日々の戯れ・その7・ルーンスペースからの友人たち
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
マチュアたちが地球から戻ってから。
大体一日おきには真央と善も修行にやって来る。
二人の話によると、裏に住み着いているらしい諜報員たちはいまだに建物や二人の監視は続けているらしいが、実力行使を仕掛けて来る気配はなくなったらしい。
深夜の帰宅についても襲ってくる様子もなく、いつもの日常に戻り始めたらしい。
しかし、あの首相官邸での放送を見た国民達の間では、マチュアとストームの友人達について様々な議論が起きていたらしい。
その余波を受けて、居酒屋・冒険者ギルドと豊平・三三矢整骨院は連日異世界に興味のある人達が集まるようになっていた。
「という事なのですよ」
「へぇ‥‥そりゃあ大変だねぇ」
サムソン・馴染み亭横の空き地では、いつものように真央の魔術講習が行われていた。
いつの間にやら飛び入り参加者も加わって、マチュアとしてもまあいいかなと思っていたのだが、今日はYTVの佐藤と梅津まで参加していたのである。
あの後でマチュアは一人でYTVを訪れていた。
機材の勝手な持ち込み禁止を条件に、佐藤と梅津の二人にも異世界渡航旅券を発行、回数は無制限で手渡してあった。
そして来るのに不便だろうと、YTV東京支社一階ロビーに転移門を固定し、今はYTVの見学者にのみ公開しているらしい。
「それで真央はともかく善は今日はどうした?」
「妹の結婚式らしいですよ。確か天童さんっていう、IT関係の社長の御曹司さんと結婚が決まったそうで、それに朝から走り回っていましたよ」
「あ、そうなんだ。大変だ‥‥ってあれ? 何だろ、この微妙な脳内反応は?」
何か頭のなかで引っかかっているマチュア。
まあ、その引っ掛かりが取れるのは300年後なので、今はそっとしておいてくださいな。
「まあいいわ。そんじゃあ今日は第一聖典のおさらいからね」
「お、第三聖典はまだですか」
「真央はまだまだ実力が足りん。実戦経験がない者にいきなりそんなもの教える筈ないでしょうが‥‥今日参加している子供達もそうだよ。まずは基礎、それをしっかりと覚えなさい。魔導書を開いての詠唱では魔導書自体が発動媒体となりますが、みんなは秘薬を必要としていますので。秘薬の管理も大変だからね」
そのまま第一聖典でも生活魔法という分野の魔術の講習を始める。
これは普段の生活でも使える『水生成』『火生成』『風生成』『大地生成』の四つと、『清潔』『清掃』といったものまで含まれている。
ジ・アースのコモンマジックである生活魔法を第一聖典に分類し、魔術師の地位向上を目指してもらおうと組み込んでみたのだが、これが実は大当たり。
魔術を聖典別分類したときに、魔術師ギルドから発行された各聖典別の魔導書に生活魔法や魔晶石、純魔晶石を物品化する変異を公開したことで、魔術師の価値は大きく変化したのである。
そんなこんなで講義も終わった夕方。
真央も佐藤アナ達も地球に戻ったのと入れ替わりに、朝生太郎がやって来た。
「よおマチュアさん、ちょっと頼みがあるんだがいいか?」
「おやおや、どこのマフィアかと思ったら朝生副総理でしたか。どのようなご用件ですか?」
いつものボルサリーノを斜めにかぶった朝生。マチュアのマフィア発言に苦笑しつつも話を進める事にした。
「俺達ルーンスペースの人間はサムソンのまでの出国が認められているだろ、でもマチュアさんのカナンも見てみたいんだけど頼めないかな?」
「はぁ、なるほど。それでは今日は特例ということでカナンまでご招待しますよ。でも、普段はサムソンまでですからね‥‥って、小野寺さんもいらしていたのですか」
朝生の後ろで申し訳なさそうな顔の小野寺にマチュアも気が付く。
「はぁ。朝生さんがお前も一緒に来いというので‥‥ですが、この、時計とかカメラの持ち込み禁止はどうにか出来ないのですか?」
「ルーンスペースにはまだまだ渡したくない情報があるので駄目。フェルドアースは観光ガイドのラインなら許可。だってねぇ‥‥国交結んでいる訳でもないのに、奥の手を見せる事なんて出来ないでしょ?」
「はっはっはっ、違いないな。そんじゃあ一丁頼むわ」
そうせっつかれたのでマチュアは朝生と小野寺を連れてカナンまで自力転移する事にした。
‥‥‥
‥‥
‥
まずはカナンといえば馴染み亭、ちょうど夕方という事もあってマチュアの奢りで馴染み亭のベランダ席でのんびりとディナータイムと洒落込む事にした。
「いらっしゃいまっせーって、おや店長、三名ですか?」
「そ。李儒もウェイトレス姿がすっかり様になっているわねぇ。適当な料理を3人前お願いね。朝生さんはお酒飲めますか?」
「今日は休みだから構わんよ。小野寺は仕事中で視察扱いだからアルコール禁止な」
「判っていますよ。戻ってから報告書を書かないとならないのですから。しかしここはいいレストランですね。地球の方も大勢いらっしゃっていますし‥‥スマホを使っている方もいらっしゃるようで‥‥はぁ‥‥フェルドアースの方が羨ましいですよ」
「そうなの?」
疲れ果てている小野寺が周りを見てため息をついている。
何をそんなに疲れているのかと思うが、国会議員の、それも大臣クラスは異世界渡航する度に報告書をを提出する義務があるらしい。
唯一の例外は朝生、勤務中にサムソンに来た場合は視察扱いであるが休日の散歩についてはその義務はないらしく、意外と頻繁にサムソンに出入りしているらしい。
やがてシードルと前菜の盛り合わせなどが運ばれてくると、楽しい歓談が始まった。
「それでは乾杯です!!」
「ああ、乾杯」
「乾杯というか完敗ですよ‥‥とほほほほ」
「まあまあ、今ぐらい美味いものでも食って英気を養えや。憲法第九条の廃止、その鍵を握っているのはお前でもあるんだから」
そう小野寺を励ます朝生。
すると隣のベランダ席からマチュアたちに声をかけて来る者がいた。
「おいおい。憲法九条はとっくに廃止になっているだろうが、そんな寝ぼけた事を言うのは誰だよ?」
もう一人のマフィア……のような国会議員・蒲生太郎が隣の席で食事をしていた。
今日は休日らしく夫人を伴ってのカナン来訪のようで、ふたりとも綺麗にドレスアップしていた。
その為、マチュアには蒲生というイメージがなく視界から消し飛んでいた模様。
「あ‥‥だれかと思ったら蒲生さんか。これはご夫人、初めましてカナン魔導連邦女王のマチュアです」
「蒲生涼子と申します。主人がいつもお世話になっています」
「いえいえ‥‥と、蒲生さんや、ついでに紹介するわ。こちら朝生太郎さん、ルーンスペース・日本国の副首相です」
その挨拶で蒲生は思わず吹き出しそうになる。
そして朝生も蒲生をしげしげとみて。
「「なんだかマフィアみたいなやつだな」」
──プッ!!
声を揃えての突っ込み。
これには涼子夫人も小野寺も、そしてマチュアも吹き出してしまう。
「まあまあ、どっちも大して変わらないから。こちらはフェルドアースの日本国副首相の蒲生太郎さんです。という事で折角なので二つの地球の親善も祝う事にしましょうか」
「あ、あのマチュアさん、私の紹介は‥‥」
「これはどうも、その様子ですとルーンスペースの小野寺防衛大臣という所ですかな」
何で雰囲気だけで察するかなぁ。
まあ、髪型が若干違うぐらいで結構似ているので仕方なし。
朝生と蒲生などほくろの位置以外は瓜二つではないかと、思わず突っ込みたくなるレベルである。
「初めまして、小野寺です。フェルドアースの大臣の方とは一度お会いしたかったのですよ。お会い出来て光栄です」
「こちらもです。マム・マチュアには一度ルーンスペースに連れていってくれって頼んでいるんだが、どうしてもいい返事をして貰えなくてなぁ。そちらの日本の状況とか、色々と教えて欲しい事はたくさんあったのですよ」
「では今からでもいかがですか」
「そうですなぁ。今日はゆっくりと語りたいところですが、ご夫人同伴ということで、本日の来訪はご遠慮いただければと思います。また機会がありましたら是非お願いします」
前のめりになって話をしようとする小野寺だが、朝生がすぐに一歩引いた。
相手は女性連れ、それも夫人を伴ってのオフである。そこに政治家が首を突っ込んでいい道理はないと朝生は理解している。
「あ、朝生さん」
「うっせぇ。お前も政治家ならルールぐらい守れや。ではまた次回にでも、マチュアさんと連絡をとってお会いできる日を楽しみにしていますので」
「それでは」
それで話はお終い。
やむなく引き下がって食事を始める小野寺と上機嫌の朝生と蒲生。
この不思議な光景を、マチュア自身も複雑な心境で楽しむ事にした。
〇 〇 〇 〇 〇
地球、国会議事堂・衆議院・異世界対策委員会にて
その日は異世界対策委員会の報告と質疑応答が行われていた。
波多野議員からの捏造しまくられた資料と、自民党を引きずり落としたい野党を後ろ盾に使い、対策委員会は異世界の、それもマチュアとストームを叩きまくる為に話を始めていた。
だが、対策委員会委員長や与党委員は既に裏事情を全て知っている。
自分達の手柄を立てるべく波多野たちが独断で調査を行い、それが失敗に終わった事で自分達のミスが露見しないように手回ししていた事も。
その報告は予め辻宮にも届けられ、委員会では好きにしろ言われていた、そしてそれは肯定ではなく否定の言葉であったなどど波多野は思ってもいなかったのだろう。
本来ならば報告は委員会の過半数以上を構成する与党議員が行うはずなのに、ここでも自分達の手柄を見せつけようと波多野達が前に出た。
「‥‥以上フリップでも描かれている通り、異世界の日本進出については予断を期さない状況であります。YTVについては地球の情報を異世界に送り込んでいる、いわゆる国家反逆罪が適用されていてもおかしくはありません‥‥」
「北海道の二人の人物についてもそうです。密かに異世界に赴いた彼らは既に様々な魔術を身に着けているそうです。これは犯罪行為にも該当します。魔術という目に見えない武器を手にしている、そう、武器準備集合罪で彼らを拘束する必要もあります。この日本には魔術についての危険に関しては知識もないため、新たに刑法を改定し、然るべき処罰を準備しなくてはなりません‥‥」
波多野と児玉、力いっぱいの力説。議員達は真剣にその報告を聞いて頷いているのも多々いるのだが、彼方此方の関係閣僚は幾度となくサムソンに赴き、その目で見て、実際に異世界に触れて来たのである。
また、辻宮に至ってはサムソン国王主催の晩さん会にも出席し、近隣貴族とも触れ合って来た。
そしてストーム王やマチュア女王の人となりも聞いて来たのである。
朝生もマチュアを通じてフェルドアースの蒲生と幾度となく対談し、それなりの成果を得る事が出来ていた。
それを知らないのは今の異世界対策委員会であり、この場は彼らを糾弾する為に用意されていたのである。
知らぬは他の議員と対策委員会の議員たち、そして二人の話が終わってから早速猛反撃が始まっていた。
「えー、自民党の朝生です。まずは異世界対策委員会の真っ赤な嘘を潰す為に話をさせてもらいますか」
「何が嘘だ!! そんな証拠がどこにある!!」
「あ、野次はいいです野次は。人の話を聞く時は野次を飛ばさない、その程度は小学生でも知っていますよ。まずはこちらをご覧ください‥‥」
そう告げて朝生が用意したのは、先日の首相官邸で公開された映像と音声。
一般に公開されていたものの、KHKは波多野議員の圧力で大切な部分を全てカットしていたのである。
これはあるプロデューサーの独断であり、その方が視聴率が取れると判断したらしい。
また、一度の放送程度ではマチュアやストームの耳に入る事などないと甘く考えていた事もあり、波多野達にとって不利な部分は全てカットされていた。
だが、その部分を朝生は指摘した。
写真と音声データからの書き出し程度で証拠となるかどうは判らない。が、これを知っているものこそ官僚のみであり、いま、この場で大勢の議員を煽ってしまえば波多野の勝ちは揺るがないと考えていた。
やがて朝生の説明が終わるが、野次は依然として続いていた。
そして辻宮が手を上げて壇上に上がった時、波多野は完全勝利を確信した。
「今しがた行われた波多野議員の報告はすべて偽証であり、政治家として恥ずかしい行為であると思われますが波多野さん、何か弁明はありますか?」
は?
何で辻宮さんが俺を叩いているんだ?
私はあなたの為に、国民権利党を与党とするべく邁進して来たのですよ?
偽証? それはあなたも認めていたのではないですか?
複雑な感情が波多野を支配する。
だが、問われたなら答えを返さなくてはならない。
「辻宮さんにお聞きしたい。私の報告書のどこが偽証であるというのですか? その証拠をお見せして貰えますか?」
KHKのプロデューサーに話はしてある。あの映像は全て焼却し何も残っていない。
つまりあの映像自体が偽物であると言い切る自信もある。
「では、証人をお呼びしてありますので、委員長、証人の登壇と発言の許可をお願いします」
「許可します」
「それではどうぞ」
辻宮が告げると同時に、壇上に銀色の扉が浮かび上がる。
そして中から女王の姿で正装したマチュアと、同じく国王モードのストームが姿を表した。
「異世界カリス・マレスより、証人としてベルナー双王国はサムソン王のストーム殿と、同じくカナン魔導連邦のマチュア殿にいらしてもらいました。ではよろしくお願いします」
この瞬間。
KHKの国会放送の視聴率はいきなり跳ね上がった。
そしてマチュアが証拠として提出したクリアモニターの映像と音声もここで再度再生されると、旗色はいっきに逆転。
更に辻宮ら官僚が異世界に行って来たという報告、議員達の、そしてカメラの目の前で魂の護符を作り出す瞬間が放送されると、波多野と児玉は観念してその場にへたり込んでしまった。
「さて。欺瞞と偽証によって国益を損なったという罪については、後日改めて糾弾させてもらいます。尚、このような無能な議員を異世界対策委員会に登用し、あまつさえその立場を利用して党の信用を大きく得ようとした事については、既にマチュア女王ならびにストーム王に正式に謝罪し許しを得ている事をこの場で報告します‥‥」
「それじゃあ、続きましては俺たちが異世界カリス・マレスに向かい得た情報についての報告を、異世界国交対策委員会として説明させて貰うとするか」
辻宮がそう告げてから、更に朝生も熱弁を始めた。
証拠となるべく他の官僚達も報告を開始し、マチュアとストームは傍らに用意されていた席でずっと報告を聞いていた。
そして無事に報告会もおわり、質疑応答は次の回にということで委員会は閉会し、マチュアとストームはやれやれと重い腰を上げてカリス・マレスに帰って行った。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






