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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第13部 日常どうでしょう・リターンズ

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魔導具開発・その4・インフラ整備も考えよう

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 いつもの朝。

  

 朝6時の出勤、いつものハーブティーを飲み干してから、マチュアは卓袱台に大量の羊皮紙を広げて整理している所であった。


 ブラウヴァルト森林王国から戻って来て、あの国で大量に購入した魔導具を解析し図面に起こした所までは良かったが、今一度図面を眺めると予想外に魔力ロスの大きい魔導具が多い事に気が付いた。

 本来の効果を引き出すために、予定外の術式処理スクリプトが書き込まれており、逆にそれが本来の能力に対して歯止めとなっているのである。

 それを全て書き換えた魔導具の図面を書き起こし、さて、これから何をどうするかと思案している所であった。


──ジーッ……ジーッ

 朝一番のファックス。

 送付元は国会の異世界移民局対策委員会。

 日本からカリス・マレスへの移民について、未だ法改正で議論が進められている。

 普通に日本国国籍を外してカリス・マレスに向かい、異世界ギルドと王城事務局にカナン市民になる宣言をするだけなのだが、やれ既得権を守れやら銀行システムはどうとか、失業者に対しての生活保障がないなど野党がギャーギャー叫んでいる。

 そんなことマチュアにしてみれば『知らんがな』の一言であり、異世界に来るんだからそんなものはないと説明しても、日本国民を守る必要があるとか適当なことを告げて法案整備は進まなかった。

 またその手の討論についての参加是非についてのファックスかと思いきや、後日行われる国会の質疑応答についての事前質問である事に気が付いた。


「あ、移民先のインフラ整備についてか。カナンは他国よりも進んでいるんだけどなぁ。それでも、現代人には酷な世界である事に間違いはないか」


 マチュアが女王になる前の辺境都市カナンのインフラは、他国にもれずひどいの一言に尽きた。

 水は井戸からの汲み上げ、下水処理は簡易的な煉瓦造りの下水管で川に流され、汚水もそのまま一緒に流されていた。

 まず臭いがきつく、よく皆んな我慢できるなぁと呟いた事もあったが、その為に香水がかなり普及していたのを聞いて呆然とした事を思い出した。


 今でも水は井戸からの汲み上げであるが、下水管は防水防臭の魔法処理を施したローマン・コンクリート、汚水も汚水槽に集められてからの自動術式浄化処理、そこから河川に放流される。

 結果として自然に優しい環境づくりとなったのだが、それでも馴染みのない人にとっては嫌であろう。


 次に問題になっている電気事情。

 そんなものはないと何度突っぱねているのだが、転移門ゲートを固定して電力を供給してはどうかと再三しつこく問い合わせてくる。

 どうせ議員の忖度かコネか何かである事は理解しているので、終始カナンには電気は引かない事を説明している。 


 そして電話。

 異世界ギルドと馴染み亭にWi-Fiがあるのに、どうして移民受け入れ先となるグランドカナンにはないのかという問い合わせも殺到。これまた携帯電話関連メーカーからの問い合わせやそこから色々と便宜を図ってもらっている議員からの圧力が後を絶たない。

 つまり、インフラ事情すなわち国会議員の都合である事を、マチュアはここ数回の国会質疑応答で理解していた。


「さて‥‥そんじゃあ、出来る所からコツコツとやりますか」


 そのままマチュアは席を立つと、近所のホームセンターまで箒に乗って買い物に出かけてしまった。


‥‥‥

‥‥


 豊平区にあるホームセンター『ビバ・ハウス』。

 巨大駐車場を挟んで真向かいにはショッピングセンター『西光ストア』がある。

 まずはビバ・ハウスに向かい、水道関連のパーツを購入しようとしたが、まだ朝の8時。

 営業時間前なので、しばし大使館裏の自然公園でのんびりと散策。

 そして10時になると、もう一度ビバ・ハウスに向かい水道関連売り場に向かった。


「ふぁ~、色々とありますなぁ。さて、どれがいいのやらさっぱり判らんぞ」

「いらっしゃいませ、何か‥‥これはマム・マチュア。なにかお入り用ですか?」

「はい、お入り用です。えーっと‥‥水道の蛇口の元ってなんていうのかな」

「水の出る部分は吐水口、ハンドル部分はスピンドル、内部のパッキン部分はコマとパッキンですが」

「いや、本体の‥‥」

「蛇口ですね」


 そのまんまかよ。

 思わず笑ってしまうが、ならばどれにするか思案どころである。


「これってJIS統一規格?」

「はい、そうですが」

「なら‥‥この一般的な奴を一式、10セットくださいな」

「ありがとうございます。ではレジカウンターまで運んでおきますので。水道管などは必要ですか?」

「それはいいや。魔法で何とかするから」


 そのまま買い物を全て終えると、西光ストアで大量のジュースを購入。そのまま異世界大使館へと戻っていった。


‥‥‥

‥‥


「‥‥今度はなんですか?」

「ン? グランドカナンのインフラ整備。まずは魔晶石に水生成(クリエイトウォータ)を付与して、それを水道管のスピンドルの根本のパッキン部分に付けると。あ、その前にスピンドルを魔力伝導のいいアダマンティン合金で作り直してから、最後に蛇口の後ろを塞ぐとはい完成。マチュア製魔法の蛇口の出来上がり」


──パンパカパーン

 にこやかに作ってみたものの、どうも反応がよろしくない。

 事務局の職員一同、仕事に集中している‥‥というか、マチュアから視線を外そうとしている。

 一部の視線は赤城に向いているが、その赤城はさっきから冷や汗をダラダラと流している。


「ん? まさかとは思うけれど、これってもう赤城さんが作ったの?」

「はい。まったく同じ作りです。うちと一部女性職員の家はこれに付け替えています、はい‥‥」

「ほほう。なら、更に改良だな‥‥このパッキン部分の魔晶石に、更にお湯生成(クリエイトホット)を‥‥」

「それも作りました。温度設定も可能です」

「なん‥‥だと‥‥ならば」


 さらにマチュアの製作本能に火が付いた。

 より魔力強度の強い純魔晶石を取り出すと、食物生成(クリエイトフード)の応用魔術を付与。これで赤城には出来ない謎の蛇口が出来た。


──パンパカパーーン


「お茶の出る蛇口~」

「それはまた‥‥私、それ作れなかったのですよ?」

「魔晶石じゃあ込められる付与魔術の強度に限界があるからねぇ。ということでこちらが本日活躍した純魔晶石でございます。どこのダンジョンに行っても最深部に極僅かに存在する魔障溜まり、その近くでしか取り出す事の出来ないもので」

「普通の日本人は何処にでもあるダンジョンにはいきません。深淵の回廊で何層ぐらいですか?」

「90層以上。この前散歩がてら100層まで行って来たから、ついでに採取して来た」


 あっさりと告げるマチュア。これには一同納得である。


「あ、あの、マチュアさん、それって珈琲や紅茶が無限に出る蛇口も作れますか?」

「術式を変更すれば梵ジュースでもリンゴジュースでも、それこそ日本酒だって出せる蛇口作れるわよ‥‥と、梵ジュースは無理だ、魔法のオレンジジュースになる」

食物生成(クリエイトフード)いいですわ。それ教えてください」

「十六夜ちゃんが魔導忍者になったらね‥‥と、三笠さん、まさかこれも作れるの?」

「流石に錬金術関係の術式については難易度が高すぎまして‥‥それに材料もありませんし」


 肩を竦めつつ呟く三笠。

 そりゃあそうだとマチュアも納得すると、一応希望の蛇口を大量に作って食堂に設置する事にした。



 〇 〇 〇 〇 〇

 

 

 午後からもインフラ用魔導具の開発。

 こんどは火関係である。


「‥‥さて、どうすっかなぁ。魔晶石に火を付与……火?」


 まあ、やってみるかと魔晶石に灯火トーチを付与する。そして魔力を軽く流すと、魔晶石の尖った先端からポッ、と小さい火が灯る。


「ライターですね」

「ライターだね」

「ライターかぁ。原価おいくら万円ですか?」

「この手の魔晶石なら、一個銀貨一枚、千円ってとこか」

「高いっ、それは売れませんよ。何でライターなんて作ったのですか?」

「ライターちゃうわ、実験だよ」


 赤城や十六夜に問われ、最後に高島に突っ込まれたのでそのままポイッと魔導具失敗作の入っているダンボール箱に放り込む。

 今度は魔力回路の調整、増幅の術式と抵抗の術式、遮断の術式を組み込む。


「はい完成。この魔石を鉄の型枠に丸く綺麗に並べてガスコンロの火口のように設置して。全ての魔石をアダマンタイト鋼糸で繋いで、正面のツマミに繋げると、あら不思議、魔法のカセットコンロの出来上がり‥‥何で?」


 普通のコンロの筈が、カセットコンロ大のものを作ってしまう。


「あれ、馴染み亭の魔力コンロってどう言う仕組みなんですか?」

「あれは調理師の魔法にある簡易厨房っていうのを永続化パーマネントしてあるだけ。つまり設置型の魔術の塊なので、お手軽に持ち運びは出来ないのよ」

「それを魔晶石に付与して、誰でも簡単に使えるようにしたら」

「正直言うと、プロ仕様の大きさなので家庭用としては邪魔だねぇ。備え付けのキッチンに使いたいけれど、どうしてもガスオーブンや大型フリーザーがねぇ」

「何で業務用にこだわるのですか?」


 改めて赤城に言われると、マチュアも頭を捻ってしまう。

 そもそもグランドカナン用のインフラなわけであり、そんなに経費の高いものを作る必要はない。


「んー。それじゃあ、このカセットコンロ型のをテーブル式ガスコンロ‥‥魔導コンロにすればいいのか‥‥」


 もくもくと筐体部分を作り、普通と強火力の二口、そして中央には上火のグリラーもセットする。全て魔導カセットコンロに使った技術であり、魔晶石もそれほど純度の高いものは必要としない。

 何だかんだと1時間程でサンプルを作り出すと、マチュアはようやく納得のいく一品を仕上げる事に成功したのである。


「この魔導水道と魔導コンロを、グランドカナンの日本人宅用に作るのですか?」

「いや、サンプルとして作っただけ。これをカナン魔導商会に‥‥いや、アルバート商会に図面を渡して作ってもらうかな。あそこなら作れる人都合つけれるでしょ」

「だといいですね。後は電気問題ですか?」


 三笠が問い掛けるのだが、これにはマチュアも困ってしまう。

 そもそも電気を引く気はないし、そのためのインフラを作る気もない。

 だが、現代日本人にとっては電気は必須である。家電製品のない国に引っ越ししてくるかと思うと甚だ疑問である。


「ん~。やっぱりまだ早いから作らないわ。カリス・マレスに引っ越してくるのなら、家電製品は使えないと覚悟してもらおう」

「それでいいのでは? ですが、携帯電話のない生活に耐えられるものが果たしてどれぐらいいるのかという所でしょう。クリアパットのように魔導で動く携帯電話を欲して来るでしょうからねぇ」

「そんなの知らんわ。そもそも魔導スマホなんて試作も作っていないんだよ? あちこちの利権が絡んでいるし、そもそも電波帯の設定もしないとならない。86GHZ以下の電波帯なんて使わせてもらえるわけないし‥‥という事で作れません、はいおしまい」


 パンパンと手をたたくマチュアだが、赤城たちはクリアパットを見て考えてしまう。


「これって、どうやって受信しているのですか?」

「基本はフリーWi-Fiだよ。逆サーチで使えるWi-Fiを自動的に検知して繋いでいるだけ。でも、それだとWi-Fiのないエリアでは使えないでしょ? そのために『魔力帯』っていう特殊な波長を使って通信出来るようにはしているけれど」

「その魔力帯を使ったスマホなら作れますよね?」

「作れるかといわれれば作れる。だが、電話番号の設定とかも出来ないし、魔導スマホ同士でしか使えないから無理だよ。携帯電話事業に食い込む気はないんだから」


 そこまで言われると、さすがに赤城たちも諦めてしまう。

 それ程までにスマホを魔導で作る事は難しいのである。

 作るのはそうでもないが、電波帯使用における契約、電話番号の登録と相互間通信、機種代金と使用料についてなどなど、とにかく面倒である事に変わりはない。


「まあ、それもそうですね。では引き続き頑張ってください」

「まあ、後はそんなにないから、サンプルを更に調整するだけだから」


 そのままマチュアは作業を再開した。

 途中で色々と改良しては、その合間にさっきの話にあった魔導スマホの図面を書く。やがて夕方になり水道と魔導コンロについては完成品が作られたが、それ以外については全くといっていい程手探り状態のままであった。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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