日常と非日常・その4 目の前の危機と、遠くの平穏
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
異世界大使館いつもの日常。
朝一番でゲートルームから訪れる小野寺防衛大臣と蒲生副総理が、いつものように事務局の応接室でのんびりとお茶を飲んでいる。
二人の目の前には、三笠と斑目の二人が、やはり同じようにお茶を飲んでいた。
ちなみに現在の幻影騎士団の勤務シフトは、以前のように王城勤務シフトが復活している。
そのためズブロッカとワイルドターキーが現在は王城勤務、上空のヴィマーナ勤務はストームとポイポイがついている。
赤城と十六夜はアメリゴとルシア勤務が終了したため異世界大使館勤務となり、ミアは緊急時対応の為に異世界大使館常駐に切り替えられている。
もっとも、異世界大使館常駐には赤城と十六夜がいるので、斑目とミアは休暇扱いでのんびりとしていたのだが。
「さて。そろそろ本題に入っていただいても構いませんよ? 小野寺さん」
大使館に来てしばし雑談をしていた小野寺に対して、三笠がそう促す。すると小野寺も腹を括ったように、三笠と班目に一言。
「学術的研究資料として、浮遊大陸を一つ国連管轄として寄贈していただきたい」
「はい、お断りします」
丁寧に頭を下げる小野寺に対して、きっぱりと言い切る三笠。
これには蒲生もニヤニヤと笑うしかない。
「な、だからあきらめろって。先日の異世界大使館の公式発表で、地球には関与しないって話していただろうが」
「ですが、今現在、この地球上で魔族と戦うための手段を持っているのは異世界大使館だけなのです。それゆえ、我々としても、異世界大使館に頼ることなく、自らの力で対抗する手段が必要であるという結論になったのです。現に、国連安保理事会では、異世界の魔術に関しての知識を得る手段を探すという方向で意見は一致しています」
そう告げてはいるものの、三笠とて何も裏事情を知らない訳ではない。
吉成と高畑を通じて、国連関係の動きはある程度熟知はしている。
そのため、中国が独自ルートで異世界グランアークに向かっている事、向こうの関係者と通じている事なども報告は受けている。
「では、中国に協力を求めるのがよろしいかと。相手はグランアークの魔族です。同じくグランアークに転移門を持っている中国なら、色々と対抗策を知っているのではないですか?」
「それがなぁ、中国はオーストラリア相手に賠償請求を仕掛けていて、それどころじゃないんだわ。あそこの国がグランアークとつながっている転移門を持っているのはすでに世界レベルで広まっている。そのため、同じように恩恵に預かろうとしている諸外国が交渉をしている所で、とてもじゃないが魔術云々についての技術供与出来るだけの余裕がないというのが公式意見らしい」
蒲生がややあきれた声で告げる。
その横でも小野寺は何度も頭を下げている。
「それにしても、国連本部からの担当官や常任理事国の代表が頭を下げに来るのならいざ知らず、どうして日本の、それも小野寺さんが?」
そう問いかけると、小野寺の顔にぶわっと汗が吹き出した。
「そ、それはその‥‥」
「国連大使に対して、日本と異世界カリス・マレスは友好国である。私が一肌脱ぎましょうって言い切ったんだとさ。馬鹿だよなぁ」
あ、そういう事。
それなら仕方ありませんねぇ……などという言葉がここで出る筈はない。
「まあ、成果なしという事で報告をお願いします」
努めて冷静に告げる三笠。これには斑目もウンウンと頷いている。
「そ、そんな事をしたら、私の体面といいますか、日本国の面子が潰れてしまいます……そこをなんとか」
必死に頭を下げる小野寺だが、三笠の態度は変わらない。
「まあ、素直に報告するのが一番かと。そもそも、魔術を学んでみた所で、すぐに実戦レベルで使用出来る程のスキルレベルを得られるとは思えませんが。そもそもの問題として……」
「魔力が少なすぎるであろう。後、秘薬の問題もあるからのう。今から訓練を始めたとして、実戦に耐えうるだけの魔術を身につけるまでは一年以上は掛かると見たがいかに?」
「ということだ。小野寺、素直に諦めろや、俺たちの世界には稀少度の高い秘薬なんてないだろうが。それをどうやって用意するっていうんだ?」
三笠と斑目、そして蒲生までもがそう告げるが、小野寺は汗を拭いつつ一言。
「秘薬はカリス・マレスからの輸入でなんとか。スキルレベルというのはわかりませんが?こう、魔力を増幅するようなマジックアイテムの貸与で……」
この余りにも他人任せな交渉に、三笠は静かに席を立つ。
「お話になりませんね。ではこれでこの話はなかった事で……」
それだけを告げて、三笠は事務局に戻って行く。
──ズズズッ
その姿をチラリとみながら、斑目もウンウンと頷いている。
「ま、斑目さん、何とか三笠さんを説得出来ませんか?」
「無駄だって言ってるだろうが。な、斑目さんもそう思うだろ?」
蒲生が同意を求める。すると斑目が一言。
「白銀の賢者が宣誓した事を覆せるのは白銀の賢者のみ。つまり、第三者が何と言おうと、マチュア殿が協力を約束しない限りは不可能である。これはラグナ・マリア帝国において絶対……例え皇帝陛下の命令であろうとも、賢者が認めなくては無理じゃなぁ」
その言葉にガクッと項垂れる小野寺。
「はぁ〜。見栄を張ってあんな事を言わなければよかった……」
「ま、後悔先に立たずと申しますしのう。後は地球産冒険者にでも仕事の依頼をするがよいかと」
「え?」
班目、まさかの助言。
これには小野寺も頭をあげるが。
「何を驚く事があるんだ? 冒険者ギルドに依頼を出すだけだろう?前にもマム・マチュアが言ってたじゃねーか」
蒲生が悪い笑みを浮かべて呟く。これには斑目も無言で頷いている。
「そ!それでは秘薬の件やマジックアイテムの貸与なども?」
「秘薬は無理でしょうなぁ。輸出制限が掛かっていますし。後、マジックアイテムの貸与なども不可能。魔力を増幅するような魔道具など、拙者も聞いた事がないでござるよ。あったとしても魔導遺物品クラス、貸与には日本円で億単位でしょうな」
絶望しかない。
それだけの予算があったなら、結界装置をレンタルした方がましである。
つまりそういう事。
「さて、本日のご用件はこれでおしまいですかな?」
「いえ、あの、レムリアーナの件ですが、せめて内部調査だけでもお願いしたかったのですよ」
まだ話があったのかと驚く所であるが、斑目がウンウンと頷いて一言。
「あれはもう譲渡してしまったからのう」
「「え?」」
蒲生と小野寺は一瞬耳を疑う。
「い、いま、譲渡といいましたか?」
「へぇ。そいつは初耳だなぁ。それはいったいどこにだい?」
「ラグナ・マリア帝国、ミスト連邦に譲渡した。今は王城上空に浮いておるが、何か問題でも?
」
そう告げる斑目に、蒲生はホッと胸をなでおろす。
「なんでぇ、ラグナ・マリア帝国かよ。俺はまた、地球のどこかにやっちまったのかと心配したじゃねぇか」
「あれだけお願いしていたのに、あっさりと譲渡だなんて‥‥」
あっさりしている蒲生とブツブツ呟いている小野寺。
しかし、斑目はあっさりと一言。
「ストーム殿の国も同じラグナ・マリア帝国の一国。同じラグナ・マリア帝国のミスト女王の国に譲渡して何か問題でも?」
「ああ、ないな。全く問題ない。という事で帰るぞ小野寺」
パン、と小野寺の背中をたたく蒲生。
「で、では、ヴィマーナはどうするのですか? あれもどこかに譲渡するのですか?」
「譲渡もなにも、あれは幻影騎士団のものであるからなぁ。という事で、所属はベルナー王国、シルヴィー女王の管理下である、という事でご理解いただけましたかな」
はい、小野寺の希望すべて消えました。
瞳から生気が消え去った小野寺。そのまま蒲生に連れられて転移門を越えての帰還となりましたとさ。
〇 〇 〇 〇 〇
一方、ヴィマーナでは
──キィィィィィィィィィィィィン
ヴィマーナ司令室、中央管制システム正面。
ツヴァイはストームに頼まれて深淵の書庫を起動、それをヴィマーナの中央制御脳と直接リンクさせていた。
ヴィマーナの能力の一つである『多次元探査能力』、これを使う事で地球にある筈の『無貌の神の分身体』がどこにあるのか探査している所であった。
多次元探査能力は、元々ヴィマーナに搭載されていた能力であったのだが、それを使用するには魔力が足りない。
そのため、ツヴァイがヴィマーナと深淵の書庫を通じて接続し、足りない魔力を補充していたのである。
「それで、どうなんだ?」
後ろの席でのんびりと大福を食べているストーム。
ツヴァイはじっと深淵の書庫に表示されているデータを逐一解析し、地球の地図と細かく照らし合わせている。
「えぇっとですね。この地球には結構な数の古代魔導具が残っているのですね。ここ、アララト山脈に一つ、グランドブリテンに二つ、中国にも一つ。日本には龍脈がしっかりと流れていますし、ええっと、惑星全体でいうのでしたら、しっかりとレイ・ラインは存在していますね?」
淡々と専門用語を告げているツヴァイだが、ストームにはチンプンカンプンである。
「レイ・ラインしかわからんな。星に流れる力ってやつだろ?」
「まあ間違いではありませんね。私達の世界で言う魔力路とか、マナラインと呼ばれているものです。自然界に存在する魔障の発生源であり、それは世界全域に流れています。決して目に見えるものではなく、しかし魔力視を持つものならば見る事が出来るもの‥‥そのライン上には、古代魔法王国の遺跡や遺物などが存在するのです。ちなみにカナン魔導王国もマナラインの真上に位置するそうですよ」
そう補足するツヴァイ。
そしてグッと気を引き締めてストームに一言。
「そのレイライン上にですが、一か所だけ異質なものがあります。この惑星固有の魔力ではない、どちらかというとカリス・マレスやグラン・アーク系の魔障の渦のようなものがありまして」
──ガタッ
「それだ、それは何処だ?」
「ええっとですね‥‥カルヴァリーという地ですが」
「カルバリー? いやいや、それって‥‥ゴルゴダの丘?」
そう呟くストームに、ツヴァイはコクリと頷いた。
「どうしますか? 行きます? イスラエル、聖地エルサレムへ」
そう問いかけるものの、ストームは腕を組んで考えてしまう。
地球人であった知識、そしてその名前。
手を出していいか悪いかなどわかり切っている。
この場合、相手があまりにも悪すぎである。
──ガタッ
そしてストームが考え込んでいる最中、その扉の外を偶然歩いていたレイフェが頭を捻りつつ外に歩いて行った。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






