表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

417/701

HOLYDAY限定SS・サンタがマジにやって来た

これはクリスマス限定SSです。

時節的には10部と11部の中間あたりのが遺伝的な位置と思っていただけると幸いです

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 とある年の12月23日。


 地球フェルドアース神域にある亜神の都市『ビブエール』。

 その郊外にある小さな館では、一人の老人がベットで唸り声をあげていた。


「ぬぅぉぉぉぉぉぉ、明日には出撃しなくては、良き魂の子供達にブレゼントがぉぁぁぁぁ」

「まあ、なんといいますか。もういい加減に年なんですから、サンタクロースはやめた方がいいですよ」


 ミシミシと軋むベットの傍らで、腰を痛めてベットに横になっているサンタクロースに冷たく言い放つトナカイ獣人のルドルフ。その辛辣な言葉に、サンタクロースは思わずガバッとベットから起き上がると。


「何を言うか!! この教父聖ニコラウスに対してなんたる暴言‥‥痛たたたた‥‥いや、確かに歳は経ったからのう。しかし、そんなバリトンボイスで突っ込まなくてもいいじゃろうが」

「まあそうですね。しかし今の時代、サンタクロースの仕事なんて大した事ではないじゃないですか」


 そう呟きつつ、ルドルフは玄関の傍らに置いている大きな袋に視線を送る。

 それこそがサンタクロースの大切な仕事、正しき、良き魂を持つ子供たちの元に『神々の祝福(ギフト)』を届けなくてはならない。


「う、ううう……確かに、今のご時世、サンタクロースと言えばクリスマスイブにプレゼントを与えてくれる両親などが務めているからのう……いや、本物もちゃんと存在するではないか、ほら、あの国の……なんと言ったか」

「グリーンランドの国際サンタクロース協会ですね。貴方が神託を告げて作らせた、サンタクロースの代行者たち。地球における公認サンタクロース。それでも数が足りないのですよ? 彼らの仕事はサンタクロースを信じてもらう事、いわばオリジナルの使徒なのですから」

「むう……なら、彼らの中から優秀な人材に託してみては」

「音速を軽く超えるサンタのソリに乗れる人間なんているわけないでしょ? 彼らは普通の人間です、亜神じゃないんですから……」

「それなら誰に任せれば良いのじゃ!! いや、もう良い、ワシが行く」


 すぐさま立ち上がり着替えようとするサンタクロース。

 だが、ルドルフはその後ろに回り込んでがっしりと腰に手を回すと、そのまま背後にあるベットに向かってサンタクロースを投げ飛ばした。


──ドゴォッ

 それは明日に架ける人間橋、ジャーマンスープレックスであった。

 サンタクロースは後に言う。

 あの時の綺麗な投げは、まさしくカール・ゴッチの技であると。それを受け継ぐチャボ・ゲレロ並みであったと。


「な、三沢光晴の投げっぱなしのジャーマンじゃと? 痛たたた…」

「ほら、やっぱり無理なんですよ」

「いや、この痛みはお前のジャーマンのせいじゃ」

「聖者だけに……ですか? まあ、その腰では無理でしょう。今年の配布は諦めてください」

「ま、まて、それは神の意に反するぞ。そうじゃ、代理人に任せるのじゃ」

「はぁ?人間になんてサンタクロースの代わりは務まりませんって。一体誰に……あ」


 サンタクロースとマロースには、一人だけ心当たりがあった。


………

……


「それで、私が神域に強制召喚されたの?」


 サンタクロースのベットの横で、やや苛々しているマチュア。

 いくらメインの仕事がないとは言え、まさか異世界大使館での仕事中に突然召喚されるとは思ってもいなかった。

 仕事を終えて明日の夜のクリスマスパーティーの準備がしたかったのだが、全て出来なくなってしまった。それどころか当日はマチュアの欠席が確定してしまったのである。


「うむ。済まないが頼まれてくれないか?」

「はぁ〜。去年の借りもありますから構いませんけれど、いくら私でも音速を超えるソリになんて乗りたくないんだけど」

「あ、それは大丈夫じゃよ。サンタのソリは次元モーメントに干渉して進むのでな。普通に飛んで見えているのは、魔力による質量を持った残像じゃよ。そり自体は人目に付かないようにステルス機能搭載、魔術によるサーチ以外では発見される事はない!!」


 それなんてF91。

 説明をじっと聞いているマチュアは、アイタタと頭を抱えてしまう。


「そ、それなら大量のプレゼントは?一つ300gとしても、とんでもない重さに……あ~内部空間拡張された袋かよ。何処のラノベの世界だよ全く……」


 ルドルフが巨大な袋の横でニヤニヤと笑っている。

 それがとても腹ただしいのだが。


「まあまあ、どのみち、正式にプレゼントを配るのは百人だけじゃ。それも、空を飛んでいるだけで自動的に袋から届けられるようになっとる」

「はぁ。そのプレゼントって、トイザらスでも行ってきたんですか?」

「ん? 昔からサンタクロースのプレゼントは『神々の祝福』と決まっとるぞ。受け取った子供に少しだけチートスキルをプレゼ「わーっ、それ以上はダメぇぇぇ」」


 サンタの言葉を素早く邪魔するマチュア。


「夢も欠片もすべて破壊された感じですよ畜生めぇぇぇぇ」


 がっくりとその場に崩れていくと、さめざめと泣き始めるマチュア。


「もういいわ‥‥分かったわよ。なら、今年だけだからね! 来年は自分で行って来なさいよ」

「うむ。新年からちゃんとジムにも通う。シルバージムにもさぼらずに通うわい。基礎体力もつけるから心配するな。目指せ体脂肪率3%じゃ」

「どこのボディビルダーですか全く」

「おお、来年は日焼けしてプレゼントを配るのもよいかもしれぬな。今はやりの‥‥仮面サンターブラックとか言って」

「RXが付かないだけいいわ‥‥それじゃあ準備してくるわよ」


………

……


 まあ、そんなこんなで翌日のクリスマスイブ。

 マチュアは神域で準備の終わったソリに座ると、すぐさまアバターを変更する。

 いつものハイエルフではない、ちゃんとサンタクロースに許可を貰ったオリジナルのサンタの外見である。

 コスチュームもしっかりと赤と白、日本では昔からおなじみの、そして世界的には今はおなじみの格好である。


「ではルドルフよ、しっかりと道案内を頼むぞ」

「ウィ、ムッシュ」

「ルドルフってどこ出身のトナカイよ‥‥まったく」


 ソリに座ってブツブツと文句言うマチュア。

 そしてサンタが人間界に向かうということで、大勢の亜神達が見送りにやって来ていた。

 今回はニコラウスの代わりにマチュアがサンタクロースを務めるという説明がされると、その場にいた亜神たちはマチュアに次々と手を振り始める。

 そんな壮大な見送りの中、ついにソリはゆっくりと走り出す。

 ふわりと大空に舞い上がると、すぐさま転移門ゲートを越えて一路、地球フェルドアースへと旅立ったのである。



 〇 〇 〇 〇 〇



 12月24日。

 NORAD(North American Aerospace Defense Command, 北米航空宇宙防衛司令部)では、毎年恒例のサンタ追跡ブログラムの監視が続けられている。

 最初はとある新聞広告に記されていた『サンタクロースへの電話番号』が誤植であり、北米航空宇宙局に電話が繋がってしまったことから始まった。

 次々とくるサンタクロースの問い合わせに、当日の宿直担当の大佐が下した命令は一つ。


『サンタの現在座標を調べて公開しなさい』


 であった。

 そしてそれが毎年恒例の行事となり、この年もいつものようにプログラムが走っているところであったのだが。


──ビーッビーッ

 突然鳴り響くアラート。

 Noradの宿直担当官はすぐさまレーダーに映っている正体不明の影を精査。同時に衛星軌道からその正体を撮影し、モニターに映し出したのだが。


「ジーザス‥‥」


 そこにはトナカイがソリを引き夜空を走っているサンタクロースの姿が映し出されていた。

 すぐさま当直が各方面に連絡、その正体を探るべく行動を開始しようとしたのだが、リアル・サンタクロース襲来の報告を受けたホワイトハウスからの返答はただ一つ。


『そのまま何もしないこと。サンタクロースの行動を阻害してはならない』


 であった。


‥‥‥

‥‥


──ゴクッゴクツ

 あったかい缶入りお汁粉をのどに流し込み、マチュアはのんびりと空の散歩を満喫中。

 ニコラウスから受け取ったプレゼントを手渡す子供たちの住所にもすでに55か所がチェックされている。

 残りは45か所、このまま順調に進めばなんとか間に合う。


「ねぇルドルフ、この『神々の祝福』って、いったい何が入っているの? 順天堂スイッチ? GS4? それともテディベア―のぬいぐるみ?」

「二つはリアルなのにどうして最後のは夢があふれているんですか。神々の祝福はスキルですよ。ええっと、マチュアさんにわかりやすく説類すると、異世界転生時にもらえるチートスキルです」


──ブーーーッ

 力いっぱいお汁粉を吹き出す。

 ちなみに粒粒がいくつか喉に混入してしまい、マチュアはそのままソリにうずくまってげフげフとえずいてしまった。


「そ、そんなものプレゼントしちゃダメじゃないのよ。この世界の神様たちは一体何を考えているのよ」

「まあまあ、チートスキルといいましても、具体的に与えられるのは『才能の芽』というものでして。受け取ってからそれをしっかりと開花させられるかどうかなんて、その子供の今後次第ですから。神様たちはそれをしっかりと見て、毎年世界中から100人の子供たちに『神々の祝福』を与えているのですよ」


 そう説明は受けたものの、マチュアは思わず指を折って数え始める。


「そ、それでも一世紀で1万人よ? ニコラウスがサンタクロースになってから16世紀で‥‥16万人のチートキャラが出来ているじゃない」  

「でも、実際に開花したのはほんの一握りです。まあ、ナポレオンやコロンブスなどの偉人や英雄たちはみな、この神々の祝福を受けて無事に開花させたいい例ですから」

「んじゃ悪い例は?」

「あ‥‥あはははは‥‥戦争起こしたり独裁者になったりおっぱいプルーンプルン叫んだり」

「それは纏めて一人じゃねーか。他にもいるんだろう」


 そう問いかけるが、ルドルフは遠くを見つめている。


「姉さん、この世界には知らなかった方がいいと思う事もあるんでさぁ‥‥さ、とっとと次に行きましょうや」


 そう告げてマロースは加速する。

 そしてマチュアも次の届け先の住所を確認すると、そのままソリに身を任せた。


‥‥‥

‥‥


 サンタクロースの物語を覚えている者は幸せである。

 それは昔、教父聖ニコラウスの物語の一つ。


 彼は、貧しいある 家を助けた。

 その家は、貧しさのあまり、三人いた娘たちを身売りしなければならなかった。

 そして娘たちが身売りされる前日の夜。

 ニコラウスはその家までやってくると、窓からそっと金貨を投げ入れ。

 それは偶然、暖炉に下げてあった靴下の中に入ってしまったらしく、翌日の朝、家のものが金貨の重みで床に落ちている靴下を拾いあげたとき、その中から金貨が零れてきた。

 その金貨のおかげて、その家は娘たちを身売りする事なく貧困から救われたという‥‥。


‥‥‥

‥‥


「へぇ。サンタクロースの伝説ってそういう所なんだ」

「まあニコラウスさまが貧しき者を助けていたというのも事実ですし。聖人である事に変わりはありませんよ‥‥まあ、今の世の中、財布のひもを握っている方がサンタクロースと呼ばれるらしいですけれどね」

「お金で夢を与えるのがサンタクロースってか。皮肉だねぇ‥‥と、この真下だったよね? 札幌にも選ばれた子供がいるとはねぇ」

 ゆっくりと速度を落とすルドルフ。そしてマチュアも眼下の屋敷を確認すると、袋から小さな箱を取り出した。

「ええっと‥‥この下の子供は‥‥って、まじか」

 フワッとプレゼントボックスを空に投げると、それは静かに輝いて眼下の屋敷の中にスッと消えていった。

 あて先は三笠雄一。

 三笠執務官の長男。

 そしてマチュアは次の家に向かう。

 地球一周が制限時間、残りのプレゼントは後僅か。

 

「さて、ここからは速度上げるわよ‥‥神威開放その2っ!! 超加速かーらーのー爆速ダッシュ!!」


 ルドルフが純白に輝くと、ソリは今まで以上の速度で走り出した。

 眼下に異世界大使館が見える。その中庭では、毎年恒例のクリスマスパーティーが催されている。

 マチュアは本日は欠席、代わりにツヴァイと三笠がすべてを取り仕切っている。

 ならばと、マチュアはあらかじめ用意してあったプレゼントを夜空に投げる。

 重力制御の魔術でプレゼントはゆっくりと大使館の中庭に降りてくる。

 それを子供たちは受け取ると、幸せそうに笑いながらプレゼントを開けていった。


「よし、これで今年の私の仕事はおしまい。ルドルフさんや、後38個、急いで終わらせるよ!!」

「イエス、マム!!」

 そのまま夜空をかけていくサンタクロース。

 

 メリークリスマス。

 来年もみなさんに良い事がありますように‥‥。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 2シリーズ絶賛発売中 ▼▼▼  
表紙絵 表紙絵
  ▲▲▲ 2シリーズ絶賛発売中 ▲▲▲  
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ