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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第十二部 ドタバタ諸国漫遊記

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徒然の章・その6・みんなまとめて成敗っっっっ

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 早朝。


 町の中央にある、巨大な噴水のある公園。

 その前に、上半身裸で素顔を晒された男たちが三人転がっている。

 横には巨大な立て札が設置されており、そこには『この者たち、トリストン子爵を暗殺しようとした罪により晒し者とする。何人たりとも触れてはならない‥‥幻影騎士団』という立て札が突き刺さっている。

 報告を受けた騎士達が彼らを捕まえようとするのだが、その立て札を見た瞬間に手が出せなくなっていた。


 そして正午になり、十四郎が幻影騎士団として彼らの身柄を拘束すると、馬車に乗ってどこかへと立ち去っていった‥‥。


‥‥‥

‥‥


 そこそこ時間が戻って、まだ日が昇る前。

 マチュアの泊まっている宿に、十四郎が顔を出した。

 正確には、影の中からひょこっと現れたのだが、場所が悪くベッドの中、マチュアの横。


──パチッ

 突然の人の温もりに目を覚ますマチュア。

 そして目の前で困った顔をしている十四郎に一言。


「お前、女で良かったなぁ。もし貴方が男だったら、神威開放してチンコネジ切ってたよ……で、私の隣で何してるの? 夜這いなら明日にして欲しいんだけれど」

「はっはっはっ。まだ季節は寒うございますからなぁ。人間湯たんぽなど如何でござるか?」

「それはご丁寧に……十四郎がストームの眷属じゃなかったら、毎日頼んだかもねえ‥‥で、用件は何?」


 そう告げつつベットから体を起こす。

 すると十四郎はベットから降りてマチュアの前に跪くと、懐から羊皮紙を取り出して手渡す。

 幻影騎士団、マチュア親衛隊、シスターズすべての中で、十四郎は唯一マチュアの前で跪くことを許されている。

 他の仲間とは対等に付き合っているのだが、十四郎は亜神という事で除外、好き勝手する事を認めているのである。

 そのまま受け取った羊皮紙を見る。

 そこには、十四郎の執拗なまでの拷問・尋問によりすべて白状した暗殺者達の証言が書き記されていた。


「やっぱり黒幕はクーデリアとデルボルトの二人かあ。トリストンに毒を盛ったのはジョルビッチの命令で、暗殺の実行犯と孤児院の襲撃もジョルビッチの仕業と。ついでに私も殺して財産すべて奪う予定と‥‥へぇ、すごいなぁ」


 思わず感心してしまう。


「クーデリアとデルボルトはスラムの利潤を得る為に手を組んで‥‥ふむふむ、私がスラムに投資したので、その金すら巻き上げる為に町から追い出したと。大方の予測通りか‥‥で、建築ギルドは脅されて仕方なく‥‥ふぅん‥‥全員有罪(ギルティ)。建築ギルドは脅されて仕方なくなんて言い訳は通用しないわ、ギルドは全てにおいて公平であれ‥‥何とでも対策は練られただろうから‥‥まあ情状酌量」

「それで最後の後始末はいかに?」


そう十四郎に問われて、マチュアは腕を組んで考えてしまう。

 可能な限り自分は前に出ない。

 なら、ここにいる十四郎を自由に使ってみようそうしよう。


「捕まえたやつら全員縛り上げて、この罪状の記された手紙と一緒にトリストン子爵邸のドアの前に放り出してきて。多分後は子爵が始末してくれる‥‥後、十四郎はトリストン子爵の陰に隠れて護衛、緊急時は全能力を開放して護衛する事」

「マチュア殿はどのように?」

「最後まで面を見せないジョルビッチを捕まえて来るわ‥‥」


 そう告げると、十四郎は影にスッと消えて行く。

 そしてマチュアも身支度を整えると、朝一番でジョルビッチが逃げないように彼の屋敷まで移動を始めた。


………

……


 少しだけ時間が戻って、クーデリア男爵邸。

 早朝に中央公園で起こった怪事件の報告を受けて、デルボルト男爵が大慌てでクーデリア男爵邸に駆け付けた。

 ツカツカとクーデリアの執務室に駆け込むと、何も知らずに呑気に食事をとっているクーデリアに向かって、先程部下から受けた報告全てを説明する。 

 その報告を受けて、クーデリアは生きた心地がしなかったのだろう、全身から冷や汗が吹き出し、体がガクガクと震え始めている。


「な‥‥何で、こんな辺鄙な街に幻影騎士団が来ているのよ!! デルボルト、貴方何処かでへまこいたのでしょう?」

「ちょっと待て、吾輩は何もミスはしていない。それよりもクーデリア、貴様こそ裏でこそこそとしていた事が幻影騎士団にばれたんじゃないだろうな!!」

「冗談じゃないわよ。そもそも、貴方が欲の皮を突っ張らせてスラムの再開発を早めたのが原因なんじゃない‥‥私まで巻き込まないでよ」

「何だとこのメス狐が。俺の計略に乗っかって、あの邪魔な商人を町から叩き出したのは貴様だろうが。なのにどうして、あいつはいきなり戻って来ているんだ」

「知らないわよ!! あんな小娘が高価な魔導具を持っているなんて判るわけないじゃない‥‥それよりも、ジョルビッチ男爵はどうしたのよ、トリストンの暗殺はあいつの仕事でしょうが」

「あいつは朝一番で町から逃げたわ。子飼いの暗殺者が全て捕まったんだぞ、しかも捕まえたのは幻影騎士団だ、どうあがいても死罪は免れないだろうが‥‥」


──ガタッ

 そう吐き捨てるように叫ぶと、デルボルト男爵も立ち上がって扉に向かう。


「ど、どうするのよ!!」

「この国から逃げるしかないだろうが。いくら幻影騎士団といっても、今頃はジョルビッチの処理で手いっぱいだろうさ。今のうちに全て持ってこの町から逃げる。南方の国にでも逃げれば何とかなるだろうが‥‥くそう、計画が全ておじゃんだ」

「ち、ちょっと待ちなさいよ、私も逃げるわよ‥‥こんな所で死刑なんて御免よ」


──ガチャッ

 そう喚いている二人だが、突然部屋の扉が開き、大勢の騎士が室内に飛び込んできた。

 そしてクーデリアとデルボルトを取り押さえると、入口の方からトリストン子爵が歩いて来る。


「クーデリア、そしてデルボルト‥‥私は君達をずっと信じていたのに‥‥残念だよ」

「ト、トリストン‥‥さま。これは何かのま、間違いです」

「そうよ、全てジョルビッチの独断です。私達は騙されたのですから‥‥」 

 

 必死に取り繕う二人だが、トリストンは書類を手に、二人の計画を読み始めた。

 それを聞いている内に、必死に否定していたクーデリアとデルボルトの顔から諦めの表情が見え、そして絶望に変わっていった‥‥。


「以上だ。ラグナ・マリア帝国法に基づいて貴殿らの爵位は凍結、貴族院裁判にかける‥‥それまでは拘束する‥‥牢に連れていけ!!」

「な、何を‥‥放せ、俺を誰だと思っている」

「貴族院裁判なんて、そんな事許されるとでも‥‥」


 必死に抵抗するが、そのままずるずると屋敷から引きずり出されるクーデリアとデルボルト。

 そのまま檻の付いた馬車に閉じ込められると、騎士団の詰め所にある地下牢まで連れていかれた。

 そして、騎士達が詰め所まで到着すると、その前には縛り上げられたジョルビッチ男爵とその部下たち、そして彼らの罪状の書かれた羊皮紙が張り付けられていた。



 〇 〇 〇 〇 〇



「はぁ‥‥お茶がおいしいわぁ」

「全くでござるなぁ」


 中央公園近くの露店で、マチュアと十四郎はのんびりとお茶を堪能していた。

 ちなみに十四郎は忍者装束ではなく普通に素顔を晒した女冒険者といういで立ちをしており、どこから見てもマチュアの護衛にも見えるように変装していた。


「これで、この町での仕事は終わりでござるか?」

「そ。三人の男爵はこのあと王都からやって来たカナン魔導騎士団によって護送され、王都の連邦議会で裁判が待っているわ‥‥。まあ、ジョルビッチは死刑確定だろうし、後の二人も無期限に重労働だろうねぇ‥‥」

「それで、あの子達の処遇は?」


 そう十四郎が問い掛ける。二人の目の前では、露店で楽しそうに買い食いしている孤児達の姿があった。


「あの子達の好きにさせるよ。スラムの取り壊しは中止、孤児院だった教会の修繕は再開されたし‥‥このまま残るのも、北方の果樹園まで行くのもいいし」


 いずれにしろ、子供達が不幸にならなければよい。

 マチュアはそう考えつつ、手にしたお茶を全て飲み干していた。


‥‥‥

‥‥


 その日の夕方。

 マチュアはトリストン子爵邸に招待されていた。

 子爵の病気を癒すために使われた魔法薬の代金、そして孤児院の修繕費用をトリストン子爵が支払うと連絡があったのである。

 宿屋まで馬車が迎えにくると、十四郎を護衛にのんびりと馬車に揺られて行く。

 そしてトリストン子爵邸に到着し執務室まで案内される。


「おお、マチュアとやら、この度は大変世話になった。そちらは護衛の方だったな?」

「はい。マチュアさんの護衛を務めています、冒険者のカエデと申します」


 十四郎は丁寧に挨拶する。

 そしてトリストンはウンウンと頷いて、マチュアたちに席に座るように勧める。


「マチュアさんには大変世話になった。それで、支払いのほうだが、建築ギルドから教会の修繕費用は白金貨10枚と聞いた。それも含めて、白金貨で30枚支払う。それでどうだ?」


 執事が白金貨の乗せられているトレーを持ってやってくる。それをマチュアの前に置いて後に下がるのだが‥‥。


「このお金は、私は必要ありません。その代わり、今回の事件に巻き込まれてしまった子供達やスラムの復興に役立ててくれればそれで構いません。それが領主の務めですよね?」


 凛とした表情で告げるマチュア。

 すると、トリストン子爵もやや苦笑しつつトレーを下げる。


「それは手厳しい。まあ、この恩人であるマチュアさんの言葉通りにしましょう‥‥ですが、本当に陛下に似ておられる。まるで、陛下がお忍びで視察に来ているようですなぁ」

「はぁ。もしそうなら大変ですよ」

「全くで‥‥私も何度か王城にてミナセ陛下とは面会した事がありましたが、今回のような不正などは大変お嫌いな方でしたから」

「そのようで。では、今後もこのようなことはないよう、雇う人材などのちゃんとした身分調査をしっかりとする事をお勧めしますわ」

 

 この上から口調には、トリストンもややムッとする。


「判っている。しかし、相手が貴族だというのに、君は引く事を知らないのだな」

「間違っていることは間違っている。それをちゃんと言わないと、貴族は誰が正すのですか?」

「‥‥あの、まさかとは思いますが‥‥」


 ここにきて、トリストンはマチュアをもう一度繁々と見る。

 すると、マチュアもスーッとアバターを元に戻すことにした。

──シュンッ

 白銀の賢者モードに瞬間換装すると、手にした紅茶を一口飲んで一言。


「お忍びですから、強くは申しません‥‥まあ、しっかりと貴族の務めを成してください」


──ガタッ

 慌てて執事とトリストンが立ち上がりマチュアの前に跪く。


「へ、陛下‥‥この度はとんだご無礼‥‥いえ、今は幻影騎士団の賢者殿でしたか」

「はい正解、よくご存じで。まあ椅子に座ってくださいよ‥‥と、この後の処理は全てお任せしますので‥‥私はこの部屋から出たら商人のマチュアに戻ります。後はご存知ですよね?」

「はっ‥‥」


 そう告げて頭を下げるトリストン。それでマチュアも満足だったらしく、軽くトリストンに一礼して元の商人アバターに戻る。

 そして部屋から出て行くと、トリストン子爵邸を後にした。


‥‥‥

‥‥


 孤児院の子供達は、全員この町に残る事にしたらしい。

 トリストン子爵の命により、教会の修繕と同時に領内の他の教会から修道女が派遣され、子供たちの面倒を見る事になった。

 スラムの治安についても巡回する騎士たちの数を増やし、治安の維持を強化する。

 デルボルト達のような強欲な貴族達に隙を見せないように、トリストンは新た有能な人材を幅広く求める事にした。

 元々人望があったので、元の平和な領地に戻るまでそれほど時間は掛からないだろう。


 そんな噂を耳にしつつ、マチュアはのんびりと町から出て行った。

 正門まで子供たちが見送りに来てくれたので、軽く手を振って子供たちに挨拶すると、ゴーレムホースに命じて東に向かって走り出した。

 途中で北に上る街道に入ると、次の貴族領へと進んで行った。


「はぁ。やっばり腐敗する奴は腐敗するよねぇ」

「うむうむ。いくら上がしっかりとしていても、その末端までは目が行き届かないのは世の常でござるなぁ‥‥むしろそうでなくては」

「あ、そうなの?」

「上から下すべてが善人の集まりの国なんて気持ち悪いでござるよ。それは欲のない人々によって作られた空想の楽園でござる。人とは欲があって当たり前、貴族や商人、冒険者がそのトップでしょうからなぁ」

「まあね。欲がなければ流通は成立しないわ。そして進化も行われない‥‥要はそのバランスよねぇ」

「まあ、難しい事は考えずに、次の領地も見る事にしましょう。ちなみに拙者は、後3日でマチュアさま当番おしまいでござる」


 あっさりと呟く十四郎。

 これにはマチュアも仕方ないと頷く。


「まあ、それは仕方ないわ。ご苦労さん」

「それで、次の町でポイポイ殿が待っているので、後はポイポイ殿に引き継ぐでござるよ」

「あ、そうなの。ちなみに隠密って何人いるの?」

「幻影騎士団でしたら拙者とポイポイだけでござるよ。後はまだ訓練中でござるからなぁ」

「あっそ。そんじゃあポイポイの次はまた十四郎なのね」

「カッカッカッ‥‥その通りでござるよ。拙者達は影ゆえに」


 そんな話をしつつ、マチュアと十四郎はのんびりと街道を北上して行った。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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