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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第十二部 ドタバタ諸国漫遊記

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魔王復活・その17・創生の筆と鍛冶屋の仕事と

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ストーム達がベルナーからエーリュシオンに向かっていた頃。

 マチュアとライオネルも転移門ゲートを越えてカナン辺境国へとやって来ていた。

 城下町の商人ギルド併設の転移門ゲートから外に出ると、ライオネルはぐるりと周囲を見渡す。


「随分と久しぶりに感じるな。以前は見た事もない建物が増えているが、あれはカナンで増築したのか?」

「そういうこと。それでも、ライオネルの作ったこの国はすごく使い勝手がいいよ。道路よりも水路を主とした交通機関といい、大河を使って河口付近の町と連絡が取れたりと。よくもまあ、こんなの考え付いたねぇ」

「これを最初に示したのは先々代と聞いている。その時期には、もう魯粛は王国執務官として手腕を揮っていたからな‥‥」

「だから知っていたんだよ、この地に眠っていてる魔装兵器の事を。さ、まずは王城に向かいますか」


 転移門ゲートを後にして、テクテクと歩くこと30分。

 たどり着いたのは城塞の破壊された王城である。

 建築ギルドが総力を挙げて修復を続けているものの、未だその傷跡は癒えていない。

 壊れた城塞付近では、未だに瓦礫を撤去する冒険者の姿も見え隠れしている。


「はぁ、この城塞は対魔法術式でかなり強力にしてあった筈なんだが。魔族とはそれをここまであっさりと破壊出来るものなのか?」


 崩れている城壁に近寄り、瓦礫を手に取りブツブツと呟くライオネル。


「あれ? ライオネルって魔族と戦った事はないのか」

「そうだな。直接戦ったことはないな‥‥この前のラマダに進軍してきたアンデットの群れが初めてだった。あのレベルの魔族の指揮官がゴロゴロしているのか?」

「ん? ああ、確か張角とかいったよね。あの程度ならいるんじゃない? 冒険者ランクでいうならS-かA+って所だし、むしろ魔族にしか伝えられていない魔術や体術、魔族特有の種族能力の方が怖いのよ。いくら私でも、初見の魔族相手に満足に戦えるかって聞かれたら首を捻るわよ」

「ほう。マチュアでも難しい敵がいるのか」

「あ、私は毒にはめっきり弱いのよ。それも魔族固有のやつ。あれで一度死にかけたぐらいだし」


 そう説明すると、ライオネルが眼を丸くする。

 たかが毒とでも考えていたのだろう。


「そんなにあっさりとか?」

「魔族固有の毒は、神聖系魔術の毒消し程度では効果を発揮しないのよ。呪詛毒っていうのがあってね、それも私相手に調合された奴があるのよ。あれを使われるとさすがに‥‥ねぇ」

「ほう。白銀の賢者は毒に弱いと。覚えておいて損はないな」

「今の私には効かないよ。むしろ私を殺せる毒を用意してみろと言いたいわ‥‥」


 軽口を叩きつつ、マチュアは瓦礫の中に歩いて行く。

 そして深淵の書庫アーカイブを起動すると、地下にあるであろう封印の収めてある部屋を探し始める。

 30分程で、瓦礫のある場所の真下あたりに細い回廊のようなものを発見すると、マチュアは土系魔術で穴を掘る。

 垂直ではなく斜めに穴を掘り続け、壁と床、天井を重力魔術で圧縮して固めていく。

 その手際の良さに、ライオネルは後ろからついていっては『ほう』、とか『ふぅむ』と感心している。


「魔法とは実に便利だな。攻撃にしか使えないと思っていたが、これはこれで便利よのう」

「むしろ攻撃にしか使えないって考えるのが危ないわ。こういう補助的な魔術をいかに便利の使いこなすかが魔術師の本懐と私は思っているわよ。なのに今の冒険者訓練所では、やれファイヤーボルトだのフリーズバレットだのと攻撃呪文を優先的に習得させようとしているし‥‥」


 ブツブツと文句を言うマチュアに、ライオネルは別の意味で感心していた。

 ただの魔術が使える生意気な小娘程度と思っていた時期もあるが、その実力は本物であると思っている。

 そんなマチュアが、魔術師の行く末を憂いているのである。


「なら、マチュアが自ら導いてやればいいだろうが」

「そんな暇ないわ。魔術師の使える魔法ってどれぐらいあると思っているのよ? 遥か過去にあった『魔術聖典』のような細分化されたものなんてないんだから」

「なら、それを作ってスタンダードにすればいい。それぐらい出来ないのか?」


──ボコッ

 そうライオネルが問いかけた時、マチュアの掘っていたトンネルが回廊に繋がった。


「はぁ。そういうのもありといえばありだけれど。それって難しいよ? 魔術っていうのは、スクロールで学ぶか私のこれみたいに魔導書で学ぶしかないんだから」


 そう告げて右手に魔導書を生み出す。


「それでいいのでは? マチュアが陣頭指揮をとって昔の聖典式にすればいい。第一聖典にはどれとどれっていう感じにな」


──ヒュンッ

 そうライオネルが呟いたとき、回廊の奥から一本の矢が飛んで来る。

 だがライオネルはそれを何事もなかったかのように右手で掴むと、足元にポイッと放り投げた。


「あれはなんだ?」

「回廊守護者かな? ま、この手の遺跡にはあるいつものやつだよ。という事で、ちょいと黙らせてくるか」


 両手の籠手を打ち鳴らして、マチュアは回廊の奥へと走っていく。

 やがて奥の部屋から鈍い金属音が響くと、マチュアがテクテクと戻ってくる。


「終わったのか?」

「まあね。たかがゴーレム如き、私のおもちゃだよおもちゃ。この奥に神殿造りの部屋があって、そこになんか祀られていたから、それだと思うんだが」

「ならとっとと回収するぞ」

「はいはい」


 そのままマチュアとライオネルが回廊の先にある部屋にやってくる。

 大きさは20m立方の空間、大理石の壁と床、そして天井は魔法によって淡く輝いている。

 部屋の中央に魔法陣が記されており、その中心にある台座の上に、一本の筆が置かれている。


「ほう。それでこの壁やら床のへこみはマチュアがやったのか? 倒したゴーレムは何処に?」 

拡張エクステバッグの中だね。倒してしまえば材料。アイアンゴーレムなんて鍛冶屋にでも売り飛ばすさ」

「なるほどな。それで、この魔法陣の中のものが魔装兵器なのか?」

「多分ね。ということで、ライオネル、その魔法陣に血を注いで結界を解除しておくれ」


 すぐさまライオネルは自分の左手親指にナイフを当てる。

 スーッと引いて少しだけ傷つけると、そこから流れる血を魔法陣に垂らしてみる。

──ボウッ

 すると魔法陣が輝き、中に記されていた文字が一つずつ点滅を開始する。

 時計回りにゆっくりと点滅をはじめた文字はやがて真っ赤に輝き、全ての文字が輝くとスーッと消えていく。


「これでいいんだな? どれ」


 無造作につかつかと台座に近寄ると、ライオネルはその筆を右手で掴み上げる。

 すると筆はゆっくりと輝き、ライオネルの手の中で霧のように散っていく。


「お、おい、どういうことだ?」

「あ、た多分だけどライオネルを主人として認めたんじゃないかな? 試しに祈ってみてよ、筆よ現れろって」

「そんなものなのか‥‥筆よ、現れよ!!」


 するとライオネルの手の中に一本の筆が姿を表す。

 それをマチュアは近寄って手に取ると、すぐに深淵の書庫アーカイブを起動して鑑定してみた。


「『創生の硬筆』かぁ。よかったなライオネル、この筆は魔力を込めて文字を記していくと、記された対象に疑似的な命を吹き込むことができるぞ」

「‥‥つまり、ゴーレムを作り出す筆という事でいいのか?」

「簡単にいえばね。魔術の知識があれば、より精密な動きをするゴーレムを作り出すこともできるし、外見を人間のようにコーティングする事も出来ると思うよ。ま、使い方はライオネル次第だから頑張ってね」


 すぐさま筆を返すと、ライオネルはきょとんとした顔でマチュアを見る。

 そんなに強力な魔導具を、没収する事もなくライオネルに返す。

 その行動がライオネルには不思議であった。


「俺が使っていいのか?」

「他に誰が使えると? それに私はそんなの使わなくてもゴーレム作れるし。ただ、失われた魔導具であることには間違いないのだから、取り扱いは慎重にな」

「そこまで信用してくれるとはなぁ」

「あんたがラマダ公国にいた時代から見ていたからね。ここ一番では信用に値すると思っているからさ。まあ、私の信頼を裏切ったら、すり潰すからよろしく」

「そうならないように努力はするさ、では戻るとするか」


 これでここの魔装兵器の回収は完了した。

 次の魔装兵器の封じられている場所がわかるまでは、今暫く時間が掛かるだろう。

 なのでマチュアとライオネルは一旦ここを離れ、再び調査を継続する事にした。



 〇 〇 〇 〇 〇

 


 ベルナー王国では。 

 エーリュシオンから戻ったシルヴィーはいつものように執務に戻る。

 万が一を考えて、ストームはベルナー城内でのんびりと待機、鍛冶工房でいつものように汗を流していた。

 

──キン、ガキン

 ストームの打つ槌に合わせて、二人のドワーフが相槌を打つ。

 幾重にも折り込まれた玉鋼を打ち延ばし、更に心金にアダマンタイトを使う。

 更に加熱処理して焼き入れを施し、仕上げまで一気に進めていく。


「ふぅ。後は砥ぎで終わりだ。いい感じに仕上がっているな」

「全く、いつもながらストーム殿の腕にはほれぼれするのう。わしらなんてまだまだじゃな」

「そうそう。この前作ったこれもいまいちだったからのぅ」


 ドワーフの職人・レバンスとダンが、先日仕上げたという刀を一振りずつ持ってくる。

 それをストームに見てもらおうと机の上に置くと、すぐさまストームはレバンスの刀を手に取ってみる。

 鍛冶師GMのスキルで出来具合を確かめると、確かに刀としては十分な仕上がりとなっている。業物と言ってもいいレベルには仕上がっているようだが、どうもレバンスは納得がいってないらしい。


「和国の鍛冶師でも、ここまでの仕上がりは中々ないぞ。何か不満なのか?」

「斑目殿の持っている刀を超える事が出来なくては‥‥サムソンの大月氏の打ち出した刀、あれをどうしても超える事が出来ない」

「ああ、斑目のやつはなぁ‥‥大月が打って俺が相槌を入れたやつだ、大業物に匹敵する仕上がりになっている。あれを超えるとなるとかなり厳しいぞ?」


 それをレバンスに告げてから、ストームはダンの打ち出した刀を手に取る。

 すると、何か刀としては異質な手触りに首を捻ってしまう。


「これは刀‥‥か?」

「可変刀といってな。材質はクルーラーと玉鋼、そこに3%のミスリル鋼を加えてある。使用者の意識を読み取って様々な形に変化するという優れものだ」


 ふぅんと納得して可変刀を手に取る。

 そして形状変化を念じてみると刀が槍に、そして薙刀に変化する。

 質量の足りない部分は所有者の心力を具現化して生み出しており、考え方によってはこれ一つで無限の武器を作り出すことができる。


「な、これは使えんじゃろ?」

「い、いやいや、これは凄いぞ。普段の形状を装飾品にでもしたら、それこそ護身用の武器として十分に通用する。これのどこが不満なんだ? むしろ完成といっていいじゃないか」


 ベタ褒めするストームだが、ダンは首を左右にふる。


「いや、これを変形させるために必要な心力は、その辺の騎士では足りないのじゃ。もっとこう、心力効率を高めぬことには一般流通など不可能。ハァ‥‥なにか面白い材料はないかのう」


 ため息をつくダンに、ストームは自分の持っている様々な材料を提示してみる。

 やがてレベンスも加わって可変刀の新たな道を模索し始めていた時。


──コンコン

 鍛冶工房の扉がたたかれる。

 そして伝令の騎士が扉を開けると、ストームに一言。


「剣聖ストームさまに来客です。魔剣士セシル・ファザードという方がやって来ていますがどうしますか?」


まさかの七使徒の来訪。

 これにはストームもニイッと口元を綻ばせてしまった。



 

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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