反撃の狼煙・その16・信じる者はすくわれる?
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
ウルルドラゴンがアルバカーキで消息を絶ってから一週間。
この間、未確認生命体の襲撃報告は一切なかった。
努めて平和な時間が進んでいたので、マチュアは搭乗しているナーヴィス・ロンガが内陸を自由に移動する為に、ウォルター大将に上陸許可を求めた。
そして先日、アメリカ軍士官がナーヴィス・ロンガに同乗する許可を出してくれるのならという条件で上陸許可が下りたのだが。
‥‥‥
‥‥
‥
「搭乗するのはウォルター大将ではないのですか」
「ええ。ウォルター総司令は艦隊の指揮をしなくてはなりません。ですので、私、ランディ・ノートンと、彼らが同行させていただきます」
アメリカ軍人がナーヴィス・ロンガに搭乗する当日、マチュアたちの前にやってきたのはウォルター総司令ではなかった。
階級章から判断すると、ランディはアメリカ海兵隊・上級曹長、そして部下の二人も先任曹長であろう。
「この度、命令によりナーヴィス・ロンガに搭乗することになったブライアン・グレンです」
「同じくジャック・ハーヴェイです」
威勢のいいGIカットのマッチョガイ。バルクもフィジークも問題ない……って、違う。それはストーム基準。
恐らくはナーヴィス・ロンガ内部でマチュア達を拘束しようと考えているのはよく判る。
ならば先手を打ってしまおう、そうしよう。
「では早速搭乗してもらいますが、荷物はありますか?」
「こちらのコンテナ三つです。生活日常品や緊急時用の武器弾薬が納められています。格納庫を開いていただけますか?」
そう来たか。
ロナルド・レーガン甲板上には、ナーヴィス・ロンガについての情報を得たいためにあちこちにカメラが設置されている。
格納庫が開いたら、そこを映す気満々である。
ならばとマチュアは、目の前に置いてある2m立方のコンテナに近寄り、手を触れた。
──シュッ
そのまま空間収納に格納すると、全部で三つあったうちの二つのコンテナは収納したのだが。
──ゴンゴン
最後の一つを軽く殴る。
空間収納に収納出来なかったコンテナ、つまり、中には生物が入っている。
「ははぁ‥‥ミスター・ランディ、この中に隠れている兵士を叩き出してくれませんか?」
「それは私たちの食料が収められています。生物など入っていませんよ」
「へぇ。じゃあネズミでも紛れましたかねぇ?」
「かも知れませんな。まあ、時間もありませんのでそのままでお願いします」
あくまでもしらを切る。なら、マチュアにも考えがある。
「それでは、魔法で内部サーチを行いますね。生命体なら即死するかも知れない魔力を使いますけれど、中に生き物がいないのなら問題はありませんよね?」
──シュッ
一瞬で杖を装備すると、コンテナの真下に魔法陣を展開する。
あくまでも脅し、中にいるであろう生命体の命に危険はない。
ただ、コンテナ下の魔法陣からは、まるで地獄の亡者が呻くような叫び声が発している。
コンテナの内部に染み透るように伝わり、ゆっくりと内部で共鳴するかのように。
やがてゆっくりと魔法陣が輝くと、周囲の兵士たちからざわめき声が聞こえてくる。
そして……
──ダンダンダンダン
「ヘルーーープ、ヘルプミーーーーーーーッ」
「オーーーマーーーイーガーーーーッ」
「マ‥‥マザーーーヘルプミーーーーー」
「ヘーーールプ、ノットアジョーーーーーーーーーーク!!」
コンテナの中を力一杯殴る音。
聞こえてくるのは兵士の叫び。
恐怖のあまり、ついに潜伏し切れなくなった海兵隊の末路である。
(まあ、そうなるわなぁ。神様やゾンビを信じる国だし、死霊の叫び声なんて効果覿面待った無しだわなぁ‥‥でも、もう少し根性見せろよ、パリスアイランドに戻されるぞ‥‥)
口元にニイッと笑みを浮かべるマチュア。
そして冷や汗を掻いているランディに向かって一言。
「……ミスター・ランディ。あれはネズミですか?」
「済まない、ネズミだ」
「なら処分しますね。魔力量をあげて焼き殺します、あ、電子レンジのように生命体だけを焼きますのでご安心を」
──ガバッ
そのマチュアの声と同時にコンテナが開き、恐怖を顔を引きつらせている4人の兵士が飛び出して来た。
「shit……」
思わず頬に手を当てて呟くランディ。
そして恐怖のあまり、その場に崩れるように座り込み震えている兵士たちは、他の兵士に連れられて何処かへと連れていかれた。
「ありゃあ、随分と大きなネズミですねぇ。あれは煮ても焼いても食えないですよ。では、コンテナを収納して……行きましょうか」
スッと最後のコンテナを収納すると、マチュアは気まずそうな表情のランディたち3人を伴ってナーヴィス・ロンガの後部格納庫へと転移した。
‥‥‥
‥‥
‥
「こ、こんな事が……」
「一瞬で場所が変わっただと?」
「ミラクル……」
艦内に転移したとき。初めての魔法に、ランディ達は驚愕の顔をしていた。
そして到着した格納庫では、ララとノインの二人も待機している。
「では紹介します。ナーヴィス・ロンガの操縦士であるララと、同じく航海士兼オペレーターのノインです」
そう紹介されて、ララとノインは静かに頭を下げる。
そしてマチュアはランディの方を向くと、一瞬で彼のホルスターから銃を魔法で引き寄せた。
──シュンッ
「な、何を!!」
「いえね、余計な事を考えないようにと……」
──パンパンパンパン
慌てているランディを余所に、マチュアはノインとララの頭に向かって2発ずつ銃を撃つ。だが、それは二人の体表面で弾け飛んでしまう。
「なっ、そ、そんな馬鹿な」
「二人には弾除けの加護が付与してあります。そして当然私にもね。後、スタンガンも効果ありませんよ、雷撃よけの加護もありますし、麻痺程度一瞬で解除出来ますから。私達を殺せるのは、魔法でこの付与を全て剥がせる者のみですから、あくまでも余計な事を考えないよう」
まるで信じられないといった表情のランディ達。
そしてマチュアはカチャッと銃をランディに返す。
それを受け取ると、ランディは残弾確認をしてホルスターに戻した。そして、マチュアに向かって両手を上げる。
ホールドアップ、降参の意を示したのである。
「降参です。少なくとも我々の技術では、あなた達に危害を加える事は出来ない。それで、艦内での行動なんですが、どこまで容認されますか?」
「ジェネレータールーム以外はご自由に。写真を撮っても録音しても構いませんよ。ブリッジにも出入り出来ますので、それは後程ご案内しますが……先ずは、皆さんの部屋までご案内します」
完全に毒気を抜かれたランディたち。
この後三人は部屋まで案内され、荷物を置いた後に艦橋まで案内される。
後は自由、緊急時には艦橋に来るようにとランディ達に説明すると、ナーヴィス・ロンガはいよいよアメリカ大陸へと針路を変更した。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ナーヴィス・ロンガ内部の生活は決して悪くない。
海兵隊としての厳しい訓練を受け、実戦にも数多く参加しているランディ達にとって、ナーヴィス・ロンガ内での生活などホテルに宿泊しての観光のようなものである。
食事だけは自炊、もしくはマチュア達と一緒に取るのだが、自炊では今ひとつ味気ない。
だが、マチュアが用意した食事はいつも暖かく、レストランの食事のようなメニューである。
そして艦内での生活も既に一週間、その間、ランディ達はマチュアやノインの案内でジェネレーターエリア以外の全ての区画を見せてもらう事が出来た。
ついでに魔術についてのレクチャーと人型機動兵器・魔法鎧の説明など、おおよそ地球では得られない魔法技術を徹底的に教え込まれた。
そしてある日。
「マム・マチュア、どうして貴方は私達にここまで親切にしてくれるのですか?」
夕食のテーブルで、ランディはマチュアに問い掛ける。これはブライアンとジャックも頷く。
予想外の好待遇に、ランディたちは何か裏があるのではと疑い始めていた。
だが、マチュアの説明は、彼らの予想を斜め上に三段跳びで飛んでいった。
「後でもう一度説明するのが面倒い。どうせランディ達は定期報告で艦内のデータを送っているでしょ?写真付きで。なら、もしもアメリカと仲良くなった時にまた説明するのが面倒なのよ」
あっさりと一言。
まあ、いつものマチュアだとララ達も頷いている。
「しかし、魔法の説明まで……我々3人は、もう魔法を行使できるようになったのですよ?」
「まだ初歩だけですよ。攻撃系魔術は教えていないし、光球とか清浄とか生活系だけじゃないですか……ジャックが回復系覚えたのは驚いたけれど」
ちなみにランディとブライアンの魔力係数は共に45、ジャックは59ととんでもなく高い。
これはマチュアと同じ空間に長い間いた為に引き上げられてしまったと考えられる。
しかも、ランディは軽治療と毒消し、麻痺消しの三つも覚えてしまったのである。
これは神の奇跡ゆえ秘薬は必要ない。
まあ、ランディ達三人はマチュアから秘薬袋を分けて貰っている。そしてそれを、後生大事に腰から下げていた。
「これも神の思し召しならば……」
十字を切って天に祈るジャック。
ならばとマチュアも天を仰いで。
(あ、私がこれ教えてもいいのね?)
改めて世界神の一人にお伺いをたてる。が、結果は肯定。
むしろ頑張れというレベルらしい。
どれだけ神の声が届かなくなって久しいかと、世界神の方々が頭を抱えている姿も見えた。
「お、おおう、Jesus……まあ、そういう事なんで、報告したければ勝手にすれば良い。ただ、幾ら国防省の命令とはいえ、私たちを拘束した後この船を鹵獲しようなんて考えたら、折角覚えた魔術を行使する前に死ぬので悪しからず」
淡々と告げるマチュア。するとランディ達は同時に立ち上がり、自身の胸元に手を当てる。
「「「我々は、マム・マチュアに害を成さない事を誓う」」」
「宜しい。なら、早く食べてね。冷めると不味いので」
そう促されて、ランディ達はすぐさま食事を再開した。
………
……
…
「それで、これが一連の報告ですか……」
ホワイトハウスの執務室で、アメリカ大統領のマーヴェル・ピアーズ・ブッシュは提出された報告書を前に、頭を抱えたくなっていた。
一部アメリカ国防省での独断先行はあったものの、アメリカは異世界の存在に対して否定ではなく肯定の態度を取るべきという意見が上がっている。
そして今、異世界とアメリカの繋がりは決して悪くない。
『ファンタジーレポート』と名付けられた異世界関連の一連の報告書、そして実際にナーヴィス・ロンガに搭乗して生活している海兵隊からの報告書。
魔術という未知のテクノロジーの前には、地球の科学力など無に等しい。
ならばどうするか。
敵対か味方か。
「……答えは最初から一つですか」
そう呟いて、マーヴェルは一通の書類にサインを入れる。
ナーヴィス・ロンガに対しての、全ての敵対行動の停止、彼らを『Unknown』ではなく『Country』とすること。
つまり‥‥この日、アメリカは異世界を、マチュアを正面から受け入れた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
「マム・マチュア、朗報です!!」
突然大声を上げてブリッジに走ってきたブライアン先任曹長。
──ドッシィィィン
かなり興奮しているらしく、マチュアとララ、ノイン、ランディの座っている席まで走って来たら、力一杯滑って転倒した。
「おおう……走って滑って見事に転んだか。落ち着きたまえブライアン。心に愛はあるかい? そんなんじゃスーパーヒーローになれないよ?」
またギリギリな。
「国防省からの命令文です。マム・マチュアおよびナーヴィス・ロンガの監視を解くと。以後、ナーヴィス・ロンガはUnknownではなくCountryと認定すると……」
これには報告を受けたランディもワナワナと震えだす。
まあ、それを聞いているマチュアもようやく顔が綻んだ。
ララとノインも、憑き物が落ちたようなホッとした顔になる。
「予定よりも早いなぁ。まぁ、今のアメリカの事情を考えると、敵対するよりも友好的にって考えるだろうなぁ。ま、おめでとうランディ。貴方の努力が実を結んだよ」
「ええ。これで堂々とナーヴィス・ロンガ付きの軍人を名乗れますよ」
手渡された命令書では、ランディ、ブライアン、ジャックの三名は引き続きナーヴィス・ロンガに駐在し、アメリカからの協力員として行動するようにという命令書が添付されている。
これには大統領直筆のサインも記されてあるので、ある意味最強の命令書である。
「へぇ、アメリカ艦隊の艦艇コードも発行されたのか。これで、堂々と軍基地にも降りれるようになったのは嬉しいなぁ……と」
──ビビビビビビッ
平穏な時間は此処まで。
艦内に緊急警報が鳴り響く。
すぐさまノインとララが席に着く。
ランディ達も予め用意されていた席に座ると、じっとモニターを睨みつける。
「ウルルドラゴン出現しました。目測距離18300m前方、出ますか?」
すぐさまノインが出現位置を特定する。
ならばとマチュアは一言。
「出ない。急速接近、そして主砲発射準備!! 目標ウルルドラゴン……」
「り、了解。主砲発射準備開始‥‥『神滅の咆哮』、スタンバイします」
「魔導ジェネレーターよりエネルギー抽送開始、魔導火器管制システムすべて正常、圧縮魔法陣を前方に展開します!!」
──パパパパパッ
突然、ナーヴィス・ロンガ前方に魔法陣が5つ展開する。
そして甲板が左右に開くと、そこから巨大な砲門が姿を現した。
ナーヴィス・ロンガ最大の兵器、『神滅の咆哮』が、今、その姿を現したのである。
空間からゆっくりと姿を現したウルルドラゴンも、ナーヴィス・ロンガから放出されている神威を気づくと、その翼をゆっくりと展開する。
翼が神威を浴びて七色に輝くと、ウルルドラゴンは先制とばかりに口から虹色のブレスを吐き出した!!
──ゴゥゥゥゥゥッ
ナーヴィス・ロンガの正面、五つあった魔法陣の一つがブレスにより破壊される。
音を立てて砕け散り、大気に溶けていく魔法陣。そしてウルルドラゴンが二発目のブレスを吐き出そうを大きく顎を開いた時。
「神滅の咆哮……発射ぁぁぁぁぁ」
──ブン
マチュアの叫びと同時に、神滅の咆哮が発射される。
それは第一陣の魔法陣に吸い込まれ圧縮されると、そのまま第二魔法陣に送り込まれる。
そこで神威と魔力が融合し、さらに第三魔法陣に送り込まれた。
第三魔法陣はウルルドラゴンの属性解析を終え、送り出された神威をその弱点属性に変換して第四魔法陣に送り込まれる。
そして第五魔法陣が存在しないため、そこから無数の光の矢が一斉に放たれた!!
──キィィィィィィン
次々と打ち込まれる神滅の咆哮。
それはウルルドラゴンの皮膚を貫通蒸散し、存在そのものを破壊していく。
「うぉぉぉぉぉ、予想外の高出力!!」
『グウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』
マチュアの叫びの中、ウルルドラゴンもまた神滅の咆哮を解析する。
虹色の翼がさらに輝き、その全身が深淵の書庫によって包まれると、残りの神滅の咆哮は全て弾き飛ばされていった。
「う、嘘だろ? あいつまで深淵の書庫使えるのかよ……賢者最高の秘術だぞ?魔導制御球持ってるのかよ?」
そこは神核でカバーしたウルルドラゴン。
マチュアの力を持つエクストラを吸収したので、その程度の対処など解析が終われば容易い。
だが、その全身組織の実に65%を損失したウルルドラゴン、生命体としてはもう存在限界を超えている。
「オノレ……オノレオノレオノレェェェェェ」
絶叫を上げたウルルドラゴンの額に、エクストラの姿が浮かび上がる。
そして憎々しい顔でナーヴィス・ロンガを指差すと。
「マチュア、貴様の大切なもの全てを奪い尽くす!!」
そう叫んで、ウルルドラゴンはスッと消えていった。
「ふん。やれるものならやってみ……」
──ガクッ
突然、ナーヴィス・ロンガがバランスを失う。
「なんだぁ?ララ、何があったの?」
「魔導ジェネレーターからエネルギーがオーバーロード。艦体制御システムのエネルギー低下、このままでは墜落しますわ」
「またかよ……近くの平原に不時着して、のちサブジェネレーターで結界を維持、ララは魔導ジェネレーターの修復に入って」
すぐさま指示を飛ばす。
そしてララの華麗なる操縦テクニックで無人の荒野に不時着すると、ナーヴィス・ロンガの魔導ジェネレーターは火を吹いて停止した。
「……焼けた?」
「ええ。自己修復機能が作動。予測修復可能時間、まあ、一月ぐらいですね」
ララの説明に、マチュアはガックリと頷く。
まさかの事態なのだが、さらにララは駄目押しの一言。
「ろくに調整もしていない神滅の咆哮を使うからですよ。そもそも何百年も使っていない兵器を、いきなり全開で使う阿呆が何処にいますか?」
「先にそれを説明するなり忠告してよぉ……」
そうマチュアが叫ぶが後の祭り。
そしてそのやり取りを、ランディ達は肩をすくめてじっと聞いていた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






