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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第十二部 ドタバタ諸国漫遊記

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魔王復活・その16・魔装兵器と魔王軍の侵攻と

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ラグナ・マリア帝国ベルナー王領。


 幻影騎士団の本拠地であるベルナー城上空には、浮遊戦艦ヴィマーナが静かに待機している。

 この鉄壁の守りの為、現在のラグナ・マリア帝国でもベルナー王国を陥すのは不可能と呼ばれている。

 その王城地下にある宝物庫の奥で、ストームとシルヴィーは一枚の鏡をじっと眺めている。

 10年戦争末期には、ストームはこの場所でシルヴィーの窮地を救った。

 その恩人ともいえる鏡を前に、シルヴィーも腕を組んで感慨深い顔をしていた。


「さて、それじゃあシルヴィー、少しだけ我慢してくれな」

「う、うむ、痛いのはいやぢゃが‥‥」

「一瞬だけ魔法で痛みを止めてやる‥‥」


 そう告げてから、ストームはシルヴィーの右腕を手に取ると、そこに軽く手を翳す。

 ボウッと暖かい光が腕全体に広がると、ストームが手にした針でちくっとシルヴィーの腕を刺した。

 ぷくっと血玉が膨れ上がると、それを人差し指で掬い上げて鏡にピッと飛ばす。


──ブゥン

 すると、鏡がシルヴィーの血に反応して虹色に輝く。


「お、これぢゃ、ストームはこの中から出てきたのぢゃよ」

「まあ、偶然だが天狼の回廊と繋がったんだな。さて、それじゃあ行くとするか‥‥」

「う、うむ、怖くない、妾は怖くないぞ」


 ガシッとストームの腕にしがみつくシルヴィーの頭を、ストームはポンポンと軽くたたく。それに合わせて、ヘヘヘッと笑うシルヴィーを伴って、ストームはゆっくりと鏡の中に入って行った。


‥‥‥

‥‥


 鏡の向こうは回廊だった。

 よくマチュアやストームが見ている白亜の回廊ではない、どこか神殿の回廊に似た感覚。

 左右の壁も天井も全て大理石のような石で作られており、不思議な事に塵一つ積もっていない。

 暗い場所である筈なのに、不思議と回廊全体が昼間の散歩道のように淡くやさしく輝いている。


「こ、ここはどこぢゃ?」

「さて、そんじゃあ調べてみっか‥‥GPSコマンド起動、場所のサーチと‥‥あ」


──ピッピッ

 ストームの目の前に現れたウィンドウ、それによると現在の場所は『エーリュシオン郊外にある森のはずれ』と表示されている。

 そこは天狼の聖域であり、いくつもの朽ちた神殿が集まっている場所。その一か所に、あの越境の鏡は繋がっていたのである。


「あっちゃあ、ここかよ‥‥まあ、まずは中を調べてみるとするか」 

「んんん? ストームはこの場所を知っているのか?」

「まあな。ここはまあ、確かに魔族には近寄れない場所だな。シルヴィーも、今から見る事は全て内緒にしておけよ?」


 秘密、ではなく内緒。

 

「内緒ぢゃな? それでこれからどこに向かうのぢゃ?」

「まあ、ここの造りはある程度知っているのでね‥‥と」


 回廊から突如開けた空間に出る。

 巨大な礼拝堂であり、その正面には6体の竜の像が並んでいる。

 その中央にあるひときわ大きい像の右腕に、虹色に輝く宝玉が握られていた。


「‥‥ストーム、あれはまさか」

「ああ、封印されし6つの魔装兵器の一つ、かつてベネリも求めていた『全ての竜を支配下に置く宝玉』だ。宝石竜の勾玉、あれはラグナ王家の者しか手にする事が出来ない。そうだろう?天狼さんよ」


 像の傍らに現れた天狼に問いかけるストーム。

 すると、サイズを小さくして普通の大きさの狼の姿となった天狼がシルヴィーの前にやってくる。


「す、ストームよ、まさかとは思うが」

「ああ、この狼は天狼だ。全ての次元を支配する次元神だよ」

「こ、これはこれは‥‥」


 すぐさま天狼の前に平伏すシルヴィー。


──ポムッ 

 するとシルヴィーの頭に右足を乗せて天狼が話しかける。


「ラグナ・マリアの王家の血、確かに確認した。その宝玉を手に取るとよい、貴殿はそれを手にする資質を持っている‥‥」

「あ、有難きお言葉ぢゃ。天狼様、妾、シルヴィー・ラグナマリア・ベルナーは生涯、天狼様に忠誠を誓いますぞ」

「あ、それはまあ、おいおいで構わぬよ。今は早くその宝玉を手にする事が大切でな」


 そう告げられて、シルヴィーは立ち上がって宝玉を手に取る。


──シュゥゥゥゥゥゥッ

 すると宝玉がゆっくりと輝き、やがて大気に溶けていく。

 そしてシルヴィーの胸元にゆっっくりと魔法陣が浮かび上がると、その中心に勾玉が生み出された。


「契約はなされた。シルヴィーよ、カリス・マレス世界全ての竜は貴殿に対して逆らう事は出来ない。貴殿には『竜姫』の称号を与えよう。ストーム、これでいいかな?」

「ああ、あんがとさん。しっかし、あの越境の鏡がまさかエーリュシオンに繋がっているとは思っていなかったんだが、それも天狼のしでかした事なのか?」

「はっはっはっ。破壊神に命じられて、あの封印の鏡の行く先をこの古き竜の神殿に設定しただけだ。今は亡き竜神・ディアマントを祀っているこの神殿にな」


 やや寂しそうに告げる天狼。

 その気持ちを察したのか、ついシルヴィーは天狼に近寄って頭を撫でてしまう。


「優しいな人の子よ」

「う、うむ‥‥天狼様が神で、これが不敬なのはわかっているのぢゃが‥‥すまぬと申すしかない」

「構わんよ。その優しさが我には嬉しく思う」

「そうか。まあ、そのディアマントがどうして死んだのか知らんが、それって神が代替わりしたっていう事でいいのか?」

「ああ、ディアマントは滅び、代わりに魔神ゲゼルシャフトが竜を総べる事になった。イェリネックは今まで通りに魔族を総べているので問題はないし、魔神エクリプスは二人の補佐を務めている」

「そうか。まあ、何故そうなったのかは聞かない事にする。それで、この後はどうすればいいんだ?」


 ストームが天狼の前に立って問いかけると、天狼はゆっくりと天井を見上げる。


「そうさなぁ。我はこれ以上は何も干渉しない。この神殿は正式に竜姫のものとなった、それだけだ。建物の中のものは全て好きにするがよい」

「全く、それってエーリュシオンに好き勝手に出入りしていいって事になるだろうが」

「それもまた摂理。では我は行くのでな」


 そう告げて、天狼はスッと消えていく。

 シルヴィーもゆっくりと立ち上がって周囲をきょろきょろと見渡し、そのまま礼拝堂の中を見回り始めた。

 壁に描かれたいくつもの絵画や彫刻に触れ、6体の竜の像に手を添える。

 それぞれの像が黒神竜ラグナロクや白神竜クロウカシスに繋がっており、触れるだけでその意思が聞こえてきた。

 全ての竜は、シルヴィーを主と認め、永遠の誓いを立てている。

 そして一刻程経ち、シルヴィーは疲れ果ててしまったのか椅子に座って静かに寝息を立てている。


「ふぅ。竜姫ねぇ‥‥全ての竜を総べる女王か、こりゃあ本国に戻ったらどこまで報告してよいやら‥‥頭痛くなって来たわ」

 

 そう告げてストームもシルヴィーの隣に腰掛けると、そのままゆっくりと目を閉じて体を休める事にした。

 ここはエーリュシオン、神威が溢れる世界。

 今のストームにとっては、肉体的に心地よい世界である。



 〇 〇 〇 〇 〇



 メレス辺境・魔王城。

 魔王エルコーンの居城では、董卓を除く3人の上位魔族が集まっている。


「董卓がやられた。それもあっさりとな」


 四天王の一人魯粛が、やれやれと困った口調で報告する。

 するとリアムと曹操も腕を組んで考えてしまう。

 四天王の中でも最も武に秀でた董卓の死、それは相手が四天王では対処できないレベルであることを意味している。

 この場の三人の中で唯一人間界と魔界を自在に転移できる魯粛であるからこその信憑性の高さが、この会議を重苦しいものにしていた。


「それで、董卓はいくつ魔装兵器を回収できたのかしら?」

「ゼロですね。回収どころか結界の解除すら出来なかったようですが。全くもって予想外な状況です」

「ふん、どうせ董卓のことだ、人間如きと侮って反撃を受けたに違いない。所詮董卓は四天王の中では最弱。このわしこそが四天王で最強である」


 何やら死亡フラグを立て始めている四天王残党チーム。だが、魯粛はそんな彼らの雑談が終わるのをじっと待ってから、話を再開する。

 

「それでは話を戻しますか。現時点で問題なのは、魔装兵器を回収できなかったという事実と、今後の人間界侵攻についての二点です。次に転移門ゲートが使えるようになるまでは後少しなので問題ないのですが、今度は誰が地上に向かうかという事です」

「そんなの決まっておろう、魯粛、貴様が一軍引き連れていけばいい。この中で唯一、お前だけが自在に人間界に出入りできるのであろう?」

「そうそう。それに魯粛ちゃんだけ2000年前の大封印を逃れて人間界に残っていたじゃない。あなた以上に地上に詳しい魔族はいないわよ?」


 すぐさま魯粛に話を振る曹操とリアム。もっとも、そう来るであろう事は魯粛も承知である。

 彼は地上に居る間、正体を隠してずっと様々な王家や貴族に仕えてきた。そして1000年前の魔族による浮遊大陸侵攻の件も、10数年前のベネリの反乱も全て熟知していた。

 その中で分かった事は1000年周期で勇者が再臨するという事、そして人類にとっていくつもの窮地を迎えた事があるものの、常にそれはひっくり返されて来たという事。

 2000年前の人間以上に、今の人間は知恵を蓄え、技術を磨いている。

 特に魔術については、世界樹の損失に伴って弱体化した魔力を魔障によって補い新たな魔術体系を築いている。

 これらの事実が、人間に対して決して油断してはならないという結論を導き出している。

 事実、魯粛の命によって動いた馬謖が捕らえられ、董卓軍は全滅。彼の四天王は捕らわれて拘束されているという状況を考えるに、始原の魔族であるエルコーンや魯粛達でも正面から戦ってどうこう出来る相手ではない事ははっきりと理解出来ている。

 唯一の安心は、彼ら人間は魔界に侵攻出来ないという事。

 その事実に胡坐をかいていた魔族達によって、今のメレスはかなり弱体化されてしまっていた。

 今の魔族が当時の力を取り戻せるのかと考えてもそれは不可能であり、ならばエルコーンの支配下に於いて新たな魔界を構築しなおしたほうが、この後に来るであろう魔族の退廃を防げるだろうと判断した。


 だが、エルコーンは人間界侵攻を最優先と考える。

 全ては復讐のため、全ての人間を殲滅し地上を魔界とする為。

 それについては魯粛は否定しないが、未だ時機尚早であるとも考えている。


「ふぅ。私が向かうのは構いませんが、残念なことに私は配下の者を伴っての転移はできませんから。それに知略なら私よりも曹操殿が向かえばいい、淫魔であるリアム殿が地上に向かって男達から精を搾り取れば、それだけで人間界の戦力は半減するのではないですか?」


 そう二人に問いかける魯粛だが、リアムも曹操も聞く耳を持っていない。


「地上侵攻出来ないのは儂も同じ理由だ‥‥と、ちょっと待て、ならばあの男にやらせればいい」

「あ、さすが曹操ね。ほら、七使徒のひとりでいいのが居るじゃないの」


 曹操とリアムに言われて、魯粛もああ、と思い出す。


「エルコーンの復活と同時に七使徒から寝返った存在、セシル・ファザードとか言ったかしら。なら曹操が彼を連れていってらっしゃいな。私は私の配下に連絡を取ってみるから」

「なんで儂が?」

「だってぇ。魯粛は単騎で人間界に行けるじゃない。それなのに転移門ゲートを使わせるのはもったいないでしょ? 私はほら、時間掛かるから。ここは曹操の強い所を見せてもらえないしら?」


 この女狐が。

 魯粛はそう吐き捨てるように言いたかったがぐっと堪える。

 リアム自身は手を汚さない。常に配下の者を操って行動させ、決して自らの手を汚そうとはしない。

 それでもリアムの配下である淫魔の軍勢は魔族にとっても脅威である為、迂闊な事を言う事は出来なかった。


「よ、よかろう。では儂もそのセシルとやらを連れて人間界に行く事にしよう」


 ガタッと立ち上がって会議室から出ていく曹操と、その後ろについて出て行く魯粛。

 その二人を、リアムはニィィィィッと笑いつつ見送っていた。 

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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