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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

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混沌の影・その17・洗いざらい吐いてもらおうか?

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

──永田町・議員会館

 チッチッチッチッ

 壁掛け時計の秒針の音が静かに響く。

 議員会館内にある蒲生副総理の事務室、そこでミアと蒲生、秘書官の三人は、のんびりとティータイムを楽しんでいる。


「なあお嬢ちゃん、マム・マチュアからの命令でここに来たのはわかるが。小野寺にああも言う必要はあったのか?」


 以前、小野寺防衛大臣がマチュアに頼んだ国会議事堂と皇居の結界。これは受け入れられず、小野寺防衛大臣は国会の『オーストラリア緊急対策委員会』で徹底的に糾弾された。

 何の為の大使館か、こう言う時に日本の為に役立ってもらえないと困ると。

 これ見よがしに野党は小野寺を、与党を追求。異世界を満足に扱えない現政府の責任追求まで発展していた。

 これにキレた小野寺は、対策委員会の中から三名の委員を指名し、異世界大使館とマチュアに対しての交渉に当たらせたのだが。

 何だかんだと言い訳をして、北海道に向かう事はおろか、電話での交渉すら行わない。

 そんな中での、マチュアからの親書を携えたミアの訪問。

 その内容は、東京全域に対しての結界をミアが行えるので、遊びに行かせたとの事である。


「良いのですよ。先程、マチュアさんから念話で報告がありまして。オーストラリアのミッションがフェーズ2を飛ばしてフェーズ3に移行したそうです。ですので、こちらもそれに合わせた行動を起こさないとならなくなりました」

 淡々と告げるミア。

 すると、蒲生も傍で事務仕事を続ける秘書官も首を捻る。

「そのフェーズ2とか3って、一体何だ?済まないが教えて貰えないか?」

「構いませんよ。その前に……」


──ゴトッ

 ミアが傍に置いてあった拡張エクステバッグから水晶球を取り出す。

 直径にして20cm程の、嘘発見水晶ライアーオーブである。

「私の師匠曰く、情報が少ない時の対抗策はないけれど対策は練る事が出来ると。なので、ここに魔族がいるかもと言う前提で、蒲生さんを調べさせてもらってよろしいですか?」

 努めて冷静なミア。

「ふぅん。で、何がどうするんだ?」

「オーストラリア方面の情報ですが、魔族が人間の皮を纏って変装していたという事例が確認されました。ですので、蒲生さんも本物かどうか確認させてください」


──ブゥゥゥン

 嘘発見水晶ライアーオーブに魔力を注ぐミア。すると、透明であった水晶が、白く光り輝く。

「で、どうするんだ?」

「ここに手を当ててください。そして私の質問に答えて頂ければ幸いです……」

 ミアの言葉に、蒲生はトンと嘘発見水晶ライアーオーブに手をのせる。

「こうか?」

「はい。では質問します。蒲生さん、貴方は魔族ですか?」

「まっさか。俺は日本国内閣府副総理大臣の蒲生だよ。人間だ」

 そうきっぱりと言い切る蒲生。

 嘘発見水晶ライアーオーブはその言葉を真実と確認した。


「蒲生さん、私は郵便を出して来ますので」

 すると、ガタッと秘書官が席を立つ。

「おお、行って来い。帰りにコンビニ寄って、雑誌買って来てくれや」

「畏まりました。では」

 そう告げて部屋から出て行こうとする秘書官だが。


「ちょっと待ってください。すいませんが、貴方も本物かどうか確認させて頂けませんか?」

──ガチャッ

 扉のノブを手を掛けた秘書官の動きが止まる。

「あ。あの、急がないと郵便の集配に間に合わないのですが。これ、急ぎの仕事なのですよ」

「まあまあ。急ぎでしたら、私が転移門ゲート開いてあげますので……ここに来て座って下さいませんか?」

 ニッコリと笑うミア。

 すると、秘書官は突然扉を開くと、廊下を一気に駆け抜けた。


「まさか本当にいたとは!」

 慌てて廊下に飛び出すミア。

 そして秘書官の姿を視界に収めると、すぐさま印を組み韻を紡ぐ。

「我は願う。かの者の足を拘束せよ……魔法の鎖チェーンっっ」

 腰に巻いてあるウェストポーチから数個の秘薬が消滅すると、秘書官の足元に鎖が生み出され、足を拘束した。

「なっ!」


──ズテーン

 一瞬で何が起こったのが理解したらしい秘書官だが、足を取られて転倒し、立ち上がる事が出来なくなっていた。

「き、貴様、いつ知った!『大いなる炎の精霊よ、我が前に』」

「させません。沈黙の精霊よ、かの者の言葉を奪いなさい。沈黙サイレンス

 慌てた秘書官が両手で印を組むが、詠唱の途中でミアの放った魔法によって言葉を失った。

「……あ、ええっと……魔法等関連法・第8条2項、緊急時の魔法詠唱を行使させていただきました。これが私の魂の護符ソウルプレートですので」

 しっかりと法律に基づくミア。

 すると、廊下での騒ぎに気が付いた議員達が、一人、また一人と廊下に出てきた。


「何だ何だ? 何が起こったんだ?」

「あれ、蒲生さんとこの高木秘書官じゃないか。何があったんだ?」

 ざわざわとする議員たちに、今度は部屋から出てきた蒲生が一言。

「ああ、ちょいとうちの秘書官がおいたしたんでな。まあ、大したことはないからな。ほら、散った散った」

 ぶんぶんと手をふる蒲生。

 それに納得したのが、議員達は部屋に戻って行く。

 そしてミアは、倒れている高木に向かって拘束の矢(バインドアロー)を打ち込む。

──ドシュッ

「ごめんなさい。相手が魔族である可能性を考えたら、あなたを自由にしてはいけないの‥‥」

「くっ‥‥ぐぁぁぁっ」

 しばし悶絶ののち、高木は意識を失った。

 そしてミアは高木をずるずると蒲生の部屋まで連れて行くと、すぐにマチュアに連絡を入れる。


──ピッピッ

「こちらミアです。懸念事項2、議員内に魔族の潜入している可能性についてですが、蒲生さんの秘書官の‥‥高木さんが魔族のようです。拘束の矢(バインドアロー)を打ち込んで拘束しましたが、この後はどうしますか?」

『ふむふむ。どうしょっかな‥‥蒲生さんに頼み込んで、どこか閉じ込められる部屋を借りて。大使館に連れて来るにはリスクが大き過ぎるので、部屋全体を結界で包み込めばいいから』

「了解しました。オーストラリアはどうなっていますか?」

『ドライからの追加連絡はないなぁ。まあ、多分向こうで事情聴取していると思うけど』

「そうですか。また、あの空間転移砲を打たれる可能性はあるのですよね?」

『どっかなぁ。深淵の書庫アーカイブで調べたけれど、あれ一発撃つのに必要な魔力は半端じゃないのよ。前回オーストラリアの湖を消しとばてから、この前私が撃たれるまでの時間を考えると、もう二、三日は大丈夫でしょ? 更に、私のように対抗手段を持つ存在がわかったのだから、それこそ無駄撃ちはして来ないと思うよ? そんじゃ、引き続きそっちは任せるからね』

「はい。了解しました」

──ピッピッ


 ふう。と一息ついてから、ミアは高木の近くに歩いていく。

 そして改めて手を翳して、ゆっくりと魔力で高木を調べ始める。

鑑識(アナライズ)‥‥と。蒲生さん、高木さんはどうやら魔族に攫われて、何処かに監禁されていますよ。この人、中身は魔族ですから」

「何だって? おいおい‥‥洒落にならないなぁ」

 ボリボリと頭を掻きつつ、蒲生がミアに問いかける。

「一体どこで入れ替わっちまったんだよ‥‥ミアちゃん、高木がどこにつかまっているか調べられるか?」

「うーん。そこまではちょっと。ただ、報告では、人間の皮をかぶって変装しているそうですから‥‥最悪のケースも考えておいてください」

 そう告げると、ミアは蒲生の事務室の一角に結界を施すと、そこに魔族・高木を横たわらせた。


「さて、それじゃあ、さっきの話の続きをしますね‥‥」 

「お、おう。頼むわ」

 やや動揺しているものの、蒲生は今回のマチュアの練り上げた対策について、ミアから一通りの説明を受けることとなった。



 〇 〇 〇 〇 〇



 オーストラリア国防軍。


 その敷地内にある、犯罪者や反乱した兵士達が捕らえられる独房がある。

 その一角にある面会室に、ドライと斑目、住良木の三人が待機している。

 今回の一連の騒動の報告を受けて、オーストラリア国防軍総司令官であるオースティン・アッテンボロー

が、急ぎ異世界大使館のマチュアの元に連絡、事情を確認するとともに今回の件についての謝罪を行なった。

 その後で、マチュアからの請求により、捕獲した魔族との接見となったのである。


──ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン

 魔族の収監されている独房には、急ぎドライが対魔族結界を施す。

 これによって、ある程度の魔法攻撃や転移を防ぐことができる。

 そして比較的怪我の少ない魔族の独房まで案内されると、ドライは扉をゆっくりと開けてもらい、中の簡易ベッドに横たわっている女性魔族に話しかける。


「すいません、起きているのなら話を聞かせて欲しいのだけど」

──ムクッ

 ドライの声で目覚めたのか、ゆっくりと体を起こす。

「また拷問? あなた達の世界の道具では、私達に傷付ける事が出来ないのはわかっている筈でしょ?

「そうなんだよねぇ。よくあんた達を捕獲できたと思っているわよ。まあ、意識がなかった状態で連れてこられたんでしょうから、私が来るのが遅かったらあっさりと逃げられたのでしょう?」

 その問いかけに、女魔族はニイッと笑う。

「ええ。意識が戻ったし。これで私は逃げさせてもらうわよっ!!」


──ヒュンッ‥‥ドゴォォォッ

 勢いよくベッドから起きると、女魔族はドライの立っている扉に向かって走って来る。

 そして目に見えない結界で弾き飛ばされ、その場にずるずると倒れた。

「なっ、何よこれぇぇぇぇ」

「ええっと。マチュア様の組み上げた、対魔族結界ですが何か?」

 淡々と説明するドライ。すると女魔族は立ち上がって、素早く印を組む。

「そんな結界ごときっっっっっ、フォティァ・ノブディス!!」

──ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ

 素早く両手をドライに向けると、その手のひらから業火を吹き出す。

 だが、それは結界に直撃するものの、その程度の炎ではびくともしない。

 それどころか、急激に独房内部の温度が上昇し、女魔族がだらだらと汗をかき始めた。

「あ‥‥おまえ、魔法使えるけれど、残念魔族だな」

「ザンネン? それはわからないが。いつまでも女魔族と呼ぶな。私にはティフォンという名前がある」

 そんなやり取りを、斑目と住良木は後ろから見ていて。


「ドライ殿、ここは任せるでござるよ。拙者と住良木さんはさっきの部屋で休んでいるので。では参りましょうか」

「は、はい。それでは」

 そう告げてから、斑目と住良木はドライの元から離れていく。

「あ、あっれ? そ、そおなの?」

 思わずきょとんとするドライ。

 そしてもう一度ティフォンの方を向き直ると、ドライはさっそく尋問を開始した。



 〇 〇 〇 〇 〇



 浮遊大陸レムリアーナ・スティル城。

 レムリアーナの中心に位置し、この大陸を制御している制御室のある王城。

 その中にある円卓の間で、6人の魔族が座って話し合いを行っている。

 一番大きな椅子に座っているブライアンが、集まっている5人の魔族をゆっくりと眺める。


「レンのフーユゥは来ていないのか?」

 そう問いかけると、真っ赤な鎧を身に着けた女性騎士の姿の魔族・ライアーがにこりと笑う。

「フーユゥは、攫った人間達の選別と処理で手が離せないそうですわ。殺さずにクローニングして、そこから皮をはぎ取って適合するものに与える‥‥そして知識の複写と元々いた場所に転送‥‥もう一人手を貸してほしいってぼやいていましたわよ」

「そもそも、カダスの鍵を探すのに人間の力が必要なんだろ? だったら、どんどん攫ってレンに送り込めばいいじゃないか」

 外見にして10歳ほどの男の子の姿をした魔族・ジェネラが悪態をつくようにつぶやく。だが、それを隣で座っていた大柄な男性戦士の魔族・グラッドンががっはっはと笑い飛ばす。

「そんなことをしてみろ、カーマイン様の話していたマチュアとかいうやつらの組織に気づかれてしまうだろうが。すべては極秘裏に行い、鍵の回収と同時に、一斉攻撃に入る。それまでは、手駒をどんどん人間世界に広げていく。それが今回の作戦ではなかったのか?」


──コクコク

 そのクラウドの言葉に頷いている、純白のローブを着た女性魔族・ポルトロン。   

「ポルトロンもその通りだって。で、何でここにモーゼスがいないんだい?」

 ブライアンの真正面に座っている優男・プロストがブライアンに問いかける。

「そのモーゼスだが、先程、やつが潜入していた議会とかいう所で殺された」

──ガタッ

 グラッドンが驚いた拍子に立ち上がる。

「我ら7人の中で、知将と言われていたモーゼスが殺されただと? そもそも、我々魔族に致命傷を与える事が出来るやつがこの世界にいるというのか?」

「まあまあ、いるからモーゼスは殺された。そうでしょう?」

 グラッドンを宥めるように話しかけるライアー。


「それだ。先日、このレムリアーナが襲撃を受けたであろう? 地球人のミサイルとかいうもので。その時、未確認の鳥と戦闘機を確認している。しかも、それは人型に変形すると、空間転移砲を弾き飛ばしたのだ‥‥」

 ブライアンが淡々と告げると、その場の全員が驚きの表情となる。

「噂のマチュアとかいう人達かな? だったら、そいつらのアジトに向かって総攻撃を掛ければいいじゃないか。うん、そうしよう、そいつのアジトごと空間を破壊すればいいんだよ」

──パンパン

 楽しそうに手を叩きながら、ジェネラが皆に同意を求めるが。

「それは出来ないぜ。知っているだろう? 空間転移砲を放つと、この大陸を保護する結界が一時的に弱体化する。その時に襲撃されると、剥き出しになったレムリアーナでは防衛能力が半減以下になるって‥‥」

「プロストの言う通りよ。それにしても、フーユゥはいつになったらカギを見つけるのかしら?」

 ライアーが腕を組んで考えるが、ブライアンもコクリと頷いてしまう。


「魔力の高い人間の確保、これについては、既にヨギの手によって一つの都市を人間達より譲り受けている。その見返りとして、かの地の総督府に当たる人間に、転移門ゲートの鍵を与えた。この世界で言う中華選民共和国、その都市の一つ『南陽』という都市は、グランアークに迎える転移門ゲートを繋げた」

 無表情に呟くポルトロン。

「それで、魔力の高い人間の選別が出来るのか?」

転移門ゲートを超えれるのは魔力の高い人間だけ。転移門ゲートを越えた者は何も知らずにレンの地に向かっている。本当なら、日本という国に作りたかったけれど、失敗したから」

 がっくりと項垂れるポルトロン。

「ま、まあ、ポルトロンも頑張っているのだから、で、ブライアン、これからどうするの? あのオーストラリアとかいう国は、私達に宣戦布告をして来たわよ?」

 ライアーの問いかけに、その場の全員が頷く。

 ならばと、ブライアンも両手を組んでテーブルの上に置くと一言。

「殲滅。我々魔族に敵対する者全てに死を。ガーゴイルの準備をしておけ。私はカーマイン様にお伺いを立ててくる‥‥各自、持ち場に戻ってよし」

 そう告げてから、ブライアンは立ち上がって部屋から出ていく。 

 そして一人、また一人と、魔族たちは部屋から出て行った。

 最後に残ったポルトロンが、ブゥンと手の中に一枚の鏡を生み出す。

 そこには、異世界大使館の建物が映し出されていた。

 


誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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