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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第13部 日常どうでしょう・リターンズ

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世界樹騒動・その5・薬草採取と魔物の群れ

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 厳也が魔術師ギルドを後にした日。

 町の中では、旅の商人である厳也の姿を探す人々が縦横無尽に走り回っていた。

 ギルド受付で見ていた伝説級の魔法薬ポーション、それを是が非でも手に入れる為に商人だけでなく貴族までもが部下に命じて厳也を探していた。

 しかし、当の厳也は馬車を拡張エクステバッグに収め、人目に付かないようにこっそりとアルフォードとエリーゼの部屋に避難していた。


「こりゃあいかんなぁ‥‥」


 ベッドに眠っていた一組の男女。男性は両足が膝から下を切断され、女性の方は左目から胸元をざっくりとえぐられている。

 魔法によってかろうじて命が繋がっている程度で、それもだんだんと効果を弱めているようだ。


「町の外に薬草の群生地がいくつかありまして、そこでの採取依頼を受けていた時に野良ドラゴンに襲われてしまったのです‥‥」

「他の冒険者たちも必死に戦っていたんだけれど、それでもかなりの被害者がでてしまったんだ‥‥うちは全滅していないからましだマシなほうで、知っている限りでも三つのパーティーが全滅しているんだ」


 そう告げつつ、アルフォードとエリーゼはそれぞれ一本ずつ万能魔法薬ポーションを手にベッドに向かう。

 そして意識の薄れている二人にゆっくりと魔法薬ポーションを飲ませようとしたが、厳也はそれを制した。


「すまん。どうやらその二本は効果が劣化しているようでござる。こっちを飲ませるがよい」 


 素早くエリクサー二本を取り出して有無を言わせずに交換する。

 そして二人はエリクサーと知らずにベットに横たわっている二人に魔法薬ポーションを飲ませる。すると、傷だらけの二人の体が淡く輝き、ゆっくりと再生を開始した。

 壊死しかかっていた臓器や傷も回復し、失った欠損部位も完全回復を始め、5分程で二人の体は元の状態に戻って行った。

 その光景を、アルフォードとエリーゼの二人は祈る気持ちで見ていたのだが、二人が回復したのを見ると涙を流して喜んでいた。


「‥‥グラシア、ルーベラ‥‥よかった‥‥」

「厳也さんありがとうございます!! これで二人とまた冒険に出られます」


 そう告げつつ厳也に何度も頭を下げる二人。ウンウンと厳也も頷いていると、怪我から回復したばかりのグラシアが厳也達を見ている。


「アル、俺達は死んだのではないのか‥‥ルーベラなんて、ドラゴンの爪の一撃を受けたはず‥‥まさか、蘇生したのか?」

「そうよ。私なんて、夢の中で見た事もない褐色の肌の女性に手招きされていたんだから‥‥それで、ああ、私は死んだのかなって思っていたのよ」


 あ、冥府の女神が呼んでましたかそうですか。

 これはプルートゥ、本当にすまないねぇ。

 ひょいと床に視線を送ると、遥か下でプルートゥがよいよいと手を振っている感じがする。

 なので、これはこれとして納得しておく。


「厳也さんが売ってくれた伝説級の魔法薬ポーションのおかげだ。後一日間に合わなかったら、多分二人は死んでいたからな」

「‥‥そんな高価な薬を‥‥どうやって」

「大丈夫ですわ。厳也さんが、一本5金貨で売ってくださいました。まあ、パーティー資金がかなり減ったのは事実ですけれど、命には代えられませんから」


 エリーゼが二人に諭すように告げると、グラシアとルーベラも厳也に頭を下げた。


「厳也さんといいましたか。俺はこのパーティーでタンクを務めているグラシアです。こいつは妹のルーベラ、魔術師の卵です」

「ルーベラです。この度は助けていただいてありがとうございました」

「いやいや、命あってのものじゃから。それよりも、近くにドラゴンが出たというのは本当なのか?」


 ラグナ・マリア帝国の騎士や冒険者ならば、単独では不可能だが部隊レベルでならスモールドラゴンぐらいなら討伐は不可能ではない。だが、バイアス戦争期に鎖国してドラゴンとの戦いを避けていたブラウヴァルト森林王国では、ドラゴン退治のノウハウなどある筈がない。

 結果として、たかがスモールドラゴン如きにいくつもの冒険者が全滅してしまう結果となったらしい。


「はい。赤い鱗のスモールドラゴンです。それも4頭ほど‥‥薬草の群生地近くにある小さな湖あたりに巣を作っているらしくて、ここ最近は薬草採取にもいく事が出来なくなっていたんです。それで王宮騎士団から直接冒険者達に討伐の機会を与えるという事で、Cランク以上の冒険者は半ば強制的にドラゴン退治に向かう事になりました」

「チーム数は11、総人数なら100人は超えていた筈ですが、生きて逃げてきたのはその1/3程度です‥‥」


 そのエリーゼの悲痛な言葉に、厳也はボソッと一言。


「まずいな」

「「「「え?」」」」

「ドラゴンは人間の肉食っただろうからのう。一度でも人間の味を覚えたドラゴンは、人間以外は余程の事がない限り襲いはしない。赤い鱗ということは、水神竜クロウカシスや黒神竜ラグナレクの眷属ではない、赤神竜ザンジバルの眷属であろうなぁ‥‥となると、熱波のブレスか。最悪ブラウヴァルト大森林は焼け野原になるかもしれぬ」


 そう説明すると、アルフォートたちはワナワナと震えだす。


「そ、それなら王宮騎士団が、ストリーム公爵が何とかしてくれる筈です!! この事を伝えないと」

 

 すぐさま立ち上がって、アルフォートが部屋から出ていく。エリーゼも近くにあった荷物を持ってアルフォートを追いかけていったが、まだグラシアとルーベラは動けなかった。 


「‥‥その、ストリーム公爵は本当にラージドラゴンを退治した英雄なのか?」


 厳也はつい面白がってグラシアに問いかける。すると、グラシアも頭を捻るだけであった。


「わかりません。ただ、王国結界の外までドラゴンが進軍してきた時、確かに王宮騎士団はドラゴン討伐のために結界の外に出陣しました。ですが、その時に遠征に出た騎士団は全滅、かろうじて生き残ったストリーム公爵が、ラージドラゴンの牙を持って帰還したそうです。その時にストリーム公爵は、ヒュージドラゴンは討伐したと宣言していました‥‥」

「後日調査隊が少し離れた場所にヒュージドラゴンの死体が転がっているのを発見しました。その頭部には、折れて突き刺さっていたストリーム公爵の剣もありましたので‥‥」


 ほほう。

 それが事実なら凄いことである。スモールドラゴンなど、ほんの一瞬で片付けられるであろうなぁと厳也は考えた。

 とにかく、このドラゴン騒動については商人である厳也に声が掛かる事はない。

 変に手を出して事が大きくなるぐらいなら、この国のことはこの国の人間に任せてしまえばいいと考えていた。


「まあ、その辺りは騎士団が動いてくれるだろうから、二人は今は体を休めておきなさい。儂の部屋は斜め向かいにあるので、何かあったら呼んでくれればよいぞ」


 そう告げて、厳也は一度部屋に戻っていく。

 そしてこの後何がどう動くのかと、慎重に対処を考え始めた。



 〇 〇 〇 〇 〇



 早朝。

 ラシュクーレが王城のサクリスの元に向かった日。

 冒険者ギルドには、新しい依頼が張り出されていた。


『薬草群生地にて生息しているスモールドラゴンの退治』


 つい先日、王宮からの勅令で大勢の冒険者の命が失われた依頼が、また張り出されていたのである。

 しかも、他の依頼は一切なく、掲示板にはこの依頼一件のみである。


「‥‥こ、これはどういう事なんだ」

「ギルドマスターを呼べよ、どうして依頼がこの一件だけになったんだ!!」

「ふざけるなよ、こんな国にいられるかよ!!」  


 冒険者ギルドのカウンターには大勢の冒険者が集まって叫んでいる。

 だが、この依頼については王宮騎士団からの指示であり、少なくともこの依頼が達成されてドラゴンの脅威がなくなるまでは、ブラウヴァルト森林王国にあるすべての冒険者ギルドは他の依頼を張り出すことは禁じられてしまったという通達があった。


「‥‥なら、俺たちは依頼なんて受けないわ。多少の蓄えはあるので、依頼が取り消されるまではのんびりと過ごそうじゃないか」

「違いねぇ。おい若い奴ら、もしも金に困ったら俺たちが助けてやる。こんな死んで来いといっている依頼なんて受ける必要はないからな!!!」

「そうだそうだ。こんなギルドになんている事はない、とっとと帰るぞ」


 ゾロゾロと冒険者ギルドから出ていく冒険者達。数分後には、建物の中にはギルド員しかいなくなっていた。

 空っぽになったギルドロビーを見て、ギルドマスターは頭に手を当てて困り果ててしまった。


‥‥‥

‥‥


「という事があってね。冒険者家業は休みにするので、暫くは生活が厳しくなるだろうけれど」

「まあ、それは仕方ないですわ。私達だって、命あってのものですから」

「‥‥しかし、どうして騎士団は動いてくれないのかねぇ。竜殺しのストリーム公爵がいれば、何とでもなるんじゃないのか?」

「それが、どうやらストリーム公爵は重い病に罹ってしまったらしくて‥‥ベッドから起きる事も出来ないらしいんだ。噂では10年前のヒュージドラゴンの呪いらしくて、体が全く動かなくなってしまったんだとか」


 宿の食堂では、アルフォートや他の冒険者たちが噂話をしつつ朝食を食べており、その傍らでは、厳也ものんびりと食事を取っている所である。


「しっかし‥‥都合よく呪いが発動しているなぁ。ドラゴンが営巣地を作ったという事は、この国も長くはないか。それじゃあ、とっととこの国から出る事にしようかのう」


 そう告げる厳也に、アルフォートが近寄ってくる。

 

「あ、厳也さん、この国を出るのなら俺たちを護衛で雇いませんか? 冒険者ギルドに依頼は張っていないけれど、指名依頼なら受けれるぞってギルドマスターが教えてくれましたし、そのせいか彼方此方あちこちの商人の所に冒険者達が売り込みに出ているんですよ」

「あ、成程のう。それでアルフォート達は出遅れてしまって、わしの所に来たという事か?」

「い、いや、そんな事は‥‥はい正解です」

「構わん構わん。ただ、もう暫くはこの町でのんびりしようとは思っているし、町を出る時は頼むとしようかの」


 ズズズッとお茶をすすりつつそう告げると、厳也は懐から金貨を10枚取り出してアルフォートに手渡す。


「これは?」

「予約金として受け取っておけ。まだ暫くはここにいるといったじゃろ、出発の日が決まったら連絡をするので、それまでは好きにしていいからの」

「い、いやいや、そんな事でこんな大金受け取れませんよ‥‥いいのですか?」

「うむ、パーティー分だからあと30枚か、ほれ、これもみんなに手渡しておけ」


 そのままあと金貨30枚をアルフォートに手渡すと、厳也は部屋に戻って行った。

 例の魔法薬ポーションの反応がどうなるのか、それだけをじっと待っているのであるが、その最中にも事態はとんでもない方向に進んでいたのを厳也は知る由もなかった。


‥‥‥

‥‥


 ブラウヴァルト王城、謁見の間


 静かな空間という言葉がよく似合う。

 白を基調としたさまざまな彫像や絵画、そして植物が飾られている謁見の間の玉座近く、近しい部下たちのみ座ることが許されたテーブルでサクリスは目の前に座っているコキリコ女王に静かに報告を行っている。

 目の前には件の小瓶が5つとそれぞれの鑑定書が並べられており、コキリコはそれを一つ一つ手にとっては自分自身も魔術による鑑定を行っていた。


「うーん。本当に本物のようね。もしこれが一般に出回ったとなると、ブラウヴァルトは滅亡するわ‥‥さて、どうしたものか」

「恐れながら陛下、問題はそれだけではないのです。薬草の群生地付近にスモールドラゴンの営巣地が出来てしまい、薬草を採取する事が出来なくなってしまいました」

「まさか、あの湖はこの地に残る唯一の神の加護が残っている場所なのですよ? そこにドラゴンが眼をつけたというのですか」

「おそらくは。それで先日、ストリーム騎士団長の命令で冒険者達がドラゴン退治に向かったのですが、ほぼ壊滅状態という報告が届いています。こちらは先日、冒険者から我が騎士団に届けられたドラゴン退治の為の陳情書で、どうにかこの件は竜殺しのストリーム卿に出ていただけないかと」


 その説明を受けて、コキリコはややほっとした。

 わが国にはストリーム卿がいるではないか、彼が動くのならこの件は終わったも同然である。

 そう安堵していたのもつかの間。


「ですが、そのストリーム卿は今朝より竜の呪いによって体が動かなくなったとの報告がありまして、それで卿の命令で全ての冒険者ギルドの依頼は凍結され、ドラゴン退治一本のみに絞られたそうです。まあ、冒険者もそれしか仕事がなければドラゴン退治に本腰を入れるでしょうから、この件はこれで終わりという事になりますなぁ」

「‥‥甘すぎですわね。サクリス宮廷魔導師長、そんな事をしたら‥‥我が国の冒険者は他国に出て行ってしまいますわ。すぐに先ほどの命令を解除しなさい、そしてアウレオース大神殿の神官管理庁に連絡して、ストリーム卿の呪いの解呪が出来る神官の派遣を要請しなさい。依頼がドラゴン討伐しかないとなったら、冒険者たちは手を出すどころか依頼を受けずにこの国を離れてしまいますわ‥‥ストリーム卿は何を考えているのかしら‥‥確かヨウツベ伯爵の私設騎士もドラゴン退治をしたことがあるのよね? 彼の元に王宮から要請しなさい、すぐにドラゴンの討伐に向かうようにと」

「御意‥‥それと、先日やってきたゴーレムホース持ちの商人ですが、どうやらゴーレムホースを手放す気はないらしいのです。それに、ニコドゥ伯爵やヨウツベ伯爵、ストリーム公爵も件の商人と接触しゴーレムホースを手に入れようと算段していたようでして‥‥」


 淡々と説明するサクリスに、コキリコはやれやれと困った顔をして見せる。

 そもそもゴーレムホースを手に入れるように騎士団に指示を出したのはコキリコ本人であり、その為の予算もあらかじめ騎士団長に手渡している。

 それなのに、どうしてヨウツベとニコドゥが動いているのかと疑問が湧き出る。


「あの伯爵たちは何か企んでいるのかしらねぇ‥‥後、ストリーム公爵の元に執務官を一人派遣するように。ゴーレムホースの件については、サクリスあなたが直接動きなさい。先に手渡した予算は即時回収するように」

「かしこまりました。それでは失礼します‥‥」


 そう告げて、サクリスは一礼して謁見の間から出て行く。

 残ったコクリコは、そのまま静かにベランダに出ると、ゆっくりと目を閉じて両手を広げる。


──スゥゥゥゥゥゥゥゥッ

 すると、コキリコの背中から背光によって構成された翼が広がっていく。


「神代の世界、古の大地。全ての精霊を管理する偉大なる王アウレオースよ‥‥我が問いに答えてください‥‥この世界に残る世界樹は、我がハイエルフの所有するものでありますよね‥‥」

『いかにも‥‥』 

「では、かの魔導女王の所有する世界樹も、我がハイエルフのものであると」

『否‥‥』

「そ、それはどういうことですか? この世界の世界樹はすべてハイエルフである私のものではないのですか?」

『世界樹の管理はハイエルフの権利。故にカナンの世界樹はハイエルフであるマチュア・ミナセのものである‥‥』

「‥‥そんな‥‥亜神である我が父セブーレとハイエルフの母であるミルファース、その間に生まれた神とハイエルフのハーフである私よりも、あの女の方がより強い権限を持っているというのですか」

『ハイエルフの女王コキリコよ。悪い事は言わない‥‥貴様とあの女とでは格が違い過ぎる‥‥』


 そう告げられたとき、コキリコの翼が消滅する。

 亜神とハイエルフの混血であるコキリコのみが持っている、『精霊交信翼』という能力。それによって短時間ではあるが精霊王との交信が可能である。

 この力で、コキリコは様々な問題を躱してきた。

 2000年前の魔族侵攻、1000年前の浮遊大陸戦争と竜の侵略、そして10年前のバイアス動乱、全て精霊王からの忠告に従って躱してきた。 

 だが、今回は違う。

 精霊王は世界樹の管理人を私ではなくマチュアを選んだ。

 ギリリと拳を握り唇をキッと噛みしめる。

 

「‥‥赦さない。この世界の頂点にいる者が誰であるのか、あの女にもわからせる必要がある‥‥」


 そう呟くと、コキリコは自室に戻って行く。

 どうやってマチュアを陥れるか、世界樹を奪い取る事が出来るか、それだけを考えていた。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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