魔王復活・その23・魔王軍崩壊、そして後始末
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魔王エルコーンの死。
この衝撃的な事実は、魔王城に生き残っていた魔族からメレス・ザイール全域に広がっていった。
恐怖で全てを支配していた魔王はもういない、ならばと次々に元魔王軍の残党たちが近隣の村や都市を蹂躙し、自分たちの勢力を広げようと行動を開始する。
恐れるものはない、ここからは力が全てを支配する時代。
魔王エルコーンの死により、メレスは魔界全域を巻き込んだ戦国時代に突入した‥‥。
‥‥‥
‥‥
‥
「という事でござる、これがお土産の『魔王の首の塩漬け・まだ生きている』でござる」
「はぁ。なんで塩漬けにするかなぁ。しかも生きているのかよ」
頭を抱えながら、ストームはヴィマーナの城内執務室で十四郎とガイストの報告を静かに聞いていた。
確かに首を取って来いといったが、半ば冗談でもあったはず。だが、十四郎はしっかりと首を取ってきて、それを土産に持ち帰って来たのである。
ご丁寧にエルコーンの体内から魔族核を回収し、それを切断した首元に埋め込む。
並大抵の魔族なら即死は免れない状況でも、こうすることでエルコーンは一命を取り留めているらしい。
「それで、セシル殿から感謝状が届いているでござるよ、こちらがそうでござる」
「それと、敗走した魔王軍がてんでバラバラに活動を開始して、なんというか『世はまさに群雄割拠戦国時代』に突入したらしいが。それでセシルがな、残っている月の門から魔族がそっちに進出するかもしれないから、その時は迎撃を頼むといっていたぞ」
「あっそ。それは俺の管轄じゃないからどうでもいいわ。この件については報告書作ってシルヴィーに提出しておいてくれ。後の処理は各地の冒険者にでも任せておけばいいさ、そんな弱そうな魔族との小競り合いは幻影騎士団の仕事じゃないからな」
セシルからの感謝状を読み終えてテーブルの上に放り投げるストーム。すると、十四郎とガイストが同時に両手を差し出して何か欲しいプリーズの構えを取っている。
「その手はなんだ?」
「ご褒美でござる。拙者達、そこはかとなく活躍したでござるよ。何でしたら、ストーム殿の持っている『竜殺しの神槍』でも構わないでござるが」
「お前にはダンピールがあるだろうが。それにガイストも‥‥ああ、そうだ、これでいいか?」
そう告げて、ストームは手の中に二枚のカードを取り出す。
それは異世界渡航旅券、幻影騎士団の殆どはこれを所有しているが、新参者であるガイストはこれを持っていない。
当然、隠密担当の十四郎は所持しているのだが、回数制限付きで既に使い切っていた。
だが、今、目の前のカードは無制限、持っていれば自由に地球に向かう事が出来る。
「「おおおおおおおおおおお」」
思わぬ褒美に声を出す二人。そして受け取った異世界渡航旅券をすぐに魂の護符とリンクさせると、嬉しそうに部屋から出て行った。
「まったく‥‥殺戮マシーンの二人には持たせたくなかったが、まあ、任務としていく事もあるだろうからなぁ‥‥と、マッチュ、暇か?」
イヤリングに指をあててマチュアを呼ぶストーム。するとマチュアがスッとその場に飛んで来る。
「パパラパーーーーー!! 何だね?」
「いつからお前はシャザーンになった?? それともウィル・スミスのジーニーか?」
「あれはあれであり。いや、そうじゃない。そんで何の用だ?」
「魔王エルコーンの討伐が終わった。そんでこれが塩漬けの首。で、生きている」
テーブルの横に置いてある樽の蓋を開けるマチュア。そして覗き込んだ樽の中では、塩漬けになっているエルコーンの顔が正面に見えた。しかも目をパチクリとして、マチュアと視線が合うという実にホラーな状態である。
「どつきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
慌てて飛びのくと、マチュアは樽に向かって浄化の術式を唱えはじめた。
──スパァァァァァァァァァァン
だが、すぐにストームがマチュアの脳天にハリセンを叩き込むと、マチュアはどうにか落ち着きを取り戻した。
「ハアハアハアハア。この魔王、生きているのか」
「首から下がないので会話は出来んぞ。でだ、メレスは今、三国志状態だ」
「コーエーの? どのシリーズ?」
「13あたりだろうなぁ。ついでにゲームはスタートしたばっかりだ」
「つまりかなりの勢力が群雄割拠して、己の覇権を求めて活動を開始したと? 本命は何処のどいつだろうなぁ」
「そこまで知るか。あの連中は、ついでに月の門を通ってこっちにも来るらしいぞ。セシルが迎撃よろしくって手紙寄こして来たが」
そういわれて、マチュアは腕を組んで考える。
この場合の最も正しい道筋。
メレスのことはメレスでやれ、こっちに来るのならこっちの冒険者が手加減はしない。ここまではいい。
そして問題の、塩漬けの魔王。
こいつをうまく使えば、あっちの統治も中々楽になるのではないか?
「よし、こいつ復活させよう。そしてこいつに劉備の役割を持ってもらいましょ。それで外見も何もかも変えて、あっちの群雄割拠を纏めてもらおう」
「よりによって劉備かよ‥‥まあ、そうくるよな。という事だエルコーン、今からお前を再生する、それでメレスに送り返す。後はあっちで勝手にやってくれ、ただし、人間界に向かって来ようとするのなら、その時は魂レベルで分解するから覚悟しろ」
──キィィィィィィン
マチュアの深淵の書庫が起動する。
そして首だけになったエルコーンを取り出して魔法陣に設置すると、マチュアはエルコーンに新しい肉体を構築し始める。
「戦闘強度は以前のままで‥‥宝石竜の勾玉と二つの筆、この能力は没収ね。ソウルブレイカーと神魔の瞳はそのまま持っていていいから、まあうまく使いなさいな‥‥若々しい体、勇者のような強靭な肉体と精神‥‥とまあ、こんな所で」
──シュゥゥゥゥゥゥ
深淵の書庫が消えていく。
するとそこには、エルコーンだった青年が立っている。
だが、蘇生したばかりのエルコーンは困惑した表情でストーム達を睨みつける。
「‥‥何故蘇生した? 何故滅さない」
「そりゃあ、貴様がこっちに来て悪さをしていたら滅していたがなぁ。けど、あんたの部下がやった事であんたは命令をしただけ、その後始末は終わったし。なので一度死ぬ程の恐怖を植え付けてから、人間界に対しての侵攻をやめてくれればいいと俺は思っていた」
「という事だ。そんじゃ、後は任せるので‥‥私達と連絡したくなったら、メルキオーレに連絡すれればいいよ、じゃあ、とっとと帰れ」
「い、いや、ちょっとま‥‥」
──シュンッ
指パッチン一発。
一瞬でエルコーンだった青年をメレス・ザイールに送り出すと、マチュアもふぅ、と一息入れる。
「これで魔族の侵攻については終わったかな?」
「和国の天海が残っているが、どうだろうなぁ。命令系統がこれで消えたはずなので、あっちはあっちの方で対処してもらうとするわ。それに、信長がいるから問題はないだろうさ」
「なら、この件はこれで無事に解決!!」
──ガシッ
お互いの拳を打ち鳴らして告げるストームとマチュア。
これで長いようで短かった魔族侵攻に決着がついた。
人間界も魔界も、お互いに干渉さえしなければ勝手にやればいい。
この事は後日、六王会議の場にて正式に報告され、ウィル大陸全域にまで広がりそうであった魔王復活に終止符が打たれたのはいうまでもない。
〇 〇 〇 〇 〇
という事で、後日の六王会議の間
「お手元の書面に記されている通り、魔界の王・エルコーンはぶっ殺して再生して魔界に送り返したのでご安心ください。もしも人間界に再び侵攻しようものなら、死んだ方がいいっていうレベルで半殺しにするので、ストームが」
「俺かよ」
「そ。直接魔界に行って全力で排除してきて。という事で、2000年ぶりの魔王侵攻は、私とストーム、幻影騎士団の手で全て丸く収まった事を、白銀の賢者の名で宣言しますわ」
淡々と報告をするマチュア。するとその場の六王のみならず、ケルビム皇帝も頭を抱えてため息をついている。
「しっかし、うちの双璧の守護者はどうしてこうもまあ出鱈目なのだろうなぁ」
「そうですわよ。2000年前の魔王を、こうもあっさりと迎撃出来るなんて、聞いた事もないですわ」
「‥‥まあ、妾は信じておったから驚く事はないがのう」
ライオネルとミストの突っ込みに、シルヴィーだけがにこやかに笑う。
するとケルビム皇帝がストームたちの方を見て。
「ご苦労であった。これでラグナ・マリア帝国およびウィル大陸は当面は安泰という事か?」
「魔族侵攻については問題はないよ。その他の人間同士の抗争については知らんわ、うちらの帝国に手を出すのならぶん殴って来るし、そうでないなら放置」
「俺はベルナーとサムソンが平和ならいいわ」
「ストーム殿、そこはせめてラグナ・マリアが平和ならと言って欲しいのだが‥‥」
マチュアとストームの呟きに、今度はブリュンヒルデも突っ込む。
もっとも若輩であるアルスコット・ラグナマリア・ケルビムは、ストームとマチュアの言葉にただ茫然としているだけであるし、パルテノに至っては平然として紅茶を飲んでいるだけである。
「うちとベルナー、マチュアのカナンは帝国でも内陸に位置するから、そこがピンチという事はそういう事だ」
「そういう事」
ウンウンと頷くストームとマチュア。するとケルビムが傍らにある一通の書簡を取り出す。
「では、約束通り剣聖ストームと賢者マチュアには、六王及び皇帝に等しい決定権を有する『神王』の称号をこの場で授与する。以後、ラグナ・マリアの諸王は神王を親として敬うように努めよ」
──ブフフフッ
その場の六王、そしてマチュアとストームまでが吹き出す。
唯一平然としているのは、ストーム達の席でのんびりと紅茶を楽しんでいるレックス先帝のみであろう。
「ち、ちょっと待ってください陛下、いきなりその権限はどういう事で? それに神王などと、まるで皇帝よりも権力があるようにも感じ取れるが」
「まあ落ち着きなさいライオネル。神王はマチュアとストームの二人にしか与えられない称号だ。亜神の王、つまり神王。いくら我が皇帝であっても、亜神には力届かぬ。なら、二人には今まで通りにラグナ・マリアの守護神としてのんびりとしてもらいたいのだよ」
「文字通りの守護神か‥‥確かに、お前たち二人と互角に戦える存在なんて」
そう呟きつつライオネルが二人を見る。するとストームとマチュアが指折り数え始めていた。
「って。いるのかよ? お前たちと互角に戦える奴が」
「いるわよ。お膳立てされると、亜神の私でも勝てなさそうなのは何人か心当たりがあるし」
「俺もだなぁ。純粋に剣術とかで勝負すると、まだまだ世の中には上がいると思うが」
「そもそも、シルヴィーには私達は勝てないし」
「そういう事だ」
その言葉に、その場の全員がシルヴィーを見る。
「は? 何で妾が?」
「だって、シルヴィーは幻影騎士団総括じゃない。私達は総括の言葉には逆らいませんよ。文句いうけど」
「俺は、俺が守るべき者に死ねといわれたら死ぬしかないしなぁ」
ストームとマチュアの単純な返答に、ミストとパルテノがプッと吹き出す。
「それはそうよね。ストームにとってはシルヴィーは妻になるのですし、マチュアにとっては大切な友人ですから」
「二人の唯一勝てない存在、それは『絆』であったか。だが、それでいい」
ケルビムが上手く話を纏めると、そのまま立ち上がってストームとマチュアに新しいマントを手渡した。
今までの剣聖と賢者の紋章に、さらに王位を示す盃が組み込まれていた。
「ま、くれるもんなら貰っとくわ」
「ははーーーっ。有難く承ります」
すぐさまマントを羽織って椅子に座る。そして次の議題に話を進めようとして。
「あ、アルスコットが気絶しているが」
「うわぁ、気付かなかったぞ、どうして一体」
「お、おそらく二人が亜神っていう処でもう限界だったんじゃないのか? マチュア、急いで手当てしてたもれ」
「よっしゃあぁぁぁぁ、神威開放・亜神モードの1だけで‥‥軽治療と」
すぐさまアルスコットを手当てする。そして意識がもどったアルスコットにもう一度事の成り行きを説明して、アルスコットは再び気絶した。
もう仕方ないという事でアルスコットはマチュア達の席に移動させると、レックスが代行として六王会議に参加、そのままこれからの事について色々と話を始めた。
第十二部 ドタバタ諸国漫遊記、Fin
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






