混沌の影・その10・手出し無用?
『異世界ライフの楽しみ方』の更新は、毎週火曜日、木曜日、土曜日を目安に頑張っています。
まだ本調子ではないので、文字数が少なくなっていますがご了承ください。
──バサバサバサバサッッッ
宵闇の中を、大量の蝙蝠が飛んで行く。
レムリアーナから放たれた異形の蝙蝠達、その外見は明らかに異様であった。蝙蝠の身体に人間の頭、そして翼長ならゆうに3mを超える。
それらはやがて全身を振動させると、光の透過率を1にする。人の目、可視光線の中では、その蝙蝠達の姿を捉える事は出来ない。
そして蝙蝠達は、音速に近い速度で世界中に広がって行くと、一つの個体から更に100の小さな個体が生み出され、各国、各都市の隅々まで飛んで行った。
まるで、何かを探しているかのように。
──ギッギッ
母体となった、年老いた女性の顔をした大蝙蝠が上空でホバリングしていると、時折戻ってきて何かを報告する小蝙蝠に連れられ、地上へとゆっくりと降り立つ。
そして何も知らず、ただ普通に暮らしている人を背後から捕まえると、そのまま捕らえた人間の透過率をも1にして、何処かへと連れ去って行った……。
………
……
…
大陸戦艦レムリアーナの出現により、国連安保理事会では緊急の会議が行われていた。
それは、レムリアーナに対する取り決めと、その対応について。
アドバイザーであるカリス・マレス代表も急遽招聘され、マチュアは現在ニューヨークにある国連ビルで赤城と共に待機していた。
「しっかしまぁ、何でこっちの人たちは、未知のものを見ると所有権のありかを明確にしたがるのかなぁ。あんな物騒なもの、無視するか国連で監視していればいいじゃないの」
辛辣な意見を呟きつつ、目の前に座って紅茶を飲んでいる赤城に問いかけ、同意を求める。
すると、赤城もマチュアの言葉には同意らしく、素直にコクコクと首を縦に振る。
「あれがカリス・マレスのものではない、マチュアさんが管轄外を宣言した瞬間に、各国が所有権を宣言しましたから。まあ、世界中の皆さんは異世界のものの価値がどれほどのものか、マチュアさんがやって来てから嫌という程思い知りましたからね」
「それにしても、日本政府の対応は笑ったわ。あの浮遊大陸については、日本国はノータッチを宣言したそうじゃない」
「領空権を何処で設定するか、それが今回の議題の一つでもありますから」
領土問題、その中で最も曖昧なものは領空権である。
俗に言う領空侵犯において、その高度をどこまで設定するか、それは各国の判断に委ねられているものが多い。
一般的には、『領空の水平的境界は領土・領海の境界と等しく、垂直的境界は【宇宙空間より下】とされ、国家が宇宙空間を領有することは禁止されている』となっている。
そのため、成層圏までが領空であるとか、大気圏すべてであるなど、諸説様々である。
そしてそれらは主張する国家によっても様々である為、今回のように大きな揉め事にも繋がってしまっている。
──ビィィィィィィッ
やがて会議が始まりを告げると、各国の代表は『国連安保理事会議』に向かう事となった。
「さて、そんじゃあオブザーバーはオブザーバーらしく、力いっぱい引っ搔き回して来ますかぁ」
「いえいえ、そこは上手く纏めてくださいよ」
「無理無理。私がどんなに話を纏めようとしても、常任理事国がそれを認めないって。特に中国‥‥えっと、中華選民共和国は、私がさんざん転移門の設営を拒否していたから、必ず食い掛って来るわよ」
などと話をしながら、マチュアと赤城は会議室に向かって行った。
そして会議は正常に始まりを告げる。
今回の議題は当然、異世界より姿を現した未知の浮遊大陸についての対応、オーストラリア政府はそれを自国の領土内に現れた為、所有権を主張、これに対して未だ異世界の恩恵を受けられていない中堅国家は領有権を、すなわち領空の定義を持ち出して対立。
常任理事国であるアメリゴ、ルシア連邦、中国、フランセーズ、グランドブリテンの五か国は沈黙を続けている。
やがて、浮遊大陸の所有権についての決議となると、オーストラリアに追従した国々とその利権を認めない国で意見が真っ二つとなった。
そして誰もいなくなった常任理事国の決定は、『浮遊大陸のオーストラリア所有』について、五か国一致でその領有権を可決した。
「はぁ? 中国まであれをオーストラリア政府のものであると認めるの?」
思わす呟いてしまうマチュア。
だが、中国代表はマチュアをちらりとみると一言。
「ええ。あれはオーストラリアの領土内に現れたのです。ならば、交渉権や調査に関しては、まずはオーストラリアが行うべきでしょう。それが国家というものです‥‥」
うんうんと頷きながら、中国代表がマチュアに同意を求める。
「へぇ。それにしては、未だに私に対しては謝罪しないわねぇ」
「それはまた後日。本国でも、今はマム・マチュアおよびカリス・マレスに対して謝罪するべきという声も高まっていますから」
この態度の豹変は一体。
思わず疑ってしまうマチュアであるが、何はともあれ会議は無事にオーストラリアの圧勝で終わりを告げる。
これからは、オーストラリア政府主導の元、浮遊大陸の調査が開始される事となった。
「という事で、オブザーバーであるカリス・マレスも、無許可で浮遊大陸に近寄る事は行わないように。まあ、あれが気になるのは理解出来ますが」
そうオーストラリア代表がマチュアに軽く釘を差す。
これには苦笑いしつつ、手をひらひらと振る。
「はいはい。分かっていますわよ。カナン魔導連邦、カリス・マレスは今後一切あの浮遊大陸については手出しも意見も行いませんので」
そう告げてから、マチュアと赤城はその場で挨拶を交わすと、速やかに転移門を潜って異世界大使館へーと戻って行った。
〇 〇 〇 〇 〇
国連での会議から3日後。
世界中に広がっていた神隠し事件が、新しい展開を迎え始めた。
それまでは共通点が全くと言ってない行方不明事件、これに何となくだが共通点が見え始めている。
「はぁ、魂の護符の所有者の行方不明率が高い?」
異世界大使館事務局で、マチュアは十六夜から受け取った報告書を見て唸っている。
蒲生副総理経由の警視庁の書類ではあるが、どうやらそのような共通点が見え始めていたらしい。
だが、これは国内だけの話で、まだ諸外国では法則性は見えていない。
転移門を所有しているルシアとアメリゴでは、まだまだ調査は終わっていないので確かな事ではないらしい。
「はい。正確には、魂の護符所有者で、尚且つ魔力係数が50以上の人々が多いという事です。まあ、全てではありませんし、そもそも赤城さんや三笠さんが無事なので、これは必ずという事はありませんが」
「三笠さんや赤城さんを攫っていける人がいたら見てみたいわ。そもそも、それを言ったら、真っ先に狙われるのは私でしょう?」
「ま、まあ。そうですけれど‥‥」
((((((マチュアさんを攫える人こそ、見てみたいわ))))))
などという事務局全員の心の声はともかく、このように書類にされてしまうと対処方法を考える必要はある。
「さて、マチュアさん。やはり神話関係者が犯人ですかねぇ」
「さあね。でもまあ、私は少なくとも『浮遊大陸』が絡んでいるとは思っているわよ」
──パンパン
手にした書類を叩きつつ、マチュアが三笠にそう告げる。
すると三笠もうんうんと頷いている。
「ですよね。あの大陸が現れた翌日から、神隠しの頻度は上がっています。それに、こう、オカルト的な話ですが、攫われた瞬間を見ていた人とかがBoyaitterやSNSで色々と話をしていますからねぇ」
そんな話をしていると、ガチャッと事務局に高島がやって来る。
「あ、マチュアさん丁度いいや、キンデュエの新システムに対するアップデートをお願いしたいのですが‥‥って、深刻そうな雰囲気ですね」
いつもと変わらない高島。
事務局の空気を一瞬で読んだらしい。
「まあね。例の神隠し事件の事よ」
「ああ、人面蝙蝠のやつですか。さっきみたBoyaitterに、なんか攫われる瞬間の写真が掲載されていたらしいですよ。すぐに削除されていましたけれど、あちこちの報道が食いついたらしくて‥‥」
「へぇ‥‥って、人面蝙蝠?」
──ガタッ
思わず立ち上がるマチュア。
すると高島は動じもしないでマチュアに仕様書を手渡す。
「ええ。あ、そっか、マチュアさんはあんまり深い所まで調べていませんか。ここ最近の神隠し事件は、その人面蝙蝠に攫われたっていう話ですよ。それに、無事に帰って来た人達もいますけど、誰もが口を揃えてこう告げていますから。『攫われたけれど、幻夢境で助けられた』ってね。あれ、マチュアさん?」
その高島の話を聞いて、マチュアは腕を組んで考え始める。
「うーん。仕様書ありがと。高島君、ちょいとその件について関連している事、全部調べだせる?」
真剣に問いかけるマチュアに、高島も何かを察したらしい。
「3日ください。アンダーグランド系に出回っている情報も全て集めてきますよ」
それだけを告げて、高島はすぐさま部屋から出て行った。
「やっぱり、この手の事は彼は強いですねえ。という事で、一旦情報収集は高島くんに任せて、マチュアさんはキンデュエのアップデートをお願いしますね」
努めて冷静に告げる三笠。
これにはマチュアもハイハイと従うしかなかった。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。






