徒然の章・その13・仁義なき異種族間抗争
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巨大な3つの湖に囲まれた『クルフ大湖都市』。
ここは湖の周囲の大森林と、豊富な水産資源により繁栄している都市である。
中央にある高台に作られた城塞部分と、湖の彼方此方に点在している島々からなるこの都市には、他の都市とは違う珍しい種族が存在している。
それが直立歩行の爬虫類、リザードマンである。
種族の全員が左利きに生まれ、八大神の眷属神であるルチャ・リーブラという亜神の竜を祀っている。
──ガラガラガラガラ
巨大な城塞、その、正門でマチュアとポイポイは手続きを終えて街の中に入って行く。
まずは宿を押さえて馬車を預けると、早速情報収集を開始する。
街の中は獣人やドワーフ、エルフ、ロリエッタなど亜人種も大勢住んでいるらしく、とても活気に満ち溢れていた。
情報収集は酒場から。
それが異世界ラノベの常識である。
適当な酒場にやって来た二人は、これまた適当な席に座るとツマミとエールを注文、客の話し声に耳を傾けていたが。
「おうおう、獣くせえ奴はこの道を通るんじゃねえよ。獣人はコソコソと裏道を歩きやがれ」
「なんだぁ、なにかドブ臭いと思ったらドワーフじゃないか。いつも酒ばっかり食らってないで、ちゃんと仕事しているのかよ‥‥このへっぽこ鍛冶屋が」
「うるせえぞケダモノやろうが。ここは人間様の町だ、犬っころはおとなしく首輪でもつけて繋がれてろってんだ」
「おーおー。土いじりしか能のない落ちこぼれ大地の妖精がよくいうわ。ここが人間様の町だっていうなら、お前たちこそ日の当たらない地下にでも潜っちまえよ」
「なんだと?」
「なんだぁ?」
「上等だ、このケダモノ族に立場をわからせてやれ」
「望むところだドブドワーフ、かかって来いヤァ」
酒場の外で喧嘩が始まる。
そして店内で酒を飲んでいた血気盛んな獣人とドワーフも飛び出して参戦、外は収拾がつかなくなっていた。
「うわぁ‥‥ここは博多か広島か? それとも歌舞伎町? どこの修羅の国?」
「え、あの人すっごく珍しい竜人族っぽい、単独でドワーフも獣人も投げ飛ばしているっぽいよ。かなり強いっぽいねぇ」
「まさに竜が如くってかぁ。あ、エルフも参戦した」
マチュアとポイポイの目の前で繰り広げられる大喧嘩。
凄いのはお互い武器や魔術は使用せず、あくまでも素手で殴り合うオーソドックスなベアナックルファイトである。
その為か、あちこちで喝采が起こったり賭けの胴元らしき人が周囲を煽っているのが見える。
「あら、何か野蛮な輩がいると思ったら、落ちぶれたドワーフ族ではありませんか。それに喧嘩しか脳のない獣人まで。ここは文化を愛する者たちの住む都ですわ、喧嘩なら外でやっていただけませんか?」
「五月蝿えもやし野郎が、お前もやるのならかかって来いヤァ」
「精霊しか友達のいないリアル引きこもりが、たまに街に来たからって文化を語るとは片腹痛いわ」
「な、ん、で、す、って‥‥上等よ」
──ドッカァァァアン
ここで酒場のエルフも飛び出す。
酒場に残ったエルフとドワーフ、獣人も口論を開始すると、あちこちで殴り合いが始まっていた。
飛び交う怒声と飛んでくるエルフを巧みに躱しつつ、マチュアとポイポイはのんびりと酒を飲んでいる。
──ドゴッ
突然一人のドワーフがリザードマンに蹴り飛ばされたが、マチュアも右足の裏でドワーフを受け止めると、もう一度リザードマンに向かって蹴り飛ばす。
その速度を生かして蹴られたドワーフは頭から突っ込んでリザードマンをノックアウト、ドワーフはマチュアに笑顔でサムズアップした。
「全く楽しい奴らだこと‥‥あれ? 確かクラフト伯爵領は亜人種が手を取り合って生きている領地じゃなかったっけ?」
喧嘩している亜人種を見つめつつ呟くマチュア、すると店員の一人がマチュアとポイポイの元にエールを持ってくる。
「騒がしくてすいませんな。これは店からのサービスです」
「あらありがと。でも、なんで亜人種が喧嘩しているの?」
「ま、まあ、話せば簡単なのですが、縄張り争いです」
「へぇ、本当に簡単だわ。でもなんで草原や森に住まう獣人族と森の民のエルフ、大地の民のドワーフが喧嘩しているの? 水と空の民の竜人族もいるじゃない」
住むエリアの違う亜人種同士が縄張り争い。
そんなに目的のエリアの価値は計り知れないのか?
そしてもう一つの疑問。
「それにしても、人間とロリエッタは喧嘩していないのか」
「あっはっはっ。ロリエッタは土地に縛られないからね。そしてこの領地の領主はクラフト伯爵ですから。新たに発見された土地・遺跡の管理は、人間族と発見した種族が行うと領地の法令で決まっているんだよ。だから今回発見された遺跡・聖地の管理は人間族と、あと一つの種族って決まっているのさ」
「だから人間族は喧嘩はしないと。領主権限とはいえ、なんかズルいわ」
「そうでもないよ。その法令は昔から続くものだし‥‥問題なのは、その聖地を発見したのがエルフとリザードマンとドワーフ、そして獣人族の四つの種族で、発見された遺跡が古竜族の聖地というところで‥‥ねぇ」
うん、なんだ、実に面倒臭い。
「なんで四種族同時なのさ」
「エルフとリザードマンとドワーフと獣人の四種族混合パーティーが発見したから」
「‥‥もう、その遺跡は竜人族に返してしまえ。そうすれば解決じゃない」
「それがねぇ。発見された遺跡が方舟と呼ばれる巨大な船で、しかも過去には空を飛んでいたと‥‥どうしました?」
途中まで聞いて頭が痛くなる。
またしても浮遊大陸シリーズ、それも未発見のものである。
そうなると、どの種族も欲しくなるのは理解できる。
「それって何処にあるの?」
「ここから見えるだろ、クレスト湖の中央にある小島だよ。もう長い間誰も住んでいない小さな島だったんだけれど、その島自体が方舟だったんだよ。それで方舟といえばミスト連邦と言うことで、考古学者を派遣してもらった結果が『未発見の方舟』だったということらしいね」
その言葉にチラリと窓の外を見る。
クルフ大湖都市はクレスト湖、ザナックス湖、ドワル湖の三つの湖に挟まれた陸地に存在する。
この酒場の窓から外を眺めると、ちょうどクレスト湖が見える位置にある。
「それで、今の方舟は誰が管理しているの?」
「カナン王都から派遣された騎士団と考古学者さんだよ。現地にはミスト連邦のボウモア教授も駐在しているから、四種族も迂闊なことはできないらしいね」
成程と納得するマチュア。
これは領地の問題であり、領主の仕事である。
王都からも騎士団や学者も派遣されているのなら、マチュアの出る幕はない。
「まあ、一介の商人の私には関係ないわぁ。ポイポイさんはどうする?」
「マチュアさんが関係ないと言うのなら、ポイポイも関係ないっぽい。シトラン酒をくださいなー」
「それと、シトラン酒に合う酒の肴をお願い」
「少々お待ちください〜」
笑顔で返答する店員。暫くして外の喧騒が収まると、顔中ボコボコになった四種族が店内に入ってくる。そしてそれぞれが店内の四角のテーブルに陣取ると、なにやらヒソヒソと話を始めていた。
‥‥‥
‥‥
‥
暫くして。
「そんじゃあ、適当な商品を仕入れて次に行こうかな……こここら北か東、東だと森林都市ルトゥール、北はずっと上がって……おや、街道が曲がってるわ、ファナ・スタシア王国まで行っちゃうのか」
「ルトウールに行ってマルムの実を買い付けるっぽい」
「マルムの実はまだ在庫あるからいいわ。一旦戻って……ククルカン王国領に向かうのもありだなぁ」
地図を広げてそんな話をしていると。
四角から同時にマチュアの元に駆けつける者達がいた。
そしてマチュアの四方で跪くと、開口一発。
「「「「陛下、お助けください」」」」
「なんだぁ、下がれドブドワーフ、陛下は我がエルフの氏族、お前が顔を出しても無駄だ」
「それはこっちのセリフだ。陛下の生誕地である北方大森林の管理は我が獣人族が行なっている。どうか我が種族にご慈悲を」
「煩いわ。我がドワーフ氏族は高貴なる血筋、この地に古くから住まうものなりや……何卒陛下!!」
「この地に古くから住んでいたのは我らリザードマンである。遺跡を見つけてはホイホイとしっぽを振るドワーフと一緒にされても困る」
「「「「何卒、陛下!!」」」」
立ち上がって言い争いをし、また跪く一行。
だが、マチュアは右手に魂の護符を作り出すと、四人に見せる。
「あの〜、人違いだけど?」
それを受け取って四人が同時に確認すると、何やらブツブツと文句を言って立ち去って行く。
これにはマチュアとポイポイも苦笑するしかない。
「他人の空似だってねぇ。私が陛下な訳ないじゃない」
「その通りっぽい」
そのあとは、誰もマチュアとポイポイのことなど気にする様子もなく。
のんびりとした、時折発生する喧嘩を眺めつつ食事を楽しむ二人であった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌朝。
聖地に興味を持った、というか危険がないかどうか確認するためにマチュアたちはクレスト湖までやって来た。
湖岸までやって来ると、二人とも拡張バッグから魔法の箒を取りだし、湖の真ん中にある小島へと向かって飛んで行く。
体内の神核により、魔力も神威もまさに桁外れになったマチュア、二人分の結界と隠蔽を発動しても魔力は微塵も減ることはない。
「おおおおお、久し振りの魔法の箒は凄いなぁ」
「マチュアさんの神威も魔力も桁外れに強くなっているから当然っぽい。あ、あそこに人がいるっぽいよ」
「どれどれ……お。あの旗はカナン魔導騎士団ではないですか。では見つからないように反対側に回りましょ」
ゆっくりと旋回して反対側へと向かう。
そして適当な場所を見つけて上陸すると、大地に手を当てて詠唱を始める。
「え〜っと。グランドセンサーだったかな?」
──キィィィン
掌から発した魔力が大地に浸透する。
それはすぐに地中の人工物にぶつかると、マチュアの元へと戻ってくる。
「深度20mってところか。この島全体が方舟なのは間違いないわぁ。となると、取り出しましたる魔導制御球。お久しぶりのデウスさんでございます」
ナーヴィス・ロンガの起動鍵でもある魔導制御球を取り出す。
因みにナーヴィス・ロンガにはもう一つの起動鍵であるララが居たので、外しても問題なかった模様。
「この浮遊大陸の名称と出入り口の検索‥‥おおおお、ポイポイさん、この島の名前、ラピュータだ! 人間がゴミに見えるやつだ」
「40秒で支度するっぽい。で、これは戦艦?」
「自律飛行型補給船だって。地下プラントで様々な食料を供給できて‥‥あ、世界樹の苗が植えられているんだ‥‥それにマルムの大樹? アンブロシア? やばいやばいやばい、これは人間が持っちゃいけない、戦争に使われる。絶対にやばい」
思わず動揺するマチュア。
そしてその船内に人の生命反応があるのを確認して、さらに動揺する。
「もう誰が入ってるぅぅぅぅ、ポイポイさん、急ぎこいつの調査は止めさせるよ」
──ブゥゥゥン
そう告げると、マチュアは足元に転移の魔法陣を起動する。
魔導制御球の能力の一つで、支配下の浮遊大陸シリーズなら、ある程度船内に自由に入ることができる優れものである。
「それでは、えーっと、何だったか忘れたっぽい」
「ピンクのカバの妖精のやつ? あれは赤バク人形のモグタンといって、獏なんだからね……って、のせるなぁぁ」
「あ、思い出したっぽい。ドボーオシテ……あれ?」
「移動の呪文はもういいわよ」
──シュンッ
一瞬で艦内の艦橋区画に飛ぶ。
そしてすぐさま正面モニター下にある鍵の位置に魔導制御球を設置すると、マスターキーの存在場所を探すことにした。
「‥‥あ、マスターキーがないわ。この船のマスターキーはかなり昔に消滅しているって。それでこの船は湖に不時着して、それから遥かな時間が経過したそうな……」
「めでたしめでたしっぽい?」
「そ、デウスさんや、全てのコントロールをあなたの支配下に移して。そして新しい鍵の創造、形状はツインダガーで宜しく」
──ブゥゥゥン
マチュアの目の前にゆっくりと輝く球体が二つ形成される。
それはやがて二本のダガーの姿をとった。
「これで良い。一つはポイポイさんにあげる、魂とのリンクわかるよね?」
「了解っぽい‥‥ほいオッケー」
「では私も‥‥リンクスタート‥‥よし」
これでマスター権限の書き換えも完了。
マチュアは魔導制御球を空間収納に収めると、艦内の全ての隔壁を閉鎖、対魔法障壁と対物理障壁を起動させる。
「これで良し。さ、一旦宿まで戻りましょ」
「了解っぽい」
そのままマチュアに掴まって、ポイポイも宿の部屋に転移する。
まだ時間は夕方、寝るには早いし調べ物をするには遅い。
なので、今日はのんびりと遊び倒そうと、二人は繁華街へと繰り出した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ガンガンガンガン
翌朝。
久し振りに二日酔いで頭の中がガンガンするマチュア。
その隣のベッドでも、ポイポイが青い顔をしてトイレとベッドを往復している。
「ぬぁぁぁ、亜神ボディでなんで二日酔いになるんダァ。昨日飲んだ酒は神をも酔わすのかよ」
「銘酒ゴットブレイカー‥‥恐るべしお酒っぽぶほほほ」
口を押さえてトイレに走るポイポイ。
縮地スキルすら使う事が出来ないほど、集中力が途切れている。
「あ‥‥解毒‥‥効かなぃぃぃぃ。なんでぇぇぇぇ」
亜神ボディになっても、相変わらず毒やら酒には弱い。
正確には、昨晩は思いっきり酔いたかったのでそれらに対する耐性を有効化から外したのが失敗だった模様。
有効化から外した時点で、元々のマチュアの弱点である耐毒抵抗の低さが災いした。
ちなみにポイポイは暴飲暴食の結果である。
「‥‥お、耐毒抵抗、有効化‥‥あらすっきり」
「狡いぃぃぃぃ、ポイポイも助けてっぽい」
「あんた忍者でしょ? 毒中和スキル使いなさいよ」
「食べ過ぎは毒じゃないっぽい」
「それは知らない。はい、困った時の胃腸薬『超強力ブルゥアァァ』。これ飲んで少し病んで、違う休んでいなさいな」
「ううう‥‥護衛なのに‥‥無念っぽい」
「そもそも私に護衛いらないでしょ?一緒に遊びたいだけなんでしょ?」
「その通りっぽい……ゴクッ」
頷きつつ薬を飲んで横になるポイポイ。
そしてマチュアは一階の酒場へと向かう事にした。
………
……
…
多少は胃に何か入れないと。
マチュアは適当な席に着くと、軽い朝食を注文する。
そしてゆっくりと食事を取っていた時、宿の入り口に団体客がやって来た。
「済まない、12名なのですけど部屋はありますか?」
綺麗な銀装甲のハーフメイル、お揃いのマントにはカナン魔導騎士団の刺繍が施されている。
先頭に立って話をしているのは金髪縦ロールの女性騎士。
そのまま部屋に案内される途中でマチュアの横を通り過ぎ‥‥慌てて戻って来る。
「陛下‥‥な筈はありませんね。今頃陛下は帝都で執務の筈ですから、これは失礼」
そう告げて立ち去る、馴染み亭店員兼業騎士のジョセフィーヌ。
「全く。陛下は私のようにガサツではありませんよ。あ、エールもう一杯くださいな」
「はーい」
ガヤガヤと店内が騒がしくなる。
そして荷物を置いて来た魔導騎士団も食事をとるために酒場までやって来たのだが、時折マチュアの方をチラッチラッと見ているのはどうにかならないものか。
「はぁ。とっとと仕入れして次行こう。ここは空気が悪いわ‥‥」
まあまあ、そんな事言わずにもう一つ二つ問題解決してください。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






