幕間・ブラウヴァウトの女王
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
コキリコ・ブラウヴァルト11世。
亜神の父とハイエルフの母を持つ半亜神。
それゆえハイエルフであるにも関わらず亜神の持つ不老長寿を手に入れることが出来たのだが、元々ハイエルフの寿命はとんでもなく長く、実質的な不老長寿であるが為に父からの恩恵は殆どなかった。
唯一、精霊王の加護を持っていたので、彼女は精霊王アウレオースと交信をする事が出来た。
同じハイエルフの殆どいないブラウヴァルト大森林、その中心にそびえる世界樹で、コキリコはアウレオースと話をするのが好きであった。
エルフの中でも、特に古代エルフ純血種のみがハイエルフと呼ばれており、その数はカリス・マレス世界でも1000人もいないと伝えられている。
あまりにも長い寿命故恋愛という感情が起こる事はあまりなく、子孫繁栄も血を受け継がせるための『仕事』という事で理解している。
そんなコキリコにも春が来た。
今から2000年ほど前、異世界メレスからやって来た魔王軍により、このカリス・マレス世界の大地は徐々に浸食されていた。
そんな中、ウィル大陸の小国の巫女が、異世界からラグナという少年を召喚した。
カリス・マレス世界には存在しない能力を身に着けたラグナと、同じく神々の巫女であるマリア。
そしてコキリコも、世界樹の導きによって二人の元にはせ参じると、共に世界を滅亡の危機から救うと誓ったのである。
「俺の名はラグナ、異世界ネツァークからマリアの力によって召喚されたんだ。これからよろしく頼むな」
キラーンと輝く歯。金髪ショートヘアー、そして鍛えられ絞られたフィジーク型の肉体。
全てがコキリコにとっての理想であり、そして初恋であった。
「は、はい、よろしくおねがいしましゅ‥‥」
真っ赤な顔で挨拶するコキリコの手を、ラグナそっと握り締めて笑顔で頷く。
この時の光景を、マリアは複雑な顔で見つめていた。
この日から、三人の苦悩の日々が続く。
毒に侵された街を救い、死霊によって滅ぼされた王国を浄化する。
魔王軍の進軍を止めるため瀕死になった事もある、ギリギリまで追い詰めた魔王軍が超巨大戦艦に乗って逃げて行った事もあった。
そんな様々な戦いを経験していても、コキリコは幸せであった。
いつもラグナがそばにいるから。
だが、それはマリアも同じである。
自身の魂を半分削ってまで召喚した勇者。いわばラグナはマリアの半身である。
それはラグナも知っていて、ラグナが死ねばマリアも死ぬ。それゆえ、どんな戦いの中でも、ラグナはマリアを守り抜いた。
魔王軍四天王の一人、曹操の知略によってマリアが囚われてしまい、それが罠だとわかっていてもラグナは単身で敵のど真ん中に飛び込んでいった。
やがて三人の結束は高まり、ついに魔王エルコーンを追い詰める事になる。
そしてあの日。
ラグナとマリアは神々の力を使い封印術式によって、魔王エルコーンを魔界メレス・ザイールの遥か北に封じる事に成功。
これで全てが終わり、世界は平和を取り戻した。
‥‥‥
‥‥
‥
「ラ、ラグナ‥‥戦いが終わったから言うけれど、私ね‥‥」
「待ってくれコキリコ、俺も君に伝えたい事があったんだ‥‥」
「そ、それって、まさか」
コキリコの胸が高鳴り始める。
コキリコの今世紀最大の決断、今日こそラグナに告白し結婚してもらおう大作戦だったが、まさかラグナに告白されるとは思っていなかった。そしてこの直後のラグナの言葉に、コキリコの心は崩壊を始めた。
「ああ。俺、マリアと結婚するんだ」
え?
なんで?
どうして私ではなくてマリアなの?
「そ、そう‥‥なの。おめでとうラグナ。私は半亜神なので不老、なのであなた達の子孫をずっと見守ってあげるね」
違う、そんなことを言いたかったんじゃない。
私がラグナのお嫁さんになるの。
あんな魔法バカじゃなくて私を選んでよ。
「ありがとう。コキリコなら判ってくれると思っていたよ」
「ええ。それと、私は不老だけどラグナは人間、私だけ年を取らないであなたが死んでいくのを見ているのは辛いから、私は国に戻るわね。そしてずっと、未来永劫あなた達を見守ってあげる」
いや。
別れたくない。
どうして‥‥私頑張ったよね?
ずっと一緒だったよね?
「判った。もし困った事があったら、いつでも俺たちの国に来てくれ」
「俺‥‥たち?」
「ああ。マリアと結婚するので、この地に俺たちの王国を作るんだ。名前は‥‥ラグナ・マリア王国、二人で作る永遠の王国だよ」
「そう‥‥じゃあ、私はあなたの国の隣に王国を作るわ。それじゃあね」
見たくない。
あなたの隣に私がいない世界なんて。
マリアの国なんて嫌い。
だけど、あなたの国は好き。
コキリコはラグナとマリア二人の結婚式を見届けた後で故郷のブラウヴァルト大森林へと戻って行く。
その1年後、コキリコはとんでもない話を聞いてしまった。
先の大戦によって世界を救ったラグナとマリア、二人は神の加護により魂が昇華し亜神となったのである。
「そ、それを知っていたら、私はマリアなんかにラグナを譲らなかったわよ‥‥どうして今頃になって亜神化するのよ‥‥あの二人のイチャラブを未来永劫見つめていかなくてはならないなんて‥‥飲まなきゃやっていられないわ」
その夜。
コキリコは世界樹のふもとで酒盛りを始めていた。
最初は静かにラグナを思って、のちにマリアを憎みつつ。
どんどんと酒が入っていき、やがてコキリコは前後不覚に酔いしれてしまう。
そして月が頂点に達したとき。
「何よぉ、マリアなんて攻撃魔術の一つも使えないじゃないろのぉ‥‥私なんて、魔術に神威だって乗せられるんらからぁ‥‥こうやって神威で炎をつくればぁ、燃やせないものなんてないのろぉ‥‥」、
──ボウッ
酔った勢いで、神威を伴った炎が周囲に広がっていく。
それはやがて世界樹の枝に燃え広がると、その巨木をゆっくりと焼き始めた。
自然の炎に対して絶対な耐性を持つ世界樹だが、神威を伴った炎となると話は別である。
しかもコキリコの魔力は絶大、亜神とハイエルフの魔力は伊達じゃなかった。
世界樹を覆っていた炎は一晩中燃え盛り、朝には全てを燃やし尽くしてしまっていた。
世界樹が燃え盛っている間、コキリコは少し離れた草むらで酔いつぶれていた‥‥。
‥‥‥
‥‥
‥
オオオオオッッッッ。
コキリコが目覚めた時、世界樹は灰となり世界を包む光魔力は全て失われていた。
「こ、これは一体‥‥まさか魔族の生き残りが?」
そう。
コキリコは失恋し酔った勢いで世界樹を燃やした。
しかもその事実を覚えていないどころか、本気で魔族の襲撃があったと信じていた。
「苗は? もしくは根でも構わないわ。まだ少しでも世界樹が残っているのなら、まだ再生は間に合います。なんとしても探すのです」
コキリコは命じた。
今、この世界から世界樹が失われてはまずいと。
だが、一か月探し続けても、ついに世界樹の痕跡は何も発見できなかった。
この世界から魔術が全て失われてしまったのである‥‥。
‥‥‥
‥‥
‥
「精霊王アウレオースよ‥‥ひと月前に起きた世界樹の焼失、その犯人を教えたまえ‥‥」
コキリコはアウレオースに祈った。
ラグナを奪われただけでなく、まさかのハイエルフの聖地である世界樹までも失ってしまった。
ラグナを今から取り戻すことはできないけれど、せめて世界樹を燃やした魔族を見つけなければならない。
だが、アウレオースの言葉は非情であった。
『世界樹を燃やしたのはあなたですよ‥‥』
「え‥‥今、なんと?」
『ですから、世界樹を燃やしたのはコキリコ、貴方です。あの日、失恋して酒に酔った勢いで世界樹を燃やしたのですよ? 本当に覚えていないとは‥‥その罰として、私はこの世界に残っていた全ての世界樹をエーリュシオンに移しました』
「え、えええ‥‥それはどうしてですか」
『‥‥男に振られた挙句に酔っぱらって前後不覚になり、世界樹を燃やしてしまうような種族に世界樹の管理を任せるわけにはいきませんわ‥‥今しばらく、この世界から魔術の根幹である光魔力を消滅させます。それで自身の行ったことに対しての罪をしっかりと自覚なさい』
コキリコは膝から崩れ落ちた。
まさか世界から魔術を奪ったのが自分自身だとは信じたくなかった。
だが、アウレオースは嘘を告げない。
ゆえに、私が大罪人となった。
この事は知られてはいけない。
この真実だけは隠蔽しなくてはならない‥‥。
この日から、コキリコは大森林にある自分の王国に引き籠った。
他国との国交すべてを遮断し、決して外部の人間を引き込まないようにした。
全てはこの事実を封印する為。
そしてコキリコ自身も、自分の記憶を魔術によって封じた。
‥‥‥
‥‥
‥
そして現在。
「はぁ‥‥ストーム様。会いたい、今すぐに会いたいですわ‥‥」
コキリコは時折ストームの事を思い出しては、布団の中で身もだえていた。
どうして自分はあそこにいないのか。
なぜ、ストームは私を選んでくれなかったのか‥‥。
どうせなら、ストームに選んで欲しい。
だったら、もっと早くストームに出会えればいい。
どうやって?
「私自身が過去に転移すればよいのですわ。そしてストーム様の幼少時代にあの方と出会って、ともに過ごしてきたらいいのですわ」
そう決断すると、コキリコは探し始めた。
過去に向かうための秘術『時渡りの術式』を。
いつかそれを発見して、夢が叶う日を夢見て。
負けるなヤンデレ、頑張れコキリコ。
きっと誰かは味方になってくれる‥‥といいなぁ。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






