魔王復活・その9・王と王
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
──ガギィィィィン
激しく打ち鳴る、剣戟の響き。
大剣使いのシュミッツと左右一対のロングソードを構えるライオネル。
お互いの攻撃はほぼ同格、少しでも油断をしたらバッサリと切り捨てられてしまうだろう。
「孔明は退魔行を終わらせよ、この堕王は俺が仕留める」
「ほざけ。痩せても枯れてもこのシュミッツ、剣聖ストームの手ほどきを受けた騎士である!! 血筋だけでのうのうと生きてきたラマダの亡霊にむざむざ殺されはしない」
素早く大剣を横薙ぎに構えるシュミッツ。するとライオネルも右の剣を前に突き出し、左の剣を逆手に構えて後ろに引いた。
「喰らえ!!只の横一閃!!」
「喰らうかよ」
高速で叩き込まれる大剣の横一閃。腰の高さから高速回転してライオネルに向かって刃が襲いかかるが、ライオネルは右の剣を大剣の軌道に向かって叩き込む。
そのまま大剣を地面に向かって叩き落とし、逆手に構えた左の剣でシュミッツの首を薙ぎ落とす筈であった。
──ガギィィィィン‥‥ドゴッ
だか、シュミッツの一撃を受けたライオネルの剣が衝撃で弾き飛ばされると、そのままライオネルの胴体を横薙ぎに切断‥‥できなかった。
ライオネルの剣が弾かれた直後、大剣がライオネルを捉えるほんの刹那のタイミングで、何かが影から飛び出し、ライオネルを弾き飛ばした。
そしてシュミッツの一撃は、ライオネルを弾き飛ばした女性・扈三娘の両脚を太腿から真っ二つにした。
「なっ、扈三娘、何故だ」
「わ‥‥我が君は‥‥こんな所で死ぬべ‥‥ではありま‥‥どうか覇道をお進みく」
──ズバァァァァアッ
シュミッツの大剣が扈三娘の身体に叩き込まれる。右肩から腰に向かって、扈三娘は二つに分断され絶命した。
「ふん。密偵としては優秀だったようだが、そこまでだな。生きていなくては密偵は務まらん、主君の命と任務を秤にかけたら、任務を取らなくては密偵とは言えぬのだがな」
──ガチャッ
再び横一閃に身構えるシュミッツ。
余計な小細工も何も無い、実質本位の剣。それ故に、下手な技術も力任せに弾かれる。
そしてそれはライオネルも同じなのだが、人間の膂力とアンデットの膂力では、明らかに差がありすぎた。
先ほどの攻撃も相手が生身のシュミッツだったら受け止めはじき返していた。だが、相手は死霊騎士、身体能力なら生身の人間のざっと五倍以上はある。
「ふん。全くだ。まだまだ生きて仕えてもらわなくてはならなかったのだが、扈三娘よ、お前は最後に俺の力になったか」
ボソッとライオネルが呟く。
その言葉はシュミッツの耳にも届いたらしく、シュミッツは満面の笑みを浮かべている。
「そうだ、それこそが王の資質だ。部下など所詮は手駒の一つでしかない、使い捨てても然程に心は痛むまい」
「いや、そうではない、違う……」
素早く両手の剣を構えるライオネル、シュミッツも再び横一閃を撃ち出すが、先ほどとは違いライオネルの右の一撃で大剣は真っ二つに切断される。
──ヒュンヒュヒュン……
ライオネルの全身から金色に輝く闘気が溢れている。
「全く。今になって糞ジジイの戯言を思い出すとはなぁ」
「な、なんだ貴様、その溢れるオーラは。そんなもの見たことも聞いたこともないぞ」
「そりゃあそうだろう。貴様の言う血筋に記憶されている伝承技だからな。祖王ラグナ直系にしか顕現しない勇者の奥義『勇者系身体強化術』。それを武器に纏い、いかなる敵も切り裂く『勇者系必殺技』。眉唾でしか聞いてなかったが、俺にも顕現するとはな」
軽く肩を回しつつ、ライオネルがシュミッツを見る。
既にシュミッツは半歩下がり、ライオネルの放つ闘気から逃れようと周囲を見渡していた。
「勇者系身体強化術、それに勇者系必殺技だと……馬鹿な、何故貴様に扱える?」
「ラマダ家はラグナ・マリア直系王族なのを忘れたか?恐らく俺以外にこれが扱えるのはケルビムのジジイとシルヴィーの嬢ちゃんぐらいだろうさ」
フン、て鼻で笑うと、ライオネルは素早くシュミッツの横を駆け抜ける。
そしてすれ違いざまに放った胴薙ぎの一撃は、シュミッツの腰部を真っ二つに分断する。
「そんな、今の俺でも見えないだと?」
「阿呆が。バケモノの貴様に勇者の太刀筋が見えるはずがなかろうが。扈三娘の痛みを思い知って死ね」
──カチッ
両手の剣を鞘に収める。それと同時に、シュミッツの肉体は光に包まれ蒸散していった。
「ふぅ。孔明、後は任せる……と、マチュア聞こえるか?」
孔明に指示を出してライオネルはその場に座り込むと、耳元のイヤリングに指を当てた。マチュアが諸王に配布した通信用水晶を通して、マチュアに連絡したのである。
──ピッ
『誰かと思ったらライオネルかよ。なんだ?』
「ラマダ王国がアンデットの軍勢に襲撃を受けた。俺の部下が一人やられたのだが、蘇生可能か見てくれ」
『おおお、よし分かったすぐ行く』
──ピッ……シュンッ
わずか数秒。
マチュアが本能寺の縁側から転移してきた。
「……早過ぎないか?」
「こっちも忙しいんだよ。それに蘇生は死後どれぐらいの時間が経過したかで蘇生率が変わるんだよ。急がないとプルートゥが魂を持って行くんだから。それでどちら様?」
「扈三娘だ。俺を庇ってシュミッツに殺された」
「はぁ? あの阿呆がまさか化けて出てきた?」
「そうだ、それよりもとっとと蘇生を頼む」
肩で息をしながらライオネルが告げる。
マチュアの見立てでは、ライオネルは外傷こそ見えないが内臓や筋肉はズタズタになっている。
一体どれだけ体を酷使したらそうなるのかと問いたいところだが、今は扈三娘の蘇生が最優先。
すぐに彼女が横たえられている場所に向かうと、マチュアは天を仰ぐ。
「へいプルートゥ、彼女は蘇生対象?」
『そうね。まだ死ぬ因果には無いわよ‥‥っていうか、マチュア、貴方も創造神代行なら、『因果律の瞳』でそれぐらい自分で確認しなさいよ。何でも私に問わないで』
「へ?」
『へ? じゃ無いわよ。貴方の右目、それが因果律の瞳を司っているの。よく見なさい』
それだけを告げてプルートゥに繋がっていた意識が途切れる。
なのでマチュアは恐る恐る左目を左手で覆うと、右目だけで扈三娘を見る。
「ええっと、因果律の瞳‥‥」
『ピッ、扈三娘の因果律について……』
マチュアの脳裏にウインドウが展開する。
そこには扈三娘の因果律についての簡単な説明が記されており、それによると彼女はまだ死ぬべき運命では無いことが読み取れる。
「お、蘇生可能か。ほらよ、完全蘇生……と」
──シュゥゥッ
扈三娘の分断された肉体が結合し再生を開始する。そして魂が戻ってきて定着すると、自発的呼吸も戻ってきた。
「これで良し。それとライオネル、お前の身体もボロボロだからサービスで治してあげるよ、ほれ肉体再生と、これで良いだろ?」
スッ、とライオネルに右手をかざして肉体再生を施すと、ようやくライオネルも一息ついた。
「助かった、感謝する」
「言っとくけど、この蘇生は高くつくからな。お前のとこの国庫から支払えよ」
「なんだ?白銀の賢者は命に値段をつけるのか?」
「あ〜、だからお前は嫌いなんだよ。わかったよタダでいいよ」
そうは言うものの、マチュアも本気で代価を請求したわけではない。
簡単にポンポンと蘇生するのにも問題あるし、命が軽く見られるようになるのを防ぐ為でもあった。
「いや、正当な代価を払う。後は帰っていいぞ」
「そんなあっさりだな。今どうなってるんだよ」
「突然アンデットの軍勢に襲撃されただけだ。間も無く孔明の儀式が終わる、そうすればアンデットは全て浄化される筈だ……その後で首謀者を探す」
単刀直入に言うライオネル。
なのでマチュアはチラッと孔明を見るが、儀式魔術は八割完成しており、今は最後の仕上げの段階である。
「ふぅん。アンデットの軍勢ねぇ。これも魔王エルコーンの手下なんだろうなぁ……全く面倒臭いわ」
ポリポリと頭を掻きつつ孔明の元に近寄る。
そのまま孔明の背中に手を当てると、静かに詠唱を開始する。
「我が名マチュアが魔神イェリネックに祈る。かの術式に於いて、不浄なる者の魂を冥府の女王プルートゥの元へと届けるべし‥‥この地に残る無念なる心を晴らし、時の彼方へと届け給え‥‥っていうかやって!!」
祝詞からの発動。これにより孔明の退魔行の術式の格が数段上昇し、この王都だけでなく近郊の村々まで魔法陣が拡がっていく。
それに伴い消費する魔力はマチュアが補完し、後は任せたと孔明の肩をポン、と叩いてライオネルの元に戻って行く。
「これでおしまいだね。そんで、シュミッツの亡霊か出たって?」
「正確には、あの10年戦争で亡くなった者がアンデット化して蘇って来ただけだ」
「だけ、じゃねーよ。その黒幕は誰だよ?」
「さあな。まあ、ぼちぼち姿を現すのでは?」
………
……
…
ラマダ王都郊外の丘。
「な、何だこれは、あのシュミッツとやらはデュラハン級アンデットに仕上げたのだぞ? それをどうやって破壊できるんだ? ミスリル如きではダメージも入らない強度に仕上げたのに」
眼下に広がる魔法陣を睨みつけつつ、張角が叫び声をあげる。
あの退魔行術式だけは阻止しなくてはならない。にも拘わらず、自信を持って送り出したシュミッツの亡霊がいとも簡単に消滅したのである。
世界樹の存在しない、魔術の衰えたこの世界で一体誰が、そんな芸当を成し得るのか。
「張角……俺を失望させるなよ? 貴様の代わりにこの任務を李儒に任せても良いのだぞ?」
張角の苛つきを察してか、董卓が更に追い打ちを掛ける。彼の計算では既に王都の門は全て破壊され、アンデットの軍勢による蹂躙が始まっている。
にも拘わらず、未だ門を破壊する事が出来ず、内部に召喚したアンデットも次々と斃されている。
そして王都を包む魔法陣が孔明の退魔行により消滅を始めているのである、計算違いどころの騒ぎではない。
「何と、李儒が目覚めたのですか?」
「徐栄もだ。既に徐栄には、勇者のもう一人の血脈を捕らえに向かわせた……李儒は見ているぞ? 貴様が失敗する様をな。心して掛かれ」
「はっ。この張角自ら、あの忌まわしい術式を破壊してみせましょう。李儒の出番などありませんぞ」
そう告げて魔法陣を睨むと、ちょうど孔明のいる王城のあたりに魔晶石を放り投げる。
そして張角も右手で印を組むと、スッと姿が消えた。
「ふん。人間どもよ、せいぜい足掻けよ……今の人間には、竜人を倒せる力などあるまい」
クククッと笑みを浮かべ、董卓は魔法陣の見える丘から王都を眺めていた。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






