール恐るべしですねぇ‥‥」

「はっ。まことに申し訳ございません。ラグナ・マリアとの通商条約締結の際にも、コキリコ女王のベルナー双王国への入国はしかと禁じられております故、これを破られると戦争になってもおかしくはないのです‥‥何卒民のためにご自重くださいますよう」

「‥‥ふん。そこで民を出すとはずるいわね。いいわ、私はここからストーム様を愛でる事にしますから‥‥」 


 そう呟いて窓辺に椅子とテーブルを動かすと、コキリコはのんびりとストームを見つめていた。



 〇 〇 〇 〇 〇 



 そんなこんなで最終日。

 開港祭の閉会式典がストームの宣言によって無事に終わり、食祭の結果発表となった。


「それでは今年度の食祭第3位の露店から‥‥第3位、カナン馴染み亭出張所です」


 ウワァァァァァァァァァァァァァァァ

 拍手喝采。

 いきなり名前を呼ばれてマチュアは周囲にペコペコと頭を下げている。

 そもそも1位が取れるとは思ってもおらず、3位に入れただけでも良かったと安堵している。


「続いて第二位、和国のうなぎ屋本舗っっっっっ」


 2日目に参加していたらしい和国からの出店。特製のウナギのかば焼き一つで勝負をかけたらしく、その匂いと味でかなり大勢の客を捉えていた。


「うん‥‥あそこのは美味しかったんだわぁ。さすがにウナギとか専門分野では勝ち目ないんだよなぁ」

「そうなのか? マチュアならウナギのかば焼き程度作れるかと思ったのぢゃが」

「これこれシルヴィー、私にそんな期待されても困るわよ。ウナギの目利きだって難しいし、そもそもあの秘伝のたれは同じものを作る事なんて出来ないんだからね」


 などとマチュアとシルヴィーが話していると、1位の店が紹介されていた。


「そして第一位、まさかの和国からもう一つ。クジラ屋という鯨料理の店が今年度の優勝となりましたぁぁぁ」


 まさかの鯨料理。

 このサムソンで鯨なんて取れるのかという懸念もあったのだが、じつは数日前からシーサーペントに追い立てられて流れてきたものがいたらしい。

 それを捕えたものを丸々買い取った和国の豪商が参加したらしく、鯨の竜田揚げとステーキ、そして鯨の腸の詰め物(百尋)という珍味で優勝をかっさらったらしい。


「鯨とは知らないのう」

「おいマチュア、鯨だ、鯨のステーキだハリハリ鍋だ、何とかならないか?」

「シルヴィーもストームも落ち着け。カレンを見なさい、ちゃんと背筋を伸ばして‥‥って、カレン、口元に涎が」

「あらら。これは失礼。それでマチュアさん、鯨の料理は作れるのですか?」


 この食いしん坊王族が。


「鯨はないから無理。日本からも持って来れないからね、そんでもって代用としてシーサーペントならあるからそれで我慢しなさい。明日にでもうちの店に来たら作ってあげるから」

「「「おう(なのぢゃ、ですわ)」」」


 にこやかに笑うストーム達。そしてマチュアは壇上に呼ばれると、今日から一年間の露店出店料無料という副賞を受け取ったのである。

 そして後夜祭が始まる。

 といっても後夜祭は騒がしいものではなく、日が沈んでから領民や祭りに参加した客たちが港に集まって鎮魂歌を歌うというものである。

 海で亡くなった者たちに祈りを捧げる、港町ならではの後夜祭。

 そしてそれが終わると、みな帰路につく。

 明日からはまた、いつもの日常が始まるのである。 


‥‥‥

‥‥


 深夜の波止場。

草木も眠る丑三つ時ではないが、酒場の喧騒がまだまだ残る夜、波止場がやたらと騒がしくなっていた。


「はっはっはっ。これも我らが神に対しての寄付と思えば良い。亜人種の国を属国とするなど、我らが神である聖神シャザニアの教えに反する行為。それをお布施を支払う事で罪が消えるのですぞ?」

「ふん。その聖神シャザニアとはどこの神だ?我らが世界には八大神とそれを統治する最高神、そして八大神の眷属たる神々のみ、そんなシャザニアだかシャザーンだかという神など存在せん。ハルモニアは存在しない神を讃えて亜人種を淘汰しようとしているのではないか」


二つの勢力が波止場で言い争っている。

純白の法衣を身に纏い、太陽のような聖印シンボルを身に着けているハルモニアの司祭達と、ソラリス連邦から魔導船に乗ってやって来ていた家臣団が衝突している所であった。


「はっはっはっ。その最高神こそが聖神シャザニアそのものである。つまり八大神を崇め奉っている国は、その頂点である我が国の教えに従う義務があることも知らないとは‥‥情けない」

「なっ、何だと。そのシャザニアとやらが最高神であるという証拠は何処にあるというのだ?」

「我が国の国王であるフランシスカ・ラナ・レディオン様が神託を受けた。それが絶対なる証拠である。我が国にはシャザニア様より賜った神器も存在する。そして神は言われた。この世に存在するすべての不浄なる種族に滅びを与えよと‥‥そのためにも、ソラリス連邦はこの魔導船を献上しなくてはならない。判ったかな?」


 それだけを告げて船体横に設置されているタラップに上ろうと進み始める。が、魔導船の護衛をしているソラリス連邦の騎士団はそこを一歩も譲る気はない。

 同時にハルモニアの司祭たちも杖を構えて臨戦態勢を取る。

 既に両者ともに一触即発というところであったが、そこに騒ぎの報告を受けたストームとマチュアがやってきて、更に混乱の坩堝に入りそうである。


「あー、こんな夜中に一体何の騒ぎなんだ?」

「取り敢えず暗いから灯りつけるわよ、光球ライトっ!!」


 すぐさまマチュアが光球ライトの魔法を唱えると、魔導船の直上に明るく輝く光の玉を生み出した。

 だが、マチュアが姿を現し、そして魔法を使ったのを見て司祭たちはワナワナと震え始めた。


「こ、この亜人が、我らが神聖なる魔導船に汚らわしい魔法を使うなど言語同断っ」

「聖神シャザニア様の名の元に、貴様を駆逐してくれるわっ」

「覚悟しろっ!!」


 叫びつつ司祭たちは杖を構えて詠唱を始める。だが、どう見ても神聖魔法第一聖典の『光弾ホーリーブリッツ』、それも魔障(マナ)の練り込みも少なく威力もそれほど感じない(マチュア感想)。


──シュシュシュシュシユンッッッ

 次々と飛来する光弾ホーリーブリッツを普通に対魔法障壁アンチマジックシェルで押しとどめるマチュア。その姿に司祭達も怯むが、責任者らしい司祭はマチュアを軽く一瞥する。


「このエルフ風情が、シャザニア様の申し子であるフランシスカ様のご意向に逆らうとは‥‥無礼である、そこに跪くがよい!!」


 声高らかに叫ぶ司祭だが、マチュアは何も動じることはない。

 ただ、その司祭の声に載せられた『隷属』の術式にやや笑いを浮かべている。

 

「はぁ、なるほどねぇ。亜人限定で起動する『隷属の術式』かぁ。力の源はその胸元の聖印で、シャザニアの司祭は全ての亜人を隷属化の術式で縛り上げて無抵抗のうちに殺していたのか‥‥成程からくりが判ればあっさりだわ」


 一つ一つ種明かしをするマチュアだが、司祭は動揺の色を見せる事なくマチュアを睨みつける。


「ほほう。シャザニア様の御威光が届かぬ無礼な存在め。我が自ら引導を渡してくれるわ」

「だからそのシャザニアって誰よ。聖神? そんなものいる筈ないじゃない‥‥」

「なっ、何だと‥‥まあ、貴様のような下等な亜人にはわかるまい。至高にして最高である我らが神の存在を‥‥」

「だからいないの。八大神の上に存在するのは創造神であるザ・ワンズ只一人のみ。かつて破壊神と呼ばれていたナイアールも今はいないの、ついでに言うなら、シャザニアなんていう神は存在しない、これが絶対。わかる? リピートアフタミーって感じよ」


 やれやれと呆れたように説明するマチュア。そして司祭たちは責任者の元に駆け寄るが、責任者である司祭は動じる事もない。


「やれやれ。これだから無知な亜人は‥‥まあいい、この国の王であるストーム殿まで出てきている以上、これ以上の騒ぎは無用としますか。では皆の者、帰還しますぞ‥‥見よ、これこそがシャザニア様のもたらした神の奇跡なり!!」


──ブゥゥゥゥゥン

 司祭の叫びと同時に彼らの足元に魔法陣が浮かび上がる。

 そして司祭たちは一瞬で姿を消した。

 魔導船を警備している者たちはその光景に体を震わせているが、マチュアとストームだけは動揺どころか呆れている状態である。


「ただの集団転移じゃねーかよ。実につまらんわ」

「必要魔力250、第5聖典の集団転移ねぇ。発動媒体というか、多分あの聖印にその能力が付与されているんだよなぁ‥‥あいつらの魔障(マナ)って、神聖魔術寄りみたいだからさ」

「へぇ。それでラグナ・マリア帝国の白銀の賢者としてはどうするつもりだ?」

「無視。被害者はソラリス連邦のこの船なので、皇太子殿がどうにかしてくれるんでしょ?」


 そう船の上でマチュアたちを見ているロリエンタール第一皇太子に向かって問いかけると、ロリエンタールは軽く頭を下げていた。


「騒ぎの大元がハルモニアで、理不尽な物言いでこの船を接収しようとしている事は理解した。後は我がソラリスとハルモニアの話し合いとなるでしょう。無用な血を流さずに済んだ事を両陛下には感謝します‥‥」

「だってさ。そんじゃこれでお終い」

「とマチュアが言っているので、俺もここで引くとしよう。ただし‥‥ラグナ・マリア帝国に飛び火するような事になったら、どうなるのかは理解しているよな?」


 軽く覇気を伴って告げるストームに、ロリエンタールは数歩下がりそうになるのをぐっと堪える。

 これが本当の王がもつ覇気であるとロリエンタールは理解し、そして丁寧に頭を下げた。


「そうならないよう、我が王に伝える事にしますので。それでは失礼します」

 

 ロリエンタールが船室に戻って行くのを見て、護衛の騎士達も甲板とタラップに戻って行く。

 そしてマチュアとストームもそのまま宿に戻ると、やや寝不足になりそうな体をゆっくりと休める事にした。

 


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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