反撃の狼煙・その27・後始末と創造神と破壊神と
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
「さて。そんじゃあ、まずはどこから処理すればいいかな?」
事務局に戻ったマチュアは、真っ直ぐに卓袱台に座って三笠から手渡された報告書と記憶のスフィアの内容を確認する。
そしてマチュア不在時に起こった全ての出来事を脳内で咀嚼すると、スクッと立ち上がり二階の会議室へと向かう事にした。
まず最初に、カーマインに殺害された二人を蘇生しなくてはならない。
「あの三人か。こりゃあ気合い入れて蘇生しないとね‥‥まったく二人には感謝感謝だよ」
マチュアはオファル・アニマスで彼女達と面識はある。
なら、助けないという選択肢は存在しない。
階段を上がり部屋の前まで向かうと、長椅子でマリアが居眠りしているのを見かけた。二人が心配で部屋の前にいたんだなぁと思い、空間収納から毛布を取り出してソッと掛けてあげる。
「やっぱり仲が良いよね。待ってて、今すぐみんなに会わせてあげるから」
自分自身にもそう言い聞かせると、マチュアは二人の眠っている部屋の扉をゆっくりと開く。
──ガチャッ
扉を開くと、室内に漂っていた冷気がスーッと廊下まで流れてきだ。
そこにはズブロッカによって作られた氷の棺が二つ安置されている。
その中には、心臓を握りつぶされて死んだ皇綾奈と腰椎から真っ二つに切断されて絶命した衣波疾風か眠っている。
「ふむ、冗談言っている余裕はないか。聖域範囲・再生結界発動……と。そんでこの棺は解除だな……『ヴァルハラの守護者よ、かの棺を溶かし、二人の体を戻したまえ……そは、まだ英雄になるには早過ぎる者なり』と」
静かに祝詞を告げ、二つの棺に手を当てる。
すると、氷の棺はゆっくりと蒸発を開始し、やがて全て霧となって散って行った。
──シュンッ
すぐさま白銀の賢者装備に換装すると、更に詠唱を続ける。
「冥府の女王や、かの二人の魂を再生し、この肉体に戻したまえ……」
先程の術式で二人の肉体は修復を終える。そこで魂を冥府より戻す『蘇生召喚』を開始したのだが、二人の魂は戻って来ない。
時間が経ちすぎたのか。それとも別の要因か‥‥。それはマチュアにもわからない。
もっとも、ここはカリス・マレスではない為、この世界の管理神が二人の蘇生許可を出していないのかもしれない。
いずれにしても、ここで立ち止まる事は出来ないので。
──イラッ
マチュアの額に怒筋が浮かび上がる。
「へぇ。プルートゥさんや、今からそっちに行って暴れていい?」
『待って待って‥‥1/3ずつ足りないから、それをすぐに補うから‥‥』
──シュゥゥウ
ボソッと呟いた一言。
その瞬間、冥府の女王は二人の魂の蘇生を許可した。
地球の管理神の許可など知った事かと、冥府の女王は強権を発動する。
すると、二人の心臓がゆっくりと鼓動を始め、全身の血色が戻っていく。
「う……あ、あれ、俺は確か殺されて」
「私も、突然胸が苦しくなったと思ったら意識が消えて……」
頭を振りつつ、皇と衣波が体を起こす。
そして側に立っているマチュアを見て、ようやく自分たちが殺された事、そしてマチュアが蘇生してくれた事に気が付いた。
──カタッ
ふと扉から音がしたかと思うと、室内に立花マリアが飛び込んで来た。
「全く……いつまで眠っている気だったのですか……学校行事も全て公欠になっているのですわよ」
いつものようにポーズを決めて呟いたが、その双眸からはボロボロと涙が溢れている。
「おかえりなさい、二人共お疲れ様でした」
そう告げて、マリアは二人に抱きつく。
そしてこれ以上はマチュアのする事はないと、ソッと部屋から出て行った。
………
……
…
「これでまず一件完了ね。次は……」
──スパァァァァン
卓袱台に座って焙じ茶を飲んでいるマチュアの後頭部に、力一杯ハリセンが叩き込まれた。
「痛たたた、痛くないが頭から尾骶骨まで何か響いた。何すんじゃぁ」
「お、マチュア、堕天時間はおしまいか?」
「とっくに終わっとるわボケぇ。馬鹿になったらどうすんだよ‥‥」
マチュアの背後でパンパンとハリセンを叩いているストーム。更にカレンとシルヴィーも後ろに心配そうに立っていた。
「ほ、ほら。やはりマチュアはいつものマチュアのままぢゃ、おかえりぢゃ」
「そのようですね。マチュアさん、お帰りなさい」
「おう。幻影騎士団のマチュアさんはいつでもちゃんと帰ってきますよー」
ニイッと笑うマチュア。そのいつもと変わらない笑顔に、シルヴィーとカレンの二人もほっとしているようだ。
「さてストーム。報告書は一通り読んだよ、上の二人は蘇生したので後の処理は事務局に移管するわ‥‥それとカーマインを滅したってね、お疲れ様」
「ああ、ようやく一段落した。それで、これはお前の分な」
──ブゥゥゥン
スッとマチュアに差し出した右手、その掌に一つの神核が乗っている。
マチュアはそれを無言で受け取ると、自分の心臓のあたりにそれを添えてゆっくりと体内に送り込む。
やがて送り込まれた神核はマチュアの中の神核と融合、これでストームとマチュアは分身体の神核を3/8ずつ保有する事となった。
──ドクン
その刹那、マチュアとストームの体が光り輝く。
そして、ゆっくりと二人の体が透明になっていくと、一瞬で意識が消滅した。
………
……
…
そこは以前見た、白亜の世界。
一番初めに異世界転移したときの空間。
そこにマチュアとストームは立っていた。
「ふむ。察するに創造神の召喚かな?」
『YES YES YES YES』
二人の脳裏に直接響く、創造神TheOnesの声。
その姿は見えないものの、存在ははっきりと理解出来る。
そこにいて、それでいて存在しなくても可能な存在。その創造神が、再び二人の脳裏に語りかけた。
「創造神殿、無貌の神はどうなりました?」
『長かった無貌の神の暴走は終結した。奴は八つに分かたれた力の根幹を取り戻す事の出来ないまま、ワシの手によって世界から消滅した……』
「お、それで全て解決か。よしよし」
そう安堵するストームだが、マチュアはやや険しい顔。
真っ直ぐ正面を向くと、そこにいるであろう創造神に語りかける。
「それで、無貌の神を消す為に創造神殿も、その力の殆どを使い果たしてしまったのですね?」
『うむ。今一度力を回復するには、暫しの眠りを必要とする。そしてもう一つの問題もある。無貌の神は消滅する際、その残った力を分散した。彼奴の意思を継ぐ者に力を与える為にな。じゃが、それさえも予想外の事象によって阻まれてしまった。二人には申し訳ないが』
そう告げると、創造神は二人のステータスウィンドゥを開いてみせる。
マチュアもストームも、自身のウィンドウなので見慣れているものの、改めて見て絶句する。
ストームの種族が変わっていた。
『種族:創造神の眷属神/カルアドの管理神(武神)/破壊神の半神(物理)』
因みにマチュアはこの通り。
『種族:創造神の眷属神/カルアドの管理神(秩序)/破壊神の半神(魔術)』
「お、おおう……」
「何じゃこれぇぇぇぇ、ヴエァ!!」
思わず叫ぶ二人。だが、創造神は努めて冷静に説明を始める。
『消失した無貌の神、つまり破壊神の力は消滅しない。それはワシと二極一対の存在であるから。しかし、その力は奴の神核を持つものに引き継がれてしまった……マチュア、そしてストームよ、二人は破壊神の神核を持っている為に、そのまま奴の力を半分ずつ引き継いだ破壊神となってしまったのじゃが、ここまでは良いか?』
「「良いわけあるかぁぁぁぁぁぁ」」
二人同時に叫ぶ。
だが、そんな言葉は無視して創造神は語り続ける。
『ストーム、そしてマチュアよ。二人の魂は予想の範囲を超えて昇華し切ってしまった‥‥『魂の修練』の最終過程である亜神への進化、それすら超えてな‥‥。しかし、破壊神の持つ神威では、生身の生命体なら神威に当てられて最悪死んでしまう。なので覚醒した瞬間にここに引き込んだのじゃよ』
「あ、あのなぁ。そんなに簡単に人を神様にするなや……しかもあんたと対だと?」
「神様なんていやだぁぁぁぁ生身の人間に戻してぇぇぇぇ」
『それは無理じゃなぁ。既に二人の魂は破壊神として定着しておる。しかし対応策はある』
──ヒュウンッ
マチュアとストームの右首元にうっすらと痣が浮かび上がる。
マチュアはハート型、ストームは十字架の痣。
『そこに触れて神威を注げば、神威はある程度封じられる。破壊神モードもな。カルアドでは管理神の力が使えるだろうが、破壊神モードを封じておかないとやり過ぎてしまう事もある。なので、破壊神モードは最後の切り札、少しずつ慣れていくが良い』
その説明を聞いて、すぐさまマチュアとストームは痣に手を当てる。そして魔力を注ぐと、種族が『創造神の眷属神/カルアドの管理神/亜神』に切り替わっていた。
これには二人ともホッと胸をなで下ろす。
「つまり、この痣は神威切り替えスイッチ?」
「あ、成程な。これで亜神と管理神と破壊神を切り替えられるのか」
『左様。そして各モードには神威開放1~5まで段階的に調節が利くようになっている。それをうまく使いこなしてくれ。但し、破壊神モードは緊急時以外は出来るだけ使用しないように。使っても神威開放2まで、それ以上は管理神をも滅ぼしてしまいかねないからな』
「それで、創造神さんよ、俺達に何をして欲しいんだ?」
「そうそう。こんな説明するために呼んだわけではないんでしょ?」
そう問い詰めていくスタイルの二人だが、帰ってきた返事はまた二人を絶句させた。
『では告げる。この先、我が望む事は、二人とも死なない事。まあ、今の二人を殺すなど中々難しいのだがな。二人がどちらも死ぬと、二人の神核から破壊神の魂が抜け出し何処かに移る‥‥。新たな依り代を求めてな。そして最悪、また無貌の神のような存在となるじゃろう。だが、二人のうちどちらかが生きていれば、それは成されない。生きていれば、二人は今まで通りに自由にして構わない……が、先程も説明した通り、神威はあまり使わない事。その代わり特例ではあるが、普通の人として人の世界に干渉するのは構わない事にしておく』
「う〜ん。つまりはぶっちゃけると、神威を無闇に使わないのなら、今まで通りで構わないっていう事?」
『うむ』
「まあ、俺としてもそれならそれで構わんよ。そうそう神威を全開にしないとならない敵なんて出て来ないだろうからな」
ストーム、変なフラグは立てないように。
『‥‥では、我は暫し休息にはいる。ゆえに、世界の管理は、それぞれの世界の神に委ねる……8つの世界の管理神よ、今より全ての世界との交流を許可する‥‥神域条件・その3までの能力解放を許す‥‥そしてマチュアとストームよ、もしもその神々が誤った道に進んだら、二人が過ちを正して舵を取り直すよう告げて欲しい。では、ついでに創造神の代行も頼んだぞ〜』
──スッ
白亜の世界から創造神の神威が消えて行く。
そしてマチュアとストームの体が更に輝き、そしてスッと消えて行く。
「い、今、最後に何つった?」
「畜生めぇぇぇぇぇぇ……あの腐れ創造神、どさくさ紛れに仕事押し付けていったぞ……」
「はぁ。ま、いいわ。俺は手の届く範囲で頑張るから、世界はマチュアが頼むわ」
「ふ、ざ、け、る、な。世界は八つあるんだ、半分ずつでいいだろ?」
「それはまあ後日だ。うまく折り合いを付けていけばいいだろうさ。各世界の管理神だって馬鹿じゃない、緊急事態になったら連絡を寄こしてくれるだろうさ」
「なら、私はそれまで勝手に生きるわ」
「俺もサムソンに戻るわ‥‥」
そうストームが告げると、マチュアに向けてそっと拳を突き出す。
「私とストーム、共に普段は亜神モードで神威開放なし。これでも条件付き不老不死なんだからそうそう危険はないけれどね‥‥とっとと帰ろう、もう疲れたわ」
マチュアもそっと拳を突き出し、そして二人同時に拳を合わせる。
──カシィィィン
そして二人の拳がうちなると、マチュアは転移門を開いて異世界大使館へと戻って行った。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
場所は変わってルーンスペース。
YTVのカリス・マレス取材も終わり、無事に帰還して数日後。
テレビでは、異世界カリス・マレスを題材とした特番が毎日放送されている。
とある昼下がり、テレビのバラエティ番組で『マチュア式魔力鍛錬法』が放送されたので、真央と善の二人は居酒屋・冒険者ギルドの昼休み中にのんびりと眺めていた。
「へぇ、こんな程度で魔力が高まるのかぁ」
「まあ、やらないよりはましか。確かこうだよな」
──ゴゥゥゥゥゥッ
善が人差し指を立てて魔力を集める。すると、人差し指の上空に魔力の塊が浮かび上がった。
「ぜ、善、それ以上はいけない!!」
「ぬおぁぁぁぁ。気合いで抑えるのかよ……って、心力開放?」
咄嗟に頭に浮かんだ心力コントロール。それを昔から知っているかのように制御すると、魔力塊をゆっくりと吸収していく。
「あ、あれ、何だこの力」
「おお、凄い、しっかりと制御出来ているじゃん。では俺も……」
真央も指を立てて意識を集中する。
──キィィィン
すると、先ほどの善よりも更に強い魔力が集まり始めた。
魔力光が周囲に広がり、そして真央を包み始める。
「ぬぁぁぁぁぁ、なんじゃこれはぁぁぁぁ」
『魔力制御……』
真央の脳裏に浮かぶ言葉。
そして魔力を制御する知識が体内を駆け巡る。
それは真央の中で瞬時に理解されると、真央も目を細めて意識を集中する。
「足りない秘薬は全て魔力で補う……深淵の書庫発動!!」
──ヒュンッ
瞬時に展開する深淵の書庫。もっとも魔導制御球を持たない真央では、正四角形の結界型になってしまう。
「あ、あれ、俺今なんつった?」
「あれだ、ミナセ陛下の魔術だ。テレビで見たやつってえええええ?なんで真央が?」
──ツツ〜ッ
二人の頬を冷たい汗が流れる。
「は、ははは……本日は臨時休業だ」
「俺も夕方で診療終わらせるわ。後でまた来るから」
この日。
ルーンスペースに新しい勇者の芽が吹き出したが、彼らが本当に勇者となるのは、まだまだ先の話である。
まあ‥‥二人の魔力の才能を求めて各国が暗躍を開始するまで、後175日。
取り敢えず、巻き込まれた二人に合掌。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






