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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第十二部 ドタバタ諸国漫遊記

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徒然の章・その22・料理の達人

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ミランダとジェフリーがアマンダの屋敷を後にして。


「さてと。これて全て終わったわ。後は全て法的に解決してくれるわよ、次期侯爵さん?」

「母上、そんなお戯れを。まあ、今からその呼び方には慣れなくてはなりませんが、母上からはいつも通りの呼び名で結構ですよ……では、俺は前祝いということで、パーッと楽しんで来ますよ」

「まあ、せっかくのお祭りですから。あまりハメを外しすぎてはだめですよ? またあの女みたいな尻軽に捕まらないようにしないと、貴方は侯爵家当主となるのですから」

「判っていますって。では失礼」


 そうにやけそうな顔をキリッと引き締めて、ジェフリーはそのまま繁華街へと向かっていく。

 そして数件の店をはしごして大豪遊していると、3件目の酒場で侯爵家の料理長を名乗る男たちと偶然出会ってしまった。


「ヒック‥‥あなたたちが侯爵家の料理番ですか‥‥これはこれは、明後日のパーティではさぞかし豪華な料理が提供されるのですね、当日は楽しみにしていますよ‥‥ヒックヒック」

「貴方は……おお、アマンダ様の甥のジェフリー殿でしたか。当日は盛大にやらせてもらいますので」

「うんうん、そうしてくださいな。あなた達にとっても最後の仕事なるのでしょうからねぇ‥‥ヒック」


 酔った勢いで口を滑らせてしまうジェフリー。だが、その言葉は料理人たちの耳にしっかりと届いていた。


「最後の仕事? それはどういうことですか」

「ん‥‥ああ、いいか。アマンダ伯母様は間もなく除爵されますからねぇ‥‥ヒック‥‥そうなると領主でもなくなりますし、最悪この地は別の領主が赴任するかもですなぁ‥‥あはははは‥‥ヒック」

「またそんな口から出まかせを。いくらジェフリー殿がアマンダ様の甥といえど、そのような根も葉もない噂を立てられては迷惑です」


──カチン


(なんだこの男たちは。次期侯爵であるこの俺に向かって、そんな口を利いていいのか?)


 酔った勢いで口を滑らせたのはジェフリーであるが、そんな事は彼にとってはどうでもいい事であった。

 むしろ、次期侯爵であるジェフリーをまるで馬鹿にするような話しぶりに、元々短気であったジェフリーは切れてしまった。


「まあいいさ。そんな言葉は、もう二度と口に出来なくなるからなぁ‥‥おい」


 近くのテーブルで待機していた護衛達を呼び寄せると、ジェフリーは料理人たちを全員店から連れ出すように指示する。そして抵抗する料理人たちは無理矢理に路地裏へ連れていかれ、護衛達に殴る蹴るの暴行を受けてしまう。

 いくら腕っぷしに自信のある料理人といえど、相手は実戦経験のある騎士や戦士、どう足掻いても敵う相手ではない。 

 しかもご丁寧な事に、護衛達は料理人達の利き腕の骨を次々とへし折っていった。

 苦痛に顔を歪める料理人たち。だが、それを横目に、護衛達は彼らを放置し酒場へと戻って行った。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「お願いじゃと?」

「ぽい?」


 翌日早朝。

 それは厳也マチュアとポイポイが木陰の山中亭でのんびりと遅めの朝食を食べていた時の事であった。


「はい。異国の料理に詳しそうな貴方にお願いがありまして……どうか、明日の侯爵様の晩餐会に、異国の料理を出したいのですが」

「それは構わぬが、こちらの料理人や侯爵邸の料理人は異国人のわしにあまり良い顔をしないのでは?」

「それは大丈夫です。実はですね、侯爵邸の料理長たちは昨晩暴漢に襲われて怪我をしてしまい、満足に包丁を持つことができないのですよ‥‥今から商人ギルドに料理人の派遣をお願いしても、ロクな奴は集まりそうもありませんので」


 そう告げられて、厳也マチュアは腕を組む。

 何かこの騒動に陰謀めいたものがありそうである。


(十四郎、この件少し調べて来て…この街は不正や犯罪は感じられないのに、どうしてそんな事が起きたのか……調査だけな)

『承知仕ったでござるよ』


 その言葉と同時に気配が消える。

 そして厳也マチュアはポイポイの方を見ると、ポイポイもコクリと頷きながら外に出て行く。

 十四郎に与えた『頼みごと』を、別の方角で調べに向かってくれたのである。


「しかし、どうして拙者でござるか?」

「実は、十六夜さんがお持ちの調味料ですか、今から10年以上前にミナセ陛下がお忍びでこの街に来た際にも使われたものでして‥‥うちでも常備したく考えて色々と調べたのですが、出所は全て『馴染み亭商会』という王都の商家でして‥‥それでですね、馴染み亭商会は実は陛下が商人として活動する際のなんと言いますか、符号のようなものでして‥‥」


 そこまで調べがついているのなら話は早い。


「ふむ。そこまで調べていたとは感服いなすなぁ。確かに拙者は馴染み亭商会ゆかりの者、微力ながら力になりましょう」

「おお、それでは後程、一緒に侯爵家に向かうことにしましょう。それと、お連れの方は大丈夫ですか?」

「心配ござらん。後で手紙でも書いておくゆえに」


 そう告げて、厳也マチュアは再び朝食を摂り始めた。

 

‥‥‥‥

‥‥


 そして夕方。

 厳也マチュアが部屋で身支度を整えていると、ポイポイと十四郎が影の中からスッと現れた。


「マチュア殿、報告がござる」

「料理人を襲った暴漢はジェフリーの護衛達っぽい」

「ん、どうしてそうなったのかさっぱりわからん。順番に説明してくれないかな?」

「ならば拙者が。まずはアマンダ殿が間もなくミスト連邦の王国執務官により徐爵されます。アマンダ殿の持つ侯爵位はミスト王家より賜ったもの、それゆえ侯爵家不在の現状を鑑みての処置かと」

「そのあとに甥っ子のジェフリーが侯爵を継ぐっぽいけれど、その甥っ子が昨晩料理人に酔った勢いで絡んで、まるで無礼打ちという感じで護衛が料理人達を連れだしたっポイ。それで利き腕を折られてしまったっぽいよ」

「ハァ? ミストは私に喧嘩売っているの? そんな報告があったらすぐにクイーンから連絡が来るでしょうに‥‥まだ連絡ないわよ」

「そこの所はわからないっぽい。この短時間ではここまでしかわからないっぽいよ?」

「同上‥‥でござるなぁ」


 なんで同上なのかと突っ込みたいところではあるがそれは置いておくとして。

 まずは現状の確認‥‥と行きたいが、まもなく厳也マチュアとして料理の手伝いに行かなくてはならない。

 なので、厳也マチュアは耳元のイヤリングに手を当ててクイーンと連絡を取る。


──ピッピッ

『はい、こちらクイーンです』

「ミスト連邦から、アマンダ・ミストガル徐爵の件についての報告はきている?」

『いえ、まだですわ。おそらくは先に貴族院に連絡が向かっているかと思われますが』

「そっか、貴族院が先か‥‥大至急貴族院に連絡、もしもミスト連邦がアマンダの除爵を正式に申し出ていたら速攻で抗議して。ゼクスを親善大使としてミスト連邦に放り込んで構わないから」

『了解しましたわ。それでは状況がわかり次第連絡しますので』

「はいよろしく。それと、もう面倒だから例の件の一つはアマンダに任せることにするから、貴族院に手を打って‥‥いや、直接あんたがこの件で動きなさい。貴族院、何か嫌な動きしていそうだわ」

『謹んで拝命しました』

「はい、後はよろしく‥‥」

──ピッピッ


 一通りの話し合いの後、マチュアは両こめかみに人差し指を当ててグリグリと廻す。


「ん~。なんだろ、微妙に面倒い事になりそうだわ。十四郎、貴方はジェフリーとやらの陰に潜入して情報収集よろしく。ポイポイはアマンダの身辺調査と護衛を任せるわ」

『がってん承知っぽい


 そう告げてスッと消える二人。

 そして厳也マチュアは荷物を持って宿から出ると、迎えに来ていた侯爵家の馬車にのってアマンダの屋敷へと向かった。



 〇 〇 〇 〇 〇



 カナン魔導連邦には、そもそも貴族院は存在していなかった。

 マチュアがカナンの女王になった時に、カナン辺境都市と森林都市ルトゥール、その他の貴族の領地を纏める為にミスト連邦貴族院の出張所のようなものはあったのだが、すぐにそれは解体された。

 だが、帝国法では貴族院は各国に一つは置いておかなくてはならないため、マチュアも渋々と貴族院設置について承認している。

 新しく設置された貴族院には、すぐさまラグナ・マリア王都や各国の貴族院から役員が派遣された。カナン王宮からも数名の文官が送られており、カナン連邦貴族院は努めて平穏に業務を全うしていた。


「おお、これですな。明日にでも王城にお届けに参る予定でありました」


 貴族院の応接間で、ジェラール王室執務官は貴族院担当官から封筒を預かっていた。

 クイーンに命じられ、直ぐに貴族院にやってきたジェラール。

 だが貴族院責任者であるハワード・ランドルフは離席中であり、止むを得ず別の担当官が封筒を持ってきたのである。


「しかし、これはいつここに届けられたのですか?内容によっては取り返しの付かなくなる事もあるのですよ?」

「たしかにその通りですが。その書状を持ってきた貴族院の馬車は山賊に襲われたらしくて、その後、通りすがりの冒険者によって荷物は取り返されたようで……これがその証拠である書面でした」


 そう説明しつつ、担当官はもう一通の手紙をジェラールに手渡す。それは冒険者ギルド発行の正式な書面であり、郵便を配達している者が山賊に襲われた件についての報告が記されていた。


「では、直ぐに開封しますので、貴方はそこで待っていてください」

「え、は!はい……」


 ジェラールは有無を言わずに担当官をその場に待機させる。

 そして封筒を開いて中に収められていた書面を取り出して内容を確認する。

 書面はミスト王国執務官の署名入りの正式なもので、内容もミストガル家の徐爵とジェフリーという甥がミストガル侯爵位を継ぐ事、それに伴いカナン魔導連邦があらたな爵位をアマンダに叙爵して欲しいと言う依頼書であった。

 そして今回の異議申し立てについては、指定された日までにミスト連邦貴族院へ行う事という旨が記されている。


「ふうん……期日は本日夕刻ですか。では、早速向かうことにしましょうか。では、私はこれで失礼します」


 淡々と告げてジェラールは貴族院を後にする。そしてすぐさまクィーンに通信の水晶で連絡を入れると、転移門ゲート前で待機していたゼクスが転移門ゲートを越える。

 そして貴族院ではなくミスト王国王城まで直接向かって行った。


………

……



 場所は変わってアマンダ邸厨房。

 料理長に案内されて、コックコートではなく作務衣に着替えた厳也マチュアは軽く挨拶すると、壁に貼られているメニューをじっと見る。


「ふむふむ……下拵えは間に合っているでござるか?」

「今若手が全力で行なっています。ですが、間に合うかどうかギリギリと言うところでして……」

「そうかそうか。さて、ここにいる者達は口は堅いな?この場には関係者だけだな?」

「はい。それは問題ありませんが……どうしたのですか?」


 その言葉を聞いて、厳也マチュアはニィッと笑う。

──シュンッ

 一瞬で元のハイエルフの姿に戻ると、マチュアはコックコートに換装してニィッと笑った。


「私のことは今からシェフと呼びなさい。そして私がここにいる事は絶対に秘密だ。それでは早速準備を開始する。まずは前菜から始めようか!!」


「「「「「えええええ、り、了解しましたぁ」」」」」


 まさかのシェフ・マチュア再び。

 かくして侯爵家厨房は、空前絶後の戦場モードに突入した。

 そして一通りの準備が終わったのはパーティー開始一時間前。マチュアは厳也マチュアに戻り、後の指示は全て料理長に一任して雇われ料理人に戻った。




 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 ミスト連邦王城。

 ゼクスはマチュア・ミナセよりの使者として王城内執務室に案内された。


「さて、本日はどのような件でいらっしゃいましたか?」


 王国執務官であるランド・パトレックがゼクスの前に座る。

 そして丁寧に頭を下げると、すぐさまゼクスに今回の来城について問いかける。


「アマンダ・ミストガル侯爵家除爵についての異議申し立てです。これはマチュア・ミナセ女王からミスト女王への直接の書状です。貴族院を挟まずに直接お渡ししろとのご命令ですので、直ぐに謁見をお願いします」


 淡々と告げられるゼクス。

 すると、ランドの額から冷や汗が流れ始める。


(そんなバカな、何故ここまで早く動く……)


 そう考えたが、今、その書状をミスト女王に渡す訳にはいかない。明日ならば、書面通りにアマンダ侯爵の全ての権利は失効する、そうなれば侯爵問題は全て丸く収まる。


「誠に申し訳ありませんが、ミスト女王は本日はお身体の具合が悪いそうで、早めに自室に戻ってしまいまして。明日の朝一番でよろしければ、謁見の準備を」


──ガチャツ

 ランドの言葉の途中。

 突然部屋の扉が開くと、ミスト・ラグナマリア・クフィール女王が姿を現した。


「今は大切な話し中だ、誰も入れるなと……こ、これは陛下、どうしてこのような場所に?」

「マチュアの所からゼクス君が来ているって聞いてね。何かあったのかなって思って王座で待っていたけど全然来ないじゃない。なので、私自らやって来たのだけど」


 そう説明しつつゼクスの前にやって来る。するとゼクスは手にした書状をミストに手渡す。


「これをどうぞ。今回の件ですが、クイーンではなくマチュアさまが大変お怒りでして……」

「へえ。何があったの?」


 そう呟いて書状に目を通す。

 すると、先程までの笑顔がスッと消えてミストの顔が真っ赤になる。


「へぇ。ランド・パトレック、私はこのような件、何も報告は受けていませんが」

「は、はい、今回の件は貴族院との話し合いによるものでして、陛下には後日、結果を報告すれば良いと考えまして」

「独断専行、それ以前の問題よねぇ。叙爵も降爵も、全て私が決定権を持つものではなくて?」

「仰せの通りで。ですが、当主交代の折、爵位を息子が受け継ぐことについては貴族院での簡易手続きで終わるものです。わざわざ陛下自らお出になる事はありません」


 震える体を意志の力で捩じ伏せるランド。

 すると、ミストは一言。


「では、ミスト連邦女王として命じます。アマンダ・ミストガル侯爵の除爵の件は停止、後日私が直接カナンに赴き、マチュア陛下と相談します。ランドは今回の件で独断専行しすぎですね……半年間、貴族手当の支給額を30%減じます。それに伴いですが、あなたが責任者となって今回の独断専行した貴族達を取り締まり、リストを作って提出してください」

「は、はっ!!仰せのままに」


 ミストの前で跪くランド。

 蛇に睨まれた蛙のように、ただただミストの怒りが収まるのをじっと待っていた。

 ミストとしても、内容についてはあまり追及する気はなく、ただ独断専行で行われた事が問題であると考えていた。

 もし事前に相談していたのなら、もっと角の立たない解決方法はあった。しかし、ランドとしても利権が絡んでいるのでミストにはあまり干渉されたくはなかったのである。


「という事ですので、マチュア陛下には事の顛末を伝えて頂けるかしら?」

「はぁ。それは構いませんが、マチュアさま、マジで怒りますよ? ミスト陛下が直接話した方がよろしいかと」

「そ、そうね。では私は出掛けることにしますわ。ゼクス君、マチュア陛下にいつ向かったらいいか聞いてもらえるかしら?」

「畏まりました……」


 かくして、ミストはマチュアと相談の上、今回の件で直接アマンダと会談を行う事となった。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 そして翌日。

 アマンダ・ミストガルの誕生日パーティーが始まった。

 領民から慕われているアマンダだからこそ、ミストガル商人ギルド主催の街を挙げての祭りとなっているのだろう。

 パーティー会場には近隣の貴族や商人達も集まり、祭りの成功とアマンダの誕生日を祝っていた。

 次々と運び込まれていく料理に参加者は舌鼓を打つ。

 だが、そんなパーティーでもジェフリーは苛立っていた。


(くっそぉぉぉ。ここの料理人の腕をへし折って、パーティーの料理を台無しにしてアマンダ伯母さんに恥を掻かせるつもりだったのに……何だこの料理は、こんなのうちの国でも滅多に食べられないぞ?)


 そう心の中で吐き捨てるように叫ぶ。

 だだ、隣の席で商人達とさも楽しく団欒している母親・ミランダはその事は知らない。

 ジェフリーの性根はどこまでも腐っていた。


(ならば、ここは俺自身が手を下してやる)


 次期筆頭侯爵家として、現侯爵家に止めを刺してやろうなどと考えていた。


「ふん。なんだこの料理は。こんなの我が国では誰でも食べられる、珍しいものではない。それになんだこの味付けは?ここの料理人は大した腕ではないようですなぁ」


 笑いつつ並べられている料理皿を手に取ると、それを床にボトボトを零していく。

 そのジェフリーの態度に、ミランダはやれやれと困った顔をしているものの、それを咎めるような事はない。


「なっ、貴様、このめでたい席で無礼ではないのか?」


 参加者の一人が声を荒げる。だが、ジェフリーはその貴族に鼻で笑う。


「何だ貴様は。この俺は、次期ミストガル侯爵だ。アマンダ伯母さんは本日限りで侯爵位を剥奪され、明日よりこの俺がミストガル侯爵となるんだ、そんな俺に対して無礼ではないか? そうだ、この料理を作った者を呼び出せ、俺が直々に説教してやるわ」


 もうこうなるとパーティーどころではない。

 アマンダはその喧騒を聞いて慌ててジェフリーの元に向かおうとするが、それを厨房から出てきた作務衣の料理人・厳也マチュアが制した。


「アマンダ殿……ここは拙者にお任せあれ」

「貴方が報告にあった料理人ですか。ですが、私はこの領地の責任者です、最後の仕事として、私はあの甥を断罪しなくてはなりません」

「あ〜相変わらず頭固いわぁ……ここは私に任せてよ。私の数少ない趣味である料理に文句言うなんて、あの男も覚悟できているんでしょうねぇ」

「え……」


 その口調、料理が趣味。

 たった二つのキーワードだけで、アマンダは硬直した。

 そして厳也マチュアはのんびりとジェフリーの前に立つと、堂々と一言。


「拙者が本日の料理の責任者であるが、何用だ?」

「何用だ、だと?お前は俺が誰かわかって話をしているのか?」

「さて、そんな事は全く知りませんなぁ。ミスト連邦の小さなど田舎の次期男爵など。それよりも、拙者の作った料理をこのような無残な姿にするとは。責任を持って、貴殿が片付けてはいかがかな?」


──プツッ

 田舎の次期男爵。そう言われてジェフリーの堪忍袋の尾が切れる。

 真っ赤な顔で厳也マチュアを指差すと、ジェフリーは叫んだ。


「だ、誰かこの男を捕らえよ、貴族に対しての不敬罪だ、即刻捕らえ首を撥ねろ、次期侯爵に対しての無礼、許すわけにはいかない」

「あ、そーかそーか。なら、あんたが捕まる番だわ‥‥全く。私の数少ない趣味を邪魔した挙句に、私の作った料理までぶちまけて‥‥」


──シュンッ

 一瞬でマチュアはクイーンモードに戻る。

 外交用の衣装を身に纏い、額には略式の額冠まで装備している。

 そして、その光景に参加者の貴族の数名は、ある事に気が付き急ぎ跪く。

 10数年前の、とある貴族夫人の傍若無人な振る舞いと犯罪を裁いたミナセ陛下の姿がそこにあったから。

 だが、ジェフリーはまだ気付いていない。

 目の前の女性が、このカナンの女王であるなど信じていないらしい。


「な。何だ貴様は、そんな偉そうな格好で、この俺は次期侯爵だ、この俺に逆らうというのか?」

「上等だこのデコ助。この私はカナン魔導連邦の女王だ、侯爵と女王、どちらが偉いか判断してもらおうか‥‥という事で、本日もう一人のゲストです」


 マチュアがそう告げると、先程までのんびりと飲み物を配り歩いていた侍女がマチュアの前に立つ。

──シュンッ

 そして腕に付けていた換装の腕輪を発動させると、一瞬で侍女はミスト・ラグナマリア・クフィール女王に変化した。


「さて、隣国の女王にしてラグナ・マリア帝国王室顧問のマチュア・フォンミナセ陛下と私の二人の前で、まだ頭を上げ続けられるのですか?」


 ニィッと笑うミスト。

 その笑顔で、ジェフリーはその場にヘナヘナと座り込んでしまった。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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