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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

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混沌の影・その19・魔族の情報と神殺しの力

残酷なシーンが今回はありますので、そこは覚悟の上ご覧ください。 

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。


──コツコツコツコツ

 静かに響く音。

 取調室のような部屋で、ポイポイが机の上で指を鳴らしている。

 その目の前では、両手を魔法の鎖によって固定され、身動きの取れない女魔族が椅子に座っている。


「‥‥これ以上話す事はない。そろそろ開放してくれませんか?」

 外傷の類は特にみられない。

 ポイポイはいくつかの忍術により、相手を精神的に追い詰めた。

 そして彼女が知っている情報を一つずつ聞き出すことに成功した。

 具体的にどのような情報かというと。


・異世界グランアークから、遥か過去に魔族が新天地を求めて旅立った事

・古代魔法文明が作り出した『大陸型機動生命体』と呼ばれている次元を突破出来る浮遊大陸によって、いくつかの世界とコンタクトを取った事

・カリス・マレスともコンタクトを取ったのだが、時空を支配する神・天狼によりその道を阻まれた事

・一部の魔族は『オフィル・アニマス』の地に向かい、人知れない大陸に移住した事

・ブライアンたちの乗っていた浮遊大陸レムリアーナも、いくつかの時空を彷徨っていた時に混沌神の使徒である夢魔カーマインの導きによってこのフェルドアースにやって来た事

・だが、この世界は魔族が生きるのに必要な存在魔力(エーテル)が希薄なため、グランアークの大陸とこの世界の大陸を置換しようとしている事


 ここまでの情報を、ポイポイは精神的に追い詰められた彼女の記憶から直接盗み取ったのである。

 だが、彼女はブライアンの命令によって、各国に情報収集のために送り出された魔族の一人であり、これ以上の重要な情報を持ってはないなかった。

 それでも、何も情報を持っていなかったポイポイ達にとって、これはありがたい事である。

「それで、あんたたちの組織は何っぽい?」

「組織になんてないわ。滅びしグランアークからの難民よ。住んでいた星だけじゃなく、世界すべての因果律がゆがんでしまったからね。結果として、私達の船は空間の狭間に飲み込まれてしまい、カーマイン様に導かれるまでそこから出る事も出来なかったのですから」

「船?」

「ええ。大陸型機動生命体のことよ。浮遊大陸とか、船って呼んでいるわ」

「んーと、あれって生きているっぽい?」

 そうと首を捻りつつ問いかける。

 ポイポイにとっては、大陸が船であり、しかも生きているという事実がいまいち理解しがたい。

 すると、女魔族はあきれた顔でポイポイを見る。


「はぁ~、そんな事も知らなかったの? そんな人間にこうもあっさりと負けるなんて、屈辱以外何物でもないわ」

「知らないからこそ、教えて欲しいっぽいよ」

「まあいいわ。どのみちここにいる限りは逃げ出す事も出来ないんでしょ? 大陸型機動兵器、それを作った錬金術師はそれを『ラジエール』と呼んでいたわ。大陸に見える部分は外骨格で、そこに植物が生い茂ったり、都市を構築しているのよ。まあ、今は眠っているから、そんなに自由には動けないんだけれど‥‥と、これ以上は駄目よ」

 そこまで告げて、女魔族は口を噤む。

「うーん。でも、そこまで教えてくれて感謝するっぽい。お腹減った? これ食べるっぽい」

──スッ

 拡張エクステバッグからエムエスバーガーというハンバーガショップのハンバーガーをいくつか取り出すと、それを女魔族に差し出す。

「敵の施しなんて受けないわ」

「お腹が減っては戦は出来ないっぽい。まずはしっかりと食べて、それからまた色々と教えてもらうっぽいよ」

「だから、いらないって‥‥」

──グゥゥゥゥゥゥゥ

 そこまで告げたものの、やはり空腹には耐えられない。

 突然腹の音が鳴ったので、女魔族は顔をカーッと真っ赤にする。

「へぇ、グランアークの魔族さんもお腹減るっぽい。女魔族さん、遠慮しないで食べるっぽいよ」

 そう話しかけつつ、手にしたハンバーガーをスッと差し出す。

「‥‥ティファレ。女魔族なんて呼ばないで欲しいわ」

 そう告げてから、差し出されたハンバーガーを受け取ると、そのまま恐る恐る食べ始める。

──パクパク

「ふぅん‥‥これが異世界の味ねぇ‥‥悪くはないわ」

「ポイポイはこっちの担々タルタルバーガーがお気に入りっぽい」

 どことなく嬉しそうなポイポイ。

 それを察してか、ティファレも顔を背けつつゆっくりとハンバーガーを堪能し始めた。



 〇 〇 〇 〇 〇 



 一方、オーストラリア国防軍では。

「‥‥ここまで情報が取れないとは思わなかったわ」

 独房のある建物とは別に用意された、ドライたち専用の建物。

 そこにある居間で、ドライと斑目、住良木の三人は少し遅れた晩御飯を食べつつ頭を悩ませている。

 こちらのチームは情報収集に長けている者はいなく、どちらかというと戦闘要員、実動班である。そのため、捕虜となった魔族から情報を聞き出そうとしても実力行使しか出来ない。

 万が一にドライが暴走しないようにと言われていた斑目でさえ、既に手詰まり状態となっていた。

「‥‥その通りですな。こちらには搦め手を使える者がいない故、魔族の情報を引き出す事も出来ない。住良木殿は、そのような魔術かコマンドワードを使えませぬかな?」

 二人の目の前で、すでにデザートを堪能している住良木に問いかける。すると、住良木も頭を傾げつつ、何かを考えている。

「ええっと‥‥要は、あの魔族さんから情報を引き出せばいいのですよね?」

 きょとんとした表情でドライたちに問いかける。

「ええ、その通りなんだけど。住良木さんって、何が使えました? どんな能力でしたっけ?」

 改めてドライが住良木に問いかける。

 すると、指を折りつつ住良木が説明を始める。


「私の能力である『模倣師(カウンターコピー)』で、あの魔族をコピーすればよいのでは?」

──キョトン

 そのあっさりと告げる住良木をみて、ドライと斑目はお互いの顔を見合わせてしまう。

「でも、その能力はあの魔族の能力やスキルをコピーするのであろう? それでは記憶までは‥‥」

「いえいえ。私の能力は相手の記憶から能力、俗にいうステータスやスキルまでコピーできますから‥‥そのかわり持続時間は1分程度、必要な魔力も膨大。ですが、コピーできない能力はないと自負しています」

──アングリ

 その説明に、ドライは思わず顎が外れそうになる。

「ど、どうしてその事を先に教えてくれなかったのですかぁぁぁぁぁ」

「へ? てっきり知っていると思っていましたけれど。それに、この能力、再使用までのクールタイムが長すぎまして‥‥魔力が回復しても、クールタイムが終わるまで使えませんので‥‥」

 お、おう。


 目の前に解決方法があったのは良いことだが、それは僅か一分の勝負である。

 それで重要な情報を引き出さなくてはならず、住良木自身にはどの情報が重要なのか判別が難しい。

 使い勝手のいいスキルは、逆に使用するタイミングを選ばなくてはならなかった。


「後、独房の中の魔族さんの魔力波長も覚えましたから、今、ここで能力使うこともできますよ。ただ、時間が経てば経つ程使える時間も減って来ますので」

「ん~。待て待て、つまり、その気になれば、今ここで魔族の記憶を引き出す事が出来るという事だよな?」

「しっかし、驚きでござるなぁ。相手の能力も何もかも使える能力、最強の一角でござるか」

 そう呟いているドライと斑目であるが、とうの住良木は腕をぶんぶんと振って否定する。

「いえいえ。いくらスキルや能力、ステータスなどをコピー出来ても、思考は私のままなんですよ? 何て言えばいいか‥‥私っていうフレームには、私のエンジンや燃料があるんですよ。それに魔法で積み替えるようなものでして‥‥強大すぎる能力は後からバックファイアーが来る事もあるんです」

 そういうものなのかと納得するドライ。

 そして斑目も何となくは理解出来たらしく、腕を組んで考え込んでしまう。

「ま、まあ、とりあえず今はその能力使わないでいいわ。もう少し考えてみてから、もう一度情報を精査してみよう。日本にいるマチュア様の判断もあるから‥‥」

 そのドライの言葉に同意する二人。

 後はゆっくりと食事を取ってから、身体を休める事に専念する。



 〇 〇 〇 〇 〇



 マチュアとポイポイが浮遊大陸を襲撃してから5日後。

 その間にも、ポイポイが引き出した情報は随時マチュアにも届けられている。

 そしてオーストラリア上空の浮遊大陸レムリアーナの動向についても。細心の注意を払って監視を続けている。

 再び空間転移砲が発射された時に対処するため、ドライと斑目の魔法鎧メイガスアーマーには、その魔術を中和無効化する為の『イージスの盾』が追加装備された。

 もっとも、あまりにも膨大な魔力が必要となるので、イージスの盾を起動すると魔法鎧メイガスアーマーは5分間停止してしまう。

 それでも確実に空間転移砲を止める事が出来るので、緊急時の切り札として使用する事にした。


‥‥‥

‥‥


 深夜。

 この日の夜勤はマチュアと古谷、そして領事部の二人。

 のんびりと食事を堪能したマチュア達は、夜勤という名の『留守番勤務』を堪能している。

 さすがにアルコールを摂る事は出来ないが、建物の中では自由にしていい事になっている。

 仕事が残っていたのならすればいいし、何もないのなら仮眠室で仮眠を取ってもいい。

 基本的にはセキュリティは民間の警備会社に委託してあるし、万が一の時は正面入口横には自衛隊詰め所もある。

 マチュアはのんびりとロビーでニュースを見ながら、ポリポリとおやつタイムを堪能していた。 


──シュンッ

 ロビーにある巨大な鏡。

 その中に、純白のローブをきた女性魔族・ポルトロンが姿を現す。

 実体はどこにも見えず、ただ鏡の中にポルトロンが映し出されているだけ。それでも、その異様な光景にはマチュアも気が付いていない。


「しっかし。オーストラリアの浮遊大陸どうすればいいかなぁ‥‥カーマインと決着つけるのが最短なんだけれど、蒲生さんや安倍野さんにああも啖呵を切ってしまった以上、それなりに動かないとならないしなぁ‥‥どこから手を付けるかなぁ‥‥」


──プツッ

 それは一瞬の出来事。

 突然マチュアの右手首が切断された。

 痛みも何もなく、手首がぽろっと落ちたのである。

「ふぁ!! 緊急警報!! 館内の職員は至急カルアドかカナンに退避っっっっっっ」

 慌てて立ち上がり周囲を確認する。

 だが、マチュアの放つ『広範囲・敵性警報』にも『魔力探知』にも、何も反応はない。

 慌てて手首を拾い上げると、マチュアは急ぎ魔術で接合する。

──シュゥゥゥゥゥゥッ

 急速に接合される手首。

──スパッッッツ

 すると、今度は両足が膝から切断された。


「マチュアさん、敵襲ですか!!」

 慌てて仮眠室から飛び出してくる古屋。

 だが、マチュアはその姿を見て叫ぶ。

「領事部の子を連れて早く逃げろ!! 敵が見えないわからない!!」

「は、はいっっっっ」

 そう叫んだ瞬間に、更にマチュアの左腕も切断される。

──スルッッッ

 少し離れている鏡の中では、椅子に座ったままのマチュアの体を、ナイフでゆっくりと切断しているポルトロンの姿が映っている。

 だが、目の前のマチュアの姿に驚いて、誰もそれには気付かない。

 そしてナイフがマチュアの首元に達し、スーッと横に引かれる瞬間‥‥。


──シュンッッッ

「神威開放3っっっっ」

 素早く神威を全開にする。

 肉体強度は亜人から神クラスまで跳ね上がると、それまでスッと切断されていた奇妙な手応えが止まった。

「もう斬れない‥‥おもしろくない、どうして切れない?」

 無鏡の中で、ポルトロンがムスッとした表情で呟く。

 その声はマチュアの耳に届かない。


 全てはポルトロンの能力である『鏡の世界(ミラーワールド)』の中での出来事。

 鏡の世界の中で起こった出来事を、ポルトロンは現実にも反映できる。

 ポルトロンがこの能力を発動したとき、マチュアはまだ椅子に座ってお菓子を食べていた。

 そこで鏡に映っている映像を止めて、固定されたマチュアを切り刻んでいった。

 この能力にも欠点があり、『鏡に写っている一定角度以内』の映像しか固定できず、現実に投影する事が出来ない。

 それに強大な能力ゆえ、効果時間も限られている。

 しかし、鏡の世界に入る事が出来なければポルトロンの能力を止める事は出来ない。


「‥‥もう時間。マチュアを殺せばおしまいなら、今度は別の方法を使う‥‥」

 そう呟くと、ポルトロンはクスッとかわいい笑みを浮かべて鏡の世界から転移した。


「ハアハアハアハア‥‥一体どこから仕掛けて来たのよそれも亜神の体をこうも簡単に切り裂ける能力だなんて‥‥」

 さすがのマチュアも冷や汗を掻く。

 明らかにタイミング悪ければ、マチュアは殺されていた。

 本能的な直観による神威開放、それでマチュアの命はまさに首の皮一つで繋がったのである。

 そしてこの日は、マチュアも仮眠を取る事なく、朝までじっと周囲を警戒し続けていた。


 いつ来るかわからない、亜神を殺せる存在の攻撃に‥‥。


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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