反撃の狼煙・その12・またしても権力抗争
PCのモニターがお亡くなりになったので、暫しスマホ投稿となります。
改行などがおかしくなるかも知れませんが、都度修正しますので。
メキシコ・バイーア・アスシオン。
郊外にある巨大マーケット外の駐車場には、現在、ウルルドラゴンの襲撃によって行き場を失った人々の為の簡易避難所が作られている。
怪我が軽度な人々はマーケット内にある医療ルームや屋外に待機している救急車で簡易的な治療を行い、怪我の酷い患者はアメリカ海兵隊により一度アメリカ本土へ空輸されている。
その避難所の中で、マチュアは俗にいう『辻ヒール』を行なっていた。
怪我人を見かけては魔法により傷を癒す。
最初はマチュアという異質な存在に畏怖の念を剥き出しにしていた人々も、怪我人が次々と癒されているの見て少しずつではあるが受け入れ始めていた。
「いやぁ……これはまたなんというか……分身体ぶっ潰す。何でルーンスペースで実体化しているかなぁ……って、待て待て、ここがこうなら他は今どんな状況なんだ?」
すぐさま転移門を発動したい所だが、そもそもマチュアにはルーンスペースに出入りする許可は出ていなかった。
その為、マチュアの転移門や転移では、カリス・マレスやフェルドアースに単独で帰還する事は出来ない。
戻るためにはナーヴィス・ロンガを修復しなくてはならないのだが、肝心の物品修復魔法はあの戦艦には適用出来ない。
必要魔力が膨大すぎるのと、今迂闊に魔力を消耗するのは危険であると判断したから。
「まあ、こんな時のための空間収納のお手紙モードなんだけれどなぁ……って、手紙来てるし!!」
ノリで空間収納に手を突っ込むと、しっかりとマチュア宛の手紙が届いていた。
すぐさま近くの瓦礫に腰掛けて手紙を広げる。
………
……
…
・ツヴァイより現状報告。
無貌の神の分身体の処分についてですが……
そう書き出された手紙には、現在までの無貌の神の分身体の処理状況について簡潔にまとめられていた。
そしてストームがカルアドで待機しているので、マチュアにはルーンスペースを頼むと書かれている。
その内容に、思わず笑みを浮かべてしまうのは不謹慎であろうか。
「成程ねぇ。そんじゃあ、こっちはこっちで色々とやらかしますか……という事ですので、そろそろ銃口、下げて貰えません?」
──カチャッ
マチュアが瓦礫に座って手紙を読み始めたあたりから、マチュアは軍人に包囲されている。
メキシコ陸軍らしい腕章をつけた24名の兵士、それがマチュアを囲んで銃口を向けているのである。
「貴女が危険人物でないと確認出来るまでは無理ですな。あのドラゴンを貴女が使役していたという可能性の方が高いのでね……拘束しろ!!」
お約束のように兵士たちの上官がそう告げると、4人の兵士がゆっくりとに近づく。だが、彼らはマチュアを中心とした半径1mの結界に阻まれて近づく事が出来ない。
「キ、キサマ、何をした?」
「何って、他愛のないエルフの結界ですが何か?! そもそも人助けて褒められるどころか銃口突き付けるなんて、この国も大した上層部じゃないわね」
そう呟くと、マチュアはスッと立ち上がる。
空間収納から箒を取り出すと、のんびりと座って。
「それじゃあ、もうここには用事ないからいいわ」
──フワッ
ゆっくりと上昇するマチュア。すると逃亡したと判断したのか、射撃命令が下される。
「撃て、あの女を殺せ!!」
──brooooooom
兵士たちの手にしたライフルが一斉に火を噴く。だが、全てはマチュアの結界に阻まれてしまう。
やがて高度を維持しつつ、マチュアは一旦ナーヴィス・ロンガへと転移する事にした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
日本。
ウルルドラゴンによるオーストラリア都市部破壊、そして海を渡ってメキシコまで上陸したニュースは日本国内にも広がっている。
彼方此方のTV局では自然破壊からの報復であるとか、古代から生き延びた恐竜が突然進化した、果ては異星人の送り出した生体兵器であるなどと言う番組まで出ている。
──札幌・居酒屋『冒険者ギルド』
時刻は昼。
近所の会社関係は勤めて平常なため、ランチタイムはいつもの通りの賑わいを見せている。
テレビのワイドショーでは、日本は未確認生物による直接の被害はないものの、万が一日本までやって来たらどうなるのか、日本の自衛隊はどう対処するのか? そんな話で盛り上がっている。
普段は自衛隊は違憲ではと叫んでいる野党の各代表も、そんな話はあったのかと話題を転換し、日本を守れるのかと防衛省を問い詰めている。
1時半にもなると、近くで整骨院を経営してい友人の三三矢善ぐらいしか店内にはいない。
日替わりランチの『カツとじ定食』をのんびりと食べながら、ワイドショーを眺めていたが。
「なあ店長、面白いものがニュースに出てるぞ?」
「はぁ?何だよ?」
洗い物の手を止めて、オーナーシェフの水無瀬真央がホールに出る。
そしてテレビを見ると、ちょうどマチュアがバィーア・アスシオンで辻ヒールをしている映像が映し出されていた。
敵か味方か?
未確認生物との繋がりは?
本物のエルフなのか?
そんな話で盛り上がりを見せている。
そしてツイッターでも、マチュアの映像を見た人々が様々な意見をぶつけ合っている。
「うわ、生エルフかよ。しかし、どっかで見た事あるような?」
ポリポリと頬を掻きつつ首を捻る。すると、画面には『マチュア』という名前がしっかりと表示された。
──ブッ
「あ、マッチュじゃん」
「いやいやいや、何で俺のキャラ実体化しているの? あれか、ファンタジーライフ・オンライン公式の悪戯か?」
「いいねぇ。どうせならストームも実体化して欲しいわ」
そんな阿呆なことを呟く善。
だが、真央は再び首を捻る。
「しかし、突然の化け物の出現とリアルエルフの登場。これはあれか? うちらの世界の勇者がいて、あの化け物を倒して欲しいとか言う……逆異世界転移ってやつかぁ」
笑いながら呟く真央。そして善も高らかに笑いながら。
「なら、俺と店長で良いだろうさ。ストームとマチュア、俺達のゲームキャラが世界を救うなんて夢があって良いよなぁ」
「違いねぇ!!」
………
……
…
「はあ、洗い物終わらせよ」
「俺もとっとと食って昼寝するわ」
そしていつもの日常に戻る二人。
真央と善、二人はマチュアとストームの魂から分かたれても、日常全開であった模様。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
場所は変わって、ナーヴィス・ロンガ。
周辺海域には日本と中国、アメリカ、ロシアの艦隊が遠巻きに包囲網を形成、各々がナーヴィス・ロンガに対してコンタクトを取るべく様子を伺っている。
「あ……あれはアメリカとか言う国ですよね?」
モニターに映っているのは、正面から揚陸船でゆっくりと近寄ってくるアメリカ海軍が映されている。更に、それに合わせて後方からはロシアが、右側面からは中国がゆっくりと近寄って来るのが見えている。
だが、結界に阻まれて全体に近寄る事は出来ない。
マイクを手に警告を入れて来るのだが、残念な事にララとノインツェーンではコモン語以外は理解出来ていない。
──ヒュウッ
すると、マチュアが転移で姿を現す。
これには各国の兵士達も慌てて武器を構えるが、マチュアはそんなのお構い無しに艦橋横の入口から中に入って行く。
「やっぱり来たかぁ。で、あいつら何か言って来ている?」
「言葉が分かりませんよ。翻訳指輪ください」
ララが両手を出しておねだりするので、マチュアは二人分の翻訳指輪を取り出して手渡す。
「マチュアさま、彼らの声明は一応、録音しておきましたよ。でも、何言ってるか分かりません」
「サンキュー、ノイン。すぐ再生して」
その言葉に、ノインはすぐに映像を再生する。
そして四国共に出した声明は、ここが公海上である事、国籍不明の艦艇てあるので国際法に基づき臨検を行うと言う事を告げている。
だが、どの国も明らかに軍隊が出張ってきているのは目に見えて明らか。件の未確認生物と関係があると見ての軍事介入であろう。
「えーっと、ここは座標軸としては公海上だよね。確か国際法にあったよなぁ」
暫し頭を捻ってから、マチュアは空間収納から『カナン魔導連邦国』の国旗を取り出す。
そして艦橋から出ると、そのてっぺんに国旗を掲げた。
「私たちは、異世界カリス・マレスからやってきた。所属国家はラグナ・マリア帝国、カナン魔導連邦。私はその代表であり女王を務めるマチュア・ミナセだ。今、この時より、この座標を我が領海と宣言する」
この宣言の直後、全ての艦艇がナーヴィス・ロンガから離れた。
公海上、そして国旗を掲げた代表。
国際海洋法に関する条約を知る国家なら、一度その場から離れなくてはならない。
もしも掲げた国旗が地球に現存するものであったら、彼らはマチュアの宣言は無視して攻撃に移ったであろう。
だが、そうでない場合。
マチュアの言葉を信じるかどうか、そこから始めなくてはならない。
そしてマチュアは、時間稼ぎにはちょうど良いと艦橋に戻る。
「今から魔導ジェネレーターにチャージするから、外周警戒と分身体の捜索をお願いね」
そう二人に命令して、マチュアは深淵の書庫を起動すると、その中で静かに意識を集中した。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






