ラグナの章・その11 王都動乱・竜と邂逅
次回でラグナの章は一度幕を降ろします。
幕間を挟んで、また物語は再開します。
王都ラグナを出て20日。
マチュアとストーム、ブリュンヒルデに命じられた二人の騎士ヘッケラーとコックス。そして身の回りの世話をする侍女達を乗せた馬車が、元マクドガル領にやってきた。
すでに港にある海運ギルドには話を通してあったらしく、侍女たち以外は全員船に乗って、沖合にある名もない孤島へとやって来ていた。
「うんまあ。酷いね」
上陸して開口一発目の、マチュアの声である。
岩がむき出しの海岸線、そこから陸地へと向かうと暫くは平地が続き、そして森林が広がっている。
その森林の方角じっと見て、マチュアがそう呟いた。
「一体何が酷いのですか?」
とヘッケラーが問い掛ける。
「この島の魔障濃度さ。あまりにもおかしい。濃度が濃すぎて具合が悪くなる」
と頭をトントンと叩く。
実際、この世界に来て、自然界に普通に漂っている魔障というものは必ず存在する事が分かっている。
これは他のファンタジー小説等では『魔力』と呼ばれたり『マナ』と呼ばれているものと、ほぼ同意語とマチュアは感じ取っていた。
それ故、カナン郊外などと比べてもここの濃度は実に10倍以上、魔障を媒体とする魔術師にとっては、それはもうキツイ代物である。
「そうですか。俺達は全く気付かないですけれどねぇ」
ヘッケラーは笑いながらそう話している。
その前方では、ストームがコックスと打ち合わせをしていた。
「島の大きさは、大体どれぐらいだ?」
「残念ですが、詳しい地図がないので内部地形は分からないのです。船乗り達から聞いた限りでは、直径で大体10km程と聞いています」
コックスの説明では今いち不明な部分が多い。
ここの世界での距離は、ストームやマチュアの耳に届くときには自動的に現世界のメートル法に変換されている。逆にこっちから話しかけても、ヘッケラーたちに届く頃にはこの世界の単語になっているようだ。
『GPSコマンド』による自動翻訳であるらしいが、こちらにない単語や物は変換されていない。
ラグナを出るときにシルヴィーに説明した携帯電話がそうである。
ケータイデンワと文字の羅列になってしまっていたのが気になっていたが、どうやらそういう事らしい。
「島の大部分が森林、中央には活火山か‥‥」
上陸前に見た光景と、上陸後の光景を擦り合わせてのおおよその推測。
「この辺りには人が踏み込んだ跡があります。それと」
「この先の森の奥で、さらに魔障濃度の濃いところがあるねぇ」
ヘッケラーに続いてマチュアも告げる。
「魔障濃度か。モンスターが発しているのか、自然発生か、マチュアにはわかるか?」
「どっちでもないねぇ。これは魔導器反応だよ」
と告げると、ヘッケラーとコックスが頷く。
「私達が此処に来たもう一つの理由が、ここにあると噂されている『魔導王国スタイファー』の遺産の確認です」
「もし全てが終わって時間が許されるなら、そちらの調査の助力をお願いしたい」
と二人が告げてきたので。
マチュアは人差し指と親指で輪を造り一言。
「高いよぉぉぉぉ?」
と報酬を請求する。
「どれ位で?」
「発見したものの所有権はこっちに。確認して要らないものならそっちにあげる。これでどう?」
「そ、それはかなりの報酬では?」
とコックスが抗議の声を上げるが。
「活性化した竜の眷属たちがいるこの島で、二人で調査?」
ニィッと笑うマチュア。
「所有権は認めませんが、まあ、発見した物で欲しい物があったら幾つかは持っていって構いません。それでいかがですか」
「と言う事だ。とっととドラゴンを倒して調査だストームっっっっ!!」
にこやかにストームの肩をたたきつつ叫ぶマチュア。
「あのなぁ‥‥そんなに簡単に勝てる見込みあるのか?」
「まあ、戦ってみて生態を知りたい。それさえ分かれば、あるいはなんとかなるかもしれないよ」
と笑うマチュア。
「はぁ。とりあえず先に進むぞ‥‥」
と言うことで、まずは周辺調査から開始した一行。
上陸した地点から先に広がっていた大森林のあちこちに、誰か人がいた形跡が残っている。
キャンプをした跡がいくつか確認された。
そしてマチュアの話していた魔障濃度の高い地点には、古い石造りの遺跡群があった。崩れかけていた石壁や廃墟のようになった建物の中には、やはり人が居た形跡が残っている。
すでに主のいない遺跡。
そのあちこちに残っていた石碑等には、未だ魔障反応が残っているものもある。恐らくは結界か何かなのであろう。
濃度が高かった理由の一つが、この辺りに剥き出しになっている黒く輝いている水晶だ。これは魔晶石と呼ばれている、水晶の結晶が成長する際に魔障を吸収して出来たものである。
魔晶石は魔法物品や魔法武具の材料になったり、魔導器の機関部の核として使われていることが多い。
が、おいそれと流通するものではなく、これだけの大量の魔晶石は中々お目にかかれるものではない。
ということで。
「ひやっほーー。魔晶石だぁぁぁっ」
マチュアは彼方此方から濃度の強い魔晶石を選んで無限袋に放り込む。
そして一通り満足すると、マチュアは幾つかの魔晶石を拾ってきて魔法陣を築き始める。
魔晶石を媒体とした『広範囲・敵性防御』を発動した。
このように媒体を利用した場合、結界の強度は飛躍的に高まる。
いま作り出した結界の強度は、マチュアが本気を出す時に宣言する『九十九式』とほぼ互角である。
ストームたちは、ここを拠点として各方面の調査を行う事にした。
「‥‥マチュア殿は司祭ですか」
「いえ、トリックスターです」
「それにしては大したものですね」
「ええ、トリックスターですから」
「マチュア、飯」
「保存食でも齧っとれ!! 今から用意するわ」
と荷物を降ろしつつそんな会話をしているマチュア達。
「しかし、随分とまあ‥‥遺跡の欠片が残っていますねぇ‥‥『ふるきとき、いにしえのもり、つきよのよる‥‥』ん、ここで欠けているか」
と落ちている石碑の欠片を読む。
「マチュア殿、読めるのですか?」
「ん? ああ、読めるけどね。そんなに難しい文字ではないと思うけど」
と適当に相槌を打ちつつバックの中から鍋と食材を取り出すと、スパイスの効いた野菜炒めを作り出す。それを木皿に取り分けて食事を取り始める。
「さて、ストーム、ドラゴンの反応は?」
「良くは分からないが‥‥火山の方だなぁ、多分」
直感でそう告げる。
「では、明日はそっちの方向に‥‥‥ぃぃぃぃぃぃぃ?」
――ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
突然、頭上を巨大なドラゴンが飛んでいく。
全長は20m程度、これがどれ程のものなのかはよく分からないが、ヘッケラーとコックスは固まっている。
「ドドドドドドドドッ」
「ドラゴンだぁっ!!」
ガタガタと震え始めるヘッケラー達。
「いまの見て、どう思う?」
「ラグナの方が強かったと思うぞ。今のは大きいだけで、まだ若いドラゴンじゃねーのか?」
「スキルにモンスター知識とかあったか?」
とストームに問いかけてみるが。
「いや、直感だ」
とだけ告げて食事を続けた。
「そか、それじゃあいいか」
とマチュアもまた食事を続け、暫くして正気に戻った二人も食事を開始する。
「あ、あの、マチュアさんのこの結界があれば大丈夫ですよね?」
「あ、無理かもねぇ。結界の強度を超える攻撃が来たら、多分一撃だよ‥‥」
以前『ギャロップ商会』の護衛をした時、道中で盗賊に襲われた事があった。
その時は範囲と形状を変化させるために余剰魔力を注いだのだが、いまは純余剰魔力を注いでいない。
だが、拾った魔晶石で強度を上げてあるので、かなりの強度は期待できる。
それでも、予測で行けば、先程のドラゴンの攻撃を耐えられるか疑問である。
「ま、またまた冗談を」
「そうですよ。ハハハハハ」
と渋い笑顔を見せる二人。
「さてと、私はコックスと二人で前半の見張りを引き受けるので、ストームとヘッケラーは後半でお願いね」
と勝手にシフトを組み込んで、その日は周囲に気を配りつつゆっくりと見張りを努めていた。
○ ○ ○ ○ ○
拠点を設置してから3日。
様々な方角に調査の脚を伸ばした結果、火山の麓に巨大な遺跡群が広がっている事を確認した。
そして、そこには全部で六匹のドラゴンがいることも。
そのうちの一体は、全長が50m超の、溶岩のような輝きを持つ鱗に覆われたドラゴンである。
残り五体のうち四体は未だ眠りについているらしく、丸まってじっとしている。
先日、頭上を越えていったドラゴンとボルケイドドラゴンの二体のみが、いま目の前で活性化しているドラゴンらしい。
「マチュアはあの大きいのを頼む。俺は小さいのを殺る」
「ふざけているのか? 私とストームで小さいのだ。あの大きいのは騎士たちにお願いしたい」
「「なんであなた達は、こんな状況で冗談が言えるのですか?」」
と森の影で呟く一行。
「あの小さいのか大きいか、どちらかが飛び立ってから襲撃を開始する‥‥」
「ちょっと待てぃ、話し合いはしないのかい?」
とストームにつっこむマチュア。
「話し合いからの先制攻撃? どうせ会話に応じるとは思えん。あの体色は赤だ、つまり脳筋だ。白とか黒ならまだ会話に応じてくれるとは思うが」
ドラゴンの体色で知性を図るストーム。
「そうだねぇ。そんじゃ‥‥」
とマチュアは足元に少し小さめの魔法陣を形成。そこに騎士達に入っているように促した。
「決して出ないように。もしドラゴンに攻撃された時は、結界が壊れない事を祈ってて‥‥」
と告げる。
「それじゃあ、ストーム行くぞ‥‥」
とストームの肩に手を当てて、魔法を付与していく。
「セット‥‥『状態異常耐性強化』かーらーのー『全体増幅』、おまけに『遅発型強回復』。保険に『時間差完全蘇生』、これでどや」
と次々とストームに強化魔法を発動していくマチュア。同じ魔法を自分にも施してから、万が一のために『時間差蘇生』をヘッケラーとコックスにも施した。
これで全滅しても、見届人の二人は生き残る。
「オッケー。それじゃあ‥‥」
と小さい方のドラゴンが飛翔して何処かに行ってしまうのを確認し、そこから少しだけ時間が経過するのを待つ。そして一気に森から飛び出すと。
○ ○ ○ ○ ○
「『波動の矢』っ」
――キンキンキンキン
とマチュアが先制で魔法を発動する。
波動の矢という、魔術師の基本攻撃魔法の一つである。
だが、あっさりと竜鱗に弾かれてしまう。
「グォォ。何処ノドイツダ、我ニ喧嘩ヲ売ルモノハ」
とマチュアに向くボルケイド。
「あちゃー、ノーダメージ!!」
と慌てて走り出すと、ボルケイドの右側に回り込む。
「フム。陽動ダナ、カンジルゾ」
咄嗟にボルケイドは反対側に向き直り、左腕を振った。
――ガギィィィィィッ
と、反対側から回り込んでいたストームに向かって、それは直撃した。
楯でどうにか受け止めてはいるものの、かなり後方に弾き飛ばされてしまった。
「ドラゴンキラーノ刻印カ。我ガ妻ノカタキダナ」
と倒れているストームに向かってスゥッと息を吸うと、そのまま口から溶岩の咆哮を吹き出す。
――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
直線状に飛んでくる『溶岩の息』。
咄嗟に楯を前に突き出し、それを受け止めるストームだが。
「熱っっっっっ。こ、これ程のものか」
楯が灼熱し、端が溶ける。
レジストがなければ大火傷ではすまなかっただろう。
そのまま楯の角度を調節してブレスの範囲から抜けると、手にした聖剣を振るい衝撃波を飛ばす!!
――ズバァァァァァッ
手応えはあった。
だが、ボルケイドの竜鱗が、それを弾き飛ばす!!
「これも駄目なのか? 全く予測の範囲外だなっ!!」
「シャレになってないてばっ!!」
反対側からは、マチュアがザンジバルを手に左後ろ足を切り裂いた。
――ガギッ!!
流石に『竜殺し属性』の付いている武器ザンジバル。
竜鱗の一部を吹き飛ばし、その皮膚があらわになる。
「グウッ‥‥厄介ナ奴ガイルノカ」
と尻尾をマチュアに叩きつける。
咄嗟にザンジバルを振るって弾き飛ばそうとするが、非力なマチュアでは耐えきれず後方に吹き飛ばされてしまった。
「ぐあっ‥‥」
背中から大地に叩きつけられて、口から血を吐くマチュア。
「こ、これはグフッ‥‥内臓幾つか逝った‥‥」
と無詠唱で『中治癒』を施すマチュア。
「このやろうっ!!」
その頃、ストームはカリバーンの刀身に『波動』を流した。
すると、カリバーンの刀身が白く輝き始めた。
聖騎士の上級剣術の一つ、『光刃付与』である。
「さて、これであんたの鱗は紙みたいなものだ‥‥心力使うので、あまり長い時間は使えないがな」
「コノ力‥‥ヤハリ貴様ハ生カシテオケヌ」
と真っ直ぐ上空に飛び上がると、翼から衝撃波を飛ばすボルケイド。
――ヒュヒュヒュヒュッ
ストームの近くに飛んでいく衝撃波は、その大地をえぐり取っていく。
――キィン‥‥
幾つかはストームに直撃しそうになるが、咄嗟に奮ったカリバーンの衝撃波で威力を相殺する。
「感ジルゾ、貴様カラ『ドラゴンキラー』ヲ感ジルゾォォォォォ」
上空で羽ばたき『空中停止』しているボルケイドが叫ぶ。
狂気に満ちた瞳をストームに向け、口元から溶岩の涎を垂らす。
「ようやく気がついたか。さて、何処まで‥‥通用するかわからないけれど‥‥」
ゆっくりと楯を構え、ボルケイドを睨みつけるストーム。
「『完全防御』っ」
全身の防御力を上昇させて、徹底的に『楯』としての役割に切り替えたストーム。
「クックックッ。ドコマデ耐エラレルカ試シテヤロウ」
と急降下してストームに向かって爪を叩き込むボルケイド。
――ガギカギガキガキッ
だが、その一撃は楯によって完全に止められてしまっていた。
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
低空まで下がってくるのを確認して、回復したマチュアは素早く魔法を起動する。
「戦闘跳躍っ」
有視界内に一瞬で転移する、戦闘用の魔術である。
一度使うと一定時間使えないのが問題だが、いまのこのタイミングは使うしか無いと判断した。
マチュアはボルケイドの背中に戦闘跳躍すると、両手で構えたザンジバルを、その首筋に向かって叩き込んだ!!
――ブシュュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
咄嗟に体を捻られた為、首の切断とまでは行かず、胴部左肩あたりに突き刺さった。
そこから一気にザンジバルを根本まで突き刺し、そのまましがみつくマチュア。
ボルケイドはその痛みに耐えつつ、空中でもんどりを打つ。
激しく体を振り回し、首にしがみついているマチュアを引き離そうとする。
だが、マチュアはじっと剣にしがみついたまま、決して放そうとしない。
傷口からは大量の血が吹き出し、大地に降り注いでいる。
「落チロ、落チロォォォォォォォ」
ブゥンブゥンと体を振り続けるボルケイド。
――ブシュッ
やがて、遠心力に負けたマチュアは空中に放り出される。
「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
と絶叫が周囲に響き渡る。
――ビシィッ
と空中のマチュアに向かってボルケイドの尻尾が鞭のように直撃すると、マチュアはそのまま地上に叩きつけられた。
「グアッ!!」
とそのまま沈黙するマチュア。
「嘘だろ‥‥」
とその光景を見て、ストームが上空のボルケイドに向かって楯を構える。
「クックックックッ。モウ終ワリダ、イガイト楽シカッタガナ‥‥」
スゥッと息を吸い込むと、再び『溶岩の息』をストームに向かって吹き出す。
――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ
灼熱の溶岩が再びストームを襲う。
だが、先程とは違い、溶岩は楯の手前で弾かれ、周囲に分散した。
「マチュア、生きてるか!!」
「あ、あいるびーばーっく」
と全身を淡い光に包みながら、なんとか体を起こすマチュア。
『完全治癒』の発動光によって輝いている。
戦闘時の魔法の行使は、集中力を魔力で補うためにかなり厳しい。
実際にマチュアの魔力はもう底を突き始めている。
「あ、後はストームに任せるので」
上空でブレスを吐いているボルケイドの背中に向かって再び戦闘跳躍すると、今度は高速で高位魔術の魔法陣を空中に展開した。
静かに魔法陣に光が集まると、そこから次々とレーザー光線が発せられ、ボルケイドの全身に突き刺さる。
「喰らえっ、ゼロ距離からの『聖なる光矢』っっっっっ」
――ズドドドドドドドドドドッッッッ
と、ボルケイドの体表の鱗が次々と破壊され、ボルケイドの翼がボロボロに破壊された。
超長距離超火力魔法である『聖なる光矢』だが、いまのマチュアの残存魔力では至近距離までしか届かない。
そのための『戦闘跳躍』である。
「何ダトォォォォォォォォォォォォォォ」
絶叫しながら大地に激突するボルケイド。
傷口から大量の血飛沫が飛び、一瞬にして周囲は血の海と化した。
しかし、マチュアは魔力切れを起こしたらしく、そのまま近くの森の中に墜落していった。
「コンナコトガ、コンナコトガァァァァ」
必死に体勢を立て直そうとするが、飛び立つための翼を失ったボルケイドは、強靭な四肢で大地を踏みしめると、眼前にいるストームを睨みつけた。
「貴様ヲ殺セバ終ワリダ‥‥」
怒りの感情で痛みすら消え失せていく。
ストームもまた、ゆっくりと立ち上がると侍にチェンジし、刀に手をかける。
「両者既に限界。こちらは回復要員が潰されたので、ここで負けると正に必死。だが、負ける気がしねぇ‥‥」
と刀に波動を流し込み、グッと腰を落とす。
「死ェェェェェ」
ブゥンと鋭い爪を叩き込むボルケイド。
――チンッ
その腕が真っ二つになり、肘まで分断された。
「何ダトォォォォォォォ。ダガ、マダマダダァァァ」
と後ろ足で飛び上がるボルケイドだが、突然両足まで切断された。
「浮舟・夢幻刃‥‥」
ストームの一定の距離まで近づく敵は、乱撃化した浮舟で切断される。
二つの技を一つに合わせた、ストームのオリジナル技である。
そしてズシィィィィンと崩れるボルケイドに近寄ると、そのまま頭部を真っ二つにかち割った。
――ズバァァァァァァァァァァァァァッ
大量の血飛沫が飛び散り、ストームの全身に降り注ぐ。
右腕に刻まれた『竜殺し』の紋様がスッと消えて、また別の紋様がフッと浮かび上がる。
「竜殺しの罪は、一生消えることはないか。殺して恨みを消しても、また別のものに恨まれる‥‥因果なものだ」
と告げて、その場にしゃがみ込む。
「見届人の騎士さんよ。済まないが俺を結界まで運んでくれ。もう駄目だ‥‥」
と呟いて、そのまま意識を失った。
○ ○ ○ ○ ○
ストームが意識を取り戻したのは、あれから6時間後。
結界の中では騎士たちがストームの護衛を務めていた。
「ああっ気が付きましたか」
「よくぞご無事で‥‥まさか二人だけでボルケイドを退治するとは、とても人間業ではないです‥‥」
と涙を流しながら叫ぶ。
ふと周囲を見ると、マチュアの姿がない。
「おい、マチュアはどうした?」
「周囲を探したのですが、何処にも死体がなくて‥‥」
「あの高度から落ちたのです。もう無事では‥‥」
「ふっふっふっ。あれで生きて帰ってきたら奇跡ですよぉ‥‥」
と嘆いているヘッケラーとコックスの肩に、ガシッと腕を回して呟くマチュア。
全身ボロボロで、鎧もあちこち破損している。
「ここが森林で助かったよ。木々がクッションになったのと、死ぬ間際に『遅発型強回復』が発動したのでなんとかね‥‥で、誰が死体だって? 私は奇跡は起きます起こしてみせますが信条でねぇ‥‥」
と笑いながら呟き、そこに崩れる。
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ大丈夫。ただの『魔障酔い』だから、一日意識消えるので‥‥」
と告げて意識を失った。
「という事で、済まないがベースキャンプまで頼む」
と呟いて再びストームも意識を失った。
二人が意識を取り戻したのは翌日の夕方。
最初に作ったキャンプの中で、ようやく起き上がれるまで回復した。
「‥‥あかん。魔力が欠乏している‥‥栄養が足りない」
「そうか。それは難儀だな。すまんが俺の全身を直してくれ。骨も内蔵も逝ってるわ」
「今の私の話し聞いた? 魔力がね?」
と、ふたりとも言葉だけは元気の模様。
「あと数日はここで我慢して下さい。それまでは私達がちゃんと護衛していますので‥‥」
ということで、騎士たちに護衛を任せて二人は回復に努めた。
3日後にはマチュアの魔力も戻ったので、ストームと自分に回復魔法を施し、どうにか動けるようになったのである。
そして、死んだボルケイドの元を再度訪れると、マチュアとストームは手を合わせた。
「人間の都合でお前を殺した。眷属たちはきっと俺を狙うだろうが、俺は死ぬわけには行かない。ただ、お前との戦いは忘れない」
「あんたの死体は、有意義に使わせて頂く。だから成仏してくれい」
と告げると、マチュアとストームは騎士たちも巻き込んで四人がかりでドラゴンの解体を開始した。
部位ごとに解体しては無限袋に放り込むを繰り返し、全身の解体が終わったのは4日後の事であった。
そしてマチュアはベースキャンプの位置を記憶。
ストームは一旦、報告の為に王都ラグナへと戻る事を提案する。
「しかし、次は魔導王国の入口を調査して探すという任務もあるのですが」
とヘッケラーが告げるが。
「ボルケイドのいた場所が遺跡の地上部分、あそこに地下に通じる回廊がある。そこまではわかったので、一度戻って正式に調査団を派遣した方がいい。派遣方法はミストはすぐに判る筈だから」
と説得し、マチュアが全員を連れて一度ラグナへと転移する事になった。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






