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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第13部 日常どうでしょう・リターンズ

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日々の戯れ・その8・さまざまな依頼と暇つぶしと

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 のんびりとさせて欲しい。

 ここ最近のマチュアはつくづくそう思っていた。

 破壊神降臨による大騒動以来、何だか細々とした出来事が次々とやって来る。

 魔王の復活、ブラウヴァルトによる鎖国、ソラリス連邦の侵略阻止、そしてルーンスペースでの真央と善に対しての襲撃‥‥更に細かい数を上げていくときりがなくなってしまう。


「それでつい先日も、私がちょっと町内の集まりの時に家を留守にしていたら、主人はまたしても新しく雇った侍女を寝室に連れ込んでいたのですよ‥‥もう、私が戻った時にも気付かないでベットの中で‥‥ああ、どれだけあの人のモノを切り取ってしまおうかと考えた事か‥‥」


 二階の執務室では、夫の浮気現場を目撃した奥様がマチュアに相談に来ていた。

 突然転移門ゲートからやってきて主人の浮気について相談に乗って欲しいと言われたら、まあ暇だったし仕方ないかと話を聞く事にした。


「ま、まあ、あなたの主人って元々浮気性じゃない。最初は確かどっかの王女さんでしょ? 次が確かどっかの王国の王妃様、そのあとも敵対者の王女だったり、さらに別の国の王妃だったり、貴方に仕えていた巫女だったり、何だかんだとあちこちの位の高い血筋の娘に手を出しまくって子供作りまくって‥‥ちょんぎっていい案件じゃない?」

「そ、そうなのですが‥‥それでも最後には私の元に戻って来るって信じていますし‥‥」


 やや頬を赤らめつつ呟く婦人。だが、マチュアははいはいと軽く返事を返しているだけ。


──コンコン


『失礼します、お茶をお持ちしました』

「赤城さんか、どうぞ」

「では‥‥」


 丁寧に頭を下げつつつ室内に入ってくると、赤城はマチュアとその前の婦人に紅茶とティラミスを差し出して部屋から出て行く。

 そして部屋から出た赤城の近くには、事務局の暇な女性職員たちが集まって来て‥‥。


「どうだった? やっぱり浮気の相談だった?」

「そうみたい。あの方の旦那さんってかなりの浮気性みたいですよ、廊下まで浮気相手の話が出て来てましたから‥‥」

「あらー。しかし、何でマチュアさんの所にはややこしい問題がやって来るのでしょうね」

「敵が異世界の大魔導士とかじゃなく、旦那の浮気をどうにかして欲しいって、かなりスケールの小さい案件ですけど、それぐらいが平和でいいじゃないですか。さ、休憩は終わりにして戻りましょ」

「そうですわ。マチュアさんファイトですわ」


 そう廊下で立ち話をして事務局に戻っていく一行。

 その最中にも夫の浮気現場とその娘達の多さにマチュアも呆れてものが言えなくなって来た。


「そ、それで‥‥どうしましょうかねぇ。その主人に女性を近づけないほうがいいんじゃない?ほら、鎖で岩に縛って放置しておくとか」

「そうしたいのもやのまやまですが、主人も一応は地位のある身ですから‥‥」

「そ、そうそう。そう考えればいいじゃない。あんたの近所に住んでいるイケメンさんもかなりの女殺しだし、あんたの息子だってそこそこに女性に人気あるし、そうだよ、血筋だよ。そう考えたら少しは気が楽になるでしょ?」

「はぁ‥‥そうですが」

「それに私の住んでいる所にいる杵築さんっていう人だって、かーなーりーの浮気者だよ‥‥っていうか、こっちの方がたちが悪いか、全て本気で相思相愛になって子供作りまくっているからなぁ‥‥」

「あらら。それはよろしくありませんわね‥‥そう考えると、うちの主人の方が少しはましに思えてきましたわ」

「そうでしょ?ほら、少しは気が楽になったでしょ?」


 そうマチュアに説得されて婦人も少しは気が紛れたのであろう。

 その後も少しだけ話をして、夫人は転移門ゲートから無事に帰っていった模様。


「‥‥はぁ。何で私がゼウスの浮気についてヘラから相談されなきゃならないのよ‥‥ってゼウスまだ現役かよ、どっかで子供こさえてその子を異世界転生させていないだろうなぁ‥‥」


 ドキッ。

 ソ、ソンナコトハナイヨ。

 ノクターンアンケンナンテナイヨ。


 そんなどっかで眠っているザ・ワンズの独り言はともかくとして。

 事務局に戻って来たマチュアは、真っ直ぐに卓袱台に戻って大量のファックスを眺め始めた。


「魔法庁しつこいわぁぁぁぁぁぁぁ。もう何も手伝わないって言っているでしょうが。本気で異世界大使館引っ越すわよ?」

「ど、どこにですか?」

「チシマ領首都はどうかしら? 札幌ともそんなに離れていないし、あそこは正式にカナンの土地ですし。でも、商店街の皆さんも近所の子供達も困っちゃうからなぁ‥‥」

「はっはっはっ。困る案件はそこですか。では暇そうなマチュアさんにこちらの案件をお願いしますかね」


 そう笑いつつ三笠が一通の書類をマチュアに手渡す。

 それをしぶしぶと受け取ってから、マチュアは頭を軽くひねって‥‥ニヤァァァァと笑った。


「うわ、マチュアさんの悪役笑い久しぶりに見ましたわ」

「本気の悪役顔ですね。これはある意味死者が出ますよ、心が壊される人が出る案件ですよ」

「じ、女王陛下、こっちの人間は私たち獣人のように頑丈ではありません、リミッターは全開にしないでくださいね」

「‥‥あたしゃ歩く災厄かよ。何で笑うだけでみんなで怯えるかなぁ」

「だって、クスッていう可愛い笑いでもなく、ニイッていう企む顔でもありませんから」

「ニヤァァァァなんて、どっかの悪役令嬢がライバルの聖女様を蹴落として王子様と結婚する時に使うものですわ。そうラノベでも表現されていますわよ」


 マチュア一斉に糾弾される。

 だが、そんなことは気にすることなく、マチュアは書類を送ってきた相手に返信する事にした。



 〇 〇 〇 〇 〇


 

 翌日からマチュアは東京と札幌をひたすら往復した。

関係各省、関係各所に出向いては色々と資料と根回しを行いつつ、東京都庁に向かっては知事と会見、実に忙しい一週間を過ごしていた。

そしてそれも一段落した後、いよいよ来週となったコミックコンベンション・夏の陣に向けてのグッズ製作を開始。

ロビーではなく中庭で深淵の書庫アーカイブを展開し、中庭いっぱいに広がった量産化プロダクションの魔法陣の一斉制御を行っていた。


「ふぁ〜。五番八番二十四番、三十一番が完成したのでテーブルで梱包宜しく。ネコサンや、開いた番号それぞれに材料の箱を放り込んできて頂戴な」

「了解しました!!」

「クックックッ」


 急遽呼び出されたツヴァイが完成した魔導具の梱包を始めると、ネコサンがマチュアの横にある山積みになった段ボール箱を運んでいく。その作業が実に三日間続き、流石に最終日にはゴーレムのツヴァイやネコサンでさえグッタリとしていた。なんで?

 そんなこんなで荷物が全て完成すると、次はコミコン当日スタッフの選別。


「イベント慣れしている冒険者に声をかけて、大使館スタッフからは責任者で高島が行くので問題なしと。後は赤城さん十六夜さん、コミコン行く?」

「ゲームショウと同じ企業担当ですね。私は構いませんよ」

「同じく、私も問題ありませんわ。既に三笠さんには当日スタッフとしての登録は済ませてあります」

「動き早っ。ではそのように。企業展示コーナーは高島と赤城さん十六夜さんとうちのとこの冒険者で賄うとして、販売ブースに五人は欲しいから、ちょいと行ってくるか」


 すぐさま外にある冒険者ギルド・豊平支店に顔を出すと、すぐに依頼を申し込む。出来れば毎回参加してくれているメンツが来てくれると助かるのだが、掲示板に貼り付ける以上は早い者勝ちである。



「お、大使館依頼だ、どれどれ」

「早い者勝ちだろ、大使館の仕事っていう事は楽で高給だからなぁ」

「うわ、女性限定かよ。それも日本語の読み書き可能な方か……」

「接客スキル推奨?戦闘系は駄目なのか……」


 貼り付けられた依頼を見て落胆するものが多い中、一人、また一人と受付カウンターに向かって依頼を受け始めた。

 そして一時間もすると依頼は成立し、すぐさま研修という事で異世界大使館へと派遣されてきたのである。


「おや、やっぱりいつものメンツだねぇ」

「はい。今回もよろしくお願いします」


 高遠ミャウを筆頭とした異世界イベントチームがずらりと勢ぞろい。

 いつでも大使館の依頼を受けて動けるようにと普段は簡単な依頼のみに特化していたらしく、マチュアとしても日本でのイベントでは彼女たちが来てくれると大助かりなのである。

 そのため説明なども簡単に終わらせると、後は本番までに全ての商品を覚える事と対応マニュアルをしっかりと読み込む事になった。


「しかし、初めてのコミコンで、それも三日間連続出店とは、大したものですにゃあ」

「いつもお願いしている東京ゲームショウが三日連続で来ると思っていいわよ。問題は一つ、子供が少なくて大きな子供がわんさかいる事。それで揉め事になるかも知れないけれど‥‥冒険者だから大体わかるよね? 暴漢対策は」

「ウチラは大丈夫っちゃよ。こう見えても雷撃系魔術はしっかりと制御できるので、スタン程度に威力は押さえてますから」

「そうそう。俺たちにしっかりと任せてくれれば大丈夫さ。今回は新進気鋭の女性チーム・スカーレットニードルも一緒だからね?」


 ミャウの知人である女性オーガのラン、虎系獣人のプラテネスと共に、新しく三人組の女性チームも参加している。


「初めましてマチュアさん、私がリーダーのアルパです。ジョブはシールドファイターです」

「私はツェータ。シーフです」

「デネヴ。神官」


 丁寧に挨拶するのでマチュアも頭を下げると、取り敢えず五人には商店街にある宿に一旦荷物を置いて来て貰い、明日から講習を行う事を説明する。

 そして一旦解散となった後で、マチュアは卓袱台で一休み。


「はぁ。この一件が終わったら、私は旅に出るよ」

「な、何を突然。またどっかの異世界にでも行く気ですか?」


 マチュアの言動に慌てたツヴァイが、卓袱台まで飛んでくるが、当のマチュアは湯飲み茶わんを手にボーッとしている。


「ツヴァイさん、マチュアさんのいつもの現実逃避ですよ。大体30分ほど放置したら戻って来ますのでご安心を」

「そうそう。一気に忙しい事があると、すぐこうなるからねぇ」


 三笠や赤城がそういうので、ツヴァイも取り敢えずは一安心。

 しかし、大使館職員からの信頼については、マチュア相変らず盤石の模様。


──ドドドドドドドドトッ

 すると、ゲートルームから走ってくる足音がする。

 そしてマチュアも素早く突っ込みハリセンを引き抜くと、一瞬で扉の陰に隠れた。


「マム・マチュアはいるか、今日こそいい返事を聞かせて貰いに来た!!」


 魔法庁大臣の森本議員の襲撃である。

 だが、事務局員はいつものことと全て無視し、三笠だけが手を振っている。


「三笠君、マム・マチュアは何処にいる? 今日こそ魔法庁との連携についての契約をしてもらわないと困るのだよ」

「ですからずーーっとお断りしています。先日も説明しましたが、日本国主体で有人ロケットを作りたいからNASAに技術協力しろとアメリゴ大使館に押し寄せますか? そんな事はしないでしょう?」

「話の論点をすり替えて貰ってはこまる。それはそれ、これはこれだ」


 議員とはここまで自分の都合しか考えないのかと三笠でさえ頭を抱えそうになる。


「ほう。では、マム・マチュアからの伝言です。これ以上しつこくくるのなら日本国から撤退する、そう伝えておいてくれといわれましたので。それで今、日本国内閣府に対して正式に抗議文書を送りましたので、後でこってり絞られてください」

「ふん、そんな脅しに乗るとでも思うのかね? それにここを出ていってどこにいくというのだ? まさか本気でアメリゴに行くとでもいうのかな?」

「カナン魔導連邦チシマ領だそうです。日本は隣国となりますので、今後は今までのように付き合うという事もなくなるでしょうねぇ」


 そう揺さぶりをかける三笠。だが、森本も引く事はない。


「そんな脅しには乗らないがな。第一そんなところに引っ越したとして、大使館職員の通勤はどうするのだ?」

「あ、転移門(ゲート)がありますのでご安心を。ここの敷地には後日異世界移民局を建てこの町のサポートは続けられますので、それでどうしますか? 私がボタンを押すだけで、この件についての日本国への申請は全て終わります。明日には建物もなくなっているでしょうし、永田町と大使館をつなぐ転移門ゲートも解除します‥‥」

「そ、そんな早く出来る筈が」

「魔法を侮られてはこまります。では、日本国には通達しますのでよろしく」


──ポチッ

 マチュアなら適当なボタンを押して誤魔化す所だが、三笠は真面目に内閣府に対して今の声明を送った。今後の付き合い方次第では大使館はチシマ領に引っ越してしまう。

 更に‥‥。


「あ、そうそう。これ以上日本国が我々異世界大使館に要求するのでしたら、次の手もありますので‥‥これについては一歩も引く気はありませんから、最悪は日本国と国交も途絶えるでしょうねぇ」

「な、何を考えている?」

「チシマ領をカナン魔導連邦の属国とします。チシマ王国を宣言し、新しく国を興すことを国連に申請しますから」

「馬鹿なこというな。北方領土は日本の国土だ」

「あ、今それを言っているのは国会でもほんの一握りじゃないですか。野党の辻原さんでさえ、『北方領土はカナン魔導連邦のものであり日本国が友好的に付き合う事の出来る島である』っていっているじゃないですか‥‥という事で森本さん、お帰りはあちらです。これ以上グダグダいうのでしたら、貴方の転移門ゲート通行許可証は無効化しますのでよろしく」


 目を細めてニイッと笑う三笠。それと対極的に森本は真っ赤な顔で無言のまま事務局から出ていく。

 そしてマチュアは扉の陰からこっそりと出てくると、三笠を見て一言だけ。


「‥‥私と同じ処理しているわねぇ」

「それはもう。何年もご一緒していればマチュアさんのやり方ぐらいは理解していますよ。この後は内閣府で対応を相談し明日にでも蒲生さんが代表でやって来るっていう所でしょうねぇ」

「あ、それは違う。蒲生さんなら本気かどうかの確認にすぐにくるはずだよ。メール送ったのいつ?」

「さっきの会話中に。10分ほどは経っていますけれど、そこまで早く」


──ガチャッ

「マムよぉ、さっきの内閣府にきたメールだが、ありゃどこまで本気だ?」

「ほら。蒲生さんのフットワークの速さまでは計算していなかったわねぇ」

「おっしゃる通りで、では、蒲生さんの相手はお願いしますよ」


 そう三笠に促されて、マチュアと蒲生はロビーに移動。そこでのんびりとお茶を飲みながら非公式会談を行っていた。

 尚、先程の三笠の送ったメールはあくまでも可能性の一つであり、これ以上異世界大使館にいろいろと強要するなら現実になるとだけ説明するが、蒲生もそりゃあいいと手放しで喜んでいたのは不思議なものであった。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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