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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

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異界探訪・その3・食い違い、勘違い

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 ストーム達幻影騎士団がグランアークにやって来て一週間。

 この間に、様々な事があった。


 基本的に幻影騎士団とドライ、住良木は完全自給自足が可能だった為、ライフランについては何も困る事なく生活している。

 帰還方法の一つであろう浮遊大陸の発見の為、まずは定期的に周辺調査を行なっては、地図をどんどんと埋めていく作業を繰り返している。

 だが、問題はオーストラリア連邦議会及びその関係者達。

 すでに施設内にあった食料や水は枯渇し、水についてはストーム達の好意で自由に使わせてもらっている。が、問題はその他の食料など。

 陸軍部隊が定期的に魔物やら動物やらを捕まえて来ているのだが、やれ味がしないだの、不味いだなと文句を言う始末である。

 それでも空腹には耐えられないらしく、我慢して食べている者もいるのだが、一部の議員達は頑なにこの世界の動物達を食べようとはしない。

 空腹に耐えられなくなっても、何処からか見つけ出した保存食をモソモソと食べているのだが、それももう尽きかけている……。


 更に問題なのは車輌の燃料事情と武器弾薬の在庫。

 周辺調査や狩りに向かう為に装輪装甲車を使い、銃弾をばら撒いている。

 そんな事を繰り返しているのだから、いつかは全てが尽きてしまう。

 いや、既に燃料についてはカツカツになっている。

 一部議員たちは不平不満をタラタラと言っているらしいが、言っていたからといってどうなる事もない。

 それでもオーストラリアに転移門ゲートを開き、この世界の資源を得る為にと行動しているらしいのだが。


………

……


──連邦議会・分館・幻影騎士団詰所


「だから。食料があった筈だ。ここはオーストラリア連邦議会の建物であり、君たち幻影騎士団が勝手に使っていい場所ではない。まあ建物を使う事は許可するが、倉庫にある食料についてはこちらで預からせてもらう」


 早朝にやってきた三人の議員。

 そのうちの一人、ミハイル・エリオダスが詰所にいたウォルフラムに一方的に話しかけてきた。

 ちょうど朝食の時間だったので、詰所当番のウォルフラムと住良木、ワイルドターキーはのんびりと食事を取っていたのだが、それを見て議員達は更に激昂する。

 食卓に並んでいたのは簡単ではあるがベーコンエッグやサラダ、トースト、スープといった加工品。ここ数日議員たちが食べている料理とは雲泥の差である。

 それを見た議員達はゴクリと喉を鳴らす。


「はぁ。ここを使っていいことは初日に司令部の人と話し合いで決定していますし、倉庫に残っていた保存食糧などは全て空軍司令に渡してますよ。毛布とかも私達は自前のものがありましたので、全てそちらにお渡ししてありますが……」


 議員たちの迫力にあっけに取られながらも、ウォルフラムは事務的に説明する。

 だが、目の前の食事を見て、そんな話を信じる議員達ではなかった。


「な、なら、その食事はなんだ?それは倉庫にあったものを使っていたのだろう?」

「はっはっはっ。残念じゃが、これは全てわしらが持ち込んだものじゃ。ほれ、話には聞いておったじゃろ? 空間拡張してあるバッグというものを」


 すっと拡張エクステバッグを取り出してバンバンと叩くワイルドターキー。住良木もすぐに自分のバッグを取り出すと、それを議員達に見せる。


「幻影騎士団と異世界大使館職員は、いついかなる時に災害に巻き込まれても平気なように、一ヶ月分以上の食料と水を持って歩いてますが。これはその中から取り出して使っているだけに過ぎません」

「という事ですので、お引き取りを。この地にやってきた時に、そちらの責任者さんや関係各位との話し合いで、双方ともに自給自足たり得ると言われましたので」


 そのウォルフラムの説明に、顔中を真っ赤にして部屋から出て行く議員達。

 それと入れ替わるように、陸軍大将のアランが首を捻りつつ部屋に入って来る。


「おはようございます……今、うちの議員達とすれ違いましたが、何かありましたか?」

「食料を返せと。ここに保存していた食料を返せという事で、全て説明しましたが判って頂けたかどうか……」


 その説明を聞いて、目の前の食卓を見てやれやれと肩をすくめるアラン。

 彼自身も、拡張エクステバッグの説明を受けた時には首を捻っていた1人であるから。


「まあ、議員達に通達はしておこう。して、頼んでいたものは用意出来そうですか?」

「ええ。隣の部屋でドライが必死に頑張っていますよ。流石はマチュアさんの補佐官の人です、話には聞いていましたがあんな魔法があるとは……」

「本当に助かる。議員達は今の食事はもう限界だと言い始めてな。倉庫にあった調味料もほぼ尽き欠けているらしくて、現在はやや薄味で凌いでいるのですよ」

「無理もありませんよ。突然の異世界サバイバルなんですから……」


 住良木が食事を終えると、すぐにアランの元にコーヒーを持って行く。それを受け取って香りを楽しむと、アランはすぐにそれを飲む。


「ゴクッ……ふう。ありがとうございます。私だけ贅沢しては怒られますかねぇ」

「指揮官特権という事で。では、調味料の用意が出来ましたら、すぐにお届けに参りますので」

「いや。取りに来るので連絡をください。さっきの阿呆みたいな議員が横取りしないとも限りませんから」


 そう告げてから、ウォルフラム達は現在の議員達の状況についての報告を受ける。

 相変わらず一部の議員は会議室でギャーギャーと喚き散らすだけ、実際に動けと言われても管轄外だと跳ね除ける。

 既に帰る術が無い事を未だに理解しておらず、幻影騎士団に責任を取らせろと言い続けている始末である。

 そんな報告を聞きながら、ウォルフラムはこの後の援助について考え始めていた。



◯ ◯ ◯ ◯ ◯



「ハァハァハァハァ……調味料創造シーズニングクリエイト……」


──ブゥゥゥン

 目の前に並んでいる金属製の調味料入れや広口瓶などに、ドライは次々と魔法を発動している。


 マチュアに出来てドライに出来ない理由はない。

 それだけの理由で、マチュアの持つ調理師魔法から調味料創造シーズニングクリエイトを発動していた。

 拡張エクステバッグの中の食材には手をつけず魔物を調理していたドライだが、どうも味気ない。

ならばと試してみて成功したまでは良かったのだが、オーストラリア連邦議会の調理師達に足りなくなった調味料を回して欲しいと頼まれ、アランからも直々に頭を下げられたので量産体制の強化をしている所であった。


「7……8……と、これで岩塩はおしまい。次は……」

 フラフラになりつつも、発注書を確認して次の器に魔法を施す。

「しっかし、マチュアさまの魔法って、食べ物に関しては無敵なんだよなぁ」


 そう呟きつつ、直径1mの金属ボールを取り出す。

 そこに強力粉・イースト・砂糖・塩・水・牛乳・スキムミルク・卵・バターといったパンの材料を注ぐと、再び魔法を発動する。

 ボールの中で材料が混ざり始め、白い塊となって行く。


「ええっと……発酵……」

──ブゥゥゥン

 魔法により一次発酵が始まり瞬時に終了すると、すぐさまクールダウンをとる。そののち魔法により二次発酵を施して、取り分けて成形しオーブンに放り込む。

 それを幾度となく繰り返し、焼きあがったパンを次々と拡張エクステバッグの中に入っていたパン箱に並べていく。


「あっれ、これにはマフィンが入ったままだ。何でマフィンなんて作ってあったんだろう? チョコチップとバナナと‥‥プレーンとハニーの四つか。こっちのパン箱にはクロワッサンも入っているし‥‥ま、これも使わせてもらいますか‥‥」

 次々とパン箱を取り出しては並べていく。

 一通りの在庫を確認してから、ドライは再びパンを焼き始める。


──コンコン

 しばらくして、誰かが扉をノックする。

 そして有無を言わずにガチャッと開けると、そこには三人の議員が立っていた。


「やっぱりここか。そのパンを売ってほしい。出来るなら文明の、そう、こんな野蛮な地の魔物もの肉ではなく、ちゃんとした食事を売ってくれないか?」

「もう沢山だ。そもそも俺たちは異世界を受け入れるという法案には反対だったんだ。それが何でこんな事になったんだ‥‥」

「なあ、金なら払う、頼むから、地球の食事を出してくれないか?」

 傍らに置いてあるパンを眺めつつ叫んでいる議員。

 しかし、ドライはシュンッとすべてのパン箱を空間収納チェストに収納する。


「申し訳ありませんが売り物ではないので。これは私たち幻影騎士団の食事です。申し訳ありませんがそういう事ですので。そちらの調理師たちにも調味料を分けるように手続きは取っています。ですから今暫くは異世界の料理を堪能してください」

「な、何だと‥‥この私が誰か分かっていてそのような事を言えるのかね?」

「ミハイル・エリオダス卿はオーストラリアでも強い発言力を持っている議員です。元空軍大佐にして、現在はエリオダス貿易の会長を務めているのです。そんな口を叩ける相手ではないのですよ?」


 横にいる議員がドライに向かって叫ぶ。

 だが、ドライはきょとんとしている。

 今現在、このような状況下でそんな言葉に誰が従うのかと。

 そもそも。


「へぇ、あなたは偉いのですか。では、私も‥‥カナン魔導連邦王国・マチュア・フォン・ミナセ女王側近の一人、ドライ・ロイシィと申します。これが私の魂の護符ソウルプレート、さて、貴方が誰かご存知ありませんが、たかだか貿易会社の会長ごときが、この私に偉そうな口を叩くものですねぇ‥‥」


 ドライの煽りに行くスタンスはマチュア譲り。丁寧な口調で煽りに入ると、ミハイルは顔を真っ赤にする。

「な、何だと‥‥わたしの会社をたかだか(・・・・)だと?」

 こぶしを握り締めてわなわなと震えるミハイル。

「まあ、この異世界グランアークにおいては、あなたの身分や立場など大したものではありませんよ。私達が『貴方の存在を忘れる』だけですから‥‥無事に帰れるといいですねぇ、ミハイルさん‥‥クックックッ」

 マチュアや譲りの悪い笑み。

 これにはミハイルたちも顔を真っ青にして部屋から飛び出して行く。


「全く。喧嘩を売る相手を考えた方がいいですよ。何で敵地で自分達が不利になる事するかなぁ‥‥味方を敵にするあの勇気は買うけれど、あんなのがオーストラリア議員とは、あの国の行く末が‥‥ま、わたしには関係ないか」

  

 達観的になる所もマチュアの性格をコピーした結果であろう。

 それぞれに個性は持っているものの、こういう所は根が同じなのであろう。  

 取り敢えずミハイルたちに合掌。



〇 〇 〇 〇 〇



「これはセドリックさん。実はここだけの話なのですが‥‥」    

 ドライに脅されて戻ってきたミハイル一行。

 このままやられっぱなしでは納得がいかないと、彼方此方あちこちの議員達に声を掛けて何かを画策している模様。

 その光景を、彼に付き従っていた議員たちもニヤニヤと笑ってみている。

 そしてミハイルのもたらしたガセネタはやがて彼方此方あちこちの関係ない議員達の耳にも届いていく。

 もしこれが地球で、冷静的な判断のできる議員であったら、すぐに裏付けを取りに動くのであろう。 

 だが、ここではそのような事も出来ない。

 慣れない環境、娯楽もなにもない土地、いつ魔族や魔物に襲われるかわからない恐怖、いつ地球に帰れるかわからないという不安‥‥。

 そしていくら食べても満足出来ない食事と、いくつもの要素が集まって行く。


「では、あの施設には我々から掠め取った食材が隠してあると?」

「ええ。ですが、それは彼らの持っている魔法のバッグに収められています。他人では出す事の出来ないところに隠し持っていて、彼らはこっそりと楽しんでいます‥‥こんな横暴を許していいのでしょうか?」

「‥‥もしそれが真実なら一大事ですな。では、すぐにでも調べてみる事にしましょう」

「それがよろしいかと。そうそう、彼らの食事のタイミングで訪れるといいですよ‥‥もしも単独で伺うのが心配でしたら、兵士を何名か連れて行くといいかもしれませんね‥‥その時は、今の話を含ませておくと、色々と話を通しやすいかもしれませんよ‥‥ギャブレット議員やミアン女史などにも話をしておくのをお勧めします‥‥」


 こそこそと暗躍を始めるミハイル。そして彼は何事もないかのように割り当てられた自室へと向かう。

 この後で起こる楽しい事件、それがどのような結末になるのか、初日に兵士達から巻き上げた保存食糧をこっそりと食べつつ心を弾ませていた。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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