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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第十二部 ドタバタ諸国漫遊記

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徒然の章・その18・大円団ってなんだっけ?

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ラピュータ内、開発区画。

 その一角で、マチュアとアハツェンが巨大な魔法陣を幾つも展開していた。

 どの魔法陣にも作り掛けのゴーレムの素体、そして魔法鎧(メイガスアーマー)のパーツが大量に配置されている。

 そのうちの一つで、マチュアとアハツェンは回収したダブルジェイの魔力核と二つの竜核、それにアダマンタイトやらミスリルやらをふんだんに使い、ダブルジェイに新たな肉体を構築していた。


「ベースはゴーレムボディじゃないよ。魔法鎧(メイガスアーマー)と同じ内骨格系ゴーレムな。こいつには魔法鎧メイガスアーマーで手に入れたノウハウを全て注ぎ込み、新しい量産型ゴーレムボディの実験台となってもらうわ〜」

「ああ、成程。それでツヴァイさんやクィーンさん達の新しいボディも作っているのですね。では、私のも‥‥と、やはりありましたか」


 このタイミングで、シスターズ全員の強化も行う。

 ついでに回収したダブルジェイのボディからスチームマンのノウハウも覚えた。なら、やらないという選択肢はマチュアにはない。

 亜神モード・第二段階まで神威を開放する。そして深淵の書庫アーカイブを多重展開し、それぞれでマチュア・ゴーレムの素体データを入力。

 そこにスチームマンの基礎データも組み込むと、後は一部を除いて自動作業である。

 その為には、まずはダブルジェイで基礎データをしっかりと作り上げなくてはならない。


──ガチャガチャ


「筋肉は全て精神感応金属クルーラーですか。血液は存在しないので、この人工筋繊維で魔力と心力の循環を補うと。ほほう、皮膚組織にはドラゴンの皮から作り上げた皮革繊維を‥‥ほうほう、骨格は‥‥え?」

「え、じゃないわ。同じ手順でそっちのドライの体を作って頂戴」

「はい。しかし、まさかのミドルドラゴンの骨格を加工するとは思ってもみませんでした」

「魔力が循環した竜の骨の強度については、実戦では散々体験しているからなぁ。普通に削ったら骨髄とか漏れるから、こう、魔力でカバーを作って削りつつ形を整えて再生。しかし、血液が循環していないのに骨髄って腐らないのかなぁ」

「それも魔力活性なのでしょうなぁ。よし、これでドライさんの素体は完成です。では次の‥‥」

「ちょ、なんで私よりも早いのよ?」

「はっはっ。マチュアさま、私は創造特化ゴーレムですよ? 創造主を超えた想像力はありませんが、一度見たものはコンマ数ミリの狂いもなく再現できますので」


 そんな事を話しつつも、マチュアはダブルジェイの素体を完成させた。

 より強く、より逞しく。

 今までに習得した技全てを使えるように改良に改造も加えた。

 はたから見ると魔改造と言ってもいいレベルの改造まで行うと、最後にダブルジェイの魔力核を心臓部分に移植する。

 戦闘特化とするので、万が一に心臓を狙われたときのことを考えて、頭部と腹部、そして両腕に予備の魔力核も移植、バックアップ用に全てをリンクさせる。


「さて、これで終わりだ。制限時間はあと2時間25分、目覚めよダブルジェイ」


──フッ

 マチュアの呼びかけに、ダブルジェイもゆっくりと目を開く。


「あ‥‥俺は死んだのでは」

「誰が殺すかよ。お前はポイポイとの一騎打ちに敗れた、なので契約により私の傘下に入ったの。そこは覚えているか?」


 少しずつ記憶が戻る。

 ポイポイとの戦いで負けた事実、そして契約。

 完全に失った筈なのに、今は新しい肉体に生まれ変わっている。


「あ、ああ。思い出した‥‥完敗だ、あの強さは‥‥俺がこの先‥‥どれだけ修行しても手に入れられない。契約は契約だ、好きにしろ」

「よし。それならばさっそく契約よ、貴方には私の所有するカナン魔導騎士団‥‥ちゃうわ、私の加わっている幻影騎士団に入ってもらいます。まずは候補生として訓練を受けてもらい、そして正式採用になってもらいます」

「なってもらいます、か。つまり正式採用レベルまで鍛え上げろということだな。それでこの肉体なのか」


 ゆっくりと上体を起こす。

 スチームマンの肉体は魔法金属によって構成されており、その質感は生身の人間のようである。

 当然ながら体を捻じればその通り動き、プラモデルのようにぎこちない動きにはならない。

 そのまま立ち上がって屈伸、上体を伸ばしてから腰も捻る。

 その動きに、ダブルジェイはウンウンと頷いていた。


「一体どうやったらこんな肉体が作れるんだ? メルヴィラーでさえ、ここ迄の体は作れなかったぞ。以前の体の二倍以上のパワーが出せるではないか」

「まあ、マギクラフトマイスターの〇ン・ニドー師匠に較べれば、私の技術など‥‥まあ、その話は良いわ、まずは先程の話よ、とっとと私と契約しなさい」


 空間収納チェストから羊皮紙を取り出して契約書を作り出す。それにマチュアのサインと魔術印を施してダブルジェイに手渡すが、彼は書面を見ただけでサインは行わない。


「ん? 何か不満か?」

「いや、そうではない‥‥ジェイ・ノイン、ダブルジェイ・ノイン‥‥俺にとってはどちらも敗れた名だ。ならば、俺は生まれ変わって名も改めようと思っただけだ」

「それは良いのでは? てっきりダブルジェイからトリプルジェイになるかと思ったのだけれどね?」

「いや、それは志が低すぎる。ならばもっと高みを目指す。俺はいずれ銀河の王となる‥‥銀河ギンガ皇帝カイザー、おお、略してギンガイザフベシッ」


──スパァァァァン


「危ないわ。志を大きく持つのは構わないから、もっと色々な方面に優しい名前にして」

「ふむ。ならば和国の侍をモチーフにするか。剣豪の更なる極致、大剣豪ダイケンゴーと言うのは?」

「んんん?セーフか? アウトか? 難しいところだなぁ。なので駄目」

「う〜ん、厳しいな‥‥名前について、何か基準でもあるのか?」

「いや、まあ、私の本能がその名前を拒否していると思ってくれ‥‥」


 笑いながら呟くマチュア。するとダブルジェイも腕を組んで考え始める。

 しかし。

 今のダブルジェイは身長2mの人間型ボディ、それに各部位にパーツアーマーを組み込んだ外見。顔こそ往年のエルドランシリーズのロボットのような顔であるが、見方によっては鋼の勇者王の中の人にも見て取れる。

 そして黒を基調とした装甲の為、以前のトリコロールカラーのボディ程派手には見えない。


「あ、お前の名前決まったわ。今日から『ガイスト』って名乗るよろし」

「ガイスト? どう言う意味が?」

「私の故郷の古い言葉で『幽霊』を意味するのよ。騎士団の名前は幻影騎士団だから、イメージ合うわぁ」

「ふむ、ガイストか。良い感じだな」


 右手を軽く握り納得するガイスト。

 そして契約書にサインをすると、マチュアは丁寧に空間収納チェストに納めた。


──ガチャッ

 これでおしまいと握手を交わすマチュアとガイスト。

 その直後に、ポイポイが部屋に入ってきた。


「マーチューアーさん、ダブルジェイの改造終わったっぽい?」

「ん、今サイン貰った。という事で、ちょいとガイストをヴィマーナに案内して。ウォルフラムに新しい幻影騎士団候補生だって伝えればわかると思うから」

「ぽーい。そんじゃあガイストさん、行きましょ」


 ポイポイがすっと手を差し出す。

 するとガイストもニイッと笑ってポイポイの手を握ると、そのまま逆関節を極めに行くのだが。


──ドッシーン

 あっさりと手首を返されて、ガイストは天井に叩きつけられた。

 そのまま床に背中から落下して、ピクピクと蠢いている。


「なっ、何だ今の技は?」

「まだまだ甘いっぽい。それじゃあ行くっポイよ。ちなみにこれから向かうヴィマーナには、ポイポイでも太刀打ちできない人がいっぱいいるっポイよ。まあ、ストームさんとマチュアさんがそのつーとっぷなので、早く訓練して正式団員になるっぽい」

「お、おう‥‥」


 手をひらひらと振りながら、ポイポイがガイストを伴って部屋から出て行く。

 それを見送ってから、マチュアもようやく一つ肩の荷が下りたのか、両手を天井に向けてグイッと伸ばし、体のコリを解す。


「やっと解決策が見えたわぁ。アハツェン、後の調整任せたわよ。私はラピュータのシステムを止めて来るから」

「了解しました、ではお気を付けて」


 いつものマイペースのマチュアに戻る。

 この35分後、ダブルジェイに対しての警戒警報は解除され、ラピュータの緊急浮上警戒警報は解除された。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 翌日の正午、マチュアは白銀の賢者装備に換装し、街の中央広場にやって来た。

 大きめの演台と周囲に整列するクラフト領騎士団の光景に、一体何があるのかと大勢の人々が集まって来る。そして堂々と姿を現したマチュアを見て、一同静かに頭を下げた。


「さて。この領内で現在起きている、種族間抗争について、ラグナ・マリア王室顧問として裁決を下します‥‥まずは‥‥」


 その後はクラフトとの打ち合わせの通り。

 風の精霊魔法により、マチュアの声は広場だけでなく周囲にも広がっていった。

 そして一通りの説明を終えると、最後にマチュアはニィッと笑う。


「なお、今の私の声明文について異議のあるものは、この後すぐに私の元に来るように。私と一騎打ちして、私が降参したならばその異議を認め、今私が宣言した事を白紙に戻そう」


──オオオオオオオッ


 集まった人々の中から驚きの声が上がる。

 ならば、ほんの少しの可能性に賭けて異議を唱えるのもアリかもしれない。

 相手はラグナ・マリア帝国最強の大賢者。だが、近接戦闘はどうだ? それなら万が一の可能性があるのかもしれないと、一部の種族の力自慢は考えた。

 そう思ったのもつかの間。


「なお、私に挑んで負けた場合、その種族の調査権利は一回休みね。それでもというのなら、ここに上がって来なさい!!」


 この言葉に、それまで勢いづいていた男たちはざわつき始める。

 だが、そんな中でも、一人のドワーフが手を上げて壇上に上がってきた。


「わしはバボルト、この町では鍛冶ギルドの責任者を務めている。早速だが、お手合わせ願いたい」

「いいねぇ。それじゃあ、貴方がドワーフ代表という事で構わないかな?」

「いかにも。それで勝負方法は?」

「素手、拳のみの勝負で。足技もなし‥‥それでいいなら準備して」


 そうマチュアが説明すると、バボルトは上着を脱ぎ棄て、腰に下げてあったスミスハンマーを隅に置く。

 そしてゆっくりと半身の構えをとって拳を握ると、マチュアに一言。


「先制攻撃は譲ろう」

「いいねぇ。そんじゃあ手加減なしでいくよ!!」


──ダン

 力いっぱいの踏み込みからの冲捶(正拳突き)。このたった一撃で、バボルトは後方に力いっぱい吹き飛び、そのまま意識を失った。


「ドワーフ氏族はこれで、調査権を一回失ったと。後は誰か勝負するかい?」


 パンパンと軽く手を打って、呆然としている観客に向かって叫ぶ。

 だが、今の一瞬の攻防を見て、そのまま手を上げる者は存在しない。

 もしもダブルジェイが健在だったなら手を上げていたかもしれないが、その本人は既にマチュア達の傘下に加わっている。


「よーし、それなら、この一件はこれで解決。もしも異議があるのなら、後で勝負という事でよろしいね?」


 コクコクと力いっぱい頷く各氏族代表。王室顧問の決定に逆らうなどとんでもないと、今更ながら恐怖している。

 そしてマチュアも、その様子をみてゴホンと咳ばらいを一つ吐くと、そのまま壇上を後にした。


‥‥‥

‥‥


 一連の騒動を後にして。

 それぞれの氏族が自分達の生活空間へと戻って行く。

 この後はクラフト伯爵の元に代表が集まり、今後の調査の順番についての話し合いを行う事になっている。

 つまり、この地でやり残した事はない。

 そう考えて、マチュアは最後の仕事であるストレイ教授とメルヴィラー女史を見つける為に、町の中で聞き込み調査をしようとしたのだが。


「ちょっと失礼、マチュア陛下ですな?」


 町の中を歩いていたマチュアに声をかける人物が三人。

 その代表らしい人物、ボウモア教授がマチュアに頭を下げる。

 それにつられてストレイとメルヴィラーも頭を下げたが、マチュアは表情一つ変えずに一言だけ。


「女王の姿以外では、私は商人か賢者のどちらか。で、今は賢者なので陛下なんて呼んでも相手しないわよ? 魔術師ギルドにもこの件についての通達は届いていたかと思いますが」

「それは存じております。ですが、私どもの嘆願を受け入れていただく為には、やはり陛下とお呼びするしかありません‥‥是非、我々三人にもあの小島の調査の権利を授けていただきたいのですが」

「貴方がこの国のトップであること、そして今は変装して活動していることはボウモアから聞いた。私はこの大陸とはかなり離れている別大陸出身で、あの遺跡を長年研究していた者だ‥‥是非とも頼む」

「私はメルヴィラーと申します。こちらのストレイ教授の助手を行っていました。是非私たちも調査に加えていただきたいのです」


 あら、あっさりと発見できた。

 けれど、必要なのはストレイとメルヴィラーの二人だけ、しかもボウモア教授は隣国ミスト連邦の考古学者である。ここで発見した情報などを持ち帰られても、正直言うと困ったことになる。

 ミストとマチュアは仲がいいためそれほどの問題ではないが、いざ小島の秘密を知ってしまったら、魔術師たちがどう動くのかなんて見当もつかないだろう。

 ならば、ふるいに掛ける事にする。


「折角の申し込みですが、お断りさせていただきます」

「なっ、何故ですか?」

「遺跡の調査でしたら、ミスト陛下に直接お願いして、レムリアーナの調査をするべきでは? ここはカナン、私の王国です。隣国の考古学者にわざわざ情報や埋蔵品を渡すとでも?」

 

 この言葉には、ボウモアも反論できない。

 さらにマチュアは、ストレイとメルヴィラーにも一言。


「あなたたちは魔族ね? 好奇心旺盛大変結構ですが‥‥今は無理と申しておきます」

「わ、私たちが魔族であると?」

「どうして‥‥」

「だってねぇ。ま、それはいいわ」


 そう呟いて、マチュアは手をひらひらと降りつつ歩き始める。

 すでにボウモアはこれ以上は踏み込めない。マチュアの話しぶりは、個人レベルではなく国家レベルでの対応になっていたから。

 だが、ストレイ達にはそんな理屈はない。


「で、でしたら、私達も貴方の調査団に加えていただきたいのです」


 メルヴィラーの絞り出すような声。

 それならばと、マチュアはニイッと笑いつつ一言。


「君が私の調査団に加わったとして、君に何ができるのかな?」

「わ、私には知識があります。陛下でも知らない、浮遊戦艦の知識が‥‥」


 そう告げてメルヴィラーは気付いた。

 今、二人の前でニイッと笑っているマチュアの顔、その雰囲気。

 外見こそ違えと、その表情と言葉には覚えがあった。


「あ‥‥ああ‥‥まさか」

「今、貴方達がここにいるっていう事は、オネスティからも放り出されたんでしょ? いいわ、それについては夜にでも宿に来てお話ししましょうか? 私の持っているナーヴィス・ロンガについても、色々と聞きたいのでしょうからねぇ」


──ゴクッ

 ストレイとメルヴィラーは息を呑む。

 そして歩いて立ち去って行くマチュアの背中を、じっと見つめる事しか出来なかった。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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