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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第十二部 ドタバタ諸国漫遊記

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徒然の章・その3・悪徳男爵、いえもっと最悪です

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 スラム街にある小さな教会。

 かなり古い教会らしく、彼方此方あちこちが老朽化して崩れている。

 門構えも殆ど外見を保っておらず、いつ崩れてもおかしくない状況である。

 そんな場所に、マチュアは子供達に連れて来られた。


「ありゃあ‥‥こりゃあまた大変な事になっているねぇ」

「うん。半年前まではそんなに酷くなかったんだよ。でも、院長先生が亡くなってから施設の援助金が打ち切られちゃって‥‥管理する者が居なかったら援助金を出す訳にはいかないって」

「それからは、兄ちゃんたちが頑張って生活費を稼いでくれていたんだけれど、それでもギリギリで」

「タイヘンナンデスヨー、ホントニタイヘンデシテー」


 グスッグスッと泣き始める子供たち。

 しかし、その援助金を切ったという領主、一体何を考えているのか。

 受け取る人が居なかったら、領主が新しい人材を任命して寄越せばいい。ここは教会なのだから、他の教会に話を通せば派遣して貰える筈なのに。

 それなのに、まるで孤児院自体を無用のように切り捨てようとしている。

 子供たちには罪はない、悪いのは大人である。その大人の身勝手で子供が理不尽に不幸になるのは、マチュアが見逃す訳がない。


「取り敢えず病気の子を見せて。治せるか試してみるから」

「こっちです‥‥」


 そのまま手を引かれるままに孤児院の中に入っていく。そして病気の子供がいるという部屋までやって来て、マチュアは絶句した。

 衛生環境の悪い部屋。

 それでも途中にあった部屋と比べればまだましな方なんだろう。

 ボロボロで朽ちそうなベットで眠っている二人の子供。息は荒く顔色も悪い。


視認(サイト)有効化アクティベート‥‥ああ、肺病かぁ、もう死に掛かっているじゃない』


 拡張エクステバッグと空間収納チェストを接続して、中からハイポ―ションと病気治癒薬を取り出す。どちらもアハツェン渾身の魔法薬なのだが、一般流通はしていない。

 錬金術師が作っているポーションの類とは効果が一桁も二桁も違う。

 だが原価が高すぎるのと、作れるのはシスターズの中でもマチュアとアハツェンだけであるから、カナン魔導商会でも一般販売はしていない。

 マチュアは病気治癒薬を手に二人の元に近寄ると、体を起こして少しずつ飲ませる。


「これを飲んだら病気も治るから‥‥ね」

 

 優しく話しかける。すると、マチュアの言葉が届いたのか、コクコクッと頷いて少しずつ薬を飲み始める少女。

 そしてもう一人にも同じ薬を飲むように手渡して、二人が飲み切るのをじっと待つ。


──フゥゥゥゥゥゥン

 やがて二人の体が淡く輝くと、体内の病気がすべて癒されていった。

 そして病気が治ったのを確認すると、マチュアは財布から金貨を二枚取り出す。


「これで食べ物を買ってきて。全部使っていいから!! 後は栄養をつけてゆっくりと体を休ませる事。君達ももう少し体を休めていてね」

 

 そう子供達に諭すように告げると、子供達はマチュアにお礼を告げて一斉に孤児院から飛び出して行った。


‥‥‥

‥‥


 夕方。

 子供達が大量の食材を持って帰って来る。

 そして昼間にマチュアを案内してくれた二人のチンピラ兄さんたちも一緒に帰って来たので、マチュアは二人に軽く頭を下げた。


「あ、昼間のねーちゃんか。こいつらから聞いたよ、色々と助けてもらって済まなかったなぁ」

「俺からもお礼を言わせてもらう、助かった」

「いいですよ。それよりも、どうしてこんな事になったのですか?」


 改めてマチュアは二人に問いかける。

 すると、実に下らない、そして腹ただしい理由であった。


 孤児院などのスラム地区の管理は、トリストン子爵の命によってデルポルト男爵が取り仕切っていた。

 そのデルボルト男爵の命令によりスラム地区は取り壊し、この地域には巨大な繁華街を作ろうという計画が上がっているらしい。

 それにはスラムを一掃する必要があるらしく、デルボルトが独断で徐々に補助金を減らしたりカットしているらしい。

 ここ最近は更に酷くなり、スラム街への炊き出しなども半月前から停止している。

 結果として、この地域に住んでいたものは生きていられなくなり、人知れず死んでいったり他の土地へと移る為に領都から出ていったという。

 この孤児院にいた院長はずっとデルボルトの政策に反対の立場を続け、トリストン子爵に直訴にまで向かったらしい。

 だが、既にトリストン子爵は病に倒れてしまっていて取り次いでもらう事も出来ず、ある日の朝、院長はスラムの一角で死体となって発見された。

 犯人は院長が肌身離さず持っていた十字架を奪って何処かに消えてしまっていたらしく、ただの物取りとして処理されてしまった。

 そして現在に至る。


「あ~、元凶はそのデルボルト男爵か」

「ああ。そして今月中にこの場所から出ていけとという通達も来ている。それで、どうにかこいつらを住ませるための家を探しているんだが‥‥私設自警団は金銭を貰えない、あくまでもボランティアという事で町の人から現物支給で何とか凌いでいるんだ」

「それも、そろそろきつくなって来てなぁ‥‥」

 

 疲れきったような声。

 今までのマチュアなら、すぐにでもトリストン子爵かデルボルト男爵のもとに殴り込みをかけているだろう。だが、今回のそれはマチュアの仕事ではない。


「ふぅん。まあ、その男爵が悪いんだろうなぁ。スラムみたいな治安の悪い所を一掃するといえばそれは善政なんだけど、そこに住んでいる人達を無視してやるのは悪政でしかないわ‥‥まあ、トリストン子爵に直訴するしかないよねぇ」

「そのトリストン子爵が病気で、神官でさえ回復の見込みはないって‥‥」


 そこまで呟いて、男はハッとした顔でマチュアを見る。

 孤児院の子供たちの病気を治したのもマチュアである。なら、子爵の病気も直せるのではないか。


「な、なあ、あんたの薬で子爵の病気は直せるのか?」

「それは、やってみないと判んないわぁ。あの薬だって万能じゃないし、原材料が高価すぎて一般販売できない代物だから」

「そんなものをうちの子供達の為に‥‥すまない」

「いいのいいの、私は偽善者だから。そう考えると気が楽でしょ?」


 自分で自分の事を偽善者というやつがどこにいる。

 そう言うことで、自分達のの負担を軽くしているのだろうと男達は思った。

 まあ、それも間違いではないのだが。


「それよりも生活環境の改善が先だね。建物の修復は‥‥私が建築ギルドに申請してくるわ、あなた達二人は孤児院の中の掃除と、壊れた備品の買い付けして来て頂戴」


 金貨10枚を取り出して男達に手渡す。


「そ、そんな事をして貰って‥‥俺達は何もお礼は出来ないぞ」

「あ、後でトリストン子爵とその何とか男爵からぼったくるから、先行投資という事で気にしないで頂戴。元気な子はお兄さん達の手伝いをして来てね」


 そう告げて、マチュアは孤児院を後にした。

 まずは建築ギルドをねじ伏せる。



 〇 〇 〇 〇 〇  



 翌日早朝。

 建築ギルドの朝は早い。朝一番の仕事があるから。

 都市が大きければ大きい程、公共事業として国から仕事がやってくる。しっかりとした仕事をしていれば公共事業費の他に支援金も供与される。

 そして名声も手に入れば、市井からの仕事も増えていく。


「おはようございます、本日はどのような御用でしょうか」

 

 威勢のいい受付のいるカウンターで、マチュアは早速仕事の依頼を行った。


「依頼内容はスラム街にある孤児院の修繕です。元々あそこは教会なんでしょ?その建物の修繕を建築ギルドに依頼します」


 そう説明して魂の護符ソウルプレートと商人ギルドカードを提示する。すると、受付は少々お待ちくださいと告げて奥にある事務室へと戻っていった。


「まあ、何だかんだ理由を言って断ってくるか、それとも男爵経由で圧力をかけて来るかどっちかだよなぁ‥‥どうしよっかなぁ」


 そんなことを考えていると、受付がマチュアの元に戻って来る。


「ギルドマスターが直接お話ししたいという事でして、こちらへどうぞ」


 そう告げられて、マチュアは二階にあるギルドマスターのいる応接間へと案内された。


‥‥‥

‥‥


 質素、そして機能最優先。

 無駄のない応接間に案内されたマチュアは、早速目の前で椅子に座っている男に頭を下げた。


「貴方がマチュアさんですか。私はここの建築ギルドのギルドマスターを務めていますティルトといいます。まあお掛けください」

「ありがとうございます。王都で移動商人をしていましたマチュアといいます」


 そのまま椅子に座ってみると、ティルトはにこにこと笑いつつ話を始める。


「さて、依頼内容については受付から先程伺いましたが、あの教会の修繕には結構な予算が必要となります。それに、あと一か月もすればあの場所は取り壊しとなりますが、本当によろしいのですか? 修繕が終わってすぐに壊されるのですよ?」

「あ、それは大丈夫ですよ、取り壊しなんて出来なくして見せますから」

「ですが、あの場所の取り壊しも当方建築ギルドで請け負っていまして。スラムの開発計画が中止になるとは思えませんが」

「確か依頼主はデルボルト男爵ですよね?」

「まあ‥‥そうですなぁ」


 なんとなく言葉を濁すティルト。

 なら、あと一押しである。


「あの教会だけでも取り壊ししないようにデルボルト男爵を説得してみますわ。ですのでお願いします」

「しかし、あの建物は古すぎまして、まともに修繕するとなると金貨100枚以上もかかりますよ」

「具体的には?」


そう告げると、ティルトはニイッと笑う。


「白金貨10枚。これで一か月以内に完全に修復してみせましょ‥‥って」


──ジャラッ

 財布から白金貨を10枚取り出してテーブルの上に積む。

 それを見たティルトの表情は固まってしまっていた。


「では交渉成立ですね、さっそく契約書を交わしましょう」

「あ、は、はい、それでは早速‥‥済まないが一人事務官を呼んで来てくれ」


 すぐに事務官を呼ぶと、最上質の羊皮紙を使って契約を交わす。しっかりとギルドマスターとマチュアの魔術印が刻み込まれた正式な書面である。

 二通作って一通はマチュアが預かる。

 そしてマチュアはスッと立ち上がって、ギルドマスターとしっかりと握手する。


「私も商人です‥‥契約の履行はしっかりとお願いしますね」

「ええ。建築ギルドとしても支払われた以上はしっかりと仕事をしますよ。ですが、男爵の妨害があるかもしれませんが‥‥」

「それをどうにかするのもそちらの仕事では? それを踏まえての期日なのですから‥‥」

「ええ、それではこちらとしても色々と頑張らせてもらいますよ」


 そう話をして建築ギルドでの仕事はおしまい。

 マチュアが建物から出ていくと、すぐに一人の使いがデルボルト男爵家へと走っていった。



 〇 〇 〇 〇 〇

 


「何? あの教会の修繕が始まるだと? 来月には取り壊しになるというのになんて無駄な事をするんだ‥‥」


 屋敷で使いの者から報告を受けたオットー・デルボルト男爵は、目の前で委縮している使いに向かって怒鳴りつけていた。

 だが、使いも自分の仕事をしただけで、ここで怒鳴られる筋合いはないのだが。


「ええ、ですがそれも踏まえてしっかりとした仕事をしてほしいと‥‥その、白金貨10枚も支払っていまして‥‥マチュアという商人なのですが」

「マチュアという商人? まさか陛下が?」

「いえエルフではなく普通の人間です。魂の護符ソウルプレートを確認しましたから間違いはありません。それで‥‥どうしますか?」


 そう問いかけられるが、所詮目の前の男はただの使い。いくらでも使い捨てに出来る。

 出来るなら自分の手を汚したくはない。

 

「そうだな‥‥その商人が持っている財産も、かなりのものだろう‥‥。あのゴーレムホースも実にいい‥‥王都で数年前に売りに出されたものだろう?」 


 そう呟いて、目の前の使いの男に金貨を5枚握らせた。


「商人としてのランクは低いが、基盤はしっかりしているのか。資金力もかなり強そうだな‥‥そんな話をあの強欲男爵たちが聞いたら、どうなるだろうなぁ‥‥」


 その呟きに使いの男はコクコクと頷いて出ていく。

 そしてデルボルトは椅子に座って、まるで何事もなかったかのように執務を再開した。



 〇 〇 〇 〇 〇



 その日の深夜。

 マチュアの泊まっていた宿に4人組の強盗が侵入した。

 目的はマチュアの部屋、室内にある荷物をすべて奪い取り、可能ならマチュアを殺してただの強盗に見せかける。

 そんな目的で侵入した盗賊たちは、何もなく誰もいない室内に呆然としていた。

 まさか情報が筒抜けであった? それとも誰かが密告したのか、その日は何も収穫が無いまま彼らは宿を後にした。

 まさかマチュアが部屋の鍵をかけてから転移でカナンに戻っていたなど、誰も想像していなかったであろう。


 そして翌朝。

 まるで何事もなかったかのようにマチュアは宿に戻ってくる。

 そのままスラム街に行って建築ギルドに雇われた職人たちが教会に集まっているのを確認すると、そのままスラムの他の場所を散策してみる。

 先日聞いた話の通り、スラム街の殆どの建物からは生活臭が感じられない。

 殆どの住人がどこかに行ったというのも嘘ではないようだ。


「ここまで周到にされると、どうしようもないんですよねぇ‥‥」


 ブツブツと呟きつつも、マチュアは自分をこっそりとつけている二人の気配に注意している。

 もっとも、いきなり襲われるのも嫌なので散策は適当な時間に切り上げ、宿に戻って遅めの昼食を取る事にした。



「おや、まだ町から出ていないのかよ。俺達の言った忠告、ちゃんと考えてくれよ」


 宿に戻ったマチュアの隣で、キースがマチュアに話しかけてくる。だが、マチュアはニイッと笑うだけである。


「まだ仕事が終わっていないし。仕入れもしていないから出て行くのもなぁ‥‥」

「そうか? まあそれなら仕方ないが」

「まあ、今日はもうお終い。明日もスラムの方に行ってみるよ。何か新しい発見があるかもしれないし」

「スラムか‥‥あまりお勧めできないが、まあ護衛が必要なら手伝うぞ」

「いいよいいよ。それよりもキースさんたちは仕事ないの?」


 そう問いかけると、キースは頭をポリポリと掻く。

 隣ではミリアームがおいしそうにデザートを食べ始めていた。


「俺たちはこの後は北に向かう予定なんだが。まだ仲間達が合流していないんだ」

「そうなんですよ。隣町までは一緒だったんですけれど、そこで一旦別行動になってしまって」

「へぇ。なら、しばらくはここにいるの?」

「そうなるな。後のメンバーはロリエッタなんで生き方が自由なんだよ。ここに来いって話はしているんでちやんと来るとは思うんだが‥‥もし北に向かうんなら護衛として雇ってくれないか」

 

 困った表情でつぶやくキース。すると、宿の外がなにやら騒がしくなっていた。

 そして3人組の冒険者が入ってくると、マチュアを見つけてつかつかと近寄ってくる。


「お前が商人のマチュアだな、クーデリア様がお呼びだ、ついてこい」


 そう吐き捨てるように告げてマチュアの腕をグイッと掴む。だが、マチュアはその手を力いっぱい振りほどいた。


「こ・と・わ・る。私は食事中だ。ご飯食べるときは騒がないって両親から教わらなかったのか!!」


そう男を睨みつけるように呟くが、いつの間にかマチュアの後ろに回り込んでいた男がマチュアを椅子ごと持ち上げた。


──ヒョイ

 そしてそのまま宿の外に出ていく。

 マチュアは高さがあるので暴れると危険と判断し、両手で椅子にしがみつく。


「や、ちょ、おま!! まだベーコンエッグが残っているのにぃぃぃぃぃぃぃ」

「そんなものよりも上等なものが食べれる。とにかくクーデリア様が呼んでいる」

「そのツンデレだかクーデレだか知らないけど誰なのよ?」

「クーデリア女男爵だ。この町の行政を司っている方だ」


 そう説明すると、男たちはマチュアを椅子ごと馬車に詰め込んで、そのままクーデリアの待っているであろう屋敷へと走って行った。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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