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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第13部 日常どうでしょう・リターンズ

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魔導具開発・その5・科学を超える魔導の力

 とある日、永田町国会議事堂


 今日は異世界移民政策委員会による質疑応答がある。

 マチュアは一通りの準備を終えて、議事堂前赤煉瓦転移門ゲートから外に出ると、既にYTVの佐藤アナと異世界報道チームが待機していた。


「おはようございます。本日はよろしくお願いします」

「はいおはようさん。今日の委員会は荒れるかもよー。私の渾身の新作を大量に持って来たんだから」

「それは楽しみにしています。それと‥‥」


 そう告げて佐藤はマチュアの耳元にこそこそと近づく。


「あの下着‥‥危険ですね?」

「おや、ひょっとして勝負下着に使ったのかな?」

「い、いえいえ、それは無理ですよ。あんな凄い効果が出るなんてわかったら、普段使いでも使えませんよ。でも、夜寝るときは使っています‥‥なんかこう、全身が包まれる感じでリラックス出来て、それで疲れも全て吹っ飛んでいますから」


 それは凄い効果だ。マチュアも予想していない副作用が裏返ってよい方向に出たのは良い意味で計算外である。その佐藤の言葉を裏付けるかのように、彼女の肌はツルツルピカピカ、10代乙女のような輝きを持っていた。


「おおう‥‥もちもちしていますなぁ」


 佐藤の頬っぺたをぷにぷにとつまむマチュア。佐藤もテヘヘと笑って頭を下げると、すぐにAD達の元へと戻って行った。

 それと入れ替わりにスーツ姿のツヴァイとミアがマチュアの元にやって来る。


「お疲れ様です。では、私たちは札幌に戻りますので」

「ようやく異世界大使館・東京分館の責任者が決まりまして、その引継ぎも先日終わりましたので」

「そうか。じゃあミアはベルナーに戻っていいよ。シフトについてはウォルフラムと相談して。ツヴァイも暫く休暇でカナンに戻ったら?」

「あはは‥‥ゴーレムに休暇というのもなんですが、カナンでのんびりとしていますので、何か緊急事態が起こったらお呼びください」


 二人ともそう告げてから転移門ゲートを超えていく。

 

「さて、そんじゃあ仕事してきますかぁ」


 腕をまくってぐるぐると回すと、マチュアは遠くで手を振っている蒲生の元に歩いて行った。


‥‥‥

‥‥


 時刻は午前10時。

 異世界移民政策委員会の質疑応答が始まった。

 まずは責任者の挨拶の後、いつもの辻原ではなく国権民主党の燐訪(リンポウ)議員が壇上に立った。


「本日はお越しいただきありがとうございます。早速ですが、異世界移民についてのインフラ整備については、どのようにお考えですか?」


 来た来た。

 ちゃんと手順を追って質問を始めてくれた。なのでマチュアも手を上げて壇上に上がる。


「カナンで用意出来るものは簡易住宅のみです。当然賃料も掛かりますし、希望なら買い上げていただいても構いませんよ」

「先日の質問にあった、電気ガス水道設備につていは?」

「用意する気はありませんが。あ、井戸は共用井戸がありますのでそれを使えばいいですよ。下水道施設はそのまま無料ですので、住宅で出る日常排水については問題なく使えますが」

「つまり、朝一番で井戸にいって一日分の水を汲んで来いと?」

「もしくは水の出る魔導具でしょうねぇ‥‥という事で、こちらがそのサンプルです」


 そう説明して、空間収納チェストから魔導蛇口を取り出す。

 

「それは?ただの蛇口に見えますが」

「いやだなぁ。魔導蛇口、ようやく完成したんですから。燐訪リンポウ議員、ちょっと私が根本持っていますので、茶碗持ってここ捻ってもらえます? 燐訪リンポウさんの好きなジャスミンティーが出ますよ?」


 そういわれると燐訪リンポウも引くわけにはいかない。

 堂々とマチュアの前に立つと、マグカップを吐水口に当てる。

 そしてゆっくりとハンドル捻ると。


──チョロロロロロロロ

 アツアツのジャスミンティーが流れてくる。

 それをカップ半分まで注ぐと、燐訪リンポウは香りを確認して一口飲む。


──ゴクッ

「‥‥上質なジャスミンティーですね。これはどういう原理ですか?」

「この中にジャスミンティーを作り出す魔導具が収められています。あとは蛇口を捻るだけで出ますよ。魔障マナ、心力どちらにも反応しますので、誰でも手軽に使えます‥‥」


 さらに複数の蛇口を取り出して壇上に並べる。


「こちらが珈琲、紅茶、緑茶、オレンジジュース、コーラがでる蛇口です。いゃあ、コーラには参りましたよ、あのメーカーはレシピを厳重に管理しているものですから、深淵の書庫アーカイブ使って成分分析まで行いましたから。まあ、結局同じものが作れなかったのですが、一応コーラです。それと、蛇口を捻る時に魔力を少し多めに注ぐ事で、味も香りも上質なものに仕上がります」


 これには全ての議員が反応を示した。

 魔法によって、安全な水が無から生み出されるのである。

 これが地球フェルドアースに出回ったら、とんでもない利益が生み出される。

 彼方此方あちこちの議員が喉を鳴らすが、マチュアは努めて冷静に。


「これはこっちの世界では売りませんよ? カナンのとある商会で販売しますが、そうそう買える金額ではありませんので。あ、当然カナンから持ち出したら密輸扱いとなりますのでお気を付けください」

「そうですか。それが移民先の住宅に設置されていたら、それは生活が楽になるでしょうね」


 燐訪リンポウも壇上の蛇口に興味津々である。が、今は国会質疑応答中であり、私事にかまけている場合ではない。


「ガスについてはどのように?」

「そんなのないですよ。昔の日本のように(かまど)です。薪は普通に売っていますので、それ購入するとよいかと。、あ、灰は農家やコンクリート業者が買い取りますのでご安心ください」

「こ、コンクリート業者?」

「あら、ローマン・コンクリートご存じありません? 古代ローマが使っていたやつですよ。カナンではあれが最新技術でして、ここ数年の上下水道設備はあれが主体ですから」

「そうでしたか。ガスについては、日本から輸入する気はないという事ですか?」

「はい。そんな面倒な事しませんよ。カナンは魔導国家ですよ?」


──シュッン

 今度は魔導カセットコンロと魔導ライターを取り出す。


「これはですね。このつまみを回すときに魔力を込めることで火が点くのですよ。こっちはライターです。コンロの火力は調整可能で最大火力は10,000kcalに設定されています。つまり、チャーハンがきれいにパラパラになる火力と思ってください。つまみの強弱で火力も変化できますが、これに使われる魔力はこちらの魔力カートリッジによって供給されます」


 カチッと日本製ならボンベの収められている蓋を開いて、中から魔力カートリッジを取り出す。

 魔術師ならだれでも簡単に魔力をチャージできる優れものであり、一度満タンにしたら一か月は使い続けられる。

 

「そ、それも販売されるのですか?」

「カナンでだけね。こっちは日本で売ってもよかったんですけれど、魔術師が少ないからチャージ出来ませんでしょ? なのでカナンで販売します、これも持ち込み禁止ですね。あ、気になりましたら後程前に出てどれでも触ってくれて構いませんよ?」

「では後程という事で。水とガス、後は電気ですね。家電製品の持ち込みと電気についての供給は?」

「家電製品は持ち込み禁止、当然電気なんてありませんので使えるわけないですよ。言っときますけれど、国内の電力会社と提携して高圧線で電気を引くなんて行いませんからね? 家電は全面禁止、スマホとかタブレットサイズのものなら持ち込んで構いませんが、動きませんよ?」

「では、電話などの通信設備は? 仕事として日本に通う方もいらっしゃるかと思いますが」

「電話なんて引くわけないじゃないですか。言っておきますが異世界大使館とうちの馴染み亭は業務上使うので電気もWi-Fiも引いていますが、それは異世界大使館や日本国内の主要施設と連絡を取るために必要なので引いているだけですから。ということで、電気と電話は無しです」


 ここまでの説明で、燐訪リンポウはフムフムと頷いている。

 伊達に一昔前に野党党首の座にあったのではない。


「先の二つと違い、電気と電話についてはサンプル魔導具がありません。という事は、マム・マチュアでも作れなかったという事ですか」

「まっさかぁ。これは公開したくなかっただけですよ‥‥」


 空間収納チェストから小型発電機とスマホを取り出す。

 そう、マチュアはどちらも完成していたのである。


「こっちの小型発電機は、先ほどの魔導カートリッジを用いて発電することができます。このように‥‥」


 魔導発電機横にパネルにある主電源を入れる。やがてフィィィィィィンという音が聞こえてきたかと思うと、まったく音がしなくなった。


「これで作動しています。発電できる電力は二相、三相どちらも可能。基本的な出力は40kWh、まあ一般家庭二世帯分の消費電力はこいつで賄えますよ。あ、カートリッジ一本分で一か月くらい保ちまして、魔力のチャージはさっきの説明通りです。一家に一人でも魔術師が居たら電気代は0円ですなぁ‥‥」


 この説明には、議員達だけでなく国会中継を見ていた様々な企業が驚いていた。

 特に電気自動車メーカー。

 マチュアの目の前の発電機があれば、単純計算でチャージ1回分の走行距離は最大で400kmも走行可能となる。正確にいろいろと調べてみたとしても、その半分以下に下がる事はないと考えると、とんでもないスーパーテクノロジーが目の前に転がっているのである。


「そんでもって、こっちが魔導スマホね。魔力波という特殊な波を使用していまして、これは世界の電磁波には属さないエーテル波というものを用いて通信する事ができます。そんでもって、燐訪リンポウさんが心配しそうなので先に告げておきますが、必要電力は生体電流、持っているだけで自動的に電源が供給されます。それ以外にも蓄魔カートリッジが搭載されていまして、使わず放置していても電源入れっぱなしで一か月は保ちますよ」

「そ、そんなものが‥‥電波法に抵触しないのですか」

「はい。私の国は魔導国家ですので、先ほどの説明通り魔力波となります。それと、術式により電波に自動コンバートしますので、こっちから一般の携帯にかけても相手に繋がりますのでご安心を。ついでに付け加えると10Gだの40Gだのというけち臭いことはありません。ここまで説明するとお分かりですよね?」 


──ゴクッ

 流石の燐訪リンポウも息を呑む。

 それほどのテクノロジーの塊が目の前にあるのである。


「使用量無制限、通信速度が落ちることなく、持っているだけで電源が確保される夢のスマートホンですか‥‥そのようなものが販売されたら、国内外の携帯通信社は倒産してしまいますが」

「だーかーらー、カナンから国外持ち出し禁止ですよ。どうせ、こっちでは魔導スマホ同士でしか通信できませんから。あ、こいつは異世界大使館職員には持たせる予定ですので。何年も掛かってようやく完成したのです、それぐらいの役得があってもよいでしょう?」


 このマチュアの言葉に、ロビーで質疑を見ていた異世界大使館職員から歓喜の声が上がる。

 そしてこのタイミングで、各部署の責任者から職員たちに魔導スマートフォンが配布され、すぐに魂の護符ソウルプレートとリンクするように告げられた。


「ちなみにですが、先ほどの発電機はもっと大容量のものも作れるのですよね?」

「その気になれば、原子力発電所レベルのものも作れるわよ。しかもクリーンで安全、絶対に暴走しないお墨付き。でも、それじゃあ日本の為にならないからあげない。まだまだ日本国や地球フェルドアースは自分達で魔術を解析する技術を身に着けてもらいますからね」

「判りました。では、移民先であるグランドカナンで用意されるのは住宅と井戸のみという認識でよろしいのですね?」

「そういうこと。そもそも移民して来たらこっちの国の人間ですよ? 日本が気にする必要ないじゃない。それぐらいの覚悟をして来いっていう所です」

「長々とありがとうございました‥‥」


 燐訪リンポウが頭を下げたところで質疑は休憩に入る。

 この間に、議員達は壇上にある魔導具のサンプルを手に珈琲を作り出したり、魔導スマホで普通に電話をしたりと魔導テクノロジーを堪能する事となった。



 〇 〇 〇 〇 〇



 30分の休憩を挟んで後。

 マチュアは全てのサンプルを空間収納チェストにしまい込むと、次の質問を待っていた。

 今しばらくは札幌の異世界政策局が対応していたのでマチュアの出番はない。

 なので空間収納チェストからティーセットを取り出してのんびりとアプルティーを呑んでいた。


「では、次に異世界移民にいての金融関係のインフラについて教えて欲しいのですが。銀行はないのですよね?」

「ないわよ。銀行のシステムは私が手を出していい案件じゃないと思っているから。それを商売とするにはシステムが弱いし信用問題もある。カナンではなく大陸規模の国家の提携が必要でしょ?」

「それはそうですね。では、今の時点ではないという事でよろしいですね?」

「ギルドの預かり金システムとかはあるわよ。でもそれは各ギルドて行っているサービスであって、預り書をなくしたらお終いだからね」

 

 ふむふむと納得する議員。

 休憩前の魔導具で毒気は抜かれてしまっているらしく、淡々とした質問だけが続いていた。

 仕事はあるのか、税金はどうだ?などなど、何で日本が気にするのかなぁという問題が続けられていたのだが、これは委員会全てが生中継されていて、移民を目的としている人達に情報として公開しているだけという燐訪リンポウの説明で納得がいった。


「共進党の山本です。カナンの医療問題についてご質問させて貰いますが、病院といった医療施設はあるのですか?」

「ないよ。敢えて言うなら教会がその役割かな?」

「例えば骨折や内臓損傷と言った怪我を負った場合、その教会で治療されますか?その際の費用面は?」

「骨折と内臓損傷は……神聖魔術の第三聖典ザ・サードに位置する神の奇跡。国に一人は存在するし、カナンの場合は十人以上いるから何とかなるんでないかな」


その説明で、山本は絶句する。


「そ、それはつまり、手当てをした後は自宅療養と言う事ですか?」

「いやいや、瞬間再生。せいぜい一時間程度の術式で完治するよ。先に言うけど、費用は気持ちね。教会に寄付してくれればいくらでも良い。払えなければ一日の勤労奉仕ぐらいじゃないかなぁ」

「そ、それが魔法……では、カナンでは重篤なガン患者も完全に治療出来ると言うのですか」

「私、日本で心臓病の女の子治療したことあるでしょ? それ知らないの?死以外なら教会である程度なんとかなると思うけどなぁ」


これ以上の山本議員の言葉はなかった。

代わりに日本維新政党の上総議員が手を上げて壇上に上がる。


「今の山本議員の質問に付随しますが、例えば日本にいる癌患者がカナンでの治療を希望したとします。それを受け入れることはできますか?」

「NO。カナンは日本国から怪我や病気の治療の為だけの受け入れは拒否します……って言うか、異世界魔法等関連法案の医療行為について、貴方はちゃんと理解している? そういうのは神聖魔術が使える異世界大使館の職員が出向いて治すって書いてあるでしょ?」


この質問には他の議員から失笑が出た。

ただ異世界大使館を叩くだけの野党でも、ちゃんと異世界関連の法律は全て理解している。それに対して、上総議員は頓珍漢な質問をしたのである。

顔を真っ赤にして壇上から降りる上総と、入れ違いに山本が壇上に上がる。


「えーっと。上総議員の頓珍漢な質問は聞かなかった事にしてください。死者の蘇生についてですが、異世界魔法等関連法においては可能であるが行使しないと書かれています。これはカナンの教会では可能ですか?」

「あ〜。ごめんなさいね、カナンの教会でも死者の蘇生が出来るのはほんの一握りで、それも死後一時間以内、死体の損傷がない場合のみ確率五分五分での成功なのよ。重要人物の死を蘇生するためにカナンでっていうのは無理よ。死は死として受け入れてください」

「マム・マチュアでも?」

「私なら一握りの遺骨があれば蘇生するわよ、それも100%でね。でもやらないわよ、先ほど言った通り、死は運命なんだから」

「運命は避けられないと?」

「避けられないよなぁ。いくら私でも人の運命まで自在に操る事は出来ないからね。賢者は万能じゃないわよ?」



ここでマチュアは壇上から降りる。

死生観の違う世界で論議する気は無い。

それは山本議員も理解しているらしく、ありがとうございましたと告げて壇上から降りた。

それが最後の質問となり、この日の委員会は閉会される。


尚、この日の生放送の視聴率は52%、とんでもない視聴率が稼げたとKHK役員は喜んでいたという。


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