反撃の狼煙・その10・故郷は、遠くにあるて思うもの。近くについたら危機だった。
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目的地であったバルクフェルデスの分身体は、既にカーマインによって解放されていた。
アヴァロンの女王から齎されたその報告を受けて、ツヴァイ一行は急ぎ次の目的地へと旅立つ。
そしてドライ達もまた、オフィル・アニマスの分身体が既に回収されてしまっていたので急ぎ地球に帰還して来た。
「‥‥‥‥」
異世界大使館二階・仮眠室。
今、そこにはマリア・立花が椅子に座って眠っている。
泣き疲れて眠ってしまったらしく、その枕元は涙に濡れていた。
そして一階・事務局では、戻って来たドライ達が三笠からの報告を受けて呆然としている。
「そ、それじゃあ、皇さんと衣波くんは死んでしまったのですか」
「レイフェは意識不明。それでも回収は完了か‥‥」
努めて冷静に告げるドライ。
そして沈黙する事務局内。
誰もが覚悟を決めていた、だが、実際に知人の死が目の前に存在する。
彼らはまだ高校生、未来も希望もあった。
だが、その未来も希望も、全て悪神の眷属によって刈り取られてしまう。
計算外だったのは一つ、彼らは警備ではなく監視者だったという事。
それも自分達から進んでその任務に赴き、緊急時には念話で報告をするように伝えてあった。
だが。
彼らは勇者であった。
この地球の神々は彼らに加護を与えてしまった。
それを、その事実は三笠達にも伝えられていない。
それゆえ、彼らが暴走するなど考えてはいなかった。
「ミアさん、二人の蘇生は可能ですか?」
高畑がミアに問いかける。だが、ミアは天井を見上げて、そして考える。
「可能性はありますが‥‥私の魔力強度では、蘇生の成功率は良くて50%です。この地の神々の許可を私は得られていません。なので‥‥おそらくは蘇生は失敗します」
地球での蘇生。
死者に対しての最終的な権限は、世界神ではなく冥府の神であるプルートゥの管轄。
なので、冥府の神にお伺いを立てなくてはならないのだが、そのお伺いについて世界神はミアには許可を出していない。
出していないという事は声は届かない。
それを振り切って、魔力でねじ込んだところで成功率は50%を切る。
それでもかなりの高確率である。
そして、地球での蘇生については、この世界の神はマチュアにのみ許可を出している。
それは彼女が創造神の眷属であるから。
特例として許可を出しただけなので、その使徒であるミア達には許可を出すつもりはないらしい。
「‥‥そうなると。二人の死体は早めに処理しなくてはなりませんか。ミアさん、封印の水晶柱は発動できますか?」
「い、いえ‥‥まだ古き魔術は使い切れていません‥‥ごめんなさい」
下を向いて落ち込む。
マチュアに認められた賢者の弟子、にも関わらず、ミアは無力だった。
しかし、ミアは決して無力ではない。この場において、死者に対してのみ対処ができないというだけ。それでも、マチュアの弟子として、自分はまだまだであると思い知らされてしまった。
「ドライさん、では私が」
そう告げて、ズブロッカが立ち上がる。
ミアには出来ないが、ズブロッカには出来る事がある。
そのままドライを引き連れて、ズブロッカはマリアたちのいる部屋へと向かって行った。
扉を開き室内に入る。
すでにマリアは眠りから覚めており、椅子に座ってうつむいたまま。
「さて、マリアさんお疲れ様。後は私に任せてもらいますわ」
そう告げてから、ズブロッカはマリアの横に立つ。
一体この女性は何を言っているのか。
マリアは顔を上げてズブロッカを込み上げる。すると、ズブロッカもマリアをちらっと見てほほ笑む。
「あ、あの、まさか、生き返らせられるのですか?」
それは淡い期待。
死者は生き返る事はない、それは地球世界の絶対不変の法則。
だが、マリアはテレビで見た。
マチュアが国会演説で告げたこと。
死者すらマチュアは蘇生してしまう。
つまり、魔法によっても死者は生き返る。
「先に伝えておきますけれど。私では死者の蘇生はできません。けれど、、二人を蘇生できる可能性のある方、マチュアさまが帰って来たら蘇生してもらいましょう。今は、二人の肉体が朽ちないように保存します。貴方はここで見たことは決して表に出してはいけません。二人はまだ研修中で、異世界大使館かカナンにいるという事にしておいてくださいね」
そう告げてから、近くの陰にいた十四郎がスッと姿を現す。
そしてズブロッカの前に二人の死体を並べると、ススッと後ろに下がっていく。
「この程度の傷なら大丈夫ね‥‥遥か精霊界の北方、ユグトの地にある永久氷結よ。かの者達を包む棺となりて、時を止めたまえ‥‥」
──ピシピシッ
すると、二人の周囲に小さな氷が浮かび上がる。
それはゆっくりと二人の死体に纏わりついてその全身をゆっくりと包み込む。
やがて、二人の周囲に透き通った綺麗な棺が作り出されると、その表面が青白く輝き始めた。
「私が作ると棺になるのね‥‥まあ、ここで氷の大樹になられても困ったけれどね。さ、マリアさん、ここは寒くなるから、」
「帰ってきますか? 綾奈さんと疾風くんは帰ってきますか?」
心配そうに問い掛けるマリアだが、ズブロッカは軽くほほ笑む。
「ええ。マチュアさんには不可能という言葉はありませんわ。あの方が何とかしてくれますから。さ、彼らにはしばらく眠って貰って、貴方には貴方にしか出来ない事をしましょうね」
そのまま二人に少しだけの別れを告げて、マリアも部屋から出て行く。
そして外から鍵を掛けると、事務局へと戻って行った。
‥‥‥
‥‥
‥
数日後。
早朝、事務局にゼクスが姿を表した。
「‥‥カナン地下の分身体ですが、防衛に失敗しまして‥‥ですが、結果として報告しますと、何と言いますか、引き分けという感じでして」
──ザワザワッ
その報告には、事務局に詰めていたミアたちも動揺の色が隠せない。
そしてドライは努めて冷静に、ゼクスの報告を聞いている。
「引き分けとは。それで、神核の回収はどうなったのじゃ?」
「ターキーさん、それがですね。私にもよくわからないのですが、何といいますか‥‥黒神竜さまの配下の方が力を貸してくれまして‥‥転移して逃げた分身体の、冥王竜を真っ二つに切断しまして‥‥その場所が、位相空間だったので誰も回収には行けなくなってしまい‥‥つまり、我々でもカーマインでも手に入れる事が出来なくなってしまったのですよ」
そう告げられると、ドライは心なしかほっとした。
「それで、こっちの被害はなしか」
「いえ、ファィズが再起不能です。今はアハツェンが修理を行っていますが、素体から完全に破壊されていまして、マチュアさまに作り直してもらったほうが早いという結論に達しました」
「あらら。ファイズ様もやられるとは。流石は分身体ですわね」
思わず感心してしまうズブロッカだが、その場の誰もがその言葉には納得してしまう。
何分相手は神の分身体、それを相手によくぞ善戦したという所である。
──ドタドタドタッ
すると、ツヴァイ一行もヴィマーナで帰還した。
上空の定位置にヴィマーナを停泊すると、転移門でツヴァイと赤城、十六夜の三人が大使館に戻ってきた。
ウォルフラムたちはヴィマーナにて待機し、非常事態に備えることにした。
そしてズブロッカとワイルドターキーもそれに倣ってヴィマーナへと向かう。
「さて、こっちの状況を説明しますか‥‥」
そう告げてから、ツヴァイはジ・アースとバルクフェルデスでの出来事を掻い摘んで説明する。
その報告を聞いて、三笠は近くのホワイトボードに現在までの戦歴を書き込む。
──キュッキュッ
・カーマインサイド
グランアーク(カーマインの神核)、オフィル・アニマス(カーマイン吸収)
バルクフェルデス(カーマイン回収)
・幻影騎士団サイド
フェルドアース(神核の回収)、ジ・アース(悪魔マチュアの神核)
・マチュアサイド
カルアド(マチュア管理の世界)、
・回収不能
カリス・マレス(位相空間・次元潮流にて消失)
・残りの分身体
ルーンスペース
これを見て、残り一つが勝負というところである。
但し、これはツヴァイ達の見聞きした事実だけであり、実際にバルクフェルデスのカーマイン回収分は、真マチュアの神核として使用されている。
つまりカーマインサイド、幻影騎士団サイド、そしてマチュアサイドが二つずつ所持し、回収不能が一つだけ。
「となると、ルーンスペースに向かうしかないですか」
「‥‥いや、幻影騎士団にはカルアドの警備に向かってもらいます。急ぎストーム様に連絡して、ストーム様にもカルアドで待機してもらいましょう」
ツヴァイがそう告げると、赤城達も驚いた顔になる。
「全戦力でカルアド防衛ですか? ルーンスペースの回収はどなたがするのです?」
その疑問はもっともである。
だが、ツヴァイは確信している。
ここ一番のマチュアの運の強さに、そして自身の故郷であるルーンスペースの危機を、他人に任せるような事はしないと。
今現在雲隠れしているのは、おそらくルーンスペースにいる。
だから連絡が付かないと信じていた。
「マチュア様が居るはずです。あの人が、聖地であるルーンスペースを他人任せにするとは思えませんから」
そう告げるツヴァイ。すると、その頭をポン、と叩く存在が一人。
「まあ、そういう処だな。さて、こっちは神威も回復している、大使館職員を除く幻影騎士団はカルアドのオンネチセにて待機とするか‥‥」
ストームの帰還。
神威を回復して、神の何たるかを学んだストームが帰って来た。
「ス、ストームさん‥‥マチュアさんは、本当にルーンスペースにいるのですか?」
赤城が心配そうに問い掛けるが、ストームはニイッと笑う。
「いるんじゃね? いなけりゃ俺が取り戻すだけだし。という事で、ツヴァイ、ドライ、回収済みの神核を寄越せ」
ツヴァイは十四郎から受け取っていた神核をストームに手渡すと、現在までの状況について説明を行った。
──シュッ
すると、ストームは神核を体内に吸収し、魂と同化させる。
「うっわぁ。その手で来ますか」
「ああ。これで神核を奪いたければ俺を狙ってくるだろうさ。あっちはカーマインとエクストラの二人、そしてやつらが手に入れられそうな神核もカルアドとルーンスペースのみ。どのみち決着つけなくちゃあならない相手なら、これで少しはやりようがあるだろうさ」
そう笑いつつ告げて、ストームは食堂へと向かう。
「はぁ。何でこうもまあ、うちの最終兵器・彼と彼女は余裕なんでしょうねぇ‥‥」
やれやれと首を振るツヴァイに、三笠がポンと肩を叩く。
「あの方たちの部下なら覚悟を決めましょう。といっても、いい方向に向かうとしか思えませんけどね」
すっかりマチュアたちに感化された三笠。
それにはツヴァイもハァ、とため息を吐くしかなかった。
〇 〇 〇 〇 〇
一方、次元潮流をさまよっているマチュアさん御一行。
どうにかなんとかナーヴィス・ロンガの魔導ジェネレーターとマチュアの魔力供給システムを繋ぎ終え、今はそのチャージ中。
再起動分のエネルギーが集まるまでは、この多次元宇宙の海を彷徨って行くしかなかったのだが。
途中で一方通行の次元潮流に乗っかってしまい、現在は高速で絶賛漂流中。
──ミシミシミシッ
どこからともなく聞こえてくる、不穏当な音。
これにはマチュアもターラーリと冷や汗を流す。
「ララ、今の音はなにかな~」
コンソールシートで艦内チェックを始めるララ。すると正面モニターにナーヴィス・ロンガの全体図が映し出され、あちこちに丸いチェックポイントが表示された。
「あ~、とうとう表面装甲に亀裂が出来ましたか。こりゃあ、沈みますね」
ウンウンと頷いているノインツェーン、そしてララもあきらめた顔でモニターを見ていた。
「そ、それはどういうことかな?」
「簡単に説明しますと、船全体が老朽化していまして、まあ、大丈夫ですよ、後10分程でこの船、圧壊しておしまいですから」
「大丈夫な筈あるかぁ!! 至急次元浮上開始、ここの座標軸で急速浮上したらどこに出る?」
慌てて指示を飛ばすマチュアとに、ノインとララはすぐさま魔導ジェネレーターを緊急起動。たまっているエネルギーすべてを回して次元潜航から脱出を開始した。
「あ~、ぎりぎりかな? 何とか潮流から抜けられるかな? どっかの世界に浮上しますが構いませんよね?」
あっさりと呟くノインに、マチュアは手を振って一言。
「どこでもいいから、とっとと浮上してぇぇぇぇぇ。神様助けてぇぇぇ」
「「あんたが神様でしょうが」」
そう冷たく言い放つと、ノインとララはナーヴィス・ロンガを緊急浮上させる。
そして次元潮流から抜けたナーヴィス・ロンガは、どこかの世界の、どこかの海上10mに姿を表し、そして着水して停止する。
──ザッバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン
「ナーヴィス・ロンガ、魔導ジェネレーター停止。緊急用サブシステムの起動を確認、艦体に防御結界を発動しました」
「艦体の亀裂は225箇所、浸水こそしませんが航行不能です」
次々と報告を始めるララとノイン。そしてマチュアも急ぎコンソール席について、艦体のチェックを始めた。
「うっひゃあ、この世界魔障濃度が殆どないぞ。これはあれか、地球のどっかの海か‥‥何にせよ助かったわ‥‥ツヴァイ聞こえるかい?」
すぐさま耳の水晶に指をあてて念話を送るマチュア。
だが、それはツヴァイには届いていない。
「あっれ? ツヴァイは留守か。なら‥‥三笠さん聞こえますか?」
──シーン
またしても反応はない。
そして表情が固まったマチュアに、ノインは非情な通達を始める。
「座標軸確定。世界名はルーンスペース、現在座標は地球座標において北緯29.5度、東経150度の太平洋上です‥‥」
まさかの故郷凱旋。
これにはマチュアも顎がカクンと開いていた。
「あっちゃあ‥‥もう帰って来れないとは思っていたけれど、こんな形で帰って来たかぁ」
「ええ、ついでにもう一つ。現在、この惑星において無貌の神の分身体が活性化している模様です。現在座標は北緯27度、西経114度、メキシコのバイーア・アスシオンに向かって海上を移動中です」
「ふぁ? 今何つった?」
「無貌の神の分身体が活性化してます。それに、何か取り込んでいて、もう暴走状態ですねぇ‥‥それ以上は魔導ジェネレーターの出力が足りないのでって‥‥」
その報告の直後、マチュアは艦橋から飛び出す。
そしてナーヴィス・ロンガの外に出ると、すぐさま箒を空間収納から取り出して飛び乗った。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






