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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第13部 日常どうでしょう・リターンズ

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魔導具開発・その3・よし、いい度胸だ……った。

 札幌市民ホール大会議室。


 本日13時より行われる、異世界大使館によるアンダーウェアメーカー各社に対しての公開質問会の準備の為、大使館各部署から派遣された職員は、設営スタッフとして朝から走り回っていた。

 参加申し込みの返事が来たアンダーウェアメーカーは実に370社、ソックスなどのフットウェア系は参加を見送ったらしいが、その他のアンダーウェアメーカーは国内ほとんどが参戦、海外からの問い合わせもあったらしい。


「いやぁ。各社配布用のサンプル下着やら、大型プロジェクターがわりのクリアプロジェクターやら、色々と作ってると大変だわぁ」


 会場となる大会議室の隅では、既に大量の魔法陣が展開している。その傍ではマチュアが術式の調整を行いつつ、仕上がった下着の梱包作業を行なっていた。


「あの、こういうのって魔法でポーンって出来ないのですか? 漫画や小説ではよくありますよね?」

「佐藤ちゃんや、それは漫画や小説だけだよ。そんなに都合のいい魔法があったら、産業革命出来ているわよ……ほい、佐藤ちゃんにもあげるわ」


 ポイッと下着一式の納められた箱を佐藤アナに手渡すが、まだ佐藤アナはその効果について理解しきれていない。


「あ。ありがとうございます」

「先に言っておきますが、勝負下着には使わないこと。とんでもない効果が出るので、余波で周囲の人を巻き込みかねないので……」

「そ、そこまでですか」


 そう説明しつつも、こっそりと佐藤アナの魂の護符(ソウルプレートとリンクしておく事は忘れない。


「それは肝に命じておきますね。では、打ち合わせがありますのでまた後ほどお願いします」

「はいはい、それでは頑張ってねー」


 手をヒラヒラと振って佐藤アナを見送るマチュア。その後は制限時間いっぱいまで『神々の悪戯』と高島命名の『武甕雷』の量産を続けていた。


………

……


 先日夕方。

 異世界大使館から送られた緊急質問会の参加申し込みの集計が終わった。

 集まった下着メーカーは実に370社、予想外に参加者が多かったので急遽大会議室よりも更に広い市民ホールを借りて行う電撃質問会に変更された。

 各社ともにファックスを受信してからの参加申し込み、そして準備からの北海道への移動までの日程がわずか半日と、とんでもなく慌ただしいスケジュールとなっているが、これはマチュアの作戦である。

 考える時間を与えず、質問会に対しての対策も練らせないことで、素のままの状態の質問を受け付けることができる。

 事前情報などない状態、一部ネットで噂されている程度の情報でどこまで突っ込んだ質問をする企業があるのか興味津々である。


 そして定刻前に異世界大使館に問い合わせが来た。

 本日の質問会についてのファックスを受信していない企業からである。


………

……


『同じ札幌に住む企業として、どうしてうちが参加出来ないのか納得出来ないのですが』

「あ、その件についてですが、マチュア大使からの指示です。なんでも、貴社のファックスを見てなにやらブツブツと話をしていましたが……」

『で、では、直接会場に向かってお話しすれば良いのですか?』

「無理ですね。では失礼します」

──ガチャッ


 あっさりと電話を切る三笠。

 その後すぐにファックスが届いたが、三笠は軽く流すだけですぐにシュレッダーに掛けた。


「どうやって術者を引き込んだのか知りませんが、カリス・マレスの魔術で犯罪行為を行った時点で有罪ですよ。相手が日本国の住人だったらまだ言い訳が通用するのに、よりによって異世界大使館の職員を狙うとはねぇ……」


 笑顔の消えた三笠の呟きに、事務局の室温が3℃下がったとか下がらなかったとか。


………

……


『と言う問い合わせがあったので、お気を付けください』

「ほい、ありがとう三笠さん。こっちも準備オッケーですよ。細工は流々仕上げを御覧じろってね」

「まあ、お手柔らかに」

「ほいほい。それじゃああとは宜しくね」


 盗聴対策ではないが、念話で話を終えるマチュア。

 そのまま会場外にある受付に向かうと、入り口に作られたゲートを眺める。

 その横にあるテーブルには、犯罪予防の『真偽の宝珠』と『鑑定珠』が置かれており、テーブルにあるクリアパットと連動していた。


「受付の準備は完了です。中と外には大使館職員が待機しています」


 本日の受付嬢である十六夜がにこやかにマチュアに話し掛ける。なのでマチュアもニイッと笑う。


「さて。異世界大使館相手に悪さをしたらどうなるか、国家レベルでなく民間レベルで思い知ってもらいましょうか」




◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 12時。

 受付開始時間になると、並んでいた各社の担当がカウンターで手続きを始める。

 事前に参加者については名前の提出がされているので、それと名簿を照らし合わせるだけなのだが。


「では、まずこちらのカウンターで皆さんの魂の護符(プレートを登録させていただきます。その上で、名簿と照らし合わせますのでご協力お願いします」


──ザワザワザワッ

 この説明の後、各社殆どの担当は登録カウンターに移動する。その後、登録せずにまっすぐに受付に向かう者とロビーで携帯片手にうろうろしている者も現れた。


「あ、あの、当日いきなり担当が変わると言うのは駄目ですか?」

「はい。予めファックスでの登録でもありますし、担当の変更については当日朝なら可能と明記してありましたので」

「そうでしたか……失礼しました」

「あの、ファックスでの申込書が届いていなかったのですが……」

「それについては、当方での事前抽選に漏れたと言う事でご了承ください」

「当日のキャンセル枠などありますか?」

「誠に申し訳ございませんが、全て事前登録となっておりますので」

「あの、道議会議員の手紙を預かってきたのですが」

「はい。それではお預かりしておきます。後ほど担当にお渡しておきますので」

「い、いえ、今日のイベントの件で色々とその……」

「ああ、便宜を図ると言うやつですか。申し訳ございませんが、そういった類のものは一切受け付けておりませんので」


 ダメ元で参加しようとする者、申し込みを忘れた者、お偉いさんに便宜を図ってもらおうとした者全てが受付で呆然とする。

 中には電話で怒鳴られたのか、オロオロとしているものまで出ている。

 そんな中、普通に登録を終えた者は入場して席に着いている。


………

……


 そんなロビーの喧騒をよそに、一組の男女が物陰からその様子を窺っていた。


「まあ、そうなるよな。クライアントからの指示は分かっているな?」

「質問会会場に潜入、質問会の内容を音声と映像で持って帰ること。可能ならお土産も忘れない……でしょ?」

「それで良し。そんじゃあいきますか」


 この二人は片桐亮司と林美紅、異世界渡航歴5回のベテラン冒険者である。

 ちなみに亮司は盗賊、美紅は魔術師として冒険者登録も行なっており、そこそこに経験は積んでいた。

 つい先日も、札幌市内の某下着メーカーからの依頼で、神々の悪戯を所有者から盗み出すように依頼を受け、それを無事に遂行していた。

 異世界で身につけたスキルによって、二人は空き巣や窃盗など、様々な犯罪に手を染めていた。その結果、裏ではそこそこに実力のある二人組として名を馳せているのである。

 主な依頼主は企業が大半であり、ライバル企業の調査や開発中のデータなどを盗み出すなどの犯罪を犯していた。

 今回もそのツテで神々の悪戯を複数盗み出していた。

だが。


「サンプルが消えた? そんなの俺達のせいではないですね」

「依頼はターゲットの所有している下着一式の回収。それも終わってますし提出したではないですか?そちらで紛失したものなんて責任もてませんよ」

「それはそうだな。では、もう一つ頼まれてほしい……」


 と本日早朝、急ぎの依頼が入ったのである。

 そして今日、二人は仕事の為に会場にやって来ていた。


………

……


 人気のない物陰で美紅が『透明化インビジブル』の魔術を唱える。

 ス〜ッと亮司と美紅の姿が透明になったので、二人はのんびりと受付に向かい、そのまま入口に入って行こうとするが。


──ピピピピピピッ

 入り口横カウンターのクリアパットが鳴り始める。

 すると中で待機していた高島が入口に立ち塞がる。


(な、何だ?一体何があった?)

(まさか、魔法で感知したの?)


 そう二人が考えるよりも早く、高島が二人の姿を捉える。心霊盗賊アストラルシーフの高島相手に、透明化や隠蔽スキルは無力である。


「異世界魔法等関連法第4条第3項に基づき、魔術行使による不法侵入者の捕縛を行います」


 高島が魂の護符(プレートを掲げて宣言するや否や、右手に掴んでいた索と言うロープ状の武具を投げる。すると索は意思があるかの如く亮司と美紅に向かって伸びて行くと、一瞬で二人を縛り上げた。


「な、何だこれは、俺達が何をしたって言うんだ」

「ちょっと待ってよ、これって違法じゃないの!!」


 空中に浮かんでいるロープ。丁度人間の男女の頭の辺りから亮司と美紅の声が聞こえてきたので、受付の赤城が二人の方をじっと見て。


「異世界魔法等関連法第5条第6項に基づき、魔術の行使を宣言します……魔力の海の揺蕩うものよ、かのものより魔の力奪いたまえ……魔法中和空間アンチマジックフィールドっ!!」


 宣言ののち、赤城が静かに詠唱を開始する。すると亮司と美紅の姿がス〜ッと浮かび上がる。


「さて、魔法の行使による住居侵入罪で、現行犯逮捕させて頂きます」


 すぐさま赤城が魂の護符(プレートを再び翳す。

 現行犯なので私人逮捕が適用されたので、亮司と美紅はそのまま警備員に引き渡される。この後、警察官が到着するとその場で逮捕となるのだが、魔法を行使して逃走を図る可能性があると言うことで、マチュアが二人を拘束バインドした……。


 この一連の騒動はそのままYTVとHTNによって撮影されていた為、日本初の魔法犯罪の生放送となったのは言うまでもない。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯




 午後1時。

 定刻通りに異世界大使館謹製アンダーウェアの質問会が始まった。


「それでは、只今より異世界大使館製アンダーウェアの質問会を開催します。まず最初に説明しておきますが、このアンダーウェアについては一切市販は行いません。これを作れるのは私だけであり、素材を作ることが出来るのも私だけです。この技術は極一部の知人にしか伝えておらず、その原材料もカリス・マレスでしか産出されません。その事を踏まえての質問をお願いします」



 まずマチュアの挨拶ののち、質問会の注意事項の説明があった。この説明だけで、会場内はザワザワと騒がしくなる。

 やがて質問のある社が手元のスイッチを押した。


「素材については教えて頂けますか?」

「基本材質はデーモンシルクワームの吐き出す魔糸とミスリル鋼糸、アダマンタイトの粉末を用いて錬金術を使用します」

「地球産の材料で代用可能でしょうか?」

「手っ取り早く行うなら普通の絹糸と真珠粉を用いて錬金術ですね。どうしても材質変異の術式は必要なので、錬金術師でなくては厳しいかと」


 ここで各社担当にサンプル品が配布される。

 予め魂の護符(プレートでの登録は終えてあるので、マチュアとしても安心して配布する事が出来た。


「皆さんのお手元には女性用アンダーウェアの『神々の悪戯シリーズ』と男性用の『武甕雷シリーズ』が配布されています。既に参加担当者の魂の護符(プレートでの登録は終えてありますので、紛失しないようにお願いします。まあ、紛失しても責任は持てませんから」


 会場の彼方此方あちこちから笑いが起こる。


「尚、サンプル品を持ち帰って研究するのは構いません。これの効果につきましては、これからご覧になる映像を参考にしていただくと宜しいかと」


 そう説明すると、会場内が暗くなる。

 そしてマチュアが徹夜で制作した、ドラマ仕様のアンダーウェアの説明映像が流れ始めた。

 時間にして15分、説明としては短いのかもしれないが、その効果については参加者全員が鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を受けていた。

 ただのアンダーウェアではない。

 こんなものが市販されたら、どのメーカーも太刀打ち出来ない。

 寧ろ、この技術があれば世界を制することが可能である。

 問題は、これを本社に報告した時の反応である。

 このようなものが市場に出回ったら、それはまさしく脅威であろう。自社なら問題はないが、他社にこの技術が持っていかれたら倒産待った無しである。

 もっとも、マム・マチュアが異世界大使館以外には販売しないと告げた以上、それは嘘ではない。

 その点だけに希望を見出していた。


 やがて映像が終わると、参加者の一部が顔を紅潮したり体をモジモジとさせている。

 映像を見ただけで、その凄まじさを実感したのだろう。

 そして、そのサンプルが自分の手元にある。

 誰しもが、すぐにそれを体験したいと考えていた。


「さて、それでは引き続き質問会を再開します。どなたかいらっしゃいますか?」


 今度は先ほどまでとは違い、大勢の質問があった。


「これを地球の冒険者なら生産可能ですか?」

「あ、そう来たか……可能性でいうなら『不可能ではない』と言うところですね。材料についてですが、カリス・マレスから輸出規制のあるアダマンタイトとミスリル鋼、そして生体素材であるデーモンシルクワームの糸、これをクリアしたら行けるかなぁ。錬金術師は……弟子入りして教えてもらえればと言うところですかね」


 突然の希望。これには会場内も騒めく。


「もしもそれを全て揃えられて販売したとします。その際の特許はどうなりますか?」

「以前にも特許庁に問い合わせましたが、マジックアイテムには著作権は存在しません。なので勝手に作ってください。少なくとも日本国内では特許庁に申請しても突っぱねられますので」

「海外では?日本の特許庁とは審査が違いますよね?」

「そっちは知らないなぁ。出来るかも知れないしできないかも知れないし。まあ、私以上に細かい説明ができる人は居ないので、特許を悪用するようならその申請を覆すこともできるよ。悪用じゃないなら好きにすれば?」


 つまり、異世界大使館の姿勢としては、『作りたかったら作れば?サンプルもあげるよ。でも悪さしたらぶっ飛ばすからな』という所なのであると、参加者は理解した。

 そして最後のマチュアの言葉が、それを裏付けた。


「本日は長い時間お掛けして申し訳ない。けれど、余りにも問い合わせが多かったのでこのような質問会を開きました。地球産の冒険者も少しずつ育っている現状、そろそろ自分達で魔導具を開発してもいいんじゃないかなぁ、という事でこの場を設けました。今後、皆さんの企業から魔導具が公開される日が来るのを楽しみに待っています」


 拍手喝采。

 これで全てが終わった。

 徐々に会場を後にする人々、会場内に入れなかったので、出てきた協力企業に話を聞いている者、そしてしつこく商談を持ちかける非参加企業などがいる中、無事に全てが終了した。


………

……


 後日。


「へぇ、異世界魔法等関連法ではじめての実刑出たんだ」


 ロビーでいつものようにニュースを見ているマチュア。その中では、冒険者二人組による盗賊団の逮捕と実刑が決定したことが流れていた。


「まあ、これに懲りて同じような犯罪者が出ない事を祈るよ。警視庁に新設される魔導捜査課の、お世話にならないようにね……」

「そういう事ですね。それでですが、職員の有志から、夏用の水着が欲しいと言う要望が来ていますが、どうします?」


 三笠がロビーでのんびりしているマチュアに話を持ちかけたが。


「……唐突に水着が来るとは……異世界ブランドでも作るかなぁ」

「あ、登録商標は全て終わっていますから、いつでも出来ますよ?絶対に溺れない水着とかはいいかもしれませんよねぇ」


 三笠さん、相変わらず仕事が早いことで。


誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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