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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第一部 異世界転生者と王都動乱
37/701

ラグナの章・その9 王都動乱・腐敗の浄化

 ラグナ王都にある、王城の次に巨大な建物。

 それが『帝国貴族院』と呼ばれている、諸国の貴族達の代表が集まっている建物である。

 些細な事で皇帝の手を煩わせる必要はないと、貴族達によって作られた国を纏める為の機関。

 帝国の政治や経済についての細かい部分の裁量権は、この貴族院が持っていた。

 尤も、帝国の存亡に関わる事例や軍事関係、大陸内外に存在する近隣諸国との外交など、国の基盤に関わる部分に於いては意見を出す事は許されているが、決定権は皇帝及び新たにベルナー家を加えた六王が持つ。

 以前、マクドガル侯爵とベルナー公爵の婚姻を取りまとめたのも、この貴族院の決定である。


 それ程までに、帝国貴族院はラグナ・マリア帝国でもかなり強い権限を持っている。それ故、内部腐敗が起こっても外からは見え難いのであった。

「一体どういう事だ!!」

 貴族院の議会場で、一人の貴族が声を荒げている。

「さて、どういう事とおっしゃられても。マクドガルがまさか悪魔と契約していたとは予想もしていませんでしたよ」

 努めて冷静に話を始める、ちょっと細めの貴族。

「今更マクドガルが悪魔とつるんでいようがどうでもよい。問題はベルナー領だ。あそこがマクドガル領になったときの利権の分配、それを全て白紙に戻さなくてはならないのだぞ」

 頭を抱えつつ、そう話している貴族もいる。

「では、新しく公爵の婿となる貴族を選別しますか。我々貴族院にとって都合のよい貴族など、いくらでも居ます。マクドガルのようなヘマをしださない者を選別する必要はありますが、まあ、取り急ぎ候補者の選別でも行うとしますか」

 と中央に座している貴族が、周囲に座っていた8人の貴族に向かってそうまとめた。


――コンコン

 

 と、議会場の扉が叩かれる。

「今はまだ会議中だ、一体何の用だ?」

 と議長らしき男が外に向かって叫ぶ。

「お、王城より勅使です‥‥」

 その瞬間、それまでとは態度が一変し、その場にいる貴族たちが背筋を伸ばした。

「うむ。入り給え」

 と議長が告げる。

 そして扉が開いた時、その場の一同は絶句した。

「失礼する。此の度、皇帝陛下レックス・ラグナ・マリアより勅使として馳せ参じた。今から読み上げることは皇帝の名において絶対である‥‥」

 と綺麗なドレスと赤いローブに身を包んだミストが、護衛の騎士を連れてやってきたのである。

(まあ、あまり手伝いはできなかったから、これぐらいはね。シルヴィーに怒られるのも嫌だからねぇ)

 と考えてから、ゴホンと一つ咳払い。

「シルヴィー・ラグナ・マリア・ベルナーはこの勅命を持って『シルヴィー・ラグナマリア・ベルナー』と名を変える。ベルナー領はこれよりベルナー王国となる。新しいベルナー王は、シルヴィー・ラグナマリア・ベルナーが皇帝より叙任された」

 その言葉に、貴族達は愕然とする。

「そ、そんな暴挙‥‥」

「尚、シルヴィー・ラグナマリア・ベルナーの血はケルビム・ラグナ・マリアに繋がりしものと証明され、以後王族の一つとして迎え入れられた。今までの五王は、ベルナー家を加えて六王となる」

 途中で異議を唱える暇もない程に、ミストは努めて冷静に、淡々と話を進めた。

「ベルナー領に対しては、王族直属の領地となるため、貴族院の介入についての决定権は女王であるシルヴィーが持つ。以上だ」

 と告げてから、王の署名の入った書状が掲げられた。

「恐れながら‥‥ミスト殿。シルヴィーが治めている領地は、とても小娘一人の手に」

――カチャッ

 と騎士の一人が抜剣する。

「先程の言葉が聞こえなかったのか? 六王の者に対して『小娘』とは。不敬罪として貴公を連れて行く事も出来るが?」

「恐れながら。そのような重大な決定について、我ら貴族院を挟まずに行われるのは、我々としても立場というものが」

「さて、此の度の件、皇帝陛下自らが叙任し、我ら五王が承認したのだが。貴族院というのは、皇帝や我らに意見できる力を持っているのか?」

 議会長がミストにそう告げたが、返ってきた返事に対して言葉が詰まる。

「ミスト殿。それはその通りです‥‥」

 と告げた時、マチュアが暗黒騎士のフル装備で姿を表す。

 その背中には、ベルナー家とラグナ・マリア王家の紋章が入った黒いマントを羽織っている。

 諸般の事情で素顔が見えないように、フルフェイスの兜も付けている。

「我が主、シルヴィー殿の代理人として馳せ参じた。幻影騎士団参謀のマチュアと申す」

 ガチャッと両手剣を抜き、目の前の床に立てる。

「さて。先程、我が主を小娘呼ばわりした者がいたと思うが‥‥」

 そう呟きつつ、目の前の貴族達に向かって暗黒騎士のスキルの一つ、対象に畏怖の感情を植え付ける『畏怖(フィアー)』を発動する。

 その瞬間、室内の貴族たちの顔色が青くなる。 

「い、いえそんな滅相もない‥‥」

 とガクガクと震える貴族達。

「まあ、我が主は寛大。故に、貴公の首一つで許してやる。自分で、この剣に首を差し出せ」

 と一言。

 その言葉に、暴言を吐いた貴族はヘナヘナと腰が抜けていく。

「マチュア殿。その辺にしてあげて欲しい」

 とミストが止める。

 当然、ここまで打ち合わせ通りである。

「さて、ミスト殿。我が幻影騎士団は有事において、皇帝と同等の権利を有する。その証がこのマントであることは、ミスト殿もご存知の筈。詳しい事を調べもせず、悪魔に魂を売ったマクドガル如きを我が主の婿にするなどどいう暴挙を行おうとした貴族院は、滅ぶべきでは?」

 もうノリノリで話をするマチュア。

 そして横に立っているミストも、笑いを堪えるのに必死のようだ。

「しかし‥‥なぁ」

 とミストがチラッと議会長を見る。

「わ、判りました。此の度の决定について、我々貴族院は意見をする立場にはありません。ベルナー領についても、我々は女王の求めることに対して援助は惜しみません」

 と頭を下げる。

「しかと。ここにいる貴族達も、皆同じ意見と考えてよいのだな。もしその言葉を違えるようなら‥‥」

 と呟いて、マチュアはスキルを発動。

 着込んでいる鎧を魔法力でその場に固定し、立ち止まらせておく。

 その上でアバターチェンジ・エンジを行い、瞬時に忍者に姿を変えると、議会長の背後に縮地の術で跳んだ。


――シュンッ

 素早く議会長の首筋に、苦無を突きつけた。

「私は幻影騎士団の影。常にあなた達を監視しているかもしれませんので‥‥お気をつけ下さい」

 と忍者(エンジ)が告げて、再び消えて鎧の中に戻る。

 貴族たちには、突然刺客が議会長の背後に現れたかのように見えただろう。

 そしてミストも、その光景を見て驚愕した。

(モードチェンジ・マチュアと)

「それでは私はこれにて。後はミスト殿より」

「告、貴族院の活動を透明化するため、六王の選抜した貴族を貴族院に配置する事。数は同等とし、その上で今まで通りの活動を行うように」

「それは越権行為では」

「これも皇帝の勅命だが‥‥異存があると? 六王の者がいると都合が悪い事があるとでも?」

 再びマチュアが告げる。

「さて、貴族たちに問いたい。この国は誰のものだ? 貴公達の領地と安全は、誰に与えられている?」

「全ては皇帝陛下でございます。今回の二つの件、責任を持って拝命致します」

 と議会長が頭を下げたので、ミストは静かに頷く。

「明日、この件について正式に公布される。では失礼する」

 と告げて、ミスト達はその場を離れる。マチュアも一緒に建物の外に出ると、ミストから離れてエンジに戻る。

 そして今一度、縮地の術で窓から建物に入り、議会場へと戻っていく。

 『隠密(ステルス)』のスキルでその場に隠れているが、誰にもエンジを感じる事は出来ない。

「議会長、どうするのです。このままでは我らの利権が失われてしまいます」

「ふん、まだ手はいくらでもある‥‥発令は明日だろう? それまでに手を打てばいい。急ぎ暗殺者ギルドに連絡を。幻影騎士団といっても、所詮は烏合の‥‥」

 と告げた時、騎士団長の背後にエンジがスッと姿を表した。

「ふん、あなた達死んだ方がいいね‥‥今死ぬ?」

 既に議会長の首筋に赤い傷が付いている。

「ま、待ってくれ‥‥分かった」

「何を待つのですか?」

「‥‥」

 言葉を失う議会長。

「わ、我々は議会長の命令に従っていただけだ。我々は、知らぬ。皇帝陛下の決定に逆らう意思はない」

 と次々と慈悲を請う貴族たち。

「では、まず責任者には死んでもらいますか」

「わ、私を殺しても」

「貴方、大切な家族居ますよね‥‥そっちから死んでもらいましょうかねぇ‥‥」

 とエンジがその場でスッと姿を消した。 

「い、急いで馬車を用意しろ!! 私は屋敷に戻る!! いいか、今回の件、決して口外するな、ベルナー家には余計な事はするな。皇帝の决定に従うのだ‥‥」   

 と議会長が叫んで出ていった。

 それに続いて、貴族たちも次々と議会場から飛び出していった。

(ここまで脅して於けばオッケーかな。私が殺す訳ないじゃない)

 その貴族院の建物から外に出て、急ぎミストと合流する事にした。



 ○ ○ ○ ○ ○


 

 ミストとマチュアを乗せた馬車が、貴族街のシルヴィー邸へと向かっている。

 手伝いが終わったので、ミストがマチュアを屋敷まで送ってくれる事になったのである。

「成程ねぇ‥‥」

 その馬車の中で、マチュアはミストと別れた後、もう一度貴族院に侵入して議会長達が何を話していたかを盗み聞きした。

 それをミストに伝えた所、先程のような返事が返ってきたのである。

「それでさっきから、貴族院を出る馬車が次々と通っていた訳ですか」

「そーなんでっす。ついノリノリでやってしまってまあ、申し訳ない」

 と頭を下げるが、ミストはそんな事はお構いなしである。

「あー、いいのいいの、どうせこちらの手の者を送り込んでから、内部の浄化をする予定だったからね。これで少しは真面目にやってくれればいいわ。それよりもさ」

 と瞳を輝かせつつ、ミストがマチュアに問い掛ける。

「はい? お菓子のレシピですか?」

「いやいや、さっきの議会場に姿を表したマチュアの手下。あれって海の向こうの忍者よね? どこでそういう伝手を手に入れているのかしら?」

 と問い掛ける。

「それは秘密です。私はトリックスター、秘密はいっぱい持っていますので」

「そうかー。それは仕方ないかー」

 と腕を組んで唸るミスト。

(そう言えば、この人って魔術師みたいだよな)

 と思い出し、マチュアがミストに話しかける。

「一つ聞いて宜しいですか?」

「ん? どうぞ」

「ミストさんは魔術師ですよね」

 今更の質問なのか、ミストは笑いながら、ええ、と答える。

「転移の魔法って使えますか?」

「転移ですか。あれはまだ解析が終わっていないんですよ。魔導王国スタイファーの残した魔導器を使わない限り、人が単体で転移の魔法を使うことは出来ないので。使えればいいのですけどね」

 と笑いつつ告げてくるので、そっと耳元で一言。

「私、使えるのですよ」


――ガシッ

「詳しく聞かせて貰いたい。事と次第によっては、これはかなり大事になるぞ」

 と腕を掴まれてそう問いかけられる。

 先程までの表情とは違い、迫力のある口調である。

「ま、まずはシルヴィー邸に向かいましょう。そこに私の設置した『転移の祭壇』がありますので」

 と告げると、馬車は速度を上げたのである。



 ○ ○ ○ ○ ○ 



「これが転移の祭壇か。予想よりも小さいな‥‥」

 とシルヴィー邸に到着したマチュアが、ミストを中庭に安置してある転移の祭壇へと案内する。

「大きくする必要なんてないのですよ。ちゃんと魔力を流してあげれば、誰でも使えるのですから」

「その、誰でも使える所に問題があるのよ。こういうものはしっかりと管理されていないと、いつ、何処で、誰が勝手に使うか分かったものではないわ。国家間の戦争なんかになったら、これは脅威になるのよ」

 あ、マチュアは其処まで考えていません。

「で、使い方は?」

「手をかざして魔力を注ぐだけぢゃぞ、ミスト殿」

 とシルヴィーが中庭にやってくる。

「あらシルヴィー、お邪魔しているわよ」

「いえいえ、それよりミスト殿、一体何があったのぢゃ?」

 と問われたので、ミストは転移の祭壇について、マチュアから詳しく話を聞きたいとやってきた事を告げる。

「それはそれは。では夕食の準備もしようぞ。後ほどブリュンヒルデ殿も来るし、それまでにストームも連れて帰らないと行けないからのう」

 と手をパン、と叩いてその場から立ち去るシルヴィー。

「あれで六王の一人なのだから‥‥笑いますわね」

「マチュア殿、私も女王ですよ。ミスト・ラグナ・マリアはラグナ・マリア帝国ミスト連邦の代表で、六王の一人ですからね」

 とミストに告げられて、慌てて口に手をやる。

「さて、それではちょっと失礼」

 とミストが転移の祭壇に手を翳す。

「ふぅん、カナン郊外とサムソンに転移できるのですか。私の魔力でもいけるのですね」

 と告げると、スッとミストが消えた。

 そして再び姿を表すと、真面目な口調で一言。

「これは国で管理するレベルの代物ですね。マチュア殿は、これを何処で探し出したのですか? これほどの魔導器、おいそれと入手出来るものではありませんが」

「あ、それ、私が作った」

 ついいつもの癖でドヤァという顔で告げて。

(しまった!!)

 と思ったが後の祭り。

「では、マチュア殿は元々ある転移の門を修復することは可能ですか?」

 と問いかけられる。

「少々お待ちを‥‥」

 とこっそりとウィンドゥを展開、クラスから『生産者(クラフター)』を選択。そこにある『錬金術師』のスキルから検索するが。

(あ、錬金術師のスキルはMSレベルか。という事はストームの方が上なのかな? それともGMレベルは一つで残りは全てMSレベルなのかな?)

「一度見てみない事には。それからですね」

 と曖昧な返事で終わらせるマチュア。

「ストーム殿はまだ戻ってこないのか? もし時間があるのなら、一度王城へと向かって見ていただきたいのだが」

「ストームはカナン郊外にいますよ。迎えにいくのでしたらここからで」

 そう告げると、ミストはしばし考える。

「ブリュンヒルデがここに来るにはまだ暫くかかる。一度王城へ来てくれないか?」

 そう告げられたので、マチュアは開き直った。

「時間節約しましょう。ミスト殿は私に掴まって下さい。護衛騎士の方は、私達が消えたら急ぎ王城へ向かって下さいね」

 と告げてから、転移を発動する。


――シュンツ

 と一瞬で、マチュアとミストは王城内・謁見の間の手前の廊下に出る。 

「ま、魔導器も必要としないのか?」

「以前も申しましたが、私はトリックスターなので、変な事は得意なのですよ」

 と冒険者ギルドカードを見せる。

「確かに、シルバークラスのトリックスターか‥‥と言うと思ったか? 他の物には絶対に分からないだろうが。ミスリルクラスのSS冒険者ねぇ。まあ良いわ。取り敢えず此方へ」

 とマチュアは王城地下へと案内される。

「あのー。他の方にはご内密にー」

「分かっていますよ。何故貴方のギルドカードが偽装されているのかなんて、この世界の神にしか分からないでしょうからね」

 そして幾重もの厳重な警備の先にある、巨大な部屋へと辿り着く。

「これは?」

「ここは魔導王国スタイファーの遺物の納められている宝物庫です。といっても、使い方の分からない魔導器ばかりですけれど」

 と扉に手を添える。

 魔力を注いだのであろう、扉が輝き静かに開く。


――プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ

 何かの抜ける音。

 そして開いた扉の奥は、巨大な倉庫である。

 床には理路整然と魔導器らしきものが並べられ、その奥に大きめの祭壇がある。

(ふぅん、ゴーレムもあるなぁ。これは燃えるねぇ)

 ニマニマと笑いつつ、ミストの後ろについていく。

「あれだが。分かるかな?」

 とミストに促されて祭壇へと近づく。

(あー、このままだと錬金術師の知識が使えないのか。メインに生産者、サブに修練拳術士と魔術師で)

 クラスのリンクを切り替えてから、祭壇に触れる。

 と、その祭壇がなんで、どのように使うのかが瞬時に理解できる。

「クラスでここまで知識が偏るとは‥‥」

「マチュア殿、何か分かったのか?」

 とミストに問われる。

 この祭壇はマチュアの作り出した『転移の祭壇』と同じ力を持っていること、今は魔力不足で起動できていないこと、起動のためのキーワードを使用しないと動かないことがわかった。

 そうなると、マチュアはまず魔力を注いで、祭壇そのものを活性化する。


――ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

 と祭壇が輝き、そこを中心に魔法陣が広がる。

 そこに触れると、マチュアはすぐさま錬金術師の知識と並列して解析を開始する。

 組み込まれている術式を一つ一つ調べていき、ようやく起動コードまで理解した。

 そして起動コードを魔力で入力すると、魔法陣全体が淡く輝き、そしてスッと消えた。

「ど、どうだった? これは使えそうか?」

「そうですねぇ‥‥とりあえずは」

 と転移先の一つに、一時的にシルヴィー邸を繋げる。

「一時的にですが、シルヴィー邸の祭壇に繋げました。同じような祭壇があれば、どこにでも繋げられますが、これは転移先の距離に応じて、必要とする魔力が変動します」

 と告げる。 

 それだけでもミストは満足であった。

「そうか、トリックスターとは凄いものだな」


(全国のトリックスターの皆さん、ハードルあげてすんません‥‥)


 と心のなかで謝罪する。

「さて、それでは一度、ブリュンヒルデとうちの騎士団も連れてきましょう。これは転移したい全員の魔力が必要なのですか?」

「いえ、起動する者の魔力だけです。古代の魔導器の優れているところは、一人の魔力で大量の人材を送ることが出来る事ですね。私の作り出す事のできる祭壇は、其々が魔力を必要としますので」

 と足元の魔法陣をじっと見る。

 すでにこの転移システムは解析済み、錬金術師にチェンジしていれば、材料さえあれば新しいものを作り出すことが出来る。

 もっとも、その材料が面倒なので、作り出す気はないのだが。

「マチュア殿なら、これと同じものを作ることも出来るのでは?」

「それは無理です。この程度の大規模なものとなりますと、まだまだ細かい解析を必要としますし、私では技術が足りませんので」

 とごまかしておく。

「あのー、ミスト殿。この魔法陣を貴方が制御できるようにする代わりに、此処の魔導器を研究させて欲しいのですが」

 とミストに交渉を持ち込む。

「ほう。可能なのか?」

「魔導器の支配権の変更ですね。私がマスター権限を持っていますので、ミスト殿にサブ権限をセットします。行き先の新しい登録なども可能になりますし‥‥」

 と魔法陣の中心に立ち、詠唱を始める。

 やがてマチュアの手には、一枚の赤いカードが生まれた。

「それは?」

「転移門の使用許可証です。赤の魔導師ミスト殿になぞって、ミスト家の紋章も入っています。これを所持するものは、魔力を注ぐ必要もなく転移が可能になりますし、カードを持つものは行き先を固定する事も出来ます」


――ゴクッ

 ミストの喉が鳴る。

 今まで解析も不可能であった魔導器を、いとも簡単に自在に操る存在が目の前にいるのである。

「カードは誰でも作れるのか?」

「いえいえ。魔導器の管理権限でマスター及びサブのみが、カードを此処の魔法陣で作る事も出来ます。今、現状ではこの魔法陣を通じて、すべての魔法陣の通行可能な人物も設定できますよ」

「なら、皇帝及び六王のみが使えるようにして欲しい」

「幻影騎士団も使えるようにして問題はありませんね?」

 その言葉にミストが頷いたので設定を変更する。

「では、使い方を教えましょう。先ずはですね」

 と、暫くはミストに魔法陣の使い方と設定についてレクチャーする。

 六王の護衛の設定が面倒なので、六王と共にいる者達も使えるように設定を変更。

 やがてミストの騎士団とブリュンヒルデがやってきたので、もう一度この転移門を始動してシルヴィー邸へと向かう事にした。



誤字脱字は都度修正しますので。

その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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