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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第13部 日常どうでしょう・リターンズ

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日常の戯れ・その10・期間限定移民をしよう

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 コミコンが無事に終わって。

 相変わらずサムソンでは真央と善がのんびりと特訓を続けている。

 ルーンスペースの国会議員達もサムソンを訪れては色々と異世界について学んでおり、以前のようにカリス・マレスを植民地化しようと考える派閥は減りつつあるようで。

 という事でマチュアはフェルドアースの執務を再開。マチュアは大使館宛に送られて来た苦情のファックスの山を見て思わず苦笑してしまう。

 匿名で送られてきたコミコンでの徹夜組結界作戦についてのクレームファックス。どれもこれもやり過ぎであるとか買えなかった責任をどうするのかとか兎に角自分本位でのクレームしか存在しない。

 更に中にはマチュア殺すだの大使館に火をつけるだのといったものまでやって来ているので、マチュアは丁寧にファックスを仕分けして、危険と判断したものは隣の豊平警察署に提出した。

 後は警察に任せて知らんという事で、マチュアはのんびりと近所の札幌ドラ焼きを抱えて戻って行く。


「‥‥まあ、この程度の量ならむしろ予想の範囲内ですねぇ。この五倍は覚悟していましたよ」

「あ、そうなの。でも徹夜組には怪我人も病気も出なかったよ。現地で魔術治療したのは5人程いたけれど、ぶっちゃけ今回の件は警察にも協力してもらったからねぇ」

「中には逮捕・監禁罪って騒いでいる輩もいるようですが」

「そもそも奴らは私からみれば規約違反者で軽犯罪者だ。それを捕らえてから、何気なく説教だけで帰してはいお終いなんて他の人間が許す筈ないだろうが‥‥。真面目に朝やって来た人間が、違反者のせいで馬鹿を見るなんて神様が赦さないから私も赦さない」

「どういう理論ですか‥‥でも、古屋もこれで反省したでしょうね。毎回徹夜組に参加していたらしいですから」

「まあ、古屋については説教だ。という事でこれが今回のコミコンで私が貰って来たグッズ一式です。各企業ブースにあいさつ回りしてきた時に貰って来た。くれるものは貰うし、私からも色々とプレゼントして来たからねぇ」


 そう説明しつつ広げたものは当日限定グッズの山、山、山である。

 これには事務局のオタ連中も目を丸くし、ゴクリと喉を鳴らしてしまう。


「ま、マチュアさん、それどうするのですか?」

「ぶっちゃけいらないんだよなぁ‥‥」


 空間収納(チェスト)から段ボールを取り出すと、そこに普段使い出来る物とコレクターグッズに分ける。それをそのまま空間収納(チェスト)に仕舞い込むと一言だけ。


「ま、大使館イベントの商品に出しもするよ。納涼ビンゴ大会とかね‥‥それにしよう、そうしよう」

「ま、待ってください、今のアイテムの価値が判っていますか、ファンなら垂涎のグッズばかりなのですよ?」

「うちの商品だってファンが見たら飛びつく代物だぞ? それも混ぜてビンゴ大会の商品にする。ということで、ちょいと文化交流部いってくるわ」

「はいはい、お手柔らかに」


 三笠にそう言われて、手をひらひらと振りつつマチュアは文化交流部へと向かう。

 そこには休み明けでボーっと席に座って書類を眺めている古屋の姿があった。


「よう古屋、何か言いたい事はあるかね?」

「イベントですよね‥‥もう長年行っていて感覚がマヒしていましたよ。欲しいものがあったら徹夜するのが当たり前、どうせ法的拘束力はないって慢心していました‥‥申し訳ありません」

「あっそ、なら次から気を付けるように、以上これでおしまい。今週末の町内会の納涼ビヤガーデン、うちからもビンゴ大会の景品出すので管理頼むよ」


 そう告げて先ほど仕分けた段ボールをどがっと机の横に置く。

 それを見て古屋は目を輝かせていた。


「こ、これは?」

「これ、適当に袋詰めして景品にするから、それ頼むね」

「マチュアさん鬼ですか? 俺がどれだけこれを欲しがっていたのか‥‥」

「まあ、ちゃんと管理していれば、少し持って行っていいよ。良心の範囲内でね‥‥ってこれこれ高島、そーっと手を出さない。ペシペシ」


 こっそりと段ボールに手を伸ばす高島の手を叩く。そして古屋に書類を手渡して軽く笑う。


「そんじゃよろしくな、こっちが町内自治会の連絡先で、ここに持って行ってあげてね。うちからはこれ以外にそこに書いてあるものを出すので、ちゃんと仕分けして目録だけ提出してきて、物品は当日古屋が管理してちゃんと手渡す事。まあ、うちの町内で悪さする奴はいないと思うけれど、誰だって魔が差す時があるからさ」

「了解しました。ではこの仕事引き受けましたので」


 先程とは違い古屋の瞳に生気が戻って来た。これでここは大丈夫とマチュアは事務局に戻って行く。

 そして卓袱台に座って自分の仕事を考えてみる。

 富士総火演は月末だし今年はゲスト参加しないので関係なし、週末のお祭りは任せた、諸外国からのカルアドおよび転移門ゲート設営対処も一段落している。

 という事は、特にマチュアが騒がない限りは仕事はない。


「あ、三笠さんあたし暫くカナンに戻るので。グランドカナンの移民の件で、色々と詰めて来るわ」

「という事は日本大使館の棚橋さんですか、いってらっしゃい」


 そう告げてマチュアはホワイトボードに『グランドカナン出張、直勤直帰』と書き込んで転移門ゲートに向かって行った。



 〇 〇 〇 〇 〇



 グランドカナン、日本人町。

 北海道の都市開発をベースとして、一辺が109mの正方形の区画を9つ。9丁という区分で作り上げてある。

 交差する道の角には共用井戸も設置されており、中心部分になる5丁目には商店街も設置した。

 商店街にはカナンの商人が入る予定であるが、希望者がいればそこで自分の店を持ってもいい事になっている。


 そこを箒でのんびりと飛んでくると、ちょうど棚橋大使と蒲生さんが立ち話をしているのでマチュアもそーっと近寄って行く。


「‥‥ここに警察を置きたいよなぁ。でも、警察なんてないだろう?」

「ええ。自警団かもしくは騎士団の詰め所になります。消防設備がないので火については気を付けなくてはなりませんけれど、それも申請する必要がありますか」

「そうだなぁ。早いところモデルケースとして作っちまえば後はあの法案通してお終いなんだけどよぉ‥‥肝心のマムが最近留守でな」

「留守ちゃうよ、上にいるよ?」


 二人の頭上でプカプカと浮いているマチュアに、突然声を掛けられた蒲生と棚橋は慌てて見上げてしまう。


「何だそこにいたのかよ。マム、ちょいとこれを見てくれるか?」

「へ? 何々?」

 

 スーッと高度を下げて蒲生が手渡した書類を見てみる。そこには『短期移住プロジェクト』という文章が記されていた。


「何これ? はぁ、リタイアメントピザの応用ですか」

「そういうこと。まあ定年後に異世界に移住、ではなく期間限定で引っ越しするっていう計画だな。国籍は日本のままで一年、こっちにきて暮らしてもらう。日本に行く場合は有料で異世界渡航旅券パスカードを購入してもらい、それ以外はこっちで全て賄ってもらう。それで一年間過ごしてみて、問題なかったら移住の許可を出してみようっていう計画さ」


 ふむふむとマチュアは何度も読み込んでみる。が、特にこれといってカナンに不利益は存在しない。

 こっちにいる間は普通に税金を払ってもらうのだが、年に一度の税金なので移住時点で費用に組み込む。

 後は全て自費、但し仕事で日本に通勤する場合は異世界渡航旅券パスカードを定期券として購入してもらう必要がある。

 その金額や、何十万ではとうてい足りないだろう。

 観光でもっとも安い金額で片道2万円×週6日×4週×12か月。

 定期券割引してもざっと年間500万の高額定期券の出来上がりである。


「こちらに移住してきた時点では、まだ日本大使館の庇護を受ける事が出来ますが、代金の建て替えなどは一切行いません。こっちに来たらこちらのルールに則って生活してもらいます。どうでしょうか?」

「いんでない? このまま進めても」

「それでお願いがありまして、交番が欲しいのですよ」

「あ、騎士団詰め所は作るよ。グランドカナンもカナンだし、人が住む所に詰め所は必要だからさ」

「後、火事になったりした時はどうすればいいのですか?」

「それも騎士団と、後は住民で頑張れ。消防車なんてないよ? 魔法で水が作れる者は自分で作ればいいし、その為に魔術師を派遣する事なんて私はしないから‥‥」


 そこは自己責任と説明するが、実際は火災が起きたら近所から冒険者ギルドに報告が入り、そこから水系魔術が使える者が有志で飛び出すようにはなっている。

 ただ、グランドカナンには冒険者ギルドはないので、そこは住民でうまく対処してもらう必要がある。


「それじゃあマム、そういう事で便宜を図ってくれや。こっちもそろそろ異世界移住についてせっつかれているからな」

「それはあんたのとこの議員が悪い。うちはいつでもいいっていっているじゃない‥‥」

「まあそうなんだがなぁ」


 ばつが悪そうに頭をポリポリと掻く蒲生。

 そしてマチュア達は一度この話を纏めるのに馴染み亭に移動し、深夜まで細かい所まで打ち合わせを行っていた‥‥。


‥‥‥

‥‥


「おい、今の話聞いたか?」

「聞いた聞いた。察するにグランドカナンのあの町の話だろ、どうやら日本人が引っ越してくるらしいぞ」

「それなら急ぎ、うちの商会も出店しないとなぁ。日本人は金持っているから、ちょっと高額なものでも飛びついて来るだろうさ」

「そうだな。うちは薪を扱っているから出店したら大儲けだ、それにハガー、あんたの肉屋だってそろそろ息子に後を継がせたいって言っていただろ、ここは心機一転、グランドカナンに出店させたらどうだ?」

「それもいいのう。うちのバカ息子にこっちは任せて、わしがグランドカナンに行くとしよう。どうだ、うちらである程度値段をコントロールしてみては、そうすれば大儲け間違いなしじゃ」

「ちがいねぇ」

「「「「わっはっはー」」」」


 マチュアたちの馴染み亭での打ち合わせにこっそりと聞き耳を立てていた近所の商店街のおっちゃんたち。

 そろそろ新しい儲け話をと話し合っていたところに突然、餌がぶら下がって来たのである。

 そして別の席では商人ギルドの副ギルド長も聞き耳を立てており、これは一大事と急ぎ会計を終わらせてギルドに走って戻っていった。

 尚、それら全てがマチュアの作戦であり、『グランドカナンに日本人の町が出来る』という噂を先行して走らせる為であった。

 これで必要なインフラは勝手に集まってくる、

 後はそこから優良店を選抜すればいい。

 それは商人ギルドの仕事であり、マチュアはクィーンを通じて指示を飛ばすだけでいいと思っていた。


 実に甘かった。

 その考えが、とんでもない方向に膨れていく可能性があると、マチュアはまだこの時点では気付いていなかったという。



 〇 〇 〇 〇 〇


 

 二日後、日本国国会議事堂

 今日は移民プロジェクト法案についての意見交換会。

 マチュアもカナン代表として参加ししてるが、主題はカナン大使である棚橋と蒲生が草案を読み上げ、それについて意見を言い合うという事になっていた。


「‥‥まあ、特に問題はありませんわ。国権民主党としても、この草案でしたら問題はないと考えています」


 最難関である辻原議員が諸手を挙げて賛成している。これには他党の代表達もあんぐりと口を開いていた。


「ま、待ってください辻原さん、これでは以前のインフラ整備について全く解決されていませんよ? 

「いいのでは? 前回まではすぐに移民する事が大前提でした。けれど今回のは先にテストケースとして一年間住んでみて、それで問題がなかったら正式に移民するというものです。その際には新たに異世界移民局を設立してもらい、日本から向かった移民者についての管理をお願いするだけですわ」

「しかし、電気もガスも、電話も繋がらないのですよ?不便極まりないと思うのですがねぇ」

「ですからテストケース。それで不便と思ったら移民しなければいいのですわ。選択肢があるという時点で私はこの意見に賛成です」


 まさかの大番狂わせである。

 いや、マチュアたちにとっては狂っていない、むしろありがたい。

 狂ってしまったのは他の議員たちである。

 携帯メーカー、土建会社、電気事業施設、ガス関係メーカーと手を組んでいた議員たちが、一斉に反対意見を述べるのだが、すべて『テストケースですし、気に入らなかったら戻って来たらいいのです』

という辻原の言葉で言い返せなくなってしまった。


「ですが、この条件では通勤にはかなり厳しいのではないでしょうか。家族で引っ越しできたとしても、気軽に日本に戻ってくる事は出来ないのですよ?」

「そりゃあ海外移住も一緒だろうが。仕事を持っていて海外に移住する奴は自費で異世界渡航旅券パスカード買ってくれっていう所だろうが」

「そんな無責任な‥‥」

「だからテストケースだって。気に入らなかったり限界だったら大使館に申請すれば『テスト期間』だったらすぐに移民申請取り消しで帰って来られるんだからよぉ‥‥」

「その場合は、以後3年間は移民申請は出来なくなりますけれどね。それでもいいっていう人は大勢いると思いますが」


 その後もとにかく突っ掛かって行く議員達だが、ことごとく蒲生と棚橋に論破されまくっている。

 そしてずっと沈黙をた持っていた共進党の椎名もすっと手を上げる。


(椎名さんが動いた‥‥これでこのとんでもない意見は白紙にできる)

(頑張ってください椎名さん、俺たちの既得権益にも関わっているんです)

(どうにかマムたちをぎゃふんといわせてあげてください)

(勝った。椎名さんが動いたなら勝った‥‥)


 などなど反対勢力が祈りを込める。


「共進党の椎名だがマムよ、カナンって選挙あるのか?」

「ないわよ。私の国に選挙制度はないわ。まあ、貴族院はあるし各領地の経営は貴族に任せているからね。選挙があるのは公職選挙制、うちは親族承継または任命制、まさかグランドカナンの人間にカナンの統治者選挙権持たせろって言うんじゃないでしょうね?」

「違う違う。日本の選挙権はそのまま持っていていいのかっていうことだ。テスト期間なら日本国籍もっているから選挙権も持っていてもいいんじゃないかなと思ってな‥‥」

「あ、そっち。それは構わないと思うわよ?」

「なら選挙運動でカナンにいってもいいのか?」

「騒がなければね。特別にポスターの掲示も認めるわよ、投票所も作ってあげるわ」

「ならいい。テストケース、いいんじゃないか?」


──ガタガタガタッ 

 彼方此方あちこちの議員が立ち上がり椎名を見る。

 最後の砦にも裏切られた、この後は賛成派が数のごり押しでこのテストケースである移民プロジェクト法案を可決するのが目に見えている。

 どうにかしてそれを阻止したい所であるが、既に手詰まり状態である事は間違いない。

 相手国に土足で踏み込むような事は出来ないのである。

 勝手にパイプラインを繋げる事も、電気設備を作る事も出来ない。

 既に権益要求派は詰んでいたのであった。


 この二日後、スピーディーに移民プロジェクト法案は可決し、正式にカナンへの移民プロジェクトは開始した。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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