異界探訪・その10・まだまだ序の口と、マジでピンチ
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
幻夢境カダス・最果ての村。
早朝、ストーム斑目の二人は門の外に出ると、のんびりと近くの森の中を散策していた。
時折姿を見せるサラマンダーもどきやシャンタークなどを一撃の元に屠って行き、村からそこそこの距離を離れた場所までやって来ると、静かに瞑想を開始する。
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
ストームと斑目の足元に魔法陣が輝くと、そこからゆっくりと魔法鎧が姿を現した。
「さて。ほんじゃあ、とっとと敵浮遊大陸を乗っ取ってグランアークに戻るとするか!!」
コクピットでゴキゴキと拳を鳴らしつつ、ストームが斑目に念話を送る。
『そうですなぁ。それで、どこまでやってよろしいので?』
ゆっくりと機体の出力を上げる斑目。
背部魔導スラスターがほのかな緑色に輝き始め、機体全体に魔力が充満していく。
「無制限。相手は魔族で地球の敵だ。だったら、幻影騎士団の敵でもある‥‥何より」
──ゴキッ
「大切なダチを殺されかかって、冷静でいられる程やわじゃない。マチュアならこんな事は言わないが‥‥一人も生きて帰すな。殲滅だ!!」
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
勢いよくペダルを踏み込んで急上昇する。
長船が加速して水平飛行に切り替わると、朱凰もまた横に並んで飛んで行く。
目標地点は確認している為、後は一気に飛んで行くだけ。
相手に反撃の隙を与える前に、浮遊大陸に飛び込まなくてはならない。
──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
クリスタルモニターにターゲットである浮遊大陸が見え始めた時。
浮遊大陸からチカッチカッと光が見えて来る。
「さて。前方から迎撃機がお出ましだ。無視して突っ込む!!」
『なんとまあ剛毅な。敵の攻撃を受けたらどうするおつもりでござるか?』
と窘めるように呟く斑目であるが、横で更なる加速を始めた長船に合わせて一気に加速する。
瞬間、敵の機動兵器が見えたかと思ったが、それは既に後方に置き去りになっている。
敵はストーム達を視認し、それでまだ距離があると思っていたのだろう。
一気に横を抜けられ、振り返った時にはストーム達は浮遊大陸の直上まで飛んでいた。
──Broooooooooooooooooooom
すると、浮遊大陸から対空砲撃が始まった。
「‥‥GPSコマンド‥‥鑑定開始。と、何だ30mm対空砲かよ。斑目、機体の対物理障壁を目盛15で固定、退魔術障壁を35で。残り50は武器に魔力を伝導させておけ」
『了解でござるよ‥‥』
すぐさまコントロールオーブにより機体内部の魔力伝達比率を変更する。
機体全体が緑色から銀色に輝くと、敵対空砲撃が朱凰に直撃して‥‥。
──ガガガガガガガガィィィィィィィィィッ
全ての銃弾が、機体直前に張り廻られた障壁により弾き飛ばされていた。
『ふむふむ。的確な指示でござるなぁ』
「そんな余裕言っている場合か。加速して島に取り付く‥‥訂正、入口から飛び込めよ!!」
──ガシャッッッッッ
長船が空間に右手を突き刺すと、そこから巨大なバスターランチャーを取り出す。
以前マチュアが作り出した魔法鎧用大出力兵器であり、更なる改良が加えられている。
それを腰溜めに構えると、ストームはバスターランチャーから魔力伝達ケーブルを引き抜いて機体に差し込む。
──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
それに合わせて浮遊大陸上空に半透明のバリアが展開する。
だが、ストームは一切無視。
「‥‥魔力型結界か‥‥悪いな、こいつの破壊力は『クロウカシスの魔力中和ブレス』とどっこいどっこいだ。更に付け加えると‥‥無敵だ」
──カキッ
ストームは銃の形に変化したコントロールオーブのトリガーを引く。
その瞬間、バスターランチャーの砲身から一直線に伸びる細いエネルギーの束。
それは浮遊大陸のバリアーを簡単に貫通すると、大陸全体を覆っている結界全てを破壊した。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
爆音と同時に大陸上部に穴があく。
すると、その破壊された地表の下に自然洞のようなものが見える。
破壊された施設のようなものや、整備中のような機動兵器群がクリスタルモニターに映し出された時、そこに朱凰が急加速して飛び込んで行った。
「さて。余計な事をされると困るので‥‥」
──キン
着地と同時に刀を引き抜くと、朱凰はクルッと回転しつつ周囲の機体に向かって斬撃を放つ。
それは扇状に飛ぶ衝撃、しかも浮舟という防御無効の斬撃。
機動兵器の胴部が、腰部が、脚が、頭が、次々と破壊され、切断され、吹き飛んで行く。
──ガギィィィィィン
更に、その地域を制圧し終えた時、ストームも上空から突入して来た。
「さてと。こっからは歩きになるか‥‥」
──パシュッ
機体のコクピットから飛び出すストームと斑目。
すると、この区画に繋がっている通路から、魔族らしい人影が次々と走って来る。
「はいはい。神威開放その1‥‥からの、GPSコマンド。斑目、この大陸の管制室はこの二つ下、前方だ」
体内の心力を神威により波長に変化し、もっとも高い魔力を保有する物体を探し出す。
これにより導き出した目標地点がわかった時、斑目はグッと腰を落とす。
「それでは‥‥螺旋孔っっっっ」
──チン
一瞬で斑目は足元に向かって斬撃を放つ。
この真下の岩盤の厚さがどれほどのものなのか、そんなことは気にする事なく。
そして足元に丸く亀裂が走った時。
「まあ、無理でござるなぁ」
と斑目は笑いながら敵に向かって走り出した。
「いや、ちょ!! そこは岩盤切断して飛び降りるんじゃないのか?」
「さすがにそこまでは無理でござったなぁ」
そう笑いつつ目の前の魔族を切り捨てていく斑目。
その姿にやれやれと苦笑いしつつ、ストームも白銀の鎧に身を包み、力の盾とカリバーンを引き抜く。
「そんじゃ、ここからは実力行使と行きますか。幻影騎士団剣聖ストーム、推して参るっっっ!!」
〇 〇 〇 〇 〇
グランアーク・蘇陽郊外。
オーストラリア連合陸軍がゆっくりと包囲網を広げている。
その様子を、ズブロッカとワイルドターキーは町の中からのんびりと眺めている。
手にしたオペラグラスを拡張バッグに放り込むと、ズブロッカはハァ、とため息一つ。
「全く。ウォルフラムの話していた通りだわ。どう見ても、あの戦力は話し合いっていう感じがしないわ」
「確かオーストラリアとやらの軍隊じゃな。しかし‥‥どうするつもりなんじゃろう」
「分からないわよ。ウォルフラムの連絡では静観、避難民の誘導って言われているけれど‥‥」
「ならそうするしかあるまい」
──ヒョイ
素早く椅子から立ち上がると、ワイルドターキーは目の前の市場で荷物を下ろしている浩宇の元に歩いて行く。
「ああっ。もう、いつも勝手なんですから」
ズブロッカも急いで走り出すと、浩宇の元に向かう。
「おや、ズブロッカさんとワイルドターキーさん、今日はもう観光はおしまいですか?」
額から流れる汗を拭いつつ、浩宇が笑顔で二人に話し掛ける。すると、ワイルドターキーも浩宇の近くにある、野菜の入っている籠を持つと、その中の野菜を広げ始める。
「うむ。暇になったので手伝うぞ」
「それは助かります。では、終わったらまたいつもの所で一杯といきますか? ズブロッカさんもどうぞ」
突然ワイルドターキーが勝手な事をし始めたので困り果てているズブロッカ。だが、浩宇にそう話し掛けられると、あまり強く言えなくなってしまった。
「そうね。では、私も少し手伝いますわ‥‥」
と告げて、ズブロッカは空になった籠を整理する。
「そういえば、この都市って軍隊も騎士団もいませんけれど、もしも外からモンスターの襲撃があったらどうするのですか?」
「うむ。わしもそれが気になっていてのう。こんな見も知らない異世界にやってきて、どうやって身を守っているのか心配なんじゃよ」
ズブロッカとワイルドターキーが問いかけると、浩宇は町の中心を指さす。
「緊急時には転移門から中国陸軍が駆け付けることになっています。ええっと‥‥対魔族用の魔法処理をした武器がありますので、それで大丈夫ですよ」
あっさりと告げる浩宇。そしてズブロッカとワイルドターキーは、思わずお互いの顔を見合わせる。
「対魔族用?」
「中国というのは、そんなに魔法が発達しておったのか? それはどんなものなんじゃ?」
興味津々に問いかけるターキー。
「ええっと。武器弾薬すべてに術式文様が刻まれているそうですよ。それに一部の部隊は、薬か何かで『疑似魔族化』とかいう状態だそうで‥‥ええっと、気を練りこんで武器に伝達出来るとか」
「「ぇぇぇぇぇぇぇぇ」」
その欧阳の発言に、ズブロッカは眩暈を覚える。
まさかそんな事までしているとは予想外である。
横にいるワイルドターキーはすぐさま念話で今の会話内容をウォルフラムに伝達すると、取り敢えず命令は続行という報告だけを受けている。
「‥‥ちなみにじゃが、もしも、この地に他国の兵士がやってきたらどうするのじゃろう?」
恐る恐る問いかけるワイルドターキー。すると、浩宇は驚いた顔で二人を見る。
「あー。確かこの地は極秘事項だった筈ですよ。お二人のようにこの地に住んでいる者との交流は問題ありませんが、もしも私たちの故郷である地球の人間がいた場合は拘束されますねぇ。それに」
──キュルキュルキュルキュル‥‥
遠くから聞こえてくるキャタピラ音。
そしてオーストラリア連邦陸軍の装輪装甲車が次々と都市部に突入してくるのが見えた時、浩宇は手にした白菜をボトッと落とした。
「たたたたたた、大変だぁぁぁぁぁ」
その叫びは周囲の人々の耳にも届いていく。
当然ながら皆、慌てて近くの建物に避難したり、乗っていたトラックに飛び乗って走り去って行く。
浩宇もすぐにトラックに飛び乗ると、ズブロッカとワイルドターキーに声を掛ける。
「ここは危険です、急いで逃げましょう」
「ええっと、どこへ?」
「町のあちこちに避難用の結界を施したシェルターがあるんです。そこは安全ですから」
そう叫ぶ浩宇。そしてズブロッカとワイルドターキーは車に飛び乗る事なく、浩宇に軽く頭を下げる。
「私達は大丈夫。避難出来なかった人を助けてくるわ」
「うむ。人間とは違い体は頑丈なのでのう。浩宇殿こそ急いで逃げるのじゃ」
そう告げてズブロッカとワイルドターキーは町の中心部に向かう。
──ピッピッ
「こちらズブロッカ。オーストラリア陸軍が進軍を開始、指示をお願いします」
『こちらウォルフラム。逃げ延びた市民の避難を最優先で』
「そんなこと言ってものう。中国軍とやらは疑似魔族化している兵士もおるらしいぞ。どう見てもオーストラリアの敗北確定じゃが」
『何だって‥‥全く‥‥どこのどいつだ、中国に魔族化なんて技術渡した阿呆は‥‥ストーム様の命令は絶対、この戦争には関わらない。ただし、正当防衛は構わない』
「了解じゃ。そんじゃあ暴れて‥‥いやいや、市民の避難誘導をしてくるぞ」
「という事です。それでは」
──ピッピッ
念話ではなく通信用イヤリングでの連絡を終えると、ズブロッカとワイルドターキーは戦闘用装備に換装して中心部にある『異世界公司』へと走り出した。
〇 〇 〇 〇 〇
沈黙した空間。
浮遊大陸中心部の制御室で、ストームと斑目はのんびりと浮遊大陸の制御方法を調べていた。
一騎当千が二人で二千人の被害。
ここに至る迄の戦闘で、かなりの魔族を屠って来た。その大量の魔族の死体やけが人は全て放置して、ストームと斑目は制御室の占拠に成功した。
ストームの足元には、この幻夢境で浮遊大陸を操っていた魔族の死体が転がっている。
既に死亡しているらしく、静かに塵のように崩れ始めていた。
この人物が、魔人ブライアンの命令により、幻夢境カダスで『レムリアーナの鍵』を探していたフーユゥという幹部である事など、ストームも斑目も知らない。
ただ、彼が手にしていた魔導制御球は、今はストームが手にしており、まもなくこの浮遊大陸『ヴィマーナ』の解析が終わろうとしていた。
「‥‥この三鈷杵とストーム殿の持つ魔導制御球で操るようですなぁ」
「そうみたいだな。さて、そんじゃあ一発動かしてみっか」
ゴキゴキッと拳を鳴らしてから、魔導制御球をコントロールボックス中央に設置する。
そして三鈷杵を斑目から受け取ると、ストームは三鈷杵に魔力を流し始める。
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
やがて浮遊大陸全体が振動を開始する。
「転移開始‥‥目標、グランアーク‥‥」
正面モニターを眺めつつ、ストームが叫ぶ。
浮遊大陸ヴィマーナは、新しい主の命令に従い、ゆっくりと次元潜航を開始した。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






