日常と非日常・その8・漂流と進撃と
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
次元潜航して多次元の海をゆっくりと進むナーヴィス・ロンガ。
移動速度は他の浮遊戦艦よりも遅いらしく、ララ曰く目的座標軸までは今しばらく掛かるらしい。
ちなみにこの多次元の海、別名を位相空間とも多次元宇宙とも呼ばれている。これは創造神の8つの世界全てと繋がっているらしく、ここを通り抜ける事でいかなる結界をも無効化出来るという優れものらしい。
この空間の、神族が通る場所が『白亜の回廊』であり、それ以外の魔力や魔障、エーテル、その他様々な根幹物質が流れている空間が位相空間、もしくは多次元宇宙という括りになっているらしい。
浮遊戦艦シリーズはその殆どが多次元宇宙に潜航し、目的地に向かってショートカットする能力を持っている。
もっとも、多次元宇宙では生身の人間は生存する事が出来ず、浮遊戦艦の結界を越えた時点で、それは『生命体でない存在』となり消滅してしまう。
そんな危険な空間を、ナーヴィス・ロンガはゆっくりと進んでいたのだが。
‥‥‥
‥‥
‥
「‥‥マチュア様、ちょっとややこしい事態が発生しています」
艦橋中央正面にある集中制御席に座っているララが、後ろの艦長席でのんびりとティータイムしているマチュアにそう呟く。
マチュアとノインツェーンの会話を聞いているうちに、ララも元々の人間のような言語能力を獲得しているのは幸いである。
ちなみにノインツェーンはというと、右側コンソール席に座ってナーヴィス・ロンガをはじめとした浮遊戦艦シリーズのデータ収集と解析を担当しているところであった。
「ふぁ? 何かあったの?」
「はい‥‥燃料切れです。もう動けません、このまま時空の波に乗っかってどっかに流れていきますがどうしますか?」
多次元の海に漂う根幹物質の一つ、時空波動。ララいわく、ナーヴィス・ロンガの魔導ジェネレーターの燃料が先ほど枯渇したので、あとはこの多次元宇宙を流れている時空波動に流されてどっか行くということらしい。
「え? なんで燃料切れ?」
「そもそも、このナーヴィス・ロンガは蓄積されていた魔力で動いています。中央にある魔導ジェネレーターが魔力を媒体として船体各部にエネルギー供給しているのですが、長い年月の間に蓄積していた魔力が自然消滅していまして。魔神マチュア殿の命令で次元潜航を開始したまでは良かったのですが、そのあとは残りわずかの魔力で動いていたのでして」
「ふぅん。それって、どうやって回復するの?」
「普段なら、乗組員の魔力を少しずつ吸収し、魔導ジェネレーターに送られて増幅することでエネルギーは作り出されているのですが、今のナーヴィス・ロンガには、生命体はマチュア様しかいないので‥‥」
成程。
それはマチュアも納得である。
「なら、私から吸収すればいいんでない?」
「元々のシステムでは、一人から大量に吸収するような設定はしていないのですよ。ですので、今しばらく、魔力供給システム部分の改造が終わるまでは、このまま漂う事になります」
「‥‥ま、いいんでない? どっか訳の分からない所に流れていく訳でもないし」
「‥‥‥‥」
「あの~、なんで沈黙? そこは、そうですねと肯定するところじゃない?」
そう問い返すものの、ララは首を左右に振る。
「この多次元の海ですが、実はそれぞれの創造神によって管理されている8つの世界を越える事の出来る、唯一のバイパスでもありまして。これを伝わることで、他創造神の世界から異世界転生が行われる事もあってですね‥‥」
──ツツ‥‥
マチュアの頬を冷や汗が伝わっていく。
「そ、それはつまり、どういうことなのかな?」
「早く改造を終わらせないと、このまま隣の創造神様の所に流れていきます。ちなみに、多次元の海は一方通行の場所もありまして、本来のナーヴィス・ロンガの出力ならそこを逆流する事も可能ですが、今は流れが強過ぎまして‥‥」
「うひゃぁ、深淵の書庫起動、ナーヴィス・ロンガ中枢とダイレクトリンク。魔導ジェネレータに私の魔力を供給できる回路を形成‥‥うっわ、78時間かぁ‥‥」
深淵の書庫に表示されている改造必要時間は78時間。それでなんとかナーヴィス・ロンガはマチュアの魔力で稼働可能となる。
後は運を天に任せて‥‥。
「神様、出来れば早く修復して‥‥って、私も神様だよ畜生!! これって私の神様パウワーで何とかならないの? ノイン、あんたの中のディーヴァに聞いてみて」
「パウワーって‥‥パワーですか、イエッサー‥‥あ、マチュアさまは何処の世界にも登録されていない新しい神様なので人々の信仰心が足りないので『神様パウワー』が少ないそうですよ。ディーヴァが、ざまあって笑ってます」
「あんの野郎‥‥こう見えても、私はカルアドの秩序神だよ?」
「そのカルアドで生まれた純粋な人間は、地球から移民した人々のみで現在23名ですが‥‥すべて大地母神である女神に力が集まっていますね?」
思わず頭を押さえて苦悩するマチュア。
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。誰か私を信じてよぉぉぉぉぉ」
「カナン魔導連邦の人々はマチュアさまを信じていますけれど、信仰心ではありませんからねぇ」
「あ‥‥詰んだ。もういいわ。78時間で直るのを祈っていましょ。私もう寝るわ」
そう呟いて、マチュアは深淵の書庫に閉じ籠った。
「‥‥何で、自分だけ転移門で逃げようと考えないのでしょうねぇ」
コンソールに映っている数々の浮遊戦艦をチェックしながら、ノインがボソッと呟くが。
「私達を置いていきたくはないのでしょう。それに、こんな危険なものを放置したくはないのでは?」
「そうかもねぇ。まあ、私は今しばらくは命令通り解析を続けますよ」
そう呟いてから、ノインもマチュアのように空間収納からポットとティーカップを取り出してのんびりとティータイムを始める。
その光景を眺めつつも、ララはしっかりと魔導ジェネレーターの調整準備を開始していた。
〇 〇 〇 〇 〇
場所は変わってヴィマーナ。
司令室中央にある制御コンソールで、ツヴァイは深淵の書庫を展開している。
ストームの命令で、カルバリィの地と繋がっているレイラインの監視をずっと行っていた。
そして、その地の位相空間に眠っている『無貌の神の分身体』を、じっと監視している状態であった。
「‥‥未だ動きはないですね。しかし、ここまでしっかりとした神威結界では、さすがのストーム様でも触れる事さえ出来ないとは。この世界の神々は、そこまで強い権限を‥‥と、それは邪推ですか。無貌の神は破壊神ですから、いかなる世界の神々も、触れること許さずという所でしたか」
ブツブツと独り言をつぶやいているツヴァイ。
すると、監視対象である聖墳墓教会周辺で何か騒々しい出来事が起こっているのに気が付いた。
「大勢の人が集まっていますか‥‥体内保有魔力から察するに、教会についている修道士たちのようですねぇ。多い人で18か。まあ、この世界の生臭修道士としてはいいスコア叩きだしていますが‥‥ってあれ?」
ツヴァイが眼をこすってから、もう一度モニターを眺める。
聖墳墓教会地下にある石棺周辺に、突然膨大な魔力が発生している。
「ふわ‥‥保有魔力50万超えですって? ちょっと待ったぁあぁぁ」
すぐさまストームに念話で連絡を入れる。するとちょうど地上区画で訓練をしていたらしく、全速力で走ってきた。
そのストームの後ろには、しっかりとレイフェの姿もあったのだが、ツヴァイはそこに気付かずにストームに向かって一言。
「マチュア様クラスの魔力保有存在が発生しました。例のカルバリィの石棺近辺です」
「へぇ。マチュアクラスとはまた冗談にしてはシャレになっていないなぁ‥‥」
ふと空を見上げるストーム。
そしてその場から神界に交信を行ってみるが、この地ではエーリュシオンの神域までは交信できない。
「チッ。真偽のほどは定かではないか。ちょいと見てくるわ」
「見てくるって言いますけれど、ストームさまは転移覚えたのですか?」
突然の問いかけ。
だが、ストームは首を左右に振る。
「んにゃ。俺は魔導士の才能はない。だから、精霊の力を借りる‥‥精霊の散歩道発動‥‥と」
──ヒュゥゥゥゥゥゥン
ストームの足元に魔法陣が広がり植物が芽吹く。
それはやがてフェアリィサークルを作り出すと、ストームを包み込んで消滅した。
「うわわ、話には聞いていましたが、これが精霊の散歩道ですか‥‥」
ストームのいた足元をそっとなぞるツヴァイ。残された魔力の残滓をさっと解析するが、伝承精霊魔術である精霊の散歩道はツヴァイでは解析不能コードになっていた。
そしてツヴァイの横に立っているレイフェはというと。
──キィィィィィィィィィン
レイフェの足元に魔法陣が展開する。それは先ほどストームが発動した精霊の散歩道の魔法陣。
やがてポコッ、ボコッと植物が芽吹き、見る見るうちに成長していく。
「それいけレッツゴー!!」
そう叫ぶや否や、成長した植物は立派なトウモロコシを実らせ始めた。
「あ、あれれ? ツヴァイ姉さま、転移できませんよ?」
「‥‥はぁ。ほんとうにあなたはポンコツなのですね。レイフェ、精霊との契約は?」
やれやれと頭を抱えつつ、レイフェに問いかけるツヴァイ。すると、レイフェも元気よくフルフルと首を左右に振る。
「精霊が見えません!!」
「当たり前だ馬鹿たれ。そもそもストーム様とマチュア様とスキルリンクしていても、契約その他は別物なのですよ。レイフェは独自に精霊と契約しなくては駄目です。それに、スキルリンクしたからといって、二人の技を真似てはいけません。そもそもの素体が違いすぎますし、実戦経験も足りません。あなたは今しばらくは基礎訓練に集中してください‥‥聞いていますか?」
そうクドクドと説教しているツヴァイだが、レイフェはどこ吹く風とトウモロコシの収穫を行っていた。
「見てくださいツヴァイ姉さま、とっても甘そうですよ」
「はぁ‥‥何でこんなに馬鹿な子なんでしょうかねぇ‥‥」
やれやれと困り果てているツヴァイをよそに、レイフェはトウモロコシを抱えてて厨房へと走って行った。
‥‥‥
‥‥
‥
エルサレム、聖墳墓教会地下。
一般開放されている中央ドームにある墳墓ではなく、その地下にある関係者以外立ち入り禁止の結界区画。
その正面で、修道士の姿に身を包んだエクストラが、石棺に手を差し出している。
「深淵の書庫発動‥‥へぇ。地球の管理神の神威結界か。こんなもので無貌の神の分身体を封じられると思っているのがお笑いですねぇ‥‥」
クックックッと笑みを浮かべつつ、エクストラは右手から光の糸を発する。
それはゆっくりと石棺に纏わりつくと、その表面に張り巡らされている結界をゆっくりと締め付けていく。
──ミシッ、ミシシッ‥‥
結界はみしみしと音を立てていく。やがてその表面に少しずつ亀裂が走っていった時。
──ズバァァァァァァッ
エクストラの背後の空間からストームが飛び出すと、エクストラの発していた光の糸を真っ二つに切断していった。
ブチブヂブチッと音を立てて切れていく糸。それを右手を返して回収すると、エクストラはストームから瞬時に間合いを取って身構えた。
「‥‥ストームですか。初めまして」
「何だマチュアかと思ったらどこぞの魔族か。波長はアーカムと同じだが、別人だな‥‥お前、誰だ?」
アヴァロンで身につけた魂を見極める瞳。それでエクストラの魂の波長を識別したのだが、どうも波長が以前見たアーカムと同じように感じている。
だが、どう見ても別人。そこがストームには腑に落ちないらしい。
「初めまして‥‥って、先程も挨拶はしましたよね? 私はエクストラと申します。偉大なる無貌の神・ナイアール様の分身体を回収する為にこの地にやって参りました。ですが、どうも相手が悪いようで」
瞬時に全身鎧を身に着けるエクストラ。それに合わせて、ストームも白銀の鎧と力の盾、カリバーンを身構えた。
「ああ。あんたが無貌の神サイドという事は敵認定だ。悪いが、ここで消滅してもらう」
「それはお・こ・と・わ・り」
チッチッチッと人差し指を立てて左右に振る。それと同時に、エクストラの背後に4本の剣が生み出された。
「ここでみすみすやられる訳にはいかなくてね。『踊れ、剣よ。かの敵を滅ぼしなさい‥‥』」
──ヒュヒュヒュンッ
高速でストームに飛来していく剣達。だが、その攻撃をストームは次々と受け止め、流し、躱していく。
だが、あまりにも執拗な攻撃に、ストームも防戦状態のまま手が出せないでいる。
「‥‥その剣はただの剣じゃないわよ。英霊召喚によって生み出されたグラム、ティルフィング、フロッティ、エッケザックス‥‥元地球人のあなたならわかるわよね? かの地の聖剣たちよ‥‥」
「て、てめぇっ!! 俺の事を知っているのか!!」
いつになく感情をあらわにするストーム。だが、エクストラはクスクスと笑いつつスーッと消えていく。
「さようなら三三矢・善。またお会いしましょう‥‥」
──ヒュンッ
刹那、エクストラはその場から消滅した。
そして召喚された剣達も同時にフッと消えていくと、その場にはストームだけがじっと立ち止まっていた。
「俺の事を知っている‥‥ただの魔族じゃない、何だあいつは‥‥」
グッと拳を握り締めつつ、ストームが呟く。
そして今一度、エクストラの襲撃に対処する為、いったんヴィマーナに精霊の散歩道で転移して行った。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






