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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第13部 日常どうでしょう・リターンズ

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日々の戯れ・その14・開港祭と食祭と面倒くさいやつ

 ヴィマーナでのシーサーペントの仕分けも無事に終わり、マチュアは港に戻って来た。

 騒動に巻き込まれないように取ってあった宿の部屋に転移で戻って行くと、すぐさま露店の準備の為に町の中を走って行く。

目的であった場所までなんとか辿り着くと、調理魔術で『簡易厨房』を生み出して予め仕込みの終わっている寸胴を次々と温め始める。

それと同時にたっぷりの油を用意してアジフライを揚げ始めると、辺りにはパン粉の揚がった香ばしい香りが漂って来る。

寸胴からはブイヤベースの甘い香りも立ち始め、通りを歩く人々が振り向き始めた。



「こんにちは。本日こちらの店の担当となりましたレンと申します。昼の鐘から夕方の鐘までが勝負時間、その間に売り上げた商品の数で競ってもらいます」


商人ギルドから派遣されてきた公式審判員の少女が丁寧に挨拶。ルールは確認してあるので問題はない。

一つの露店につき一日のみ、正午から夕方までに売り上げた数で勝負する。

一つの露店で出すことのできる料理は三品まで、店内には二人までの従業員が認められる。

そして開港祭期間の3日で、どの露店が一番人気かを競うというものである。


「ほいほい、今日は宜しくね。まあ、まだ時間あるから腹ごしらえでもしますか」

「え?宜しいのですか?」


やや遠慮気味なレンの目の前に、別に温めておいたホワイトカレーを差し出す。

和国まで行って大量に仕入れてきた米を丁寧に炊き上げ、この港町で購入した海鮮をふんだんに使ったカレーを掛ける。


「どうぞ。これは品切れになった時の予備だから遠慮しなくていいわよ。熱々の内にね」

「はい!それではいただきます……うま!!」

「馬じゃなくてシーフードだけどね」

「違いますよ。美味く……いや美味しくて美味しくてもう最高です。こんな珍しい食べ物初めてですよ、これは何ですか?」


問われたら答えよう。

別に秘密にすることなどないので。


「ベースはクリームソースでね、西の大陸の香辛料をふんだんに使っているのよ。下のライスは東方の和国原産の米を炊いたもので、自分で船を持っていないととてもじゃないけどこの値段でなんて出せないわよ?」

「え?香辛料?」


あ、そこに食いつきますか。

まあ、マチュアの場合は調味料創造シーズニングクリエイトという魔術があるのでいくらでも大量に作ることができる。


「そうよ。香辛料を使っているわ。だからこれは予備、最初の二つが売り切れたら出すの。それでこっちがメインね。ブイヤベースとアジフライサンド。これも食べていいわよ?」

「は、はひ、いただきまふ」


高級食材である香辛料が使われると聞いて、レンはやや興奮気味である。そこにブイヤベースとアジフライサンドが加わり、もう至高の昼食となった模様。

熱々のブイヤベースをハフハフと頬張り、揚げたてのアジフライサンドをサクサクと味わう。

匂いと音、そしてレンの美味しそうな表情で周囲からマチュアの露店を見ていた客たちはゴクリと喉を鳴らしている。

早く。

昼の鐘はまだか。

ワクワクそわそわする客が周りに集まりつつある中。


──ゴーン……ゴーン

ゆっくりと鐘が鳴り響く。

さあ、食祭の始まりだ。

各露店が一斉に販売を開始、大きな声での客引き合戦が始まった。

だがマチュアはマイペース、一人で木製のボウルにブイヤベースを注ぎ、同じく皿にアジフライサンドを並べていく。

出来た先から次々と手渡し、会計を済ませる。

ラグナ王都で体験した露店の技術がそのまま磨かれ、さらに上達している。

途切れる事なく売り続けていると大体四時にはブイヤベースは販売終了、そこから切り札のホワイトカレーの出番となった。


「ブイヤベースはおしまいです。ここからはホワイトカレーを販売します。アジフライサンドはまだまだありますのでどうぞー」


それだけを告げて、更に露店の回転率は加速する。

先にブイヤベースを食べていた客もホワイトカレーを食べるのに戻って来ており、残り時間二時間で全ての露店がデットヒート状態となっていた。


──ゴーン……ゴーン……

そして虚しく終了の鐘が鳴る。


「それではここまでの集計とさせていただきます……って聞いてます?」

「ん?聞いてるよ。ここから先は集計しなくても売っていいんだよね?」

「あ、それは構いませんが、他のお店は次々と閉めていますよ?原価とか大丈夫なのですか?」


そのレンの言葉にマチュアは周囲の露店を見渡す。

確かにどこの露店も夕方の鐘の音と同時に火を落とし閉店しているのが見えている。

食祭に合わせて仕入れをしていたのか、はたまた採算度外視で優勝を狙ったのか定かではないが、次々と露店を片付けているのが見えていた。

そして退去した跡地には明日の食祭参加者がやってきて明日の準備をしている所もある。

ルール的には朝一からの準備なので、別にマチュアがこのまま営業していても問題はない。


「まあ、うちは赤字にならないから大丈夫だよ。という事でお待たせしました、ホワイトカレーとアジフライサンド三人前ですね」


にこやかに営業を続けているのだが、やはりこの手の大会には勘違いした奴が湧きだすのは必然なのだろう。

マチュアの露店でも、先程カレーとアジフライを購入した貴族がやって来た。


「貴女、名前はなんというのかしら?」

「は?マチュアだけど?」

「では明日から私の屋敷で料理番をする事を命じます。ワグナリア共和国のオータム侯爵家に仕えられる事を光栄に思うのです」

「成程、謹んでお断りします。まだお客が待っているので買わないならどけてくださいますか侯爵様」

「そうでしょうそうでしょう。侯爵家に仕えられるのですから……っめ、今なんて言いました?」

「断る、そして邪魔。買い物しないならとっととどいてくださいますか侯爵様」

「な、なな、何と……何と無礼な」


わなわなと震えつつも横に退いたのは褒めてやろう。

そのままマチュアは営業を続けるが、やがて勘違い貴族その二もやって来た。


「そこの貴様。明日から我が伯爵家で雇ってやるから光栄に思え。貴様の仕入先も全て教えろ、そして我がサンフラワー伯爵家に仕える事を光栄に思うが良い」

「あ、仕えませんし光栄にも思いません。それであなたも仕事の邪魔なので横に退いていただけますか?」

「き、貴様、俺が誰か知っての所業か?我輩はソラリス連邦ハーゲンダッシュ王国のサンフラワー家だぞ?」

「何だか美味しそうな名前ですが、今は仕事中ですので。あなたも執務を邪魔されたら怒りませんか?」

「う、うむ……」


そう呟きつつサンフラワー伯爵も横に移動する。

その後も何件かの貴族がやってくるが、やはりマチュアを料理番として召しかかえるだの、香辛料の仕入れ先を教えろだなどという理不尽な申し出ばかりである。


やがて最期のホワイトカレーを売った時点で本日の営業は終了。後は明後日の結果発表を待つばかりである。


「さーて、そんじゃ宿にでも帰りますか」

「「「「「「待て待て待てぇぇぇ」」」」」」


露店の横で待機していたひまな貴族御一行の魂のツッコミ。


「あ、すまなんだ、すっかり忘れていたわ。それで、私をこき使いたいと?」

「一介のエルフでは侯爵家に仕える事など出来まい。貴様はその栄誉を得る事が出来たのだ」

「我輩はあのソラリス連邦の貴族である。こんなラグナ・マリアの辺鄙な街よりもよほど良い生活が出来るぞ?」

「何をいうか。我はこの地より西方の地より参った。どうだ、こんな辺鄙な大陸よりも面白いものがあるぞ」

「俺はこのラグナ・マリアのラマダ王国に所属するリボルト・バルストラ辺境伯だ。この地に住む以上は、王家に逆らう事など出来はしまい。すぐに荷物を纏めろ」


言いたい放題の貴族様達でございます。

なのでマチュアもため息を一つ。


「はぁ……あんたらのような一方的な物言いの貴族はもう飽きたわ。それよりもリボルト、テメェは後でライオネルから説教な。あのアホ王はなんで通知を徹底していないかなぁ……」

「き、きさま、我が主君に向かってアホだと?衛兵よ、このものを捉えよ!!王家に対しての不敬罪である」


慌てて近くの騎士達に向かって叫ぶリボルトだが、騎士達は困った顔をしている。

するとリボルトの後ろから彼を擁護するような声が聞こえてきた。


「お、そこのハイエルフを捕まえたらいいのか?」

「そうだ、騎士達は何をしている。貴様は王国に忠実な騎士……だ……え?」


リボルトの振り返った先にはストームがのんびりと立っている。

右手にはうなぎの蒲焼、左手には和酒の入ったカップが握られていた。


「サムソン王、いや、わざわざストーム王が出向くことはございませぬ。この者は私が今、この手で切り捨ててご覧に入れます!!ラグナ・マリアに対する不敬罪でございます」

「だそうだが、マチュア、お前何かやらかしたか?」

「何もしとらんわ。勝手に誤解して勝手に暴れているだけだ。周りの貴族は、私の料理が美味しいから召しかかえたいんだとさ」


その説明をふぅんと聴いているストームだが、リボルトは真っ青な顔になっている。


「え……ストーム王がマチュアと呼ぶ存在と……え?カナンの魔導女王で御座いますか?」

「その通りでございますが、ちゃんと通達見とらんのか?私が商人の時は普通に接しろと、だけどいきなり不敬だなんだと切り捨てられるいわれはないんだがなぁ。あ、跪くなよぶっ飛ばすぞ?」


そのマチュアとリボルトの言葉に、他国の貴族もえええっと驚きの表情である。


「あ、あの、魔導女王とは知らず飛んだご無礼を」

「この首を差し上げても許させない不敬、何卒お許しを」

「ああ。我が家にはまだ幼い子供達がありまする。どうか打ち首だけは……」

「何もせんわ、あんたたちは私の料理が美味しいと言って食べてくれていたじゃない。それが最大の褒め言葉だわさ。まあ、ここで立ち話をしているとストームのとこの領民が落ち着かないから酒場に行きましょ?」


………

……


場所は変わってマチュアの泊まっている宿の酒場。

その一角だけは不思議な光景に包まれていた。

近隣各国の貴族とラマダ王国の辺境伯、そしてストーム王とマチュアという立場からすると不思議な面々が、楽しそうに食事をしている所である。


「うわ美味いわ。これなんじゃ」

「ふふん。ストームも知らないだろ。シーサーペントのムニエルだ。スモールドラゴンの肉と同じ価値があるらしい。って、貴方たちも遠慮なく食べなさいよ」

「し、しかし、目の前にラグナ・マリアの剣聖殿と賢者殿がいては……」

「あの、冷めたら怒るよ?」


その一言で全員が一口。

するとその味わいに驚き、テーブルに並べられている食事を次々と食べ始める。


「まさか陛下の趣味が料理とは。それも下々の元で作っているとは」

「その下々のってやめなさいよ。私も元々は普通のハイエルフ、みんなと同じ命を持っている平等な存在なんだよ?女王だからみんなより偉いって言われるとうーんって思うけど、食べている時はみんな平等……って、ストームは少しは遠慮しろ?」

「ん?誰が遠慮するものか。それよりもさっきからずーっと真っ青な顔のこの子は誰だ?」


ふとストームに突っ込まれて、マチュアは真横に座っているレンを見る。


「何で私がここにいるんでしょう罰ゲームですか?いえ最近はちゃんと仕事していますよ。まあたまに遅刻したりしましたけれどこんな罰ゲームはないかと思いますギルドマスター早く助けてください国王ズが私の左右にいます目の前には隣国の伯爵や侯爵や辺境伯もいらっしゃいます私は庶民代表ですかそうですか美味しそうな料理が並んでいますけれどこれって私が食べていいものではないですよね一皿で白金貨一枚って言われそうですよええマチュア女王自らの手作りだそうですっていうか何で私が女王陛下担当の審判だったのでしょうか……」


「あ、壊れとる。そんじゃストームよろしく」


──スパォァァァァーン

斜め上から軽くハリセンで叩く。

その一撃でレンは現実に帰ってきた。


「はっ、これはストーム王、それにマチュア女王まで……って、これは失礼しましたストームさんとマチュアさん」

「「遅いわ」」


決まりを思い出したのは良いが、ちょいと遅かった。

その二人のツッコミで場がかなりほぐれると、その晩はマチュアの奢りで酒場全体が貸切状態となった。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



翌朝。

貴族様御一行は日が変わる前にそれぞれが宿に戻っていった。

ストームは部屋を取って一休み、マチュアは元々宿を取っていたので問題なし。

レンは早くから昨晩の報告に向かったらしく、今頃どうなっているか見ものである。

そして酒場の片隅で一人、死んだように蒼白になっているリボルト辺境伯。


「ふぉぁぁぁ。朝ごはんお願いします〜」

「あ、俺もだ……っ、更に一人分追加な」


のんびりと階段を降りてきたマチュアとストームは、すぐさまリボルトの座っている席に移動する。


「おはようさん。その顔だとよく眠れていないよなぁ」

「ちゃんと寝ないと体がもたないぞ?」

「い、いえ、私の処分はどうなるのでしょうか?」


ガクガクと震えるリボルト。だがマチュアは頭を軽く捻る。


「何の?」

「不敬罪です。一国の女王に、しかもラグナ・マリアの英雄である白銀の賢者に対しての不敬となると私の命だけでは足りませぬ。ですが何卒家族にだけは、どうか……」

「マチュア、最低だな」

「あ、あのなぁ……辺境伯って言うからはしっかりとした仕事していたんだろうなぁと思ったが、硬いわ、ハードだわ。ストームちょいと付き合え」

「あ、行くのか?」

「おうさ。でないと落ち着いてご飯食べられないわ」


そう呟くと、マチュアはストームとリボルトの肩を掴んでラマダ王国謁見の間に転移する。


──シュンッ

到着先の謁見の間では、ライオネルが朝の謁見を行なっている最中である。

丁度貴族らしい男性がライオネルにゴマをすっている場面に出くわしたのだが、ライオネルはマチュア達の姿を見てニイッと笑う。


「すまんなガゼル、急ぎの用事だ貴様の件はまた今度ということで」

「は、はぁ。では失礼します」


残念そうに頭を下げるガゼル、そのまま謁見の間を出て行くのを見送るとライオネルはマチュアたちに手を叩いた。


「良いタイミングだ。あの男はとにかくごますりでワシとしてもうんざりしていた所なのだ。しかしマチュアとストームはわかるが、何故にリボルトまで?貴様は確かサムソンの開港祭に客人として招待されていたのではないか?」

「は、はっ、その通りでございます」

「まあ、何かあったのか説明するけど、軽い処分。もないような気がするんだけどなぁ」


その後はマチュアがカクカクシカジカとかいつまんで説明。するとライオネルは力一杯、自身の膝をパンパンと叩きながら笑っていた。


「あーそうかやらかしたか。それでマチュアに説教されたか。ならいい、今後は気を付けろよ?」

「そ、それで良いのですか?王家の方に対して、その正体を偽っていたとはいえタメ口どころか料理人として召しかかえるとまで……この失言、この首一つで許されるなら」

「そんなんいらんわ。そもそもその程度の話で首一つなら、カナンの町の中は死体で溢れているわ。貴方が王家に対しての忠誠心が高いのは分かるけど、商人の時の私は商人として接しなさいって、これはライオネル、あんたが周知を徹底していないからだろ。お前罰ゲームな」

「まあ、そうなるな。という事でライオネル、罰ゲームとして俺とタイマンな、真剣勝負な」


その話でライオネルもハァ、とため息ひとつ。


「ストームと真剣勝負って、それは処刑だろうが。お前達が平穏のんびりと行きたいのは理解している、この件は俺が収めるから引いてくれ」

「ん、ならライオネルの領地に異世界ギルド立てるからな、異世界からの訪問客の受け入れ準備しろよ?」

「それが言いたかっただけだろ。わかったわ。ならリボルト、貴様は異世界ギルドの建設と運営に協力しろ、それで全て不問だ」


そこが落とし所とライオネルが告げると、リボルトは深く謝罪した。

そして用件はそれで終わった事を告げると、マチュアとストーム、そしてリボルトは再び港町へと転移していった。


「あ、俺も連れていって貰えばよかった……」


ここの王様も大概である。



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