マチュアの章・その14 魔導の真髄・新しい仕事
時間軸の関係で、ストームの章と一部シーンがかさなりますがご了承下さい。
カナン郊外地下で転移門を見つけてから暫く経って。
その日は商人ギルドからの連絡があったので、顔を出していた。
「イヨーーウ。酒場の物件見つかったのかな?」
「おや、誰かと思ったらマチュアか」
と受付に向かった時に、横から商人ギルドのギルドマスター、『イオン・バルザック』が声を掛けてきた。
「あ、ギルマスおひさ。今日は何の用事?」
「さっき自分で言っていただろ、酒場だよ。今案内してやるからついてきな‥‥後は任せるぞ」
とカウンターの奥で仕事をしているサブマスターに告げる。
「はあ、お気をつけて」
「応、それじゃあな‥‥」
とマチュアとイオンが外に出ると、商業区の内側の方へと向かう。
そこは城塞のすぐ近く、南正門から歩いて2分ほど。
中央街道沿いにある商業区画である。
建物は3階建て、一階は酒場で二階は宿屋、部屋数は実に20部屋。そして三階が自宅になっているらしい。
「これまた随分と奮発して。今のオーナーは?」
「いないぜ。元々この建物の管理はギャロップ商会だったものだ。マルチの親父がくたばったときに、ここは商人ギルドで買い取ってあげたんだ」
「ははぁ、なるほど。これいくらで買い取れと?」
「そうさなぁ‥‥」
と酒場に入っていって、カウンターに座る。
毎日掃除をしているらしく、綺麗なままになっている。
「うちがギャロップ商会から買い取った値段は金貨3500枚だ。売値だから6000枚でいい」
「ほい、白金貨60枚ね。これで成立と」
トン、とカウンターに白金貨を60枚置くマチュア。
「ち、ちょっと待て、なんでそんなにあっさり払えるんだ?」
「ギルマスなら解っているでしょー? ボルケイドの討伐報酬の一部ですよぉ」
口を開けてあーーっという表情をするイオン。
「そういえばそうだったか。じゃあ登録その他はこっちで面倒見てやるよ。ギルドに支払う年会費も今受け取ったので賄っておいてやるよ」
「いいの?」
「ああ。金貨2500枚も儲けさせて貰ったんだから、それぐらいはサービスだ。宿屋は営業するのか?」
「取り敢えずは営業する方向で。三階は私の家と研究室にするから問題はないし」
「じゃあいま鍵と書類用意してくるわ。こんなに簡単に話が終わると思っていなかったわ」
とイオンが外に出ていった。
それを外まで見送っていると、丁度南門の方から以前出会ったポイポイさんとワイルドターキー、ズブロッカの冒険者三人チームと遭遇。
「マチュアさんこんにちわっ。ここでなにしているっぽい?」
「いつぞやはどうも、サイノスさんを紹介していただいて助かりました」
「もし何か困ったことがあったら、何時でもいってくれ!!」
とあいかわらず元気な三人組である。
「ここは今買い取ったので、これから掃除と営業の準備だぁね」
「か、買い取ったっぽい!!」
「こんなでかい建物をか!!」
「それは凄いのう‥‥やはり一流の冒険者とは違うものじゃなぁ‥‥」
と何か納得している模様。
「では、お店開いたらまた来るっぽい!!」
と挨拶をして3人は冒険者ギルドに向かっていった。
そのままベランダに置いてある椅子に座って、ふと考える。
「確か、素泊まりの宿で格安だと一泊銀貨2枚。ここは宿が20部屋で、一日金貨4枚か。一年360日として、1440枚の金貨収入。4年ちょいで元は取れるが、人件費等を考えると‥‥まあ、いいところか」
とつい計算してしまう悪い癖である。
通りを暫く眺めていると、ここは意外と人通りがある。
他国からの商人たちや、やってきたばかりの冒険者など、様々な人たちが行き交っている。
時折りマチュアの方にやってくる商人もいて、『ここは一晩いくらですかな?』と問われたりしている。
「まだ買い取ったばかりでして、これからなのですよ」
「そうでしたか。貴方に神の加護がありますように」
と頭を下げてまた別の宿に向かう。
「これは、凄いなぁ‥‥」
と今更ながら納得していると。
「ほいおまたせ。早速手続きをするから中に入るぞ」
とイオンがやってきて店内に移動する。
そして商人ギルドカードを取り出して、それを別の巨大なプレートの上に乗せる。
――ヴゥゥゥゥゥゥン
とプレートが輝き、そこに様々な文字が浮かび上がる。
これが宿屋と酒場の営業許可証らしい。
「これを店内の見える所に貼り付けてくれ。貼り付けた本人以外は剥がせないから盗まれる心配もない。で、これで登録は完了だ、おめでとう」
とイオンが笑いながら握手を求めてくるので、握り返して一言。
「ありがとう。早速だけど、大工の手配を頼みます。二階で二部屋を潰して礼拝所を作るので。それと店員を雇うので、商人ギルドに人材募集の依頼をお願いします。ウェイトレスと厨房担当を若干名で」
「おう。早速手配させて貰う。しかし、随分と手際がいいな」
「一度やったことがあるのでねぇ。ではお願いしますよ」
イオンに後はお願いして、いよいよ店内の改装が始まった。
○ ○ ○ ○ ○
全ての準備が出来るまで7日掛かった。
礼拝所には転移の魔法陣を設置し、王都ラグナやベルナー城、サムソンのストーム邸などに繋げた。
礼拝所の扉には魔法による鍵を掛けて、転移許可証と鍵をリンクさせる。
三階の部屋は床や壁を魔法によって強化し、さらに建物全体に『範囲型・敵対者警告』を設置。加えて『永続化』も施してセキュリティ対策も完璧。
酒場の部分も準備完了。既に調味料なども大量に準備し、倉庫部分にストックしてある。
厨房の奥には巨大な倉庫を設置、魔法により『永続冷凍』と『永続冷蔵』を付与してある。
こうして『酒場・馴染み亭』は完成した。
「はっはっはっ。話はきかせて貰った!!」
「こんにちはー。マチュアさんいるー?」
「開店おめでとうございます」
とチーム『西風』の一行が酒場に顔を出した。
「おや、いらっしゃい。わざわざ来てくれたのかい」
「ええ。あとは報告も兼ねて」
とサイノスが告げるので、なんの話かはピンときた。
「何か話は進展したのですか?」
「一応カナン伯爵を通じて、ファナ・スタシア国王にお目通りをしていただきました。私達の報告については口外無用となりまして、スタシア国王からレックス・ラグナ・マリア皇帝の元に報告が行くようになったそうです」
「あの後で彼処に調査隊を派遣したらしいけど、あの横道がなくなったそうで」
「そこで調査は終了となりました。一応報酬は受け取ってきましたので、これはマチュアさんの分です。口止め料も入っているそうですわ」
ドサッ、と、金貨の入った袋が目の前に置かれた。
「成程ねぇ‥‥取り敢えず受け取りましょ」
と素早くバックバックに放り込んで置くと、マチュアは3人に食事の準備をする。
取り敢えずは、いつもの作りおきのカレーを温めて差し出す。
「ほい、うちの名物メニューになる予定だよ」
「これは、頂きます」
「いただきまーす」
「ごちそうになりますわ」
――ホフッ、ハフッ‥‥ホムホム‥‥ふはぁぁぁ
「こ、こんなの食べた事ないです」
「スパイスをふんだんに使っているんだねー。これは凄い贅沢だぁ」
「以前王都に出かけた時、露店でこれを食べたことがありますわ。あの味と同じですわ。すごい再現率です」
と皆さんベタ褒めです。
メレアさん、その露店は私です。とはいえないので、上手く誤魔化しておく。
「まあ、それ以外にも色々と食材はあるので、今度また飲みに来てくれて構わないからねー」
「是非。と言いますが、マチュアさんはもう冒険者には戻らないのですか?」
「そんな事はないけど、どして?」
突然のその言葉に、一瞬動揺する。
「ここカナンでのマチュアさんの扱いがあまり宜しくないので、もう冒険者が嫌になって酒場を始めたっていう噂があるのですよ」
「そうそう。こっちのほうが似合っているっていう人もいますし」
「でも、これだけ美味しい料理が作れるのでしたら、無理に危険を冒してまで冒険に出る必要はありませんよね」
と三人が告げるが。
「はっはっはー。冒険者やめると食材の調達が面倒臭くなるのでやめない」
とあっさり一言。
そのまま暫くは、西風のメンバーと話をしていた。
○ ○ ○ ○ ○
「それでは、本日からここ馴染み亭が開店します。私達の主人であるマチュア様にご迷惑がかからないように、しっかりとお勤めして下さい」
「「「「はいっ!!」」」」
と丁寧な挨拶をする一同。
商人ギルドの仲介で、馴染み亭には新たに三人のウェイトレスと二人の調理人、そして店内の全てを取り仕切る執事が一人加わった。
一通りの研修期間を終えて、メニューも全て覚えてもらった。
接客なども全て完璧に覚えてもらったので、いよいよ本日夜から正式に『酒場・馴染み亭』は開店となった。
「ジェイクさん、店内の準備は完璧ですか?」
マチュアが執事であるジェイクに話しかける。
ここに勤めている従業員は全て、マチュアの正体を知っている。
彼女がシルヴィー女王専属の『幻影騎士団』の参謀である事も、礼拝所にある転移の祭壇の事も。
当然ながら、そこにやってくる『とんでもない客』についても熟知させた。
尤も、マチュアが騎士団のマントを着けていない時は、普通に店主と店員程度で対応して欲しいとマチュアが告げたので、少しは気が楽になっているのであろう。
「はい。ご主人様の名に恥じないよう」
「だーかーらー。ご主人様はやめて、マチュア様にして」
「はいマチュア様。全ては完璧です。料理も接客も。金銭の管理は私が一度取りまとめておきます。仕入れ等も全てこちらで手配するようにしてありますので」
「パーフェクトだよジェイク」
「仰せのままに」
と楽しい会話をしつつ、マチュアはベランダで外を眺めている。
「よう、駄目ックスター、元気か?」
と口の悪い冒険者達がやってくる。
「相変わらず口が悪いなー。何しに来たんだよっ」
「ほれ、開店祝いだ」
と四人の冒険者がエール樽を4つ持ってきた。
「おや、随分と殊勝だねい。何かあったのか?」
「いやいや、ギルドでお前さんがいないと悪口に張り合いがなくてな」
「煩いわ。今まで通りにギルドにも顔出すわい。とっとと飲んでいけ。サービスしてやるから」
「当然だ!!」
と次々と冒険者が馴染み亭にやってくる。
それに一つずつベランダで挨拶をしながら、マチュアもエールを飲んでいる。
こういうのんびりとした雰囲気もいいものだと、マチュアは久し振りに酒場の雰囲気を楽しんでいた。
○ ○ ○ ○ ○
翌日から、マチュアは店の仕込み等は手伝いつつ、ラグナ王城地下の魔導器の解析や、それらのデータを元にした実験を繰り返していた。
そんな矢先、王城の地下の魔導器で遊んでいた時、ブリュンヒルデに呼び出されたのである。
城内にあるブリュンヒルデの執務室は、意外と質素な作りになっていた。
廊下には彼女の近衛騎士団である『ブランシュ騎士団』が待機している。
場所が場所なので、マチュアも幻影騎士団の正装に身を包んでいる。
「話というのは他でもない。実は頼みがあるのだが」
「はぁ、ブリュンヒルデ殿が私などにどのような頼みで?」
「まあそんなに自分を卑下する事はない。ミストから『帝国貴族院』での一件について話を聞いている。そこで、この際だから帝国内部の汚い部分を一掃しようと思ったのだ」
「ははあ、貴族院の癒着問題とかですか?」
「はははっ。有り体に言えばそんな所だ。各地の貴族の中には、自分たちがより利権を得るために他の貴族や商人、あるいはギルドの上層部と繋がって色々とやっているものが多い。マチュアには、それらの調査とあぶり出しをお願いしたいのだ」
と丁寧に告げてはいるが、実際は頼むというよりは命令である。
「幻影騎士団はシルヴィー様の専属騎士団です。私達に対して直接命令を出来るのは皇帝陛下とシルヴィー様のみですよ」
と笑いながら告げる。
「うむ、と思ってシルヴィーに頼み込んで貴公を借り受けた」
と説明してから、二通の書面をマチュアに差し出した。
一通は皇帝陛下からの勅命、皇帝及び六王に協力する代わり、幻影騎士団は皇帝の近衛騎士団と同等の地位と権力を保証するというものである。もっともこれには強制権はなく、納得の行かない任務は断っても構わないらしい。
「いきなり皇帝からですか。これはずるいですわ」
「まあそういうな。もう一通は貴殿の主人であるシルヴィーからだ」
ということで、シルヴィーからの手紙を開く。
『マチュアよ。よろしく頼む』
以上である。
「よし、シルヴィーは今度あったら説教だ。ブリュンヒルデ殿、任務お受けしますわ」
「殿はつけなくて構わないぞ。立場的には殆んど同等に近いし、形式張られるとこちらとしてもやりにくい」
「そうですか。でも人目のある時は、殿はつけますよ」
「それでいい。で、最初はここから調べて欲しい」
と数枚の書面をマチュアに手渡す。
「ほうほう。サムソン辺境都市における鍛冶ギルドの利権ですか」
「ああ、サムソン辺境のガリクソン伯爵が、帝国鍛冶工房のものと繋がって色々とやっているらしい。確証はないのだが、王都ラグナの鍛冶工房から密告があってな。済まないが調査を頼みたい」
「はあ、期限は?」
「早ければ早いほど」
「報酬は?」
「ふむ。必要ならば、支払いは白金貨でいいか?」
「それで構いません。形式上でもそうしておけば、依頼人と雇われの立場は維持できますから。万が一の時は、私の存在は切り捨てて下さい」
「成程。ではそれで‥‥」
と話が終わったので、マチュアは一度カナンの自宅に戻ると、ジェイクに暫く仕事で留守にするので、後は任せたと指示を出す。
そしてサムソンにあるストームの家へと転移することにした。
○ ○ ○ ○ ○
「ストーム、いないし。まあ、急ぎでも何でもないから構わないといえば」
と呟きつつ、ストームの家から外に転移する。
「ついでに自分用の包丁も研いでもらうか。あ、暗黒騎士の鎧の修理もついでに頼もうそうしよう」
ポン、と手を叩くと、取り敢えずは、朝食を取るべくストーム行きつけの酒場へと向かう事にした。
「ちわーーーっす。朝食くださいなーと」
と扉をあけての開口一番。案の定ストームも朝食を食べている所である。
「あれ? お前何しに来た?」
「包丁研いでおくれ。代金はビーフシチューを寸胴一本でどや?」
と朝食を食べながら、ストームと交渉するマチュア。
「あ、それでいいわ。っていうか、カナンの鍛冶師に頼めばいいだろ」
「研ぎに出して、今より切れなくなるのは御免だわ」
「だったら、自分で砥げばいいだろう。マチュアは確か鍛冶師も出来たんじゃなかったか? クラスチェンジして砥げないのか?」
とストームは言うが、マチュアの鍛冶スキルはMSレベル、腕の良い所に頼めば良いし、何より良質な砥石を持っていない。
「砥石もってないし」
「そうか。じゃあ後で来てくれればいいよ」
と言いながらストームが店から出ていくのを見送ると、マチュアは暫し店内を見渡す。
服装や装備等から、数名の客が鍛冶師である事は確認した。
(さて。リストにあったサムソン鍛冶組合というのは、此処らへんかな?)
と当たりを付けていると、丁度一人の客が店内に入ってくる。
そのままマチュアが当たりを付けた人物に合流すると、なにやらコソコソと話を始めていた。
「さてと。エンジなら聞き耳使えるけど、マチュアだときついよなー」
意識を耳に集中し、その男達の声を盗み聞きする。
『今晩、うちの工房で……例の……あのストームが……』
酒場が騒がしいので、あまりはっきりとは聞こえない。が、今夜集まるのは確認した。
(さて、後は工房とやらを見つければ良しか)
そのまま食事を食べ終えると、バッグから適当な道具を出して手入れしているように見せるマチュア。
そして後から来た男が店から出るのを確認すると、そのまま後をつける。
裏道に入ったのを見ると、周囲に警戒しながらエンジにチェンジ、チュニックに装備を切り替えると、何気ないように尾行を続けた。
そのまま尾行を続けていくと、鍛冶組合の大きな建物に男が入っていくのを確認した。
「よし、此処だな。後は夜まで時間でも潰すか」
と、マチュアはストームの鍛冶工房へと向かった。
途中、物陰でマチュアに戻ると、ストームの鍛冶工房で包丁を手渡して砥ぎをお願いした。
そしてそれが終わってから、ついでにと暗黒騎士の装備の修理も頼み込む。
「ちょっと待て、いくらなんでもこれは時間かかるぞ、材料がそもそもない」
「まあまあ、出来たらの話だょ。今度採掘手伝ってあげるからさぁ」
といつものペースで話を続ける。
「全く、相変わらずのマイペースだな」
「それはいつもの事。と、これ、シルヴィーから預かってきた手紙ね、仕事の依頼だよ。ちょっと内容がアレなので場所を変えよう」
という事で、2人は家の中に入る事にした。
そして仕事と聞いて、ストームは嫌な予感がしたらしい。
「仕事って、マチュアもか?」
「私はブリュンヒルデ殿からの依頼ね。シルヴィーからも手伝ってあげて欲しいと言われたし、今後も六王からの仕事の要請や個人で何か起こす場合でも、シルヴィーの許可を取らずに独自判断で受けても構わないってさ。ちゃんと皇帝の許可も取ったらしいよ」
幻影騎士団は、六王や皇帝の仕事を手伝う代わりに、皇帝直属の近衛騎士団と同等の権力を何時でも使えるようになった事をストームにも説明する。
「はあ、いいんだか悪いんだかよく判らんな」
「うん。私の仕事は、この前、私が王都で貴族院を絞めた時の話を聞いたらしくてね。帝国の悪い虫を一掃したいんだって」
ふぅんと呟きつつ、ストームはシルヴィーの手紙を読む。
「ははぁ、成程なあ。マチュアは幻影騎士団としての仕事が、まあ、頑張れ」
「エンジの存在を表に出しちゃったからねー。お陰でほら」
と、マチュアは足元に魔法陣を形成する。
「これは?」
「『魔術創造』っていう魔法ね、この魔法陣の中で、様々な魔法を組み合わせたりして、独自のオリジナル魔法を作り出す事が出来るのよ」
スッと魔法陣を消す。
「魔法についてはさっぱり分からん。具体的には?」
「例えば、『波動の矢』に『拘束』を合わせて、対象をまるで死んだかのように麻痺させる『拘束の矢』とか、あとは‥‥」
――スッ
と、突然マチュアの横にエンジが姿を現わす。
「ファッ、それは一体なんだ?」
「これはね。魔力と周囲の魔障を練り合わせて作った『ゴーレム』だね。魔術師と錬金術師のスキルの合成だよ。私の魔力で作ったので、鑑定や調査系の魔法程度では本物かどうかなんて見分けがつかない筈だし、なにより私の命令を忠実に守るのよ」
とエンジが話している。
「ちょっと待て、今はどっちが本物だ?」
「今の本物はマチュア。エンジがゴーレムね。アバターチェンジとモードチェンジも使えば、色々な事もさせれるようにはなったけど」
と告げて、エンジがスッと消える。
「如何にも手駒にエンジがいるみたいでしょ。これも日々、魔術と料理を研鑽している集大成だよー。ストームの方は何かクラスやスキルでできること増えた?」
「さてなぁ‥‥」
と腕を組んで考えてみる。
「戦闘系スキルの合成はこの前ボルケイド戦でやったしなぁ。防御力無効化攻撃の『浮舟』と、範囲型乱撃の『無限刃』の合成とか。戦闘スキルの合成だけは完璧だ、聖騎士と侍の合体スキルも可能だぞ。後は、自分のスキルなら、何でも鍛冶師の能力で付与できるのが判った程度だ」
「それ、一番おかしいから。要はマジックアイテムを作れるって事でしょ?」
「いや、それは違う。俺が作る武具に対して、スキルを付与するだけだ。だから、マジックアイテムじゃない、マジックウェポンだ」
ビシッとポージングをしつつそう叫ぶストーム。
「まあ、私が錬金術で作った物品に魔法を付与するようなものかぁ」
「そっちがマジックアイテムだろうが」
「付与する器と付与するものが魔法かスキルかの違いしかないじゃない、対して差はないわい」
というマチュアのツッコミは、この際無視するらしい。
「ゼイゼイ‥‥。しかし、思った通りというか、やっぱり権力が絡むと腐るものもいるんだなぃ」
「私はしばらくは其方の仕事もやるのでねー。報酬が美味しいのよ。ストームみたいに鍛冶師でドーンと一攫千金稼げないし 」
「一攫千金って。ボルケイドの素材売れば金になるだろうが」
あの後、解体してボルケイドの素材はマチュアと山分けした。
食材の部分は大体がマチュア、鍛冶に使いそうな部分は大体はストーム、ドラゴンレザーは山分けという感じになった。
ヘッケラーとコックスにも、解体を手伝ったので欲しい部分をお裾分けしてあげたらしいが、公に外には出せない代物なので、少しだけ王宮に買い取って貰う事にしたらしい。
「ドラゴンステーキを街で売れと? あれは売ってはいけない」
――ゴクッ
ストームが、息を飲む。
「き、危険なのか?」
「いやいや、あれほどの美味。売るなんてもったいない。腿肉の程よい脂の乗ったステーキ。サーロインのジューシーで鮮烈な味わい。ヒレはカツにしてその歯触りと肉の美味さを堪能できる。モツは下処理は終わっているからソーセージは大量に作った。煮込み用にも処理してあるので、モツ煮もいけそうだよ」
――ゴクッ‥‥
「今日の晩飯はそれだな。どうせ仕事で暫くこっちなんだろう」
「おっけー。今日は潜入調査なので、今度作ってやるよ」
と告げて、マチュアはそろそろかなとストームの家を後にした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






