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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第十二部 ドタバタ諸国漫遊記

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徒然の章・その5・悪人は深夜にほほ笑む

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 宿に戻って来て。

 マチュアは改めて取ってあった一人部屋に入って行く。

 隣の大部屋は子供達の為にマチュアが食事付きで一か月分借りてあり、今は子供達も気持ちを落ち着かせて休んでいる。

 そしてようやく、ここまでの一連の動きをじっくりと考えてみた。


「私がここに来て、ゴーレムホースで目立っていたのは事実。それに対して男爵達がちょっかい掛けていたことも‥‥これはまあいいわ。スラムの一件は、私がたまたま通りかかって見てしまったから。子供達が助けを求めていたのも含めてね‥‥これも偶然ね」


 一つ一つを順序に脳内精査する。

 深淵の書庫アーカイブを起動してもよかったのだが、回答を導く為に必要な情報量が少な過ぎた。


「クーデリア男爵が私に仕事を依頼した件については‥‥ゴーレムホースを持っているから他よりも早いと思った? 私が来たタイミングで? これも偶然として考えてみて‥‥私が居なくなった日の夜にいきなりスラムの開発開始とあの人達の殺害、孤児達に対しての暴行事件‥‥これは偶然じゃないかも‥‥」


 いくつもの偶然が重なったのか、それとも全てが関連付けられているのか。

 

「デルボルト男爵とクーデリア男爵が繋がっていて、スラムでの工事を始めるのに私が邪魔だったから私を町から追い出した? 普通に考えたら王都まで往復で二か月、そうすれば、私は一か月後に始まる開発を邪魔できなくなっているし、孤児院の修繕についても『すべて行いましたが、期日ですべて壊されてしまいましたから』と言われたら修繕した証拠も何もない‥‥嵌められた?」


 一番の可能性がそれ。だとしても、工事を始めるのが早すぎる。

 私が居なくなってすぐにというのはおかしい。

 どうせ一か月経たないと王都まで戻れないのなら、その後でゆっくりと工事を行っても問題はない筈なのに‥‥。どうして急いで工事をしたのか?

 その理由がわからない。けれど、いずれにしてもあの男爵達の繋がりが見えていないのはきつ過ぎる。

 せめて証拠でもあればよかったのだが、あまりにも相手の動きが早過ぎて手が回せていない。


「‥‥あれ? そういえばもう一人のジョルビッチ男爵はどうしたんだろう? 守銭奴で政治には関心がない‥‥ゴーレムホースを買い取るって言っていたよなぁ。この件は無関係なのかな?」


 あまりにもデルボルト男爵とクーデリア男爵の印象が強すぎてすっかり忘れられているジョルビッチ男爵。 

 このまま何事もなければいいいのだがと思いつつ、マチュアもその日はしっかりと食事をとって宿に泊まる事にした。

 スラムの子達が万が一狙われでもしたら大変だと思って。


‥‥‥

‥‥


──ゴトッ

 深夜。

 何者かがマチュアの部屋の扉を開けようとする。

 鍵は掛けてあったにも拘わらず、カチャッと静かな音を立てて開いた。そしてスーッと扉が開いていく。

 鍵穴の向こうから、ほんのりと魔術の発動光が漏れてきたのだが、まだマチュアは熟睡状態である。


──ピピピピピッ

 すると、聖域範囲(セイクリッド)敵対警告(エネミーアラート)が反応し、マチュアはガバッと目覚めた。


「何者っ!!」


 叫んだが声がでない。

 室内どころか、建物全体が沈黙(サイレンス)の結界に閉ざされているようだ。

 そして開いた扉では、部屋に侵入しようとして入口の結界に引っ掛かっている黒づくめの二人組の姿が見える。

 マチュアはすぐさま飛び起きると、そのまま一気に間合いを詰めて一人の男の胸倉を掴む。


──グイッ

 そのまま結界の向こう側に押し出して、一気に自分の方向に向かって引っ張る。


──バジィィィィッ

 すると、男は顔面から結界に叩きつけられて意識を失った。


「チッ」


 そう舌打ちをして逃げようとした男だが、やはり結界に引っかかって身動きが取れない。そこに向かって、マチュアは結界越しに跳び蹴りを浴びせる。

 いつものなら八極拳を使うところだが、ここは修練拳闘士(ミスティック)の基本技で戦う事にした。

 マチュアが八極拳を使う事は結構知られてしまっているので、修練拳闘士(ミスティック)の基本体術である『魔闘流格闘術』で対抗した。

 そのままもんどりうって倒れる男の背後に飛び付くと、後ろ手に関節を極めて当身を一撃。


──ゴフッ

 そのまま男は意識を失った。

 ここまで結構ドタバタしていたのだが、沈黙の効果で音は立っていない。


「ふう。とりあえず部屋に放り込んで、拘束の矢(バインドアロー)‥‥と」


 無抵抗な二人を魔術で拘束し部屋の奥に放り込んでおくと、隣の子供達が無事か確認に向かう。だが、そちらには何も被害が無い事を確認して、マチュアはもう一度戸締りをしっかりして部屋から出た。


‥‥‥

‥‥


──チュンチュンチュン

 朝。

 ゆっくりとベットから出てくる。

 部屋の片隅には、昨日拘束した二人組が転がっている。


「ふむ。楽しい尋問タイムなんだけどなぁ‥‥私、苦手なのよ‥‥十四郎?」


──シュンッ

 すると、マチュアの影から十四郎が姿を現した。


「‥‥まさかいるとは思わなかったけれど、何でいるの?」

「拙者、今月はマチュア様の影当番ゆえ‥‥この二人をクッころすればよいでござるか?」

「むくつけき男たちのクッころは見たくないわぁ。誰に雇われて、何を命じられたのか聞き出して。それが終わったら、また私の所に持って来て」

「御意、では御免でござる」


──ドロン

 スーッと男たちを影の中に引きずり込むと、十四郎は影ごと分離して何処かに消えて行った。

 

「‥‥結局一人は護衛が付いているんじゃない。いるかなーと思って呼んでみただけなのに。ま、取り敢えずは朝ごはんにしましょ」


 そのまま子供達を起こして朝食を取る。

 そして子供達の部屋で、これからどうしたいかをじっくりと聞いてみる事にした。


 

 そしてマチュア達の元に来客があったのは昼少し前。


「マチュアさん、教会から使いの方が見えていますよ」

「はいはーい。今行きまーす」


 部屋の外で店員の子が呼んでいるので、マチュアはすぐに支度をして階段を駆け下りて行く。

 宿の外では、先日会ったチャールズ神官が護衛を伴って待っていた。


「これはマチュアさん。先ほどトリストン子爵の執事の方から連絡がありまして、詳しいお話を伺いたいとの事です。それで、これからなのですがご一緒にトリストン子爵邸までご同行いただけませんか?」

「それはもう。是非ともお願いします」

「それでですね。お話にあった治療薬はお持ちですか?」

「このバッグに入っていますからご安心を」

 

 そう告げて肩から下げているバッグを軽く叩く。それを見てチャールズはウンウンと頷くと、マチュアを馬車に案内した。


──ガラガラガラガラ

 ゆっくりと馬車が走り出す。

 その中で、チャールズは窓の外をじっと眺めつつ、マチュアに話しかけた。


「一刻も早くトリストン子爵には回復して欲しいものです。今のこの領地は三人の男爵によって食い物にされてしまっていますから‥‥」

「はあ。ですが、クーデリア男爵は結構頑張っていると伺っていますけれど」

「残りの二人よりはマシという所です。ですが、あの方だって裏で何をしているのやら‥‥」

「ちなみにですが、ジョルビッチ男爵の悪名があまり聞こえていませんが、あの方は単なる守銭奴の小悪党レベルですか?」

「いえいえ、盗賊ギルドとつるんで盗品の横流しをしていると聞きます。それに、一部自警団は彼の息のかかった者達で構成されていまして、噂では盗賊が盗みに入ったと通報されても、見当違いの所に人を派遣したりとかで」

「ああ‥‥この町は本当に腐っているんですねぇ。とっとと仕入れしてベルナーに向かおうっと」

「ははは。それがよろしいかと。商人ギルドや冒険者ギルドはまだ健全ですから大丈夫ですよ」


 なら建築ギルドは‥‥と聞きたい所であるが、うかつにつついて藪から蛇が出て来ても困る。

 その為、その後の他愛ない話は全て適当に相槌を打って、トリストン子爵邸に辿り着くまでじっとしていた。



 〇 〇 〇 〇 〇



 宿を出て30分後。

 マチュアを乗せた馬車は無事に何事もなく、何の襲撃も受けずにトリストン子爵邸へと到着した。

 正門を入って馬車から降りると、大勢のメイドと初老の男性がチャールズ神官とマチュアを出迎えた。


「これはこれはチャールズ様、わざわざご足労頂きありがとうございます。そして商人のマチュアさんと申しましたか、詳細はチャールズ様から伺っています。早速ですがこちらへどうぞ」

「はい、それれでは失礼します」

 

 そのまま頭を下げて屋敷に案内される。

 そして広い客間に案内されると、マチュアはそこで執事ともう一度挨拶を交わす。


「当トリストン家の執事を務めていますルフトと申します。それで、チャールズ様から伺ったのですが、トリストン様を回復していただける薬をお持ちとかで‥‥」

「ええ、こちらがそうですね。カナン魔導商会で買い付けた希少な魔法薬です。どんな病気もたちどころに癒してくれるという薬でして、あいにくと昨日も少し使ってしまいまして、もう手持ちがこの一本しかないのですが」


 嘘です。

 空間収納チェストに10本単位でしまってあります。ついでにいうと、この薬はアハツェンが作った『ノーマルエリクサー』で、瀕死の人もどんな病気の人も、たちどころに全快する優れものです。

 これを作るために、どれだけアハツェンの血のにじむような努力と、ドラゴンの血を始めとする大量のレア材料を無駄にしたことか‥‥。

 

 取り敢えずバッグから蒼く透き通った水晶の瓶を取り出してテーブルに置く。

 それをみてルフトは瞳から涙を溢れさせている。


「これでようやくトリストン様はお目覚めになられるのですね‥‥」

「はい。これを差し上げますので、私もその‥‥薬を飲んで頂く場に立ち会わせてもらってよろしいですか?」

「それはもう。今はチャールズ様が容態を確認している所でしょう。では、こちらへどうぞ」


 そう告げられてマチュアはトリストンの眠っている寝室に案内される。

 暗く締め切った室内、その中央にあるベッドで、トリストン子爵は静かに眠っている。

 その傍らでは、チャールズ神官が静かに神に祈りを捧げていた。


(ふぅん。神官の祈りは本物の祝福で‥‥しっかりと効果は発揮されているのか、でもそれが通用していないとは‥‥どんな病気なんだろう?) 


 そう考えて、マチュアは視認(サイト)でトリストン子爵の容体を確認する。


『ピッ‥‥心臓疾患、鉱物毒による中毒症状により、心臓の機能不全を引き起こす』

『ピッ‥‥肝機能障害、鉱物毒の蓄積により肝機能が低下』

『ピッ‥‥鉱物毒、体内に重篤なダメージを与える。特に心臓疾患を併発させることが多い』

『ビッ‥‥秩序神の祝福‥‥対象の傷や病気に対しての抵抗力を高める』


(うわぁ‥‥毒を盛られていたのかよ‥‥しかもこれ、本当に危険だぞ。それを神官が押さえていたのか)


 マチュアは、ルフトが魔法薬を水差しに移してトリストンに飲ませるのをじっと見ていた。

 いつ、どこで、だれが毒を盛ったのか調べたかったから。だが、ルフトの動きに怪しいところは全く感じられない。


──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ

 そしてトリストンが薬を飲んで少しして、彼の体がゆっくりと輝いていく。


「おおおおおお、これが薬の効果か」

「本物の魔法薬‥‥これでトリストン様は助かるのですね」


 感動に震える二人。マチュアはそのまま観察を続けていたが、何事もなくトリストンの体内から全ての毒素が抜け、心臓疾患も全て収まっているのを確認出来た。

 後は失った体力だが、それも高速で回復していく予兆が見えていた。


「ん‥‥っっっっっ‥‥ルフト‥‥それと、チャールズ神官か‥‥」

 

 うっすらと瞳を開くトリストン。そして弱弱しい口調で二人に話し掛けた。


「今は何も申さなくてよいです。ゆっくりと体を休めてください」

「‥‥そう‥‥か‥‥わかった‥‥心配を掛けていたようだな‥‥」

「良いです、本当にもうよいのです‥‥」

「神の奇跡‥‥いえ、そちらの商人がもたらした薬が、トリストン様の病を癒してくれました」

「‥‥礼をいう‥‥」


 そこまで告げると、トリストンは静かに寝息を立てる。

 これで問題はない。


「それでは失礼します。後、今回の件ですが、この場にいる人以外にはご内密にお願いします」

「それはどうしてですか?」


 ルフトは問い返すが、チャールズはすぐに理解した。


「トリストン子爵が回復した事を知ると、今度は実力行使で来る者がいる可能性があると」

「ええ。ですので、出来れば誰にも告げないでください。明日、明後日には体を動かせるようになるでしょうから‥‥それと、薬の代金は後日しっかりと請求しますので、よろしくお願いします」


 それだけを告げて、マチュアはチャールズと共に屋敷を後にした。

 そして宿に戻ってきてから、万が一の事を考えてエンジにアバターを変えると、トリストン子爵邸を物陰からじっと見守る事にした。


‥‥‥

‥‥


 深夜。

 エンジが静かに屋敷を見張っていた時。

 大方の予測通り、トリストン子爵邸に黒ずくめの三人組がこっそりとやって来た。

 静かにトリストン子爵の眠っているはずの部屋の窓が開くと、音も立てずに侵入する。

 そしてベットに近寄っていくと、懐から取り出した黒塗りのナイフを一斉に突き立てて行く。


──ドガドガドガドガッ

 盛り上がっていた布団にナイフが突き刺さる。

 そして侵入者たちは静かに部屋から出てい‥‥けない。


「‥‥」


 突然足が止まり、前に進めなくなる。


──パッ

 そして室内に魔法の光がともると、部屋の角で苦無を握っているエンジ。

 すぐさま苦無を飛ばして三人の影を縫い止めると、てくてくと歩いて近寄って行く。


「えーっと。どちら様か存じませんが、住居の不法侵入でっす。ついでに殺人未遂でっす。なので捕まえて明日にでも‥‥素顔をさらして中央噴水に張り紙付きで放置しまっす。自警団や騎士団に突き出しても、何かもみ消されそうなので、後はそういう事で」


 それだけを告げてスッと姿を消す。

 それと同時に廊下から警備の騎士が駆け付けると、不法侵入した男達を捕らえていった。

 その壁には、男達の罪状とこうして欲しいという箇条書き、そして幻影騎士団の紋章印の記された張り紙が刺さっていたのはいうまでもない。 



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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