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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

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異界探訪・その15・魔族の進軍と崩壊する地球

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 時間はストーム達がオーストラリアから転移された時間まで戻る。


 オーストラリアで起こった、連邦国会議事堂およびストーム達の転移による消滅は、世界中に衝撃を走らせた。

 これから魔族の侵攻が始まるのではと、どこに逃げたらよいのかと。

 第一に問い合わせがあったのは異世界大使館、その次が国連本部。

 どちらもカルアドに繋がる転移門ゲートを持っている為、そこに避難出来ないかという問い合わせが殺到している。

 日本国・瑞穂県はすでに一時避難の受け入れ準備を開始、同じようにルシアとアメリゴも自国転移門ゲートを市民に開放しているため、急ぎ避難準備を始めている。

 ヨーロッパ圏では、統合第三帝国のあるゲルマニアに難民として流れようと画策している者までいる。

 いずれにせよ、避難を希望する人々全てを受け入れる事は出来ないため、各国は混乱に包まれていた。


‥‥‥

‥‥


「ふむ。これは中々‥‥」

 異世界大使館ロビーで、アハツェンがのんびりと対魔族結界水晶を解析していた。

 マチュアの神威の殆どを注ぎ込んで作り上げたこの水晶、そんじょそこらの魔族は触れるだけで浄化してしまうという優れもの。そしてその効果はそれだけではなかった。


──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

 深淵の書庫(アーカイブ)の中で、アハツェンはいくつもの結界水晶を並列処理している。

 かつて、水神竜クロウカシスの進撃の際に作られたもの、そして統合第三帝国との戦いに柄を寄れたもの、それらの予備を綺麗に並べると、そこにマチュアの作った対魔族結界水晶から神威を注ぎ始める。


「あの、それ、そんなことして問題ないのですか?」

ロビーの端で作業しているアハツェンに珈琲とサンドイッチの差し入れをする高畑。そのままアハツェンの作業を眺めていたのだが、何をしているのかちんぷんかんぷんであった。

「ええ。この鑑定球(アナライズオーブ)の中には、マチュア様からのメッセージが込められていまして。このように、今までに作り出した水晶に同じ能力を付与する事が出来るという優れものなのですよ」

 高畑はへぇ、と驚いた顔で話を聞いている。

「それに、これにはマチュア様からの指令も組み込まれていましたので‥‥と、赤城さん、これをもってアメリゴへ行っていただけますか? こっちの水晶は十六夜さんがルシアに持って行って下さい」

 並列処理の終わった水晶を、高畑の隣で見ていた二人に手渡す。

「これを、私達がですか?」

「ルシアにって、どうすればいいのでしょうか?」

「マチュア様からの伝言です。それぞれ、アメリゴとルシアの首都上空にそれを設置して起動するようにと。一度起動すれば、ほぼ半永久的に結界を維持するそうです。マチュア様の魔力と神威を付与されているのですから当然でしょう」

 アハツェンは事務的に告げる。すると赤城と十六夜は瞳に涙を浮かべた。

「そんな。マチュアさんの遺言みたいに言わないでください」

「必ず帰って来ます。ストームさんがそう言っていましたわ」

 アハツェンに食って掛かるように言い返す二人だが、アハツェンはフッと優しい笑みを返す。


「まあ、マチュア様が帰って来ない訳はないのですよ。今のはその水晶に刻まれた指令です。カルアドを売った以上は、アフターケアも万全にとの事です。これは後程、ミアに渡して東京上空に。そしてオリジナルはここに戻して‥‥と」

 ロビー中央の天井に水晶を設置すると、パンパンと手についた埃を払う。

「さ、私の仕事はこれでおしまいですので。それではよろしくお願いしますね」

「は、はい、それではすぐに」

「私も行ってきますわ!!」

 赤城と十六夜、二人はすぐさま外に飛び出すと、魔法鎧メイガスアーマーを召喚する。そしてすぐさま乗り込むと、一気に高度を上げて飛んでいった。


「おや、もう行きましたか」

 丁度中庭から飛び立った二人を見て、三笠もロビーに出てくる。

「ええ。私の仕事の引継ぎは終わりましたので。では、私はこれで」

「お疲れさまでした。後の事はよろしくおねがいします」

 かたやマチュアの作りし最強のゴーレムの一人、かたやマチュアの直属の近衛騎士団。お互いの立場が分かっているからこそ、余計な詮索も何もない。

 ただ、いつものように挨拶を交わす、それだけで充分であった。

 アハツェンはスッと一礼して、異世界ギルトに繋がっている扉をくぐる。それを見送ってから、三笠も事務局に戻っていく。


「さて。池田さん、至急ルシアとアメリゴに連絡を。赤城と十六夜が結界装置を持って行ったので受け入れてほしいと」

「了解しました。それでは」

 すぐさま書面を作り上げると、それぞれの大使館ではなくホワイトハウスとクレムリンに直接ファックスを流す。他の大使館では到底出来ない事であるが、ここ異世界大使館はそれを許されている。

「さて。それではミアさんにも連絡を入れておきますか」

 すぐさまクリアパッドでミアに連絡を入れると、10分後にはミアも水晶を受け取りにやって来た。そして一通りの説明を受けてから、ミアは再び東京へと転移する。



 〇 〇 〇 〇 〇


 

 東京。永田町。

 国会議事堂横にある参議院第二別館、その一角に『異世界大使館・東京別館』がある。

 普段は使われていないが、ちょくちよくマチュアがやってくるのと、統合第三帝国絡みで行動する時にベース基地があった方がやりやすかろうと用意された。

 異世界大使館直通転移門ゲートも設置されているので、ここに出入りが許されている者ならば、自由に使う事が許されている。

 その中にある30畳ほどの大きな居間、その中央に配置されたこたつ。

 ミアは三笠に呼ばれて水晶を受け取ってから、すぐにここに戻ってきた。

 ミアたち幻影騎士団は全員、駐在防衛騎士としての許可証を持っている。ここには自由に出入り出来るので、すぐさま一休みして、この後どうするか考えていた。


‥‥‥

‥‥


「で、選ばれたのは俺っていうことか」

 すぐさま蒲生が呼び出されたらしく、ミアの向かいに座っている。

 その後ろには、差し出された座布団に座っている蒲生の秘書官も待機している。

 蒲生について来たのはいいものの、仕事を忘れて差し出されたお茶とお茶菓子を満喫している模様。

「はい。マチュア様から、困ったときは蒲生さんに聞きなさいって言われていますから」

「それは確かにな、で、今日はなんの相談だ?」

 スッと拡張エクステバッグから対魔族用水晶の複製を取り出して見せる。

「マチュア様が作った対魔族用結界水晶です。これを起動させると、あの空間転移砲も無力化出来ますし、魔族は近寄る事も出来ません」

 淡々と説明するミア。その一つ一つに蒲生は驚くばかりである。

 今まで散々じらされていたもの、それが目の前にある。これには蒲生も慎重にならざるを得ない。

「それで、代価はなんだ?」

「さぁ? マチュア様からはこれを東京に設置して来いって言われましたから。代価とかは全く聞いていないのですよ」

 これには蒲生も目を丸くする。

 後からどれだけ吹っ掛けられるのか、それが心配でならない。

 それと同時に、マチュアの心遣いには感謝するしかない。


「そっか。それで、それはどこに設置するんだ? 場所は決まっているのか?」

「ここですね。外に設置すると色々と五月蝿い方々がいらっしゃいますから。今回のはかなり広範囲だそうで、ここでも十分に守り切れるそうですよ」

 まるで取扱説明書を見ているように説明するミア。

「かなり広範囲ねぇ。それはどこまでなんだろう?」

「さぁ?私はこの世界の地形も都市も知りませんから。確か、半径100kmまではカバー出来るとかで」


──ブッ

 飲みかけていたお茶を軽く噴き出す蒲生。

「うわ、汚いなぁ‥‥」

「いやあすまんすまん、そんなに強力なのか‥‥それで、公表していいのか?」

「それを相談したくてですね。どうしたらよいでしょうか?」

ラグナ・マレアにいるのならいざ知らず、ミアにとっては異世界の地球。いくら勉強しても、まだまだ知識も情報量も足りない。

 このような重大な事案、誰に相談したらいいのかと思案していた。

 同じ事を三笠に問いかけたが、三笠は笑いながら一言。


「議員の中で、ミアさんの信頼できる方に相談するのがよろしいでしょう。万が一何かありましたらバックアップしますよ、これも勉強と思って」


 と告げられた。

 なので蒲生なのである。


「東京はほぼ全域、千葉も入るか。神奈川も大体網羅できるとは‥‥たいしたものだなぁ。で、これは札幌にはあるのか?」

「ええっと、札幌のは半径200kmとか」

 伊達や酔狂の神威ではないというところか。

「ははぁ‥‥渡島大島まで守れるようにしたのか。それで、これはあといくつある?」

「アメリゴとルシアには赤城さんと十六夜さんが設置に向かいました。後の予備がいくつあるかは知らないのですよ」

 淡々と説明するミア。

 これには蒲生も腕を組んで考える。

「あの二か国にも配置か。国連がどう判断するかだよなぁ」

「理由については『魔族がカルアドに侵攻するのを防ぐため』だそうです」

「ああ、成程な。それならしっかりと理由になるし。そんじゃ、この件はまだ極秘で頼むわ」


 敢えて公表しない。

 それが蒲生の選択した結論。

 こんなものを公表したとして、その地域に避難民が殺到するのは目に見えている。

 それに、異世界大使館やマチュアに対しての批難が集まるのは目に見えている。

 この結界を求めて人が殺到するかもしれないと考えると、うかつに公表は出来ない。

 この意見には、アメリゴとルシアはどうするのか。

 それが一番の懸念事項であった。


「では、この事は極秘ですね。公表するタイミングは蒲生さんにお任せしますので」

「ああ判った‥‥しかし、何というか、部屋の使い方がもったいないというか」

 閑散とした室内を見渡す蒲生。

 本当に、この部屋には何もない。

 炬燵が一組とモニターが一台だけ。

 お茶などの道具は台所にあるのでここにはなく、マチュアの専用執務室も別にあるので、ここはただ集まってお茶を飲むだけの部屋になっている。

「私としては、もっと狭くていいと思うのですが」

「まあな。ま、そこんところはうまく使ってくれや、あまり長くここにいると、記者会館の連中がまた良からぬ推測を始めるので失礼するわ、お茶ありがとうな」

 丁寧に挨拶を返してから、蒲生は別館から出て行く。

 ミアも玄関まで見送ると、すぐさま対魔族用結界水晶の設置を開始した。



 〇 〇 〇 〇 〇


    

 三日後。

 オーストラリア上空に浮遊していた大陸が、ゆっくりと高度を下げ始めた。

 そして一日に一発、空間転移砲を撃ち始めた。

 最初はオーストラリアのキャンベルが、そしてシドニー、メルボルン、バースといった主要都市が消滅した。

 浮遊大陸の降下を確認してから、オーストラリア市民の多くは国外に避難を開始する。

 それと同時に国連安全保障理事会が開催され、オーストラリアの反対を無視するように常任理事国全会一致で、浮遊大陸に対しての国連軍による進軍が開始された。

 

「何故だ。どうしてこうなった!! あれは我がオーストラリアの財産になる予定だったのだ、どうして‥‥」


 オーストラリア首相であるアルフレッド・バートンは避難先であるオーストラリア海軍空母・インビンジブルの簡易執務室で頭を抱えていた。

 傍らで待機していた海軍大将のピーター・ストロガノフは狼狽している首相に、そっとブランデーを落とした紅茶を差し出す。

「初動でマム・マチュアの協力が得られなかった事が最大の敗因ではなかったのかと。下手な意地を張らずに、異世界大使館の助力を仰げばよかったのです」

「今更それをいうか‥‥ふぅ‥‥」

 差し出された紅茶をのどに流し込み、アルフレッドは少しだけ落ち着きを取り戻す。

「国連軍の到着は?」

「主要な空港施設は魔族の放った蝙蝠型魔族や人型魔族により制圧されています。現在使えるのは海軍勢力のみ、陸軍司令と空軍司令はキャンベルの国会議事堂消失により行方不明です」

「あ、ああ、そうだったな。それでピーターが国防軍の最高司令官になったのだな」

「そうです。現在、マジェスティック級一番艦から三番艦までいつでも出撃できるよう準備が完了しています。国連軍が到着するまでに、あの浮遊大陸を落としてしまえばよいのですが‥‥」

 すぐさま地図を広げるピーター。レムリアーナが高度を下げたため、航空機による高高度偵察が可能になった。

 幸いなことに対空砲撃などがなかったので、かなり詳細な大陸地図を手に入れることができた。


「この、大陸先端にある要塞に空間転移砲の砲門があります。魔族の集落はあちこちに点在、すべてを滅ぼすとなるとかなり危険な手を使うしかありませんが」

 オーストラリアには核兵器はない。

 バンカーバスターのような大量破壊兵器も保有しておらず、このような状態での防衛となると、最新鋭の対艦/対地/巡航ミサイルである『ジョイント・ミサイル』しかない。

 それが発射可能な戦力はすでに待機している、問題はあの結界である。

「極秘裏にマム。マチュアに協力を‥‥いや、それも無理か」

「ええ。この後の決断は首相であるあなたの一言です‥‥」

 お膳立ては出来ている。

 後は、アルフレット首相を待つだけであった。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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