反撃の狼煙・その11・ガス欠の戦艦とエクストラ
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
少しだけ時は戻る。
カーマインに告げられたエクストラの目的地。それはマチュア達にとっての聖地であるルーンスペース。
エクストラはそこに越境転移すると、早速この地のどこかに封じられている分身体の波長を調べ始めた。
──キィィィィン
程なくして、エクストラはカーマインに教えられた波長を発見する事に成功。
「ふぅん。ここの分身体はオーストリアですか。地球のヘソ。今はウルルと言ったかしら?」
すぐさま地球の管理神の一人に強制介入すると、エクストラはGPSコマンドを発動し、指定されたウルル上空へと転移していく。
そして、上空から眼下に広がる世界第2位の一枚岩をじっと眺める。
アポリジニの伝承によると、ウルルは巨大な虹色の蛇の卵であると言う。そして、それが事実であることを証明するかのごとく、ウルルには一般の人間には見る事も触れる事も出来ないだろう位相結界がしっかりと施されている。
「あはん。目的のもの見つけたわよ……確か、結界は中和出来るのよね?」
ウルルの頂上にゆっくりと降り立つと、エクストラは右手で足元の岩盤に触れる。
マチュアのスキルはすべて使える。なので、忍者であるエンジの持つ結界中和能力なども自在に操る事が出来る。
──フワァァァア
すると、右手を中心に結界が静かに波打ち、エクストラは結界中和能力で内部に侵入していった。
………
……
…
そこは暗い世界。
外からの灯りが届かない、かと言って暗黒でもない。
魔法的な明かりがあちこちに輝いている。
その中心に、幾重もの巨大な鎖で雁字搦めになった巨大な卵が安置されている。
伝承にある虹色の卵。そしてこれが、無貌の神の分身体。
分身体は決して悪ではない。
己の半分が破壊であり、それは対をなす再生に繋がるから。
アポリジニの伝承では、虹色の蛇は世界を創造した存在。もっとも、かつての創造神と破壊神は対なる存在として世界を作り出していたので間違いでもない。
「それじゃあ、その身体、頂くわよ……」
卵を絡め取っている鎖に手を触れ、一つずつ破壊する。
そして全てを破壊すると、エクストラは卵のカラに手を触れた。
──ドクン
溢れんばかりの神威。
それがエクストラの手に伝わってくる。
そしてエクストラはゆっくりと卵と同化を始める。
己を神威の塊とし、卵の一つになる。
予想していなかったのは、卵の主人格の抵抗。
ウルルはアポリジニにとっての聖地、信仰の集積地。
そこに集う神威など、まだ従属神ですらないエクストラに扱えるものではない。
気付かぬ内に、エクストラの意思は卵の主人と同化し
エクストラの悪意によって卵は悪神化してしまった。
「メザメ……セカイヲホロボス」
その日、ウルルと呼ばれていた一枚岩が崩壊し、そこから全長900mもの虹色の竜が姿を現した。
「ホロボス、セカイヲホロボス」
「ソウヨ、ソシテマチュアヲコロスノ」
「「スベテホロボス、セツリユエニ」」
虹色の竜が姿を現した1時間後。
まっすぐに南東へと歩いて行った虹色の竜の進路上の都市や町、そして村は全て蹂躙され、ウルルドラゴンは海の上をゆっくりと歩き続けていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ただひたすらに飛ぶ。
神威解放レベル1で強度を増した空飛ぶ箒に座り、マチュアはひたすらに目標地点へと向かう。
指定座標に対しての予測距離おおよそ11000km、空飛ぶ箒の最高速度1200kmで約9時間。
マッハ1に少し足りない速度で飛ぶ事5時間、ふと気がつくとマチュアの後方に四機の戦闘機が追従しているのに気が付いた。
「まてまて、こちとら通信機もなければモールス信号も積んでないぞ。そもそもどこの戦闘機だよ、ここは公海上じゃなかったのかよ?」
そう呟きつつ後ろを振り向く。
こんな速度で飛んでいるからといって、どこかにぶつかる訳でもない。
なら高度を維持するだけで問題はない。
すると戦闘機もマチュアを見て危険がないと判断したのか、マチュアの横に並んで……。
「くぁwせdrftgyふじこlp;……」
何やら言葉にならない叫びを発しているパイロット。
だが、マチュアは努めて冷静。
「はぁ、アメリカ空軍最新鋭戦闘機、F-35 ライトニング IIかぁ。しかも対地爆装とはご丁寧に。ターゲットはあいつだろうなぁ……」
そう判断したものの、まさか突然キャノピーを開けて会話など出来る筈がない。
音速近い速度で飛行しているのである、生身で剥き出しなと自殺行為も甚だしいのだが。
それを卒なくこなしてしまうのがマチュアの悪い所であろう。
「えーっと、アメリカ軍のハンドサイン確かあったよなぁ。確か……って、あれは作戦用だから会話にならんぞ?どないしようかなあ……」
このまま高度と速度を維持しつつ目的地に向かう。それが一番無難な方法であるとマチュアは判断した。
そしてアメリカ空軍も迂闊に手出しが出来ないと判断したらしく、マチュアの横に付いてじっとついて行くしかなかった。
………
……
…
更に二時間後。
アメリカの領海に近づいた為、マチュアは一旦減速しつつ南下を開始、目標地点であるバイーア・アスンシオンへと向かう。
その途中、海上に展開していたアメリカ艦隊を眼下に捉えた時、突然マチュアに向かって雨のような砲撃が叩き込まれ始めた。
──ドドドドドドドドドドドドッッッッ
太平洋艦隊所属タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦『アンティータム』とアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦『バリー』、同アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦『カーティス・ウィルバー』が一斉にマチュアに向かって対空攻撃を開始。
更に先ほどまで追従していたライトニングⅡではなく、F-22 ラプターが射程ギリギリからの対空ミサイルを放ってくるなど、正気の沙汰とは思えない攻撃を仕掛けて来た。
「うわわわわわわわ‥‥って、流石は魔法文明の最強結界、この程度のミサイルなんてびくともしないわな。まあ、あの核爆弾の爆風を閉じ込められたんだから、この程度の攻撃なんて蚊に刺された程度で‥‥」
そう呟きつつも、マチュアは高速で中央を進んでいる空母に標準を絞ると、急上昇からの急降下で艦橋近くまで突撃する。
「太平洋艦隊ということは、旗は原子力空母『ロナルド・レーガン』か。ロナルド繋がりとはいえ、こっちのロナルドさんは話をまともに聞いてくれるかどうか不安なんだけれどねぇ」
ジェリコのラッパよろしく一気に艦橋真横まで急降下すると、そこで慣性を無視した急制動を仕掛ける。
──ピシッ
そして艦橋の真横に横付けに飛ぶと、艦長らしき人物に笑顔で軽く手を振る。
その光景には、環境で艦隊を制御していた搭乗員たちも動揺を隠せない。
いきなり拳銃を抜いてマチュアに向けて構える者もいたが、すぐに艦長がそれを制する。
「‥‥君は敵か? それとも味方か?」
勇気を振り絞り窓辺に立つと、艦長であるウォルター・ハリスjr大将がマチュアに英語で問いかける。なのでマチュアね翻訳指輪を通じて英語で一言。
「あなた達にとって、異世界のハイエルフは敵かい? それとも味方かい?」
とだけ返答する。
これにはウォルター艦長は少しだけ思案すると、すぐに警戒命令を解いた。
「あのUMAは君が使役しているのか?」
「No。あれは私にとっても滅ぼす対象です。あれは、この星に昔から存在し、そして今、目覚めて星を破壊しようとしている」
「立派な回答だ。私はこの太平洋艦隊司令を務めているウォルター・ハリスjrだ。ミスエルフ、君の名前はなとんていうんだ?」
「マチュア・ミナセ。所属世界はカリス・マレス、国家はラグナ・マリア帝国所属、カナン魔導連邦国家。私はその初代女王だ、あの化け物が世界を破壊するのを食い止める為にやって来た。どこまで信じてくれるかわからないけれど」
「Goood。あのUMAが共通の敵ならばそれで構わない。出来れば一度ステーツに同行してもらえると助かるのだが」
「それは」また今度。とにかくあの魔獣の様子を見てからでないと。とにかく私に対しては一切攻撃しないで、それなら私もあなた達に手出しはしないから
そう告げて頭を下げると、マチュアは再び加速を開始、目的地であるバイーア・アスンシオンへと飛んで行った。
‥‥‥
‥‥
‥
マチュアがバイーア・アスンシオンに到着した時、既にそこにはウルルドラゴンの姿は見えない。
その場には、ただ焦土と化した建物の残骸や、未だ燃え盛る街並みが広がっている。
無事だった緊急車両が人々の避難誘導を行い、火災を止めるべく消防車も走り回っている。
だが、そこにはウルルドラゴンの姿はどこにも見えない。
──ピッピッ
「ちっ。あそこで艦隊に邪魔されなければまだ間に合ったかも‥‥ノイン、今の分身体の存在位置を教えて」
『了解‥‥ターゲットロスト、位相空間に溶け込んでいると認識します』
「何‥‥だってぇ。単独で位相空間に逃げて動ける化け物かよ。ノインはそのままターゲットのサーチを続行、ララは艦体の修復と魔導ジェネレーターの充電をお願い」
『ノイン了解しました』
『こちらララ。自然界の魔障を吸収する場合、再稼働までは125年ほどかかりますのでマチュアさまの帰還をお待ちします。それと、つい先程から遠巻きに包囲されていますが、これは撃っていいですか?』
「撃っちゃダメぇぇぇ。それどこの艦隊よ」
『マチュアさまの記憶をたどると、アメリカと中国、日本、ロシアの4つの艦隊ですね。どれ撃っていいですか』
「だから撃つなと。防御シールド出力上げて近寄らせないように。空間収納にジャックオーランタンがあるでしょ、あれ全部ひっ張り出してブリッジで稼働させれば魔力放出するからそれで結界を維持、以上、艦隊は全て無視」
『『了解しました』』
──ピッピッ
通信を終えて市街地を見る。
未だ大勢の人々が怪我をしたまま身動きが取れなくなっている。
あまりにも被害が大きすぎる為、救助が間に合わない。
ならばとマチュアも高度を下げると、近くで倒れている人々に近寄って行く。
「私の言葉はわかる? 今怪我を癒しますから」
そう告げて掌をかざすが。
──バジッ
その手かいきなり振りはじかれる。
「おまえも、あのドラゴンの手先じゃないのか‥‥悪魔め」
突然の罵声。
これにはマチュアも動揺してしまう。
そんな事はない。
わたしはあなたたちを助けに来たのに、どうして理解してくれないの‥‥。
私は悪くない‥‥。
なんて事は決して思わない。
「まあ、そう思うのも無理ないけれど、こっちは勝手に回復させてもらうよ、いいから黙って怪我治しておきなさいよっ」
──コンッ
軽く足踏みすると、聖域範囲・完全治療を発動する。
近くで倒れていた人々の傷も、一瞬で癒えていく。
「そんな‥‥悪魔の使いが神の奇蹟を‥‥」
「魔法だって、そんな夢のような‥‥」
完全に傷が癒えた人々はゆっくりと立ち上がる。
自分自身に何が起こっているのか、それを実感し始めた時。
「ほら、とっとと怪我人のところに案内しなさいよっ。私だって魔力が尽きたら治癒の魔法が使えなくなるんだからね」
「「「は、はいっ!!」」」
一斉にマチュアに敬礼すると、男たちは怪我人の運ばれていった避難場所にマチュアを案内した。
そしてマチュアが奇蹟の魔法により怪我人の治療をした事が各国の上層部に通達されるまで、そう時間は掛からなかった。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






