異界探訪・その20・日本の対応と戦闘技術
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
異世界大使館上空に突然現れた浮遊大陸。
すぐさま千歳の航空自衛隊基地から、試験導入された最新鋭戦闘機・F36A/ヒノカグツチ4機が飛び立つと、未確認浮遊大陸に向けて攻撃準備に入る。
だが、ヒノカグツチがヴィマーナを対空迎撃ミサイルの射程に捉えた直後、攻撃命令は停止し帰投命令に切り替わる。
浮遊大陸ヴィマーナの所属が幻影騎士団であるという報告が、異世界大使館から小野寺防衛大臣の元に届けられた為、急遽全ての攻撃命令と警戒警報は解除された。
同時にニュースの緊急速報で、札幌上空の浮遊大陸はカリス・マレスの幻影騎士団が敵・魔族から鹵獲したものであり、危険性はないという情報が流された。
札幌の市民たちは野次馬根性フルスロットルで豊平区の異世界大使館近くまで向かい、報道関係者はすぐさま中継車を走らせる。
異世界大使館・政治部には問い合わせが殺到したものの、全て自動音声により対処、直接回線以外は静かになる。
東京・永田町の国会議事堂にもこの一報が届くと、取り敢えず日本国としては危険性がないと判断、議員たちもホッと胸を下ろすのであった。
すぐさま小野寺防衛大臣と蒲生副総理が国会議事堂転移門から異世界大使館に向かうと、幻影騎士団との面会を申し込んだ。
‥‥‥
‥‥
‥
──異世界大使館
「いやぁ、大変楽しい散歩だったわ」
これがストームの第一声。
もしここにマチュアがいたなら、力一杯ハリセンでど突かれている事だろう。
幻影騎士団とドライ、住良木の一同はすぐさま二階の大会議室に移動、そこで三笠や蒲生と小野寺とも合流する。
「お疲れ様でした。先程、アメリゴのロナルド大統領から連絡がありましたが、オーストラリアの浮遊大陸はどうなったのですか?」
三笠がストームたちに問いかけると、ウォルフラムが説明を始める。
「オーストラリア上空の浮遊大陸‥‥いえ、浮遊戦艦レムリアーナの件ですね。あれも幻影騎士団が鹵獲して、今は異空間に係留しています。内部の調査と修復をこれから始める所でして」
蒲生と小野寺の二人がいるので、あくまでも事務的に説明をするウォルフラム。すると、ようやく小野寺と蒲生が口を開いた。
「その……報告にあったレムリアーナという浮遊大陸ですが、あれを日本国に譲渡することは可能ですか?」
突然突拍子も無いことを言い出す小野寺。これには蒲生も目を丸くする。
「阿保か。まずは挨拶からだろうが」
すぐさまストームに向き直ると、蒲生は丁寧に頭を下げる。
「初めまして。日本国副総理の蒲生です。この度はご助力いただき感謝しています」
相手は一国の王、そして世界最強の剣聖であり
マム・マチュアの友人。礼を尽くしすぎても非礼にはならないと判断。
これにはストームもすぐに理解し、パン、と手を叩いて一言。
「ご苦労です。カリス・マレス世界、ラグナ・マリア帝国サムソン辺境国王のストーム・フォンゼーンだ。公式の場では無いので、もっと気軽にして構わない」
威厳のある声でそう告げるが、ストームの後ろの大使館職員達は皆笑いを堪えている。
ストームは後ろ手で、大使館職員にハンドサインを送っていた。
『この人は信用していいのか? 問題ないなら珈琲を、疑っていいなら紅茶を持ってきてくれ』
すぐさま吉成が人数分の紅茶と珈琲を持ってくると、小野寺には紅茶を、そして蒲生にはコーヒーを差し出した。
「お、吉成ちゃんよ、俺は紅茶の方が好きなんだが」
「私はコーヒー党でして。蒲生さん、交換して構いませんよ」
などとやりつつ、紅茶と珈琲を交換する二人。だが、最初の配置により、蒲生は問題ないとストームは判断した。
「さて。それじゃあ状況から説明するか。オーストラリアの議員達は無事に帰還、今頃は色々と話し合いをしているんじゃないか? オーストラリア上空の浮遊大陸は既に幻影騎士団により鹵獲、乗っていた魔族は殲滅。幹部ら指揮魔族がいなかった所を考えると、おそらくは逃亡したと考えていいだろう。という所だ」
「そうですか。お疲れさまでした」
三笠が改めてストームに頭を下げると、ストームも右手でそれを制する。
「マチュアの近衛騎士が頭を下げる必要はない。俺は俺の意思でやりたい事をしているだけだ」
「そうですか。そう言っていただくと助かります」
「まあな。マチュアの件は今は治療中、その内何とかなるだろうさ」
ストームが笑いつつ告げるので、後ろで同席している高畑や吉成もホッとしている。
だが、その話を初めて聞いた蒲生と小野寺は首を捻っている。
「何だ、マム・マチュアが怪我でもしたのか?いや、怪我は魔法で治るからなぁ」
「いやいや、魔法でも治らない病気はありますから。疲労みたいなものですよ、少し休んでいたらすぐ元気になると思いますから」
「へぇ。三笠さんがそういうのなら‥‥しかし、ここってホワイト企業だよな? マムが疲労で倒れるって、マムはどんだけブラックな仕事していたんだよ」
「オーストラリアの魔族関係、とだけ伝えておきます。これで報告はよろしいですか?」
「ああ。後はオーストラリア政府や世界の各国との話だからなぁ‥‥オーストラリア政府からの最新報告では、上空に出現した浮遊大陸の所有権はオーストラリア政府のもので、幻影騎士団がそれを持って逃げたという事にしたいらしいな」
蒲生のその説明に、ストームや斑目はハァ、とため息一つ。
「そこまで異世界の資源が欲しいのかよ。とっととカルアドを開発すればいい話だろうが」
「そのカルアドの件も関与しているのですよ。今現在、カルアドの土地を譲渡してもらっているのは日本とアメリゴ、ルシアの三カ国と国連所有のドーム都市、そして異世界大使館所有のドーム都市のみです。そこから先は、まだマム・マチュアが認可していないというのが実情でして」
淡々と説明する蒲生。
そしてストームは三笠をちらっと見るが、三笠もウンウンと頷いているだけである。
「つまり、マチュアはその三ヶ国以外は信用していないという事か。申請の許可云々の権限は今でもマチュアが?」
そう三笠に問いかけると、三笠は静かに頷いた。
「国連や世界各国に関しての部署は国際政治部が、国内政治関係は政治部が、政治以外は文化交流部が担当しています。マチュアさんは実質顧問扱いにはなっていますが、基本的には私の事務局所属となっています」
「カルアドはその事務局の仕事か」
「ええ。カナンの所有地である渡島大島とハワイの一部諸島、北方領土の3つの担当部署も事務局で‥‥どうしました?」
北方領土ときいて思わず頭を押さえるストーム。
「あ、あいつはアホか。なんで北方領土にまで手を出したかなぁ‥‥日本が黙っちゃいないだろうが」
「黙らせましたよ?これが今の一連のデータですので」
──ブゥン
三笠は両手で記憶のスフィアを作り出し、ストームに手渡す。それを受け取って取り込むと、ストームはもう一度頭を抱えてしまう。
「あ~、つまり国内外の面倒事の部署が事務局かよ‥‥もういいわ、俺もカルアドのドーム一つ貰うわ」
「それは構わないと思いますよ。カルアドの管理はマチュアさんとストームさま、二人の管轄と伺っていますから」
その三笠の言葉には、蒲生と小野寺の二人は仰天する。今まではマチュアの管轄と思っていた場所が、まさかストームとの共同管理とは思っていなかったのだから
その場で驚いていないのは幻影騎士団と三笠のみ。
「ま、まさかとは思いましたが。ストームさんもマチュアさんと同じ権限を持っていたとは」
恐る恐る問い返す蒲生。だが、ストームはすぐさま『銀の鍵』を取り出して一同に見せる。
すぐさま目の前の空間に鍵を突き刺してゆっくりと回すと、ゆっくりと扉が生み出されて開いていく。
──ギィィィィィィッ
扉の向こうはカルアド、それもオンネチセの外。
周囲は果てしなく森と草原が広がり、ウサギやリスなどの小動物の姿も見えている。
「うっはぁ。瑞穂とはえらい違いだなぁ。ドームがすべて修復されているじゃねーか」
「‥‥こ、こんなに‥‥」
何度もオンネチセに来て別荘まで持っている蒲生とは違い、小野寺は報告書の上でしかオンネチセを知らない。それ故、いまだドーム内部の復興が手つかずに近い状況で、周辺の土地の開発をしている瑞穂と比較してしまう。
「み、三笠さん、瑞穂の復興を依頼したいところですが」
「あ、それはご遠慮します。瑞穂は日本国主体で勝手に復興してください」
小野寺の問い合わせにあっさりと返す三笠。
すると、小野寺はストームの方を向くが、すぐさま項垂れてしまう。
「何故、異世界大使館がこんなに優遇されているのか‥‥」
「あ。それは違うわ。異世界大使館はその名前の通りだ、この地は異世界で日本ではない。この土地の中で好き勝手やっても日本には何も問題はないだろう?」
ストームがそう告げると、小野寺は静かに頷くしかない。
「さて、そんじゃあさっきの話の続きをしよう。日本国としても、オーストラリア関係の顛末をすべて把握しておく必要があるからなぁ」
蒲生がそう話を切り替えると、ストームは今一度最初から説明を開始した。
そして日もすっかり暮れて夜の22時、全ての説明を終えると蒲生と小野寺は一旦永田町へと帰還。持ち帰った情報を精査してから、またやって来ると告げて帰った。
〇 〇 〇 〇 〇
三日後、国会議事堂、対魔族対策委員会
「え~、という事で、先程手渡した資料の通り、現時点で異世界グランアークからの地球侵攻は一時停止となりました。この件においては、ベルナー王国の幻影騎士団の助力による所が大きい‥‥というか、彼ら以外ではどうしようもなかったですなぁ」
報告書を手に、蒲生が集まっている議員達に説明を終える。
これには集められた議員達も頭を抱えるしかなかった。
統合第三帝国の時といい、今回の魔族侵攻といい、とにかく地球の技術ではまったく手も足も出ない。
これにどう対処するのか、これは国連安全保障会議でも現在議題に上がっている。
「やはり魔術ですか?」
「それだけではありませんなぁ。そもそも、地球で魔術が使える人間がいたからと言って、あれに対処出来るとは思えないそうです。我々の地球では、それらを扱うだけの魔力も、触媒となる秘薬も乏しいのです。まあ、一部秘薬は大型スーパーなどで一束250円で売っていますけれど、そればっかりという事ではありませんからなぁ」
まるで他人事のように説明する蒲生。だが、それには誰も異議を唱えらえれない。
彼が話している事は全て事実であり、そして覆すだけの意見など誰も持っていないのである。
「そ、それでは、魔法鎧を購入して、それに近い兵器開発を行うとか」
一人の議員が発言する。が、それは野党議員によってもみ消されてしまう。
「この日本で新たなる兵器を開発するなど言語道断。それでなくても自衛隊の‥‥いえ、それはいいです」
現在、憲法改正により自衛隊を通常の軍隊とする事の明言化を巡って議論が繰り返されている。少なくともマチュアが転移門を越えてやって来るまでは、世論も自衛隊の保有については首を捻っているレベルであったのだが、統合第三帝国による核攻撃、そして浮遊大陸の空間転送砲によるオーストラリアの壊滅などの事例を目の当たりにした結果、『軍隊は必要である』という意見が国内の過半数を超えている。
なので憲法改正に伴い、それをしっかりと明文化しようというのである。
これには野党も反対に回るのは現時点では少数派であり、おそらくは年明けには成立するであろうと噂されている。
「それにしても、魔族との戦闘では、我々非魔術師では全く手も足も出ない事がわかりましたよ。いざ戦うとなっても、こちらの武器では傷一つも付きませんからねぇ」
「それにつていは、何か対策は可能なのでしょうか?」
辻原議員が、同席しているミアにそう手を挙げて問いかける。するとミアは席を立って周囲を見渡して一言。
「例えばですが。心力を使ったコンバットアーツを身に纏えば、多少は何とかなるのではないかと思います」
「コンバットアーツ? 魔法等関連法にはそれに対しての条文はありますけれど、それがどんなものであるのかなんて、私達は知らないのですが」
「まあ、マチュア様は魔術についての危険性を重要視していましたから。コンバットアーツについて、実際に私がお見せ出来たらよろしいのですが、私は魔術師ですので使う事は出来ないのです。ですので、後日、うちのポイポイさんに実際にコンバットアーツを使ってもらえるように要請しておきます」
それだけを告げて椅子に座る。
そこからはコンバットアーツについての簡単な質問、そしてそれを日本人が使えるのかという話になり、やがて結論がでないままに会議の時間は終了した。
‥‥‥
‥‥
‥
異世界大使館・分館
ミアは会議後の食事会を終えて、分館まで戻って来た。
そして今回の会議の内容を羊皮紙に纏めると、すぐさま転移門を越えて異世界大使館に向かう。
「お、お疲れ様です。会議は終わったのですか?」
「ええ。とにかく大変ですよ。おそらく次かその次くらいには、高島さんにもご協力をお願いするかもしれませんので、よろしくお願いします」
そう告げて当直の高島にそれを手渡すと、ミアはカナンへと帰って行った。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






