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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第十二部 ドタバタ諸国漫遊記

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徒然の章・その12・ダンジョンコアの悲哀

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 最近、どうも様子がおかしい。

 わしのご贔屓にしていた商店が閉店してしまった。

 その翌日には、銭湯までどこかに移築したらしく、影も形も残っとらん。

 わし、銭湯にゆっくり浸かって、カナン漬けを肴に和酒を飲むのが最近の日課なんだが。

 え、わしのダンジョンが活性化した?

 あのくノ一は最近来なくなった?

 そ、そうか、よーしよし。ならば今のうちに第二計画を実行しよう。

 この領地の最大都市であるシルバーホーン、そこに巨大なダンジョンを構築してやろう。

 なあに、このわし自らシルバーホーンに出向けばいい話だ。そこでダンジョンを開き、この土地に住まう者たちに地獄を味あわせてやろうぞ。

 そうと決まれば有言実行、わしはこれよりシルバーホーンに向かう。

 あの雑魚い冒険者の始末はお前たちに任せる……


………

……


 さて。マチュアはのんびりと深淵の書庫アーカイブを検索。ダンジョンスタンピードをどのようにして止めるか、そして安定したモンスター供給を続けるためにどうしたら良いのかを検索して……。


「やっぱりこの手しかないかぁ」

「マチュアさん、何かわかったのか?」

「ん……まあ、あんまり乗り気じゃない方法だけどね。そんじゃあ試してみるか……深淵の書庫アーカイブは起動したままなので、条件検索開始……指定対象は、この魔石の中心に存在する魔障を」


──ピッピッ

 サーチ対象はダンジョンコア、それを手に入れて支配下に置く事で、この土地のダンジョンはマチュアの好きなようにいじる事ができる。


「……あの、俺はなんだか嫌な予感しかしないのだが」

「そお?気のせい気のせい……と、反応あり、ここから西に450m、南に179m……はぁ?」


 マチュアの予測ではダンジョンの何階層とか、地下何メートルといった表示が出ると思ったのだが、まさかの都市内、しかも水平軸。

 流石のマチュアでも、これは想定していなかった。


「……なんで?散歩?いやいや待て待て、そんな筈はないだろうけど……可能性大なんだよなぁ。コロコロと転がっているのかなぁ」


 そう呟きつつ立ち上がると、真っ直ぐダンジョンコアを探しに出掛けていった。

 まだ早朝ということもあり、中央街道沿いの露店は商隊馬車と商人たちで賑わっている。

 美味しそうな匂いにふらふらとつられつつも、目的地へと向かって歩く。

 街の中では深淵の書庫アーカイブは目立つため、クリアパッドに切り替えてナビゲーションを任せて。

 そして目的地点に到着すると、そこには一軒の酒場が建っていた。


「酒場がダンジョン?まあ混沌としているのは事実だが」


 首を捻りつつ店内に入る。

 そこは商人と冒険者で溢れかえっていた。


「さて、何処に転がっているのやら……ん?」


 店内の床に転がっていないか探していると、どうやらカウンターの方で一悶着あったらしい。

 一人の老人が、カウンター内の店員と何やら揉めているようだ。


「じゃから、こんなものは和酒ではない、なんじゃこの水みたいな酒は……それにこれはカナン漬けではない、ただのピクルスではないか!!」

「あのねお爺さん、うちはちゃんと北方から和酒を取り寄せたんだよ?このピクルスだって市場に売っているものだし……それを違うと言われてもねぇ」

「兎に角違うのじゃ、もっと美味いものを出せ」


 マチュアもその老人には見覚えがあった。

 いつもPX13をご贔屓にしてくれるどっかの魔術師である。


「あ〜、あの爺さん、うちの酒と漬物が欲しいのかぁ」


 ポリポリと頭を掻く。

 そしてちらりとクリアパッドを見ると、ダンジョンコアの反応はその老人あたりから発している。


「まあ、あの辺りならついでだな……よお爺さん、朝っぱらから元気だねぇ」


 コアを探すついでと老人に話しかけると、老人もマチュアの顔を覚えていたらしくホッとした顔になった。


「おお、あの店のお嬢さんではないか。聞いてくれ、この店の酒は混ぜ物がしてあるのだ」

「あ〜、酒が水っぽいってか。銘酒水の如しっていう格言もあるけど……いい酒を水で薄めて量を増やして売るっていう方法もあるんだよ。和酒は特に顕著でね……ごめん、持ち込み料払うから、私の持っている酒と肴出していい?」


 コトンと金貨一枚取り出してカウンターに置く。

 すると店員も笑顔で頷いたので、マチュアは老人の隣に座った。

 そして拡張エクステバッグから和酒とカナン漬けを取り出してカウンターに置くと、それを老人に勧める。


「ほら、うちの酒と漬物だよ。これを探していたんでしょ?」

「おおおおお、これじゃこれじゃ、これを探していたのじゃよ……うん、この歯ごたえと味、ポリポリコリコリとした感触が口の中に広がるのう……そしてこの酒で」


──ゴクッ


「ぷはー。これはまた濃厚じゃな、それでいてしつこくない。なんと言うか、熟成された和酒じゃな」

「お、判るか。それは貴醸酒といって、和酒を作るのに水じゃなく和酒を使うんだよ。このあたりでは知られていない技法でね。最高の酒だろ?」

「うんうん、これじゃよ。もう四日も飲まなくて困っていたんじゃよ。このお礼はしっかりとするからの」

「それはいいや。それよりもちょっと探し物をしていてね。この辺りに……多分球体のような立方体のようなもの落ちてなかった?」


 両手でそれとなく形を作る。ダンジョンコアの形は基本的に球体、ただし大きさはまちまち。

 それ以外の形状もあるので、これと言う確定した形状を伝えるのは難しい。


「さてなぁ、この辺りではみなかったのう。それは一体なんじゃ?わしも知っているものかな?」

「う〜ん、爺さんは博識そうだからいいか。この辺りにダンジョンコアが落ちているって言ったら信じてくれるか?それを探していたんだけど、何処にも落ちてなくてね……地下かなぁ」


──ダラダラダラダラ

 マチュアの話を聞いて、全身から汗が噴き出す老人。

 その様子に、マチュアも首を傾げてしまう。


(この嬢ちゃん、わしを探しているのか……)


 視線が挙動不審になる老人。


「おや、爺さんどっか調子が悪いのか?私は治癒師の資格もあるから見てあげるよ」

「い、いや大丈夫じゃよ、家に戻って少し休んだら具合も良くなるじゃろ……では失礼するぞ、代金はいつも通りで良いか?」


 魔石を一つ取り出してマチュアに手渡すと、老人はいそいそと酒場から出て行く。


「相変わらず魔石払いか。今日のは純度A、これ一個で白金貨十枚の価値があるのに……」


 参考までに、純度Aの魔石の価値は白金貨十枚、Bで白金貨一枚の価値がある。

 因みにCでも金貨十枚、Dは金貨一枚。一般流通している純度EとFは銀貨一枚と銅貨一枚である。

 これは大体親指の先程の大きさの価値であり、大きくなるにつれて価値はうなぎ上りに高くなる。


「まあ、それよりも続きだ……ってあれ?場所が移動しているぞ……」


 クリアパッド片手にダンジョンコアを追いかける。

 やがて老人の横まで辿り着くと、マチュアと老人はお互いに顔を見合わせて。


「なんだ、ダンジョンコアは爺さんが持ってたのか。それ、私に売る気ない?」

「な、なななな何のことじゃ?」

「惚けなくていいから。持っているんでしょ?」


 ニイッと笑うマチュア。すると老人も誤魔化しきれないと覚悟を決めたらしい。


「ふう、降参じゃ、確かに持っとる。が。これは売れないのじゃよ」

「まあ、価値を知っている者にとっては喉から手が出るほどのものだからなぁ。どうするかなぁ」


 マチュアと老人はトボトボと歩きながら話をしている。

 周りに聞こえないように小声で話していると、突然ポイポイから念話が届く。


『マーチューアーさーん、ポイポイ気づいたら最下層に居たりするっぽい』

(おやまあ。そんでダンジョンコアは無いでしょ?)

『守護者がポイポイの脚の下で伸びてるっぽい』

(マジか)

『マジっぽい』


 そのままチラリと老人を見る。

 どうやら老人も何処かと念話で話しているらしく、顔色が赤くなったり青くなったりしている。


「ん?」


 ふと疑問に思う。

 どうしてこの老人がダンジョンコアを持っているのか?

 彼のパーティがダンジョンを制圧したと言う情報もない、そもそも彼のパーティは何処にいる?


(ポイポイ、あんた以外にそこに誰か辿り着いた形跡ある?)

『ないっぽい。足跡はいくつかあるけれど、どれも隠し扉からどっかに向かったっぽいよ』

(はぁ、何となく読めてきたわ、そのまま撤収してこっちに合流して)

『了解っぽい』


 念話を終えて老人の方を向く。

 すると老人もチラッとマチュアを見て笑うと、そのまま立ち去ろうとして。


──ガシッ

 逃げられないように老人の肩に腕を回すと、マチュアは耳元で囁く。


「どちらに向かうのですか?もっとお話ししましょうよ…ダンジョンコアさん」

「な、ななななな何のことじゃ?わしは和酒とカナン漬けを愛する通りすがりの老人じゃが」

「今、私の部下から連絡があったのよ。ダンジョン最下層まで辿り着いて守護者をフルボッコにしたって」

「あのくノ一の主人は貴様じゃったのか……あわあわわわわ。いや、気のせいじゃ聞かなかったた事にしてくれ」

「聞こえたわよ。という事で、ちょっと外で話ししましょうか?ここで暴れられても大変だからね」


………

……


 ダンジョンコア老人と共に領都から外に出る。

 手近な草原に向かうと、絨毯を取り出して浮かべると、そこでティータイムの準備をする。


「さて、単刀直入に聞くけど、何で街の中をウロウロしていたの?」

「あの都市の中にダンジョンを作るために決まっとるじゃろうが」

「つまり侵略行為とみなして良いのかな?それなら実力で排除するけど」

「やれるものならやってみろ……と言いたいところじゃが、先程、わしの守護者から連絡があった。あのくノ一は嬢ちゃんの部下じゃな? 単独でダンジョンを走破し、魔物を殲滅する戦闘力を有する者が部下なら、わしもお手上げじゃ」


 両手を上げて降参する老人。

 ならばここで妥協案の提案である。


「貴方、私の支配下に入らない?そうすれば貴方を滅ぼす事はしないから」

「支配下じゃと?」

「そう。あの森林でダンジョンを維持するのは構わないわ。冒険者が入って来たら勝手に排除すれば良いし、手心を加えて少し先に進ませても良いわ。但し、ダンジョンスタンピードは禁止。余剰の魔障は全て魔石に変換すること」


 その条件を聞いて、老人は腕を組んで考える。


「悪い条件ではないが……もう少し旨味のある、なんというか……」

「なら、和酒とカナン漬けをおまけにつけましょう。それでどうかしら?」


──ガシッ

 力強く握手するマチュアと老人。


「わしの名はまだない。貴殿を主人と認めよう、我に名前を」

「……そうね。では!貴方は今日から『タルタロス』を名乗ることを許します」


──キィィィン

 マチュアとタルタロス老人の姿が輝く。

 タルタロスと呼ばれたダンジョンコアの主人はマチュアとなり、マチュアと繋がることで同等に近い能力を有する。

 つまり……。


「ぬぉぉぉぉぉぉ、なんじゃこの力は、これがわしの力となったのか……」


 タルタロスのダンジョンは神威を伴い、破壊耐性を有する。

 これに伴いタルタロス老人も破壊耐性がつき、破壊神以外には破壊されなくなった。


「さて、今日は忙しいわよ。この件を領主に説明して、可能なら貴方は領主の館とダンジョンを行き来してもらう事になるけど大丈夫?」

「今のわしならば、ダンジョン本体とこの土地を地下回廊で繋ぐこともできる。その領主の館の地下にも出入口を繋げ、選ばれた者以外は通れなくして仕舞えば良かろう」

「良し、では早速向かうとしましょう」


 そのまま絨毯を仕舞うと、マチュアとタルタロスはゴーレムホースに乗って街へと戻って行った。


………

……


「と言うことで、こちらが森林のダンジョンコアのタルタロスさんです」


 マチュアとタルタロスは領都に戻るとアレクトー辺境伯の屋敷へとやって来た。

 そして応接間に案内されると、人払いをしてタルタロスを紹介する。


「……今なんて言った?」

「ダンジョンコアのタルタロスさんですが。私が支配したので、あのダンジョンの権利は全て私のものです」

「……つまり、あのダンジョンからの恩恵は俺にはないと?」

「違うちがう。私はあちこち旅するから、管理をアレクトー辺境伯とタルタロスさんに任せたいのよ」


 その言葉に、アレクトーは頭を抱えてしまう。


「ど、どこの世界にダンジョンを従える領主がいるんだ」

「ここ。と言うことで、タルタロスさんや、ダンジョンコアの管理権限について、第一権限は私に、第二権限はアレクトー辺境伯に譲渡して」

「良かろう。アレクトーとやら、手を出すが良い」


 先ほどのマチュアのように握手して、タルタロスはアレクトー辺境伯に第二権限を与える。


「これで良いのか? 後はどうすればいい?」

「タルタロスさんと相談して。後、タルタロスさんの給料は日給で和酒一本とカナン漬け一皿は確定なので。王都の馴染み亭商会で売ってるから、最優先で販売してあげる」

「結構高いな……」


 そう告げるアレクトーだが、タルタロスが掌から魔石を次々と生み出す。それは掌一杯となり、やがて零れ落ちていく。


「支払いはこれで足りるか? わしは和酒とカナン漬けが購入できて、熱い風呂があれば良い。だがダンジョンに入って来た者は排除するが、スタンピードは起こさないと約束しよう」

「‥‥なあマチュアさんや、これってアリなのか?」

「あり。安全ではないけれど、決して資源が枯渇する事ないダンジョンが領地にあって、冒険者が大勢訪れる。そう言うところには商人も増えるから領都は栄えるでしょ?」


 その言葉には旨味しかないとは思わない。

 人が集まるところトラブルも増える。

 管理も大変になるが、それをどうするかは領主の手腕に掛かっている。


「もしもアレクトーが希望するのなら、ダンジョンをいくつか作ってやらんこともない。そうすれば、この領地はダンジョンによって栄えるじゃろう。そんな場所があっても良いのではないか?」


 このタルタロスの言葉がトドメとなる。


「マチュア、これは有難く受け取っておく。今回の件では、ずっとお世話になりっぱなしだからな、いつか借りは返す」

「まあ、それはのんびりと待つよ。私はハイエルフなので老衰はないからね。そんじゃ、今度こそさようならだ」


 そう告げて立ち上がると、マチュアは部屋から出て行く。

 アレクトーとタルタロスは玄関まで見送ると、マチュアに深々と頭を下げた。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──ガラガラガラガラ

 のんびりと馬車が走り出す。

 アレクトー辺境伯領都シルバーホーンを後にして、真っ直ぐに北に向かう。


「マチュアさん、次はどこに向かうっぽい?」

「ええっと、この先はクラフト伯爵領か。三つの湖に囲まれた綺麗な都市って聞いてるから、楽しみだなぁ」

「おおお、美味しいものあるっぽい?」

「魚介類が豊富なはずだよ。確か、リザードマンの集落も近くにあるし、亜人種と共存共栄しているはずだから」

「なら急ぐっぽい!!」


 ポイポイは手綱に魔力を注いでゴーレムホースの速度を上げる。

 次の目的地はクラフト伯爵領。

 どんな事件が待っている事やら。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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