日常の戯れ・その9・コミックコンベンションの攻防
今年もコミケがやってまいります。
皆さんも参加にはご注意ください。
こんなことになったりしたら大変ですよw
そして『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
そしてやってきましたコミックコンベンション前日。
スタッフは全員前日入りすることなく当日朝に転移門で会場入りする。そのため事前準備が終わったら全員が自宅に戻っていた。
だが、マチュアだけは前日入りし、のんびりと秋葉原で買い物を堪能していた。
という事で、またしてもやって来ました秋葉原にある国内最大のカードショップ『カードパニック』。
店内を散策したマチュアはキング・オブ・デュエリストのコーナーで立ち止まると、ずらりと並んでいる最新弾のシングルカードに目をキラキラさせていた。
「むほーーーっつ。キンデュエ最新弾がもう発売されていたのかぁ‥‥これください、バラじゃなくてカートンで!! 12ボックス特典つきますよね?」
「は、はい。カートン、12ボックスですね、少々お待ちください‥‥はい、カートン限定のプレイマットが付きますね。どちらのデザインがよろしいですか?」
ずらりと並んだ限定プレイマット。マチュアはその中から自分のフェイバリットカードである『紅の賢者カーラル』のデザインのプレイマットを選んで支払いを終えると、カートンを抱えてデュエルコーナーに移動した。
そして始まる『パック開封の儀』。一つ一つ丁寧に開封して仕分けし、空間収納から取り出したバインダーに丁寧に並べていく。
幸いなことにカートン購入したので最新弾のカードは全てコンプリート、これでデータの読み込みもスムーズになるであろう。
その後は子供達とデュエルしたり食事に出かけたりYTVに冷やかしに行ったりとのんびりとした休日を楽しむと、マチュアは一旦大使館に転移し、そして夜までのんびりと仮眠をとる事にした。
‥‥‥
‥‥
‥
深夜3時。
マチュアは深淵の書庫のアラームで目を覚ますと、あらかじめ確認してあったコミックコンベンション会場である東京ビックサイト正面にある大階段下にやってきた。
今回は開場時間前に並ぶことは禁止、敷地内への立ち入り厳禁と予め記されており、普段は開放されてある場所も全てカラーコーンとプラスチックチェーンによって立ち入りできないようになっている。
にも関わらず、誰がやったのかカラーコーンは全て除去、通路の横に固められている。しかも無断で敷地内に侵入したらしくかなりの人が並んでおり、イベントスタッフではない有志の誘導員が大階段右側に徹夜組を誘導していた。
「あのー、イベントスタッフの方ですか?」
「いえ違います」
「それはどうも‥‥確か今年のコミコンからは、徹夜組については取り締まりが強化され、違反者は当日の入場についてはお断りするかもとパンフレットに書いてあるんですが……確か警察も動くとか」
「ノーコメントです。並ぶのなら最後尾にどうぞ、今年は徹夜組用に右端にトイレも設置されているようですの安心して並んでください」
そう告げて、またやってきた人を誘導する正体不明のボランティア。
なのでマチュアはあらかじめ打ち合わせしてあった通りに待機している『正式なスタッフ』と合流すると、クリアパットと『闇の精霊レクス』を使って徹夜組の監視をじっと続けていた。
そしてさらに3時間後。
今回のパンフレット規定では、朝6時以前の並びこみは禁止されており、ちょうど6時になったのでスタッフが大階段上に姿を表した。
そしてその横にマチュアが並ぶと、マチュアは右手に魂の護符を提示して並んでいる全員に向かって一言。
「異世界魔法等関連法第5条12項に基づき、『無断建造物侵入』の成立及び『集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例』違反により、魔術の行使を宣言します。内容は『コミックコンベンション開催規約』に違反し、先の刑法及び条例違反となることから、現時点で並んでいる列全てを結界により拘束し、開場後の午後0時までみなさんにはここで待機していただきます!!以上で現行犯逮捕を宣言します」
そのマチュアの宣言の直後、待機列が結界に囲まれた。
みっちりとした結界ではなくかなり前後左右にゆとりを持たせ、トイレまでしっかりと設置されているすぐれものである。
更に駄目押しとばかりに警官も姿を現し、マチュアの横に立った。
「何だふざけるなよ!! 徹夜で並んだのに限定品が買えなかったらどう責任を取るんだよ」
「俺たちは雇われていただけだ、とっととここから出してくれ!!」
「訴えてやる!!」
「監禁罪じゃねーのかよ!!」
などと叫んでいる一行でありますが、マチュアは一言。
「だーかーら魔術の行使宣言したでしょ? 魂の護符見せたでしょ?罪状説明したでしょ? ついでにパンフレットにしっかりと書いてあったでしょ?今年は徹底して排除するって‥‥まさか自分たちが違法行為をしたっていう自覚ないの?」
「そうだ、俺達が何をした!!」
「コミックコンベンション開催規約違反やらなんやらかんやら。今回はこれについては警察関係と協力して対策するって書いてあったじゃない。付け加えるなら、異世界魔法関連法第十二条、『既存の法律によって判断できない罪状を処分する際の魔法の行使については、法的機関の判断によりこれを最優先する』っていうのがあるわけ」
ここで騒いでいた面々も青くなり始める。
「つまりみなさんはそれを覚悟で並んでいた、おっけー? なので私が依頼を受けてみなさんを結界で囲いました。徹夜組って食料も用意してあるんでしょ? トイレだって横にあるでしょ? もしも具合が悪くなったら中にいるスタッフに告げてね、私が飛んで行って魔法で治療してあげるから。という事で、みなさんコミコンをどうぞお楽しみください!!」
それだけを説明してマチュアはスタッフと一緒に移動開始、徹夜待機列の真横にさらに当日組の待機列が作られ始めると、結界内の一同は絶望に陥ってその場に座り込んでしまった‥‥。
「という事で、皆さんの罪状はご理解頂けたと思います。現行犯逮捕には令状は必要ありませんし、マム・マチュアの現行犯逮捕宣言についても、刑事訴訟法213条が適用されました……しっかし毎回毎回入ってくる苦情対策が、こんな形で解決するとはねぇ……」
警察官の一人が落ち込んでいる参加者にとどめを刺した。
これで楽しみにしていた違反参加者達もがっくりと肩を落とし、その場に座り込んでしまった。
‥‥‥
‥‥
‥
朝8時。
異世界大使館に一度戻ったマチュアは、スタッフ全員を集めて会場に転移。すぐさま設営を開始するのだが。
「しまったぁ。昨日のうちに設営しておけばよかったぁぁぁぁ。という事にならないようにあらかじめ用意しておいたイベントセットです」
ドン、と空間からバトルフィールドのジオラマや鎧騎士を展示し、指定の場所に魔法鎧を配置する。
ショップコーナーでは異世界大使館ガチャがずらりと12台、大人用と12歳以下用に分かれて配置された。
その横では景品交換所と当日販売用の鎧騎士と魔女っ娘変身ブレスレットが並べられ、僅か1時間もしないうちに設営は完了である。
「は、早い‥‥そして凄い。これなら俺がいなくても大丈夫ですよね?」
「何を言っているんだ高島君や。君は今日の責任者でしょ? という事で開場時間いっぱいはこの販売ブースか鎧騎士体験会コーナーのどちらかにいる事。仕事なんだから」
「え?」
鳩が豆鉄砲受けた顔というのはこういうものなんだろうとマチュアは高島の顔を見て思った。
高島としては全てアルバイトと他の職員に丸投げして同人誌を買い漁りに行こうと算段していたのだが、マチュアが同行している時点でそれが叶わぬ夢だったとは思ってもいなかったのだろう。
「え? じゃないですわ。仕事ですからね」
「そうですよ。高島チーフ、本日はよろしくおねがいしますね」
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
マチュア以外の全員が高島に頭を下げたので、高島ここで諦めの境地に突入。
その肩をマチュアもポン、と叩いて一言だけ。
「冬もやるんでしょ? まさか夏だけやってはいお終いっていう事はないよね?」
「は、はは‥‥はい」
「しかし、無類のコミコン好きの古屋が今回は乗り気じゃなかったのは意外よね? 何か企んでいる?」
「いえ、休暇を取って個人で来ているはずですよ? 本当なら俺も合流する手筈でしたから」
ああ、なるほど要領がいい。
なら買い物任せればいいじゃんとマチュアは思ったので。
「だったら古屋に電話したら? 買い物頼めば」
「そうですね、それぐらいなら‥‥もしもし古屋、高島だけどいまどこにいる?」
すぐさま連絡を取るところが高島の凄いところだが。古屋と話をしていて顔色が再び絶望に変わっていった。
「‥‥今も徹夜組の待機列に並んでいるそうです。深夜に階段の上にマチュアさんが来たのを見て絶望して、今はスマホでソシャゲ三昧だぁって開き直っていました」
「あいつは‥‥社会人だったらルール守れっていうの‥‥戻ったら説教‥‥はぁ、高島、午前と午後、1時間ずつ休憩あげるから買い物いって来なさいよ」
「あざーす。でも当日限定品は無理だよなぁ‥‥並ばないと買えないもんなぁ」
「あーうっさいわ、そんなもん知らんわ。さ、そろそろ開場だよ、今日も一日頑張ってね」
そう告げると、マチュアは販売ブースから立ち去ろうとするが。
「あれ、マチュアさんは何処に?」
「外。魔法鎧の試乗会会場の準備。こっちはドライを借りて来たので何とかなるしょ‥‥」
「は、はい、お願いします」
ということで、マチュアは会場外にある東京臨海防災公園に移動。そこで待機していた自衛隊員とコミコンイベントスタッフ、そしてドライと何故かいた十四郎と合流し、体験試乗会用のカブトムシ型巨大魔法鎧・ヘラクレス二機と複座型魔法鎧・タイタンⅡが二機スタンバイを開始、更に撮影会用にゼロツーを四機並べておくと、後は開場をじっと待つ事にした。
〇 〇 〇 〇 〇
『ただいまより、第00回コミックコンベンションを開催いたします。本日より三日間の長丁場となりますが、参加サークルおよび企業のみなさん、どうぞ心行くまでお楽しみください。そして参加者のみなさんも安全に配慮して参加いただけるようよろしくおねがいします‥‥尚』
コミコン名物の『素敵な声のお嬢さん』のアナウンスが始まった。
そしていつもより長いアナウンスに、参加者は度肝を抜かてしまったのである。
『今回は異世界大使館からの参加‥‥参戦もあります。犯罪行為やけがなどについてはいつもより注意してください。会場内は魔術によって危険がないかどうか確認を行なってまいります。万が一何かありましたら近くの係員か飛んでいるドローンに向かって叫ぶか手を上げて下さい』
このアナウンスには外で並んでいた参加者たちからもオオオオオと驚きの声が上がる。
これと同時に、館内に作られたセキュリティルームでは、マチュアが貸与した飛行型監視ゴーレムが一斉にフライトし、大型クリアパット24台による大監視体制がスタートした。
そしていつもよりも沈着冷静に参加者は会場入りを開始する。
すぐさま企業ブースに駆け込んで行く者、目当ての薄い本を買いに走り出す者、入った時点で疲れ切って休憩所避難する者などが溢れ返っていた。
そして外では。
「あ、あれが今年の徹夜組か‥‥」
「ルール違反だってさ。ちゃんと守っていれは今頃ちゃんと入れたのにねぇ」
「プーークスクス、晒されてやんの」
などなど、結界の中で呆然自失となっている参加者を横目に、通常参加者が入って行く。
その中で古屋は、札幌に残っている仲間達に謝罪のメールを配信していた。
『まさかマチュアさんに負けるとは思わなかった‥‥当日限定品は回収不可能、すまん、ワレアオバ』
そのメールを受け取った札幌在住異世界大使館オタ職員たちは、血の涙を流したとか流さないとか‥‥。
‥‥‥
‥‥
‥
午後0時。
マチュアが大階段上に姿を表した。
「さて、ルール違反の諸君に告げる。これより貴殿らの会場入りを開始するが、既に絶望して帰宅する者は後方から立ち去るとよろしい。そして会場入り希望者は、ここに特設門を設置するので、ここで入場チェックをして入るように、それでは徹夜組の入場を開始します」
そう告げられて前後の結界のみが解除された。
そして徹夜組はゆっくりと重い足取りで会場内に入って行く。
既に目的の同人誌も、グッズも売り切れている現状、彼らはどこに向かうのだろうとマチュアも頭を傾げてしまう。
諦めの境地にいた参加者は後ろから帰宅、もしくは秋葉原へと向かう為にJR駅へと向かう。
その姿を見て、マチュアは一言だけ慰めの言葉を告げた。
「異世界大使館による違反者対応は、残り二日間もありますからねー。明日は徹夜するんじゃないよ、ちゃんと朝6時に集まって並ぶ事。後、近くで徹夜している群れを確認したら、後二日間は警察も動くからねー。そして今年の冬も大使館は警備面での参加を行いますから、徹夜組は潔く諦めてね‥‥」
慰めではなくとどめの一撃でした。
涙ぐみつつ帰宅する一同を見て、マチュアは思った。
あら、やり過ぎたかな?
これだと楽しめないかもね。
明日は少しぐらいゆるくしようかしら‥‥。
なんて事はない。
「同情の余地なし。徹夜組は逝ってよし!!」
あんた鬼だよ。
‥‥‥
‥‥
‥
大使館ガチャにはかなりの人が集まっていた。
ガチャを回す為には魂の護符が必要であり、それについては特別にお願いして会場に作られた仮設神殿で、これまた特別参加していただいたスターリング枢機卿に会場での魂の護符発行をお願いしている。
それでガチャを回して狂喜乱舞するもの‥‥ばかりなり。
500円払ってはずれなし、交換希望者は後日札幌の異世界大使館か東京の異世界大使館・分館にて手続きが行われるという説明も受けている。
子供達の方には鎧騎士が多めに入っており、大人用には『神々の悪戯』と『武御雷』の封入率が上がっている。
そしてやはり一等は空飛ぶ箒と魔法の絨毯、そして国会で公開された『クリアパット』と『魔導スマホ』である。
これにはネットでもかなりの高額買い取りが設けられていたのだが、当日参加した者で尚且つガチャの景品同士でしか交換できないという条件が会場で説明された為、買い取り希望者はこれまた絶望した。
「はい、魔法鎧試乗券ですね、確認しました。どちらにしますか?」
「あの、一枚しかないのですが親子で大丈夫ですか?」
「ええ、親子でしたら問題ありませんよ」
次々とやって来る魔法鎧試乗会希望者。
基本的にはガチャチケットを持っている方用と当日参加希望者用に分かれており、当日分は一人1000円支払ってチケットを購入しなくてはならない。
ガチャを回した方が実は安くなり、更に試乗会会場にもガチャは一台だけおいてある。
しかもこっちは殆どが試乗会チケットであり、後は大人と子供の景品がまばらに入っている。
「次の方どうぞーと、ドライ、そっちの子供をお願いね、私は親子でヘラクレスで散歩行って来るので」
「了解しました。ではあなたはこちらへどうぞ」
ドライは一般参加者を、マチュアはガチャチケット参加者を担当、親子が後ろの席に座って安全ベルトを締めたのを確認すると、マチュアの操る魔法鎧・ヘラクレスは大きな翼を広げ大空を滑空した。
「乗車時間は10分です。その間、ゆっくりと大空の旅を堪能してください」
「は、はい!! よかったなぁ、まさか空を飛んでもらえるなんて思っていませんでしたよ」
「ロボットが飛んだぁぁぁぁぁぁぁ」
後ろ座席で大はしゃぎの子供。それを見てマチュアも満足。当初の予定通りに東京ビックサイト上空を通過し東京湾へと飛んでいくと、周囲を周回して定刻に戻って来る。
そして次の希望者を乗せてまた飛び立つを、のんびりと繰り返していた。
‥‥‥
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「う、売り切れましたー。本日販売分の異世界ガチャは売り切れです。またのご来場お待ちしています!!」
「本日は全てのグッズの販売は終了しました。また明日も引き続き販売しますので、よろしくおねがいしまーす」
「申し訳ございません、本日分のガチャは全て売り切れとなっています。また明日のご参加もしくは札幌の異世界大使館でお求めください」
昼過ぎには全てのグッズが売り切れとなる。
ここで売り子達は一時休憩となり、午後からは体験会ブースと試乗会ブースに分かれて仕事である。
その最中に、高島は会場の隅で呆然としていた古屋を発見し、何とか手に入れた同人誌を手渡すのに成功。
明日はちゃんと朝並ぶ事を心に誓った古屋と、冬のイベントの時にはもう少し人員を確保して会場を見て回ろうと考えた高島であったとさ。
めでたしめでたし。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






