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【本編完結】異世界ライフの楽しみ方・原典  作者: 呑兵衛和尚
第11部・神魔戦争

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混沌の影・その12・尋問と情報と打つ手なし

『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。

 高島と白石一佐が人面蝙蝠を捕獲した翌朝。


 異世界大使館二階の倉庫は、やや困った空気に包まれている。

 広い倉庫の真ん中に縛り上げられた人面蝙蝠、そしてそれを見下ろすマチュアと高島、三笠、そして赤城の四名。

 早朝に人面蝙蝠捕縛の報告を受けて、三人は慌てて大使館にやって来たのである。


「でかした高島くん。冬のボーナスは期待していいわよ」

「はぁ。それよりも今月のTCGマガジンの限定カードが欲しかったぁ……」

 マチュアの言葉にもがっくりと肩を落とす高島。

「わかったわよ。メーカーに問い合わせて送ってもらうから、それで我慢しなさい」

──キュピーン

「ま。マジですか?イヤッホゥ!」

「はいはい。そんじゃあ、後はこっちでやるから、引き継ぎ終わらせてとっとと帰りなさいな。夜勤明けなんでしょ?」

「そうっすね。それでは失礼します!」


 シュタタタと部屋から飛び出して行く高島。

 すると、マチュアはくるりと人面蝙蝠の方に向き直る。

「さて、色々と教えて欲しいわねぇ。まず、貴方達は一体何者なのかしら?何処から来たの?」

 口元に悪い笑みを浮かべつつ、両足と翼を縛り上げた人面蝙蝠に問いかける。

 だが、蝙蝠はにやにやと笑うだけで、何も話そうとはしない。

 マチュアが何もしないと思っているのか、それともこの場に救援がやって来るのを待っているのか。

 そのニヤニヤが、マチュアにはとても不快に思えていた。

「ケケケ‥‥」

 そう笑う人面蝙蝠。

 すると、突然その体がパッと塵となり、無数の小蝙蝠に変化する。

 縛り上げていたロープもする理と床に落ち、そして蝙蝠たちは一目散に窓に向かって飛んで行った。

「ケケケ‥‥ソンナモノデ、オレタチヲシバレルトオモッテイルノカ‥‥アバヨ」

 頭だった部分らしい蝙蝠がマチュアをあざけ笑いつつ飛んで行く。

 全身がパパパッと七色に輝き、進行方向にあった棚などをスルリとすり抜けていったのだが。


──ゴイィィィィン

 窓をすり抜けようとした瞬間に、その手前に張り巡らされた結界に直撃し、その場に落下する。

 一つ、また一つと落下し、すぐさま気が付いた蝙蝠は天井近くをぐるぐると飛び回っている。

「へぇ、物質透過能力かぁ。でも魔法の結界は越えられないか。で、アバヨって言った割には、あっさりと墜落しているわねぇ」

 むんずと頭をつかんで引き寄せると、マチュアはもう一度ロープを手に取って縛り上げる。

 更に机の上に放り投げると、蝙蝠を机の上にロックした。

「しかし、私はどうしてもこういうのは苦手なのよねぇ。何ていうか、相手の思考や記憶を読み取る魔術って持ってないのよ」

「まあ、そこまで魔術は便利ではないということですよ。となりますと、ここは直接的に話を聞くしかありませんねぇ‥‥」

 三笠がマチュアにそう話していた時、ガチャッと扉が開いた。

「失礼します。池田、入室します‥‥ってうわぁぁぁぁ」

 部屋のあちこちに落ちている蝙蝠を見て、池田は後ずさる。

「お、丁度いい所に。池田さん、こいつに催眠かけて情報引き出しておいてくれる?」

 机の上の人面蝙蝠を指さすマチュアだが、池田はその光景をみて本気で嫌そうな顔をしている。

「私、蝙蝠ダメなんですよ‥‥うぇぇぇぇ。気持ち悪いですよぉ」

 足元の蝙蝠を踏まないように、恐る恐る室内に入って来る池田。

 そしてどうにかこうにか机までやって来ると、人面蝙蝠にそっと手を伸ばす。


「我が名、池田恵の名において、汝、心の鎖解き放ちたまえ‥‥」

──キィィィィィィィィィィィィィン

 すると、人面蝙蝠の頭部に小さい魔方陣が浮かびあがる。

 瞳はトローンとして、どうやら催眠状態に陥ったようである。

 ゆっくりと人差し指を顔の前で軽く振ると、池田はうんうんと頷く。

「はい、催眠状態に落としました。後はマチュアさんたちが直接聞いてください。わ、私は部屋の外で待機していますのでっ!!」

 そう告げるや否や、池田は一目散に部屋から飛び出して行く。

 それを見送ってから、マチュアと三笠は人面蝙蝠の前に椅子を並べ、どっかりと座る。


「さて。そんじゃ、あんたの名前、それともし仕えている者がいるのならそいつの名前を教えて頂戴」

「ワシニハナマエナドナイ。シャンタークトヨバレテイル」

 淡々と呟く人面蝙蝠のシャンターク。

「シャンタークですか。確かクトゥルフ神話にもいましたねシャンタク鳥っていうのが」

「あれはこれをよりもかわいいわよ。こんな化け物じゃないわ。で、仕えているのは?」

「ブライアンダンシャクダ」

「ブライアン男爵? 貴族なの?」

「アア。レムリアーナノカンリカンダ」

「レムリアーナが土地名で、管理官というところですか。で、あなた達がこの世界にやって来た目的は何でしょうか?」

 三笠が問いかけると、シャンタークは飛んでもない事を言い始めた。

「セカイノテンイ。レムリアーナノチカラデ、グランアークノタイリクトコノセカイノタイリクヲイレカエルノサ」

 ふむふむ。


「んーと、世界の転移っていうことかな? レムリアーナっていう土地の力で、グランアークとこの世界の大陸を入れ替えると‥‥何だ、その程度か」

「いやいや、マチュアさん、そんなあっさりと。事は重大ですよ」

 ティーセットを取り出してへと息入れるマチュアに、三笠が鋭い突っ込みを入れる。

「まあ、そのレムリアーナっていう土地がどこに‥‥って、あのオーストラリア上空の浮遊大陸の事か?」

「オーストラリフハワカラナイ、レムリアーナハフユウタイリクダ」

 はい、ビンゴ。

「となると、いよいよもってあの大陸をどうにかしないとダメって事かぁ。あの大陸には、どれだけの戦力があるの?」

「ワカラナイ。マダ、レムリアーナハネムッテイルカラ。オキタラ、セカイヲハカイスルホドノチカラヲモッテイル」

──ゴクッ

 これにはマチュアも三笠も思わず息を飲む。

「それなら、あんた達が私たち人間を攫っている理由は?」

「ゲンムキョウニオクリコミ、レムリアーナノカギヲサガスタメ。ワレワレハユメヲミナイカラ」

「幻夢境に送り込み、カギを探すと‥‥そして、君達は夢を見ないから、我々地球人を攫っていたという事ですか。はて、マチュアさん、幻夢境とは夢の世界ですか?」

 三笠が問いかけると、マチュアも慌ててクリアパッドを開く。

 赤城さんが仕上げてくれたクトゥルフ神話についてのレポートの中から、幻夢境についての詳細データを引っ張り出してみる。


「幻夢境カダスね。人の夢の中にのみ存在する世界で、確かレン高原とか色んな土地があるって‥‥実在する場所は諸説諸々だけど、どうやら夢の世界が幻夢境カダスに繋がっているっていう所かしら。そこにどうやって行くの?」

「ワカラナイ。ワレワレハ、マリョクノタカイニンゲンヲサラッテクルヨウニイワレタダケ。サラッタアトハシラナイ」

「ふぅん。まあ、とりあえずはいいわ。どの道その浮遊大陸レムリアーナとやらに行かないといけないみたいだから。で、三笠さんは何か聞きたい事ある?」

 そう問いかけると、三笠も腕を組んでしばし考えた後。

「あなたたちの背後にいる神は何者ですか?」

 ずばり確信をついてくる三笠。

「ブライアンダンシャクヲショウカンシタノハ、コントンノカミナイアールノケンゾク、ムマカーマイン」

「ふむふむ。ブライアン男爵を召喚したのが混沌神ナイアールの眷属で、夢魔カーマインといった所ですか‥‥おや、マチュアさん、どうしました?」

 シャンタークの口からこぼれた夢魔カーマインの名前で、思わず立ち上がるマチュア。

「またあの駄目サキュバスかぁ。しかも混沌神の眷属って。どこまで強くなるのよ、あの女‥‥それで、そのカーマインもレムリアーナにいるの?」

「イナイ‥‥カーマインハ‥‥」

 突然体をぶるぶると震わせるシャンターク。

 すると、それまで天井近くに飛んでいた蝙蝠も、床をうろうろしていた蝙蝠も、すべて墜落して体を震わせ始めた。


「ど、どうしたのでしょう?」

「わからないわよ。シャンターク、どうしたの?」

 そう問いかけるが、シャンタークは首を左右に振りつつ、何かを訴えている。

「マ、マリョクガタリ‥‥ナイ‥‥ホジュウシナイト‥‥」

 叫ぶように告げるが、どんどん全身が干からびていく。

 慌ててマチュアも手をかざして魔力を送り込むが、それは蝙蝠の体表ではじかれてしまう。

──バジッ

「あわっ、魔力の質が違うから受け付けないのか、取り敢えず結界で‥‥って、ここが結界内なのに駄目なの?」

 動揺するマチュアだが、やがてシャンタークを始めとする蝙蝠達はすべて干からび、塵になってしまう。

「‥‥参ったわ。三笠さん、今の音声記録すべて書き起こして、どこに‥‥回そうか」

「まずは蒲生さんにでも話を振りますか。国連に回すのもありですが、色々と後が面倒なので、まずは蒲生さんに矢面に立ってもらう事にしましょう」

 酷い事を言う三笠。だが、それにはマチュアも納得して首を縦に振る。

 後は蝙蝠だったものの塵の回収を終えて、マチュアと三笠は部屋から出て行った。



 〇 〇 〇 〇 〇



 翌日、異世界大使館、マチュアの執務室。

 早朝から呼び出された蒲生と小野寺防衛大臣が、目の前に置かれていたメモリーオーブからの再生音を聞いて渋い顔をしている。

「ま、まあ、白川一佐からも報告は受けていましたし、こちらとしてもその人面蝙蝠とやらの引き渡しをお願いしたかったのですが‥‥」

 困った顔でマチュアに告げる小野寺。だが、マチュアはフリーザーパックに放り込んでる『蝙蝠だった塵』を小野寺の前に差し出した。


「はい、蝙蝠だった塵。そもそも、あれ、物体をすり抜ける能力あるのよ? 魔力で結界でも張り巡らせない限り、窓だって壁だってすり抜けるわよ」

「う~ん。それはそうですが‥‥」

「小野寺さんよ、そんな事よりも、そのレムリアーナとやらが危険だっていうのはわかっただろう?ここからはあんたの仕事じゃないのか?」

「それをいうなら、国際的に、対外的な事は蒲生さんの出番ではないですか」

 などとやり始めたので。

 マチュアはハァ、とため息一つ。

「いずれにしても、とっとと動かないと世界滅ぶわよ。判ったら、早く手を打って頂戴」

 ときっぱりと言い切る。

「お嬢ちゃんは動かないのか?」

「国連から、浮遊大陸には手を出すなって言われたから。だから、私が動けるように上手く話を誘導してくれると助かるわぁ」

 ニィッと笑うマチュア。

 そして蒲生はボリボリと頭を掻く。

「オーストラリア大使館に話してみっか。それで本国に連絡取ってもらうわ。まずはそれでいいか?」

「それでいいわよ。こっちとしても、動くなと言われて動かないわけじゃないし。要は、領空でなければいいんでしょ?」

そう呟くマチュア。

 だが、その言葉の真意が、蒲生と小野寺には理解できない。

「領空の定義知ってるか? 今回の件で、オーストラリア政府は、自国の領空は大気圏すべてとまで言い切ったんだから‥‥って、まさかだろ?」

 蒲生は気が付いた。

 そしてマチュアもコクリとうなずく。


「大気圏外から見る分には構わないでしょ? という事で、オーストラリア政府には早めの返答をもらってくださいね」

 それで話し合いは終わった。

 蒲生と小野寺はいち早く転移門ゲートで永田町に戻って行く。 

 そしてマチュアは、大使館中庭で魔法鎧メイガスアーマー・イーディアスⅢの改装準備を開始した。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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