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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第十二部 ドタバタ諸国漫遊記

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魔王復活・その14・張角と水晶の民と

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ラグナ・マリア帝国王都ラグナ。

 その郊外に、張角はゆっくりと姿を表した。

 先日の失態を補うため、そして更なる魔導の高みを追求するために、張角は敢えて守りの堅い王都ラグナを選んだ。

 忌まわしきラグナの血を引く存在、その最も強いであろう現皇帝ケルビムを攫い、魔導兵器の封印を解く。

 それこそが張角の主人である董卓の望むことであろう。

 そしてそれさえ為されれば、いずれは魔王エルコーンによって全ての世界が滅びる。


「さて、傾国一の美女をアンデットとして侍らせるのもありだな……」

 

 静かに大地に手を添える。

 大地に浸透している大量の血が、ゆっくりと張角の元に集まってくる。

 十年戦争の傷跡は、この王都の大地にも侵食していた。

 激戦区の一つであった王都郊外、そして城塞戦では、敵味方いずれにも大勢の犠牲者が出た。

 勇猛たる兵士たちの血と、肉と、そして悔やみきれない魂は、未だこの地深くに眠っている。


「死霊召喚術……チッ、王都の結界が邪魔か……」


 可能ならば王都内にも遠隔魔法陣を起動したかった。だが、王都を包む結界が、外部からの強大な魔術を拒む。


「まあいい。この地は、あのライオネルとやらの地よりも楽しめそうだな……出でよ、古きものたちよ、今一度仮初の肉体にて蘇り、怨みを晴らしたまえ……」


──ドクン

 張角の言葉に大地が揺らぐ。

 大地から滲み出した濃紅の血が魔法陣を生み出すと、次々と白骨が生まれてくる。

 人、竜人、そして竜。

 千を超えるスケルトンの群れが生まれると、その口から咆哮を上げつつ王都へと進軍を開始した。


………

……


「報告します。ラグナ郊外にて多数のアンデットの群れを確認。中には上位アンデットのスケルトンドラゴンやドラゴンゾンビなども確認されています」


 早朝、ラグナ城に齎された報告は平和だった王都を揺るがす程のものであった。


「ライオネルの国を襲ったアンデットマスターが王都に目をつけたのか。郊外にいる市民の避難を最優先、全城門を閉じよ、冒険者に協力要請を。ハンニバル、騎士たちは動けるか?」


 ケルビムは傍で待機しているラグナ・マリア騎士団長のハンニバルに問いかけるが、ハンニバルは静かに頭を下げる。


「既に全軍待機しております。先発隊は城塞外に展開、迎撃体制は整っております」

「流石に早いな。魔術師団はどうだ?」


 今度は魔術師団長であるアルフレッドに問いかけるが、やはり頷いている一言。


「城塞上にて待機、各教会には治療師の派遣を要請してあります」


 満足な答えである。

 かの十年戦争を経験して、ラグナ・マリアの騎士団や魔術師団はかなり成長している。

 加えてサムソンから派遣された教導騎士、教導魔術師のお陰で実力的にもかなり鍛え上げられている。

 如何なる状況にもすぐに対処出来るように成長していた。


「早いな。それで、幻影騎士団はどうしているか?」

「ベルナーより派遣された幻影騎士団のお二人は既に出撃しております。我らよりも危険感知能力が優れているのかと」

「ならば、遅れを取るわけにはいくまい。すぐさま迎撃を開始するよう」

「「はっ!!」」


 ケルビム皇帝の言葉で、魔術師団、王国騎士団が一斉に行動を開始した。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 王都ラグナ西門外。

 張角の生み出したアンデットの軍勢は、ゆっくりと王都全周を囲みつつある。

 その光景を、ウォルフラムとロットの二人は丘の上で眺めていた。

 幻影騎士団の派遣について、ウォルフラムはロットを伴って王都ラグナにやってきていた。そしてアンデットの軍勢が広がりつつあるのと同時に城門から丘に向かって中距離転移リープで移動した。

 これは水晶の民にしか使えない血統術式と呼ばれるものであり、ウォルフラムでさえつい最近になって習得することができたものである。

 マチュアの使う転移とは違い、目視できる範囲にしか移動できないのが欠点なのだが、じつはこれには裏技があり、写真や映像などで実在する風景を見ることができれば、実質距離は無限に広がる。

 それこそ、空間どころか世界すら越える代物であるとマチュアから説明を受けていた。


「うわぁ。ウォルフラムさま、あのアンデットの群、一体どうするのですか? おいらには広範囲攻撃の技は『無限刃』しか無いですよ?」

「まあ、そうなるな。だからロット、お前はこの近くにいるアンデットマスターを探して殲滅する事。あの軍勢は俺が仕留めるから」


 そう告げて、ウォルフラムは腰に下げてある光の剣を左手に構える。


──シュンッ

 すると、柄の上下に光る弓が形成されると、ウォルフラムは弦に手を掛けて力一杯引いた。


──ヒュゥゥゥンッ

 やがて弓に一本の水晶の矢が形成されると、ウォルフラムはそれをアンデットの軍勢の上空めがけて一気に射抜く。


──シュンッ……

 勢いよく飛んでいく矢が次々と分散を始めると、やがて上空から1000本を超える水晶の矢がアンデット目掛けて降り注いだ。

 浄化能力を持つ水晶の矢の飛来、それは瞬く間にアンデットたちを浄化霧散させていく。

 その光景を、ロットはカコーンと顎が外れそうなぐらい大口を開けてみていた。


「な、な、何ですかその技は、おいらにも使えますか?」

「無理だな。エクセリオン王家の伝承武具でなくては。あ、ストーム様でも同じ技はできるのか」


 ストームの持つリプロティンも、ウォルフラムの持つ剣と同じ『水晶の民に伝えられている光の聖剣』であり、古くは『方舟』の中で発見された遺物である。

 それが勇者ラグナに伝えられ、以後はラグナ・マリア帝国王家の秘法として保管されていた代物である。

 なお、柄の部分から光の剣を形成出来るのは勇者のみと伝えられており、ラグナ以後のラグナ・マリア王家の人間でこれを顕現出来たものは存在しない。


「さ、流石はストーム様だ。ならオイラも負けていられないや」


 静かに目を閉じて、ロットは意識を集中する。

 体内から魔力の波を波紋のように打ち出し、魔族を探知する。

 ゆっくりと、穏やかな水辺に小石を投げたように、波紋は外へ外へと広がっていく。


「幾多もの反応があるよ。でも、この白いのはウォルフラムさまで、こっちの緑は人間……黒い反応がアンデットだから……この灰色が魔族だ。ここから北西に1286m、魔族反応があるよ」

「ロットいけるか? 無理なら俺が行くが」

「いける!! オイラは以前のヘッポコ騎士じゃない、ジ・アースでは勇者と呼ばれた……ごめん、オイラあっちでは魔王だった」

「ロットが魔王なら、相手が魔王の四天王でも勝てるだろう?」

「ん? でも、あの力は使っていいの?」

「マチュア様からは禁止されていないだろう? という事は使っていけない技ではない。むしろロットがそれをどれぐらい制御できるか見てみたいのもあるが。どうだ?」

「んんんんん~、ならオイラやってみるよ。じゃあ行ってきます!!」


 そう勢い良く告げてから、ロットは魔族反応のした方角に向かって全力で走り出した。


‥‥‥

‥‥


 一方、北西門郊外。

 張角はまた巨大な魔方陣を目の前に展開して、ラグナ王都に向かってアンデットの軍勢を進ませている。

 アンデットは対処方法がなければかなり危険な存在であり、完全に死滅させるには神官などの使う神聖魔術、もしくは光属性精霊、光の元素魔術などが必要となる。

 それ以外では、物理的な攻撃に対してのある程度の耐性を有し、常人を遥かに上回る力を持つアンデットを滅する手段はない。

 地球の映画のようにゾンビに噛まれてもゾンビになる事はないが、それでも脅威である事には変わりない。


「‥‥これだこれだ。この前のラマダ王国がおかしかったのだ。なんであんなところに導師級の魔術師や西方の道士がいたのだ? まあ、あいつらがここに来るまでは時間がかかる。それまでにあの結界を破壊すれば俺の勝ちだ。ラグナの子孫よ、首を洗って待っていろ!!」


 クックックッと悪い笑みを浮かべつつ、張角が一つ、また一つと魔法陣の中に魔晶石を放り込む。

 すると放り込まれた先にまたしてもアンデットが生み出され、城門めがけて進んでいく。

 その数は、ラマダ王国を襲った数程度ではない。

 上空からは、今まさにアンデットドラゴンやスケルトンドラゴンが飛来していった。


──ギィャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ

 咆哮を上げて口から魔障のブレスを吐くアンデットドラゴン。

 だが、それは城門手前に発生した結界により、すべて止められてしまう。


「何だ、あの結界は‥‥ドラゴン除けの術式が組み込まれているのか? そんなものを維持する魔力が一体どこにあるというのだ?」


 やや震える声でつぶやく張角。


「あれはマチュアさまが作った対ドラゴン用結界だ、そんじょそこらのドラゴン程度に後れを取るものではない。貴様がこの戦争の黒幕だな?」


 張角の背後に駆け付けてきたロットが、ドラゴンスレイヤーを構えて問いかける。

 

「ほう、背後を取るとはな。気配が全く読めなかったぞ?」

「質問をしているのはオイラだ、答えろ!!」


 怒気を孕んで問い返すロット。だが、張角はゆっくりと向き直ってロットをじっと睨みつける。


「人間如きが偉そうに‥‥そこに跪け!!」


 一瞬でロットの足元に魔法陣が浮かび上がると、ロットを中心に大地がメシッとくぼみ始める。

 張角の放った魔術・超重力制御グラビティコントロールによりロットの体がメシッと音を上げて地面に平伏し始める。


──ゴキゴキッ

 四肢の関節がきしみ始め、すでに限界も近い。

 だが、ロットは怯える事なくニイッと笑うと。


「こ、こんなの、魔神ルナティクスに比べればぁぁぁぁ」


──ヒュンヒュンヒュンヒュン

 ゆっくりとロットの全身が輝き始める。

 ロットの危機に合わせて 勇者系身体強化術エルド・ランが発動した。

 やがてゆっくりとロットは立ち上がると、張角に向かってドラゴンスレイヤーを身構えた。


──プウン

 

「なっ、貴様、それは勇者の輝き‥‥そうか、そうであったか、貴様が勇者ラグナの子孫であったか!!」

「何の事だ、オイラはロット、とーちゃんはサムソンの騎士、かーちゃんは専業主婦だ!!」

「ふん、そんな嘘を告げても無駄だ。その輝きこそ勇者ラグナの使っていた勇者系魔術ではないか、しかもその構えは勇者の剣術、勇者系必殺技バリスティックソード。それを使えし存在が、ただの人間である訳はないだろうが!!」


 叫ぶや否や、張角もゆっくりと竜人モードに変化する。

 そして呪符を懐から引き抜くと、それを瞬時に大剣に変化させた。


「これは西方に伝わりし呉剣と呼ばれる伝承武器だ。そんななまくらな剣では俺の体を傷つける事など出来はしない!!」


──ガギイン

 すぐさまロットに向かって凶刃を奮う張角。それをロットも必死に受け止めているが、やはり防御一辺倒になってしまう。

 

「ぐっ、やはり強いのだ、さすがは魔王なのだ」

「誰が魔王さまだ。俺は魔王エルコーン配下、四天王は董卓の第一騎、死霊使いの張角とはこの俺の事だ!!」

「な、何だと!! 魔王ではなかったのか!!」

「この俺如きが魔王になれる筈がないだろう」


 そう叫びつつロットに向かって大剣を振り続ける‥‥だが。


──ガシッ

 その大剣を、ロットは右手で軽々と受け止めた。

 その手には炎龍の籠手がはめられており、真っ赤に燃え上がっていた。


粉砕ブレイクっっっっっ」


──ドッゴォォォォォッ

 ロットの一言で大剣が粉々に砕け散る。

 これには張角も数歩下がってしまう。


「い、今、何をした!」

「わかった事があったのだ。今のオイラではあんたには勝てない。だから、力を借りる事にしたのだっっっっ‥‥シュピーゲル・モード!!」


 ロットの叫びと同時に、体内の魔力量が一気に跳ね上がる。

 全身を真っ赤な鎧が包み込み、先ほどまで握っていたドラゴンスレイヤーが燃え盛り、巨大な両手剣に変化した。

 その姿は、ジ・アースで猛威を奮った魔王ルフト・シュピーゲルそのものである。

 そして体内から溢れ出る魔力素エーテリオンを感じ取って、張角はガクガクと震え始める。


「そ、そんな‥‥お前のその魔力素エーテリオンは一体なんだ‥‥それは人間の持っていい魔力素エーテリオンではない。そんな膨大な魔力を持っている存在は‥‥」

「そうだ。おいらは魔王ルフト・シュピーゲルだっ」


 そう叫ぶや否や、巨大な両手剣を肩に担ぐように構える。

 そして一気に地面に向かって振り切るが、張角には届かない。


──ドシュッ


「ふ、ふは、ふははははははっ。いくら膨大な魔力でも、届かなければどうという事ではないな!!」

「届いているのだ。今の振りぬきは霊子破斬剣アストラルスラッシュっていうのだ!! 目に見えない勇者の刃、とくと味わうのだ!!」


──カチィィィィィン

 振り向いて大剣を背中の鞘に納める。

 その刹那、張角の体は真っ二つに分断され、何も言葉を発する事なく絶命した。


──シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ

 やがて魔力の供給元を失った反魂の魔法陣は力を失い消滅する。

 そして召喚されたアンデット達も土へと戻って行った。


 対・張角戦‥‥ロット圧勝。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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