異界探訪・その19・反撃の狼煙からの凱旋
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
──ピッピッピッピッ
ヴィマーナの司令室、正面モニターに浮かんでいる映像を見て、ストームはやや苦々しい表情をしている。
映っているのはワシントンDC上空に浮かぶレムリアーナ。赤城の魔術により全長5km、幅2kmまで削られているものの、周囲をバリア状の結界に包み今はゆっくりと回復を続けている。
浮遊大陸は生命体である。
それを示唆するかのように、目の前の大陸は時折呼吸のような音を吐き出し、軽く鳴動を続けている。
「ええっと。確か、浮遊大陸は生命体で、あれが目覚めると危険であると。ここまではいいんだよな?」
後ろの席でヴィマーナ内部調査しているズブロッカに問いかける。するとズブロッカは、自分の席のコンソールを操作して、モニターに映し出された文字を確認する。
「ええ。元々浮遊大陸シリーズは幻夢境カダスに存在した生命体です。それを無貌の神が改造し、生きる大陸としました。それを自在に操れるように魔導処理を施し、魔導制御球と鍵によって自在に操れるようにしましたと‥‥」
「ふむ。ヴィマーナでいうところの、こいつが鍵で、こいつが制御球と‥‥そこまではいい。問題は、あのレムリアーナだが。あれって、覚醒しかかっているよな?」
モニターに映るレムリアーナを見るズブロッカ。
そしてすぐさま検索を続けて。
「ええ。浮遊大陸はその体が傷つくと自己回復を開始します。ですが、それが間に合わなくなった場合、魔導処理を無理やり引きはがして、回復するための獲物を求め始めます。そうなると制御は効かなくなり、己の本能の赴くままに餌を喰らい始めるそうですわ」
「はぁ。それで餌って?」
「‥‥魂と。それも質の高い魂を求めるそうでして‥‥」
ふぅん。
そこまでの説明を聞いたとき、ストームはレムリアーナの前方区画、砲門の見えている城塞下の岸壁を見る。
──ギョロッ
すると、巨大な瞳が浮かび上がり、周囲を見渡した後、また静かに閉じられていった。
「ふむふむ。あいつはまだ制御されているということか。そんで、なんであいつはあそこまで傷ついているんだ?」
「魔法でしょうね。それ以上はどうにも」
「という事は、ツヴァイにでも聞くしかないか。よし、次元潜航解除‥‥」
──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコ
同時間軸位相空間に沈んでいたヴィマーナが、ゆっくりと浮上を開始する。
レムリアーナ前方60kmの空中に魔力による波が発生する。
その重力波によって生み出された魔力波涛から、ヴィマーナがゆっくりと浮上を始める。
──ピッピッ
すると、ズブロッカの目の前のコンソールが輝く。
「ストームさん、通信です」
「お、回線開いて」
すぐさまオープンチャンネルで回線を開く。
『こちらレムリアーナのジェネラです。フーユゥ聞こえますか。急ぎこの地から一度撤退します‥‥その前に、ヴィマーナの業火の裁きでアメリゴを焼き尽くします‥‥急がないと、レムリアーナが持ちません‥‥フーユゥ、聞こえていますか?』
通信音声はレムリアーナのジェネラ。
ヴィマーナが地球に姿を現したとき、ブライアンとジェネラの二人は心底安堵した。これで一時的にせよ、忌々しいマチュアの使徒から逃れる事が出来る、それどころか、ヴィマーナの攻撃でアメリゴ大陸の半分は燃やし尽くす事が出来ると確信したのである。
だが、フーユゥからの返事は帰ってこない。
「まあ‥‥なんだ、ジェネラとやら、解説乙と告げておこう」
ストームがレムリアーナに返信を返す。
その声にジェネラとブライアンは安堵から恐怖に代わっていった。
『何‥‥だと』
「ああ、このヴィマーナは我々幻影騎士団が鹵獲した。悪いが、乗っていた魔族は全て殲滅済みだ。悪いが、あんた達を無事に帰す気は毛頭ないのでね‥‥そこにいると邪魔だ」
──ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
そのストームの声と同時に、斑目とウォルフラム、ワイルドターキーが魔法鎧で出撃する。
その1分後にはレムリアーナ上空までたどり着くと、三騎は一気に急降下を開始、結界を一撃で破壊するとレムリアーナ前方の空間転移砲のある城塞に着地した。
既に残された魔族は殆どおらず、わずか数分で空間転移砲は完膚なきまでに破壊された‥‥。
‥‥‥
‥‥
‥
「そ、そんな馬鹿な‥‥これはレムリアーナだぞ、浮遊戦艦の中でも上位の存在なんだぞ‥‥それが、こんなに簡単に、それも、貴様たち人間如きに‥‥」
レムリアーナ制御室でワナワナと震えるブライアン。
映し出されているモニターには、少しずつ設備を破壊しながら制御室に向かっている魔法鎧が映し出されている。
「こ、こうなったら、レムリアーナごと自爆して」
「それ‥‥は駄目、ナイアール様の精神体が、影響を受ける‥‥今は逃げる‥‥」
ポルトロンも制御室にやってくると、ブライアンに撤退をほのめかす。
事実、今の戦力では、ブライアン達には勝ち目がない。
今のストームたちを止める事が出来るのは、おそらくカーマインのみ。
そのカーマインが今ここにいないという事実が、ブライアン達に絶望を突き付けている。
「くそうぅぅぅぅぅっ。どうしてこうなった、どこで計画がずれたんだ」
「マチュアを殺したから‥‥そこで計画はズレたんだろうなぁ」
ジェネラは立ち上がりながら、ポルトロンの座っている椅子に近寄る。
「ブライアン、僕とポルトロンは一度グランアークに撤退するよ。悔しいけれど、ヨギ導師の助力を仰ぐしかないよ」
それだけを告げて、ジェネラはポルトロンの座っている椅子を押しながら制御室を後にする。
そしてブライアンも、急ぎ制御室を離れると、三人で地上施設にある転移門へと向かった。
〇 〇 〇 〇 〇
崩壊する地下回廊。
そこをどんどんんと突き進むウォルフラムと斑目。
地上ではワイルドターキーの魔法鎧が待機し、襲い来るワイバーンやシャンタークを切り払っていく。
レムリアーナに突入して既に40分。
ようやくウォルフラムは地下制御室に到達した。
しかし、制御室のコンソール等は全て破壊され、扱う事は出来なくなっている。
魔導制御球は取り外され、レムリアーナはゆっくりと降下を開始していた。
──ピッピッ
「こちらウォルフラム。レムリアーナ制御室の奪取完了。制御球は持ち去られ、コンソール類はすべて破壊されています。現在高度が下降しているので、このままではワシントンに直撃するかと」
『あ、やっぱりか‥‥』
すぐさまヴィマーナをレムリアーナの下に移動させる。
そして防御結界を全開にすると、ヴィマーナの結界でレムリアーナを受け止めた。
──ズン!!
その質量にヴィマーナが悲鳴を上げる。
結界がみしみしと音を立てるが、ストームは両手を組んでゴキゴキと手首を回していた。
「ズブさんや、こいつを連れたまま次元潜航するので、ウォルたちに一度戻って来いって伝えて」
「は、はい!!」
ズブロッカが返事を返すやいなや、ストームは静かに深呼吸。
そして。
「神威開放‥‥モード2」
そう叫ぶや否や、目の前の魔導制御球に手を添えて神威を注ぐ。
その瞬間、ヴィマーナが大きく鳴動すると、ゆっくりとレムリアーナごと次元潜航を開始した。
「さて、結界越しの遠隔治療‥‥と」
ゆっくりと神威を広げ、レムリアーナに伸ばしていく。光の束となった神威はレムリアーナを包み込み、そして壊れていた部位をゆっくりと修復していく。
そしてヴィマーナとレムリアーナが白亜の空間に沈み終えると、ストームは立ち上がって司令室から出ていった。
「ちょいとレムリアーナと話してくるわ」
「了解です、お気をつけて」
‥‥‥
‥‥
‥
ヴィマーナ頭上に位置するレムリアーナ。
先ほどの次元潜航の際に、さらに大陸先端と後方は耐久限界で崩れ落ち、今のレムリアーナは全長500mにまで大きく縮小している。
ヴィマーナ地上施設、ストームは上空のレムリアーナをじっと眺めていた。
「さて、縮地‥‥」
──シュンッ
一瞬でレムリアーナの彼方此方にある穴の一つに転移すると、そのまま真っすぐにウォルフラムの待機している制御室へと向かう。その途中で魔族を次々と粉砕し、10分後には制御室へとたどり着く事が出来た。
「ご苦労様です。ご覧のありさまで、このレムリアーナは廃棄されたかと思われますが」
ウォルフラムがストームの元に近寄って説明すると、ストームは真っ直ぐにモニター正面に立つ。
「ああ、こりゃあ治らんわ。機械的な部分は俺じゃあ修復出来ないからなぁ‥‥どれ」
魔導制御球の嵌められていた場所に手を翳すと、そこでゆっくりと神威を流し込む。
手のひらから溢れた神威はゆっくりと浮遊戦艦中枢に流れていくと、そこでレムリアーナの意識体にたどり着いた。
──シュゥゥゥゥッ
『誰?』
「お、意識とコンタクト成功。俺はストーム、ヴィマーナの主人だ。お前は崩壊しつつある、俺に従うのなら、今一度お前に力を授けてやるが」
『崩壊、死、私は拒絶する』
「生きたいか?」
『新しい命、新たなる主人、私は受諾する』
「そうか。なら心に、魂に刻め。俺の名前はストーム・フォンゼーン。レムリアーナよ、俺達に従え」
──シュゥゥゥゥゥゥッ
そう告げてから、ストームは神威をレムリアーナの隅々に行き届かせる。
生体部品の再生と融合、そして崩壊した大陸中枢の修復を始めると、大陸はゆっくりと力を取り戻し始めた。
燃え落ちた地上の魔力増幅樹木は新しい芽が吹き出し、草原地域も緑が再生し始めた。
それと同時に、新たなる主人を得たレムリアーナは古い主人たちの残した忌まわしい遺物を次々と排除する。
地上の転移門は空間に放逐され、空間転移砲はゆっくりと錆びつき、砕け散り始める。
それら全てが魔族達により行われた、まさに魔改造と呼ばれているものらしい。
かろうじて地上の王城施設は原型を留めたまま、新しい王の到着をじっと待っている。
──ヒュンッ
そして、制御室中央、正面モニター前にあった、魔導制御球の嵌められていた穴に新しい制御球が生み出された。
そしてその正面に、一振りの短刀が浮かび上がる。
レムリアーナと主人を繋ぐ鍵であり、ブライアン達は失われてしまったこれを探すために、カダスを探索していたのである。
まさかこのような手法で回収できるなど、魔族のやつらには思いもよらなかったであろう。
「こ、これは、話にあった鍵ですか」
「ああ、これでよし‥‥マスターコントロールの書き換え開始‥‥」
ストームはレムリアーナの制御球の書き換えを開始した。
ヴィマーナと同じように、幻影騎士団以外の制御を受け付けなくすると、短刀を自分の魂の護符と同期させる。
「よし、これでレムリアーナの制御完了だ。二つ目の浮遊大陸をゲットした事だし、一度日本に帰還するとしますか‥‥説明すんの面倒くせえなぁ」
ボリボリと頭を掻きつつ、ストームは制御室から出て行く。
その後ろを、ウォルフラムもやれやれという表情でついて行った。
〇 〇 〇 〇 〇
ロナルドはただ茫然とするしかなかった。
突然姿を現した、新たなる浮遊大陸。絶望しか見えなかったロナルドだが、新たなる大陸から数騎の魔法鎧が飛び出すとレムリアーナに向かって攻撃を開始したのである。
やがてレムリアーナは浮遊能力を失ったかのように、ゆっくりと地上に向かって高度を下げてきた。だが、新しい浮遊大陸はレムリアーナを真下から持ち上げるように浮かび上がると、下降を開始していたレムリアーナごと空間に沈んでいったのである。
「い、異世界大使館に連絡を、今起こった事を伝えなくては」
すぐさま官邸に戻ると、ロナルドは異世界大使館に電話を入れたのである。
‥‥‥
‥‥
‥
「‥‥成程。ありがとうございました。これからはこちらで調査を続けますが、おそらくは大統領の予測通りかと思いますので‥‥それでは失礼します」
──ガチャッ
アメリゴーからの電話を終えた三笠が、ふぅ、と天井を見上げる。
「今のはロナルド大統領ですよね? 浮遊大陸が動きましたか?」
「いえ、新しい浮遊大陸が出現しまして」
「「「「「ええええええええええ!!」」」」」
高畑、吉成、ポイポイ、そしてツヴァイまでもが驚きの声をあげる。
今でさえいっぱいいっぱいなのに、新しい大陸となるとお手上げ状態である。
「いえいえ、その浮遊大陸とレムリアーナとで交戦状態になったそうで、なんでも新しい大陸からは魔法鎧らしき機体が飛び出してきたそうで、そのままレムリアーナを停止させると、一緒に空間に沈んでいったそうですよ?」
──ピッピッ
三笠の言葉を聞いて、すぐさまツヴァイとポイポイがイヤリングに指を当てる。
「マチュアさま、無事なんですか、マチュアさま!!」
「ストームさんー。新しいおもちゃ手に入れたっぽーーーい」
ともに上司に連絡を入れるが、どっちも反応なし。
すると、大使館職員全員が、何かに気が付いた。
大使館上空、その青空に波間が現れると、そこからゆっくりとヴィマーナだけが浮上した。
その周囲と上下に、幻影騎士団の旗を掲げながら。
幻影騎士団、無事凱旋完了。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






