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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

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日常と非日常・その3 放浪と暗躍と進退と

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ここはどこだろう。

 何故私はここにいるのだろう‥‥。

 そんなことを考えていた時代が、私にもありました‥‥。


──カリス・マレス、ヴァンドール大陸

 復興してまだまもないアルマロス公国公都を、マチュアはのんびりと歩いている。

 何故ここにきたのか、どうしてここにいるのか、マチュアには判らない。

 ただ、ここに来る必要があったとしか言えない。

「はっはっはっ。なんで私はここにいるのやら。それに、亜神だと思ったのに、肉体がすっかり神々しく再生しているし‥‥いろいろとスペックがおかしくなっているぞ、記憶もぐちゃぐちゃだしなぁ」

 のんびりと散策しつつ、中央街道を歩いている。

 ときおりウィンドゥを展開して自分の状況を調べたり、空間収納チェストメニューを展開して中に収められているアイテムを調べて、そのあまりにも多過ぎる品目に眩暈を覚えて閉じたりと、とにかく忙しい。

 取り敢えず空腹を紛らわせるために、近くにあった露店から漂ってくる焼けた肉の香りににふらふらと引き寄せられる。

 そのままワイルドボアの串焼きを10本購入すると、近くにあるベンチに腰かけてちょっと遅めのランチタイム。

 アツアツの肉にかじりつき、ホフホフッと串焼きを食べている。すると、どこからともなくマチュアの方に向けられている視線を感じ取った。


「ん‥‥知覚能力が上がっているなぁ‥‥数は5人か」

 視線をそっちに向けないようにしつつ、感覚と周囲に漂っている魔障から相手を視認する。

 以前のマチュアでは出来なかった芸当である。

 その結果、近くの建物の影、路地裏からマチュアの方をじっと見ている5人の子供たちの姿を確認することができた。

 視線の先はマチュアと、傍らに置いてある串焼きの入っている袋。

 子供たちの服装はボロボロで、戦災孤児か、それとも何らかの理由で両親を失ったのか。


──チョイチョイ

 その子供たちにマチュアは手招きをすると、それまで物欲しそうに見ていた子供たちがワッ、と駆け寄ってくる。

「私は一本で充分。残りはあなた達にあげるわ」

 そう告げながら、一番年上らしき女の子に袋ごと手渡す。

 だが、受け取った女の子はじっと袋とマチュアの顔を見る。

「どうして‥‥」

「さあ? 君たちはどこに住んでいるの?」

「裏路地にある孤児院です。今日は仕事がなかったから、晩御飯がなくて‥‥」

「それで、残ったものをもらいに来ました」

 一番下らしい子が、モジモジと恥ずかしそうに告げる。

「そっか。仕事っていっても、君達ぐらいの子供にどんな仕事が?」

「町の掃除とか、ごみの処理とか‥‥」

「解体した動物や魔物を焼却場に持っていったり」

「荷物運びとか‥‥」


 あ、まともな仕事をしているんだ。

 なら、私が手を出す必要はないなぁ。

 そんな事を考えていると、袋を持っていた子供がマチュアに頭を下げる。

「ありがとうございます」


「「「「ありがとうございます」」」」

 

 みんなが一斉に頭を下げて、また路地裏へと歩いて行く。

 それを見送ってから、マチュアは再び自分自身について調べ始めた。

「しっかし‥‥これはどうしたものかなぁ」


──フッ

 手元に魂の護符ソウルプレートを取り出して確認する。

 白金に輝く魂の護符(ソウルプレートには、しっかりととんでもないものが書き込まれていた。


『種族:神族(創造神の眷属/無貌の神の半神)』


「わっはっは。記憶もすっかり混乱しているぞ‥‥えーっと」

 ゆっくりと目を閉じて、意識を魂にまで沈みこませる。

 自分の深層意識の奥底にいる何か。

 それに気が付いたとき、突然マチュアと意識がそれと入れ替わる。


──スゥゥゥゥゥゥゥッ

 マチュアの目つきが吊り上がり、全身がゆっくりと褐色に染まって行く。

 側頭部の左右には魔族特有のねじ曲がった角が前方に向かってスーッと生み出され、マチュアは慌ててローブを被ってそれをごまかす。

「さて、邪魔な本体の意識は沈んだから、ここからは私の出番よね‥‥ナーヴィス・ロンガの回収‥‥と。あれは危険なものと判断‥‥あっちか」

 王城の更に向こう、巨大な山脈に向かってゆっくりと歩き始める。

 その向こうにある坑道地下に眠っている破滅の戦艦を回収する為に。


‥‥‥

‥‥


 アルマロス公国・イェット山脈・公営坑道

 第二十一坑道、アルマロス公国独立の際に、ヴァンドール帝国に無償譲渡された鉱区。

 その坑道入り口は帝国騎士たちにがっちりと警護され、許可なき者の侵入を拒んでいる。

 その遥か地下最下層では、ストレイ博士とメルヴィラー女史が破滅の戦艦ナーヴィス・ロンガの発掘作業を続けていた。

 表向きは帝国考古学省に所属するストレイとメルヴィラーだが、その背後ではオネスティが暗躍を続けている。

 一時期は発掘が中止されていたものの、ここ最近になって発掘作業は再開された。

 現在、掘り起こされたナーヴィス・ロンガの艦橋部分は、大勢の魔術師たちによって解呪作業が続けられていたのだが。


「今だ解決策が見いだせないとは。帝国最強の解呪師とは、よくも言ったものだなぁ」

 腕を組んでブツブツと文句をいっているストレイ。目の前の魔術師たちが今だ成果を上げていないのが余程気に入らないのだろう。

 その後ろでメルヴィラーは、丁度飛来してきた一枚羽のクサリヘビを指先に休ませて、何やら話をしている最中であった。


「そう。ヨギ導師からそんな報告があったの‥‥」

『ええ。ブライアン達は浮遊戦艦を全て失ってしまったそうでして。急ぎナーヴィス・ロンガの発掘を進めて欲しいと』

 クサリヘビから発せられている声は、ある少女。

「そう簡単に言われても、魔導制御球もない状態では、あの戦艦を浮上なんてさせられませんわよ。周辺の土壌にもそれらしい魔導具は埋まっていませんし、せめてレムリアーナの魔導制御球でも残っていれば、それで扉ぐらいなら開けるかもと‥‥」

『レムリアーナの制御球はブライアンが所持していると聞きましたわ。では、私からヨギ導師に使いをだしておきましょう。後、直接ブライアンをそちらに送ります‥‥急ぎ、ナーヴィス・ロンガを解呪してください』

「それは‥‥ええ。ですがララ様、何故あなたがここにいらっしゃらないのですか? ナーヴィス・ロンガはあなたの本体ではありませんか?」

 そう問いかけるメルヴィラーだが、ララと呼ばれた少女の返答はない。

『また連絡します。それまでは発掘作業を続けてください』

「かしこまりましたわ‥‥」


──パタパタパタパタパタ

 メルヴィラーの指からクサリヘビが飛び立つ。

 それはゆっくりと上昇して天井にスーッと消えていった。


「さて。ララ様が動けるようにするためには、一刻も早くナーヴィス・ロンガを起動させなくてはならない‥‥シルベスター様の命令でもありますから、急ぎ何とかしなくてはならないのですけれどねぇ‥‥」

 メルヴィラーがブツブツと文句を言いつつ、傍らにある椅子に座る。

 目の前では解呪師たちに発破をかけているストレイ。

 これ以上発掘作業が進まなくなっているのをメルヴィラーは知っていた。

 なら、今はブライアンがやって来るのをじっと待つしかない。

 

「報告では、私とシルベスター様、ポルトロン、そしてジェネラ以外は幹部魔族は残っていないのよねぇ。まあ、この国を解放したマチュアももういなくなった事ですし、オネスティとしてもやりやすくなったでしょうね‥‥」

 そう呟いていると、ストレイが真っ赤な顔で戻ってくる。

「全く。どれだけ高い給料を支払っていると思っているんだ。とっとと解呪しろと‥‥」

「ええ。その通りですわ。つい先ほど、私の知り合いの解呪師がこちらに向かってくれたそうです。その方が到着したら、この坑道全域に付与されている封印魔術も解呪出来ます。それまでは、のんびりと待つ事にしましょう」

 にこやかに次げるメルヴィラー。するとストレイも、先程までの怒りがスッと静まったのか、笑顔を見せながらメルヴィラーの隣に座る。

 手にした石板を机の上に置くと、ウンウンと何か納得した表情で頷いた。

「そうかそうか。これで、この大地に眠る遺跡が一つ解放される。魔導考古学者として、これ程の発見を、私の名前で公表出来る‥‥一刻も早くこのナーヴィス・ロンガを掘り起こし、皇帝陛下に献上しなくてはなぁ」

 パンパンと膝をたたくストレイ。

 そしてすぐさま立ち上がると、スタスタとテントまで戻って行った。

 そして解呪師達も仕事を切り上げて宿舎へと戻って行くのを確認してから、メルヴィラーは残された石板を手に取る。


「オネスティ幹部も魔族。それはこの大陸では特に問題はないわ‥‥けれど、それがこのカリス・マレスではなくグランアークの魔族だと知ったら、ここの皇帝はどんな顔をするでしょうねぇ‥‥」

 石碑に記されている文字はグランアークのもの。

 それゆえ、この大陸の、この世界の者が解読出来る筈がない。


 かつて、グランアーク崩壊の時に魔族が異世界に避難するために使用した浮遊戦艦シリーズ、その一つであるナーヴィス・ロンガ制御方法が記されているなど、誰も知る事は出来なかった。



 〇 〇 〇 〇 〇

 


 場所は変わって神界・エーリュシオン。

 そこはてんやわんやの大騒ぎである。

「うわぁぁぁぁぁ。マチュアさん発見したと思ったら堕天していたぁぁぁぁ」

 遠見の水晶球でマチュアを探していた八柱の神々、その一人であるイェリネックが頭を抱えて叫んでいる。

 その横で見ていたミスティとクルーラー、セルジオもどうしていいかわからない神妙な表情をしている。

「我々の神体、精霊王の加護、冥王の持つ死に対する完全耐性、そこに無貌の神の神核、すべてが融合した上に、マチュア自身の持っている神々の祝福がミックスされている‥‥」

「そんな存在が堕天したとなると、無貌の神でもどうなる事やら」

「いや、そんなことよりもマチュアの意思だ。今のマチュアは暗黒面に取り憑かれている!!」

「早くなんとかしなくては‥‥しかし、我々は手を出せない」

「ストームだ、ストームに連絡を‥‥駄目だぁぁ、あいつ地球フェルドアースにいるぞ」


 そんな動揺をよそに、天狼は傍らでのんびりと昼寝中。

 そして精霊王も、天狼の体を枕に居眠りをしている。

 時空の神と精霊王はこれ以上干渉しないと決めている模様。


「や、止むを得ん、妾が下界に降りて‥‥」

 イェリネックが翼を広げるが、その翼は瞬時に光になって散っていく。


『全ては、なすがままに‥‥マチュアが無貌の神に取り込まれたとしても、それはまた摂理』


 久しぶりの創造神『ザ・ワンズ』の声が神域に響く。

 すぐさま八柱の神々は跪き、創造神が降りてくるのをじっと待つ。


『あ、わし、今そっちに行けないから声だけで‥‥』


「そ、そうなのですか」


『今のわしは、無貌の神を次元牢獄に閉じ込めるのに力を注いでいる。ここから離れる事は適わず」


「そうですか」

「創造神様、マチュアはどうなるのぢゃ? まさか創造神様自ら滅ぼすとか‥‥」


『まさか。マチュアが無貌の神になったとしても、それは摂理。その時には、今の無貌の神と同様、次元牢獄に閉じ込めるまで‥‥しかし、まだ希望は潰えておらぬ』


 その言葉に安堵する神々。最悪の事態は回避出来るかもと、一縷の望みに賭けるしかない。

「希望とは」

『すなわち、マチュア自らで無貌の神の浸食に打ち勝つ。じゃが、マチュアに等しい力を持つカーマインがいる。マチュアが自らカーマインと戦い、そして打ち勝つ事が出来れば、あるいは‥‥』


「あ、その程度ですか」

 あっけらかんと呟くイェリネック。

「今のマチュアとカーマイン、どっちが上かなんて一目瞭然。マチュアの勝ちに決まっていますわ」

「という事です。創造神様、我々は今一度、下界を観察する事にします」

「うむ。神々の力を持つマチュアなら、カーマイン如き亜神に負ける筈がないであろう?」

 腕を組んでウンウンと頷くセルジオ。

 だが、創造神の言葉は。


『カーマインもまた、無貌の神の肉体の一つを取り込んでいる。更にグランアークの神も取り込み、無貌の神の眷属として存在している‥‥ならばこそ、マチュアでも敵うかどうかわからぬ‥‥しばし静観せよ‥‥』


 そう告げて創造神の意識が消えていく。

 再び次元牢獄に力を注ぐ為であろう。

 そして八柱の神々は、再び遠見の水晶に目を向ける。

 マチュアが、そして世界がどのように変動していくのか、それを見定める為に。



 〇 〇 〇 〇 〇


 

 レムリアーナが幻影騎士団に鹵獲されて一週間。

 約束通りにレムリアーナはミスト連邦上空に設置され、魔導制御球はミストに譲渡された。

 そしてマスター権限もすべて書き換えられて、晴れてレムリアーナはストーム達の手から離れて行く。

 それを見届けてから、ストームは異世界大使館へと戻って来る。


「‥‥それで、何でこいつはこんなに頑張っているんだ?」

 大使館中庭でポイポイと共に特訓をしているレイフェ。

 ちなみに現在、10歳。

 レイフェは通常では信じられない速度で成長を続けている。

「ストーム師父、私の存在意義のため」

 きっぱりと告げるレイフェ。だが、その瞬間にポイポイの乱打が直撃し、後方に吹き飛んでいった。


──ズドドドドドドドドトッ

 一秒間に12連撃。

 地球人なら回避不能のポイポイの神速の技。

 それを受けても尚、レイフェはゆっくりと立ち上がる。

「存在意義?」

「はい。私は当代の勇者です」

──ブッ

 そのきっぱりと言い切った言葉にストームもポイポイも吹き出す。

「ストームさん、先代勇者って、確かストームさんとマチュアさんっぽいよね?」

「ああ。1000年周期の世界的危機の時に生まれるのが勇者なんだが‥‥ってちっょと待て、たしかにカリス・マレスの勇者は俺だったが、レイフェ、おまえが生まれたのは」

 慌てて問いかけるストームに、レイフェはきっぱりと一言。

「この地球フェルドアースです!! 私はこの地球フェルドアースに訪れる災厄から、この世界を守る為に生まれました。ですが、神の加護はありません」

 シュタッと大地を指さすレイフェ。

 神の加護があれば、召喚された目的などが神々から告げられる。

 それは魂の修練であったり、世界的危機の解決であったり。

 だが、レイフェはそれを一切知らずに生まれて来た。

 それはどうしてなのか。


「あ~、レイフェ、何から地球フェルドアースを守るんだ?」

「無貌の神の眷属。その者が、この地球フェルドアースに封じられている八つの分身体の一つを奪いに来ます。それを奪われず、迎撃するのが使命です」

 にこやかに、そしてさわやかに告げるレイフェ。

 ならばとストームも覚悟を決める。

「そうか。つまりカーマインがここに来るっていう事か。それで、その分身体はどこに封じられているんだ?」

そうレイフェに問いかける。

 だが、レイフェは思いっきり首を捻る。

「さあ?」

 いくら勇者とはいえ、そこまでは知らない模様。

 これにはストームも頭を抱えるしかなかった。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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